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◇◇◇


 アルに、『できれば早めに会いたい』という旨の手紙を送ったところ、『三日後なら城で会える』という返事が届いた。

 約束当日、私は登城用のドレスを身に纏い、馬車に乗って城へと向かった。

 着たのは赤のドレスだ。以前はよく好んで着ていた色だが、最近は派手だという理由でずっと避けてきた。

 だけど、アルの目の色は綺麗な赤をしているのだ。大好きな人の瞳の色。それと合わせた服を着たいと思って何が悪いのか。

 赤でも、力強い印象にならなければよい。そう思った私は、赤に黒を合わせるという大好きな色の組み合わせを止めることにした。それだけで随分と印象が変わるのだから不思議なものだ。

 ロッテも絶賛してくれたし、たとえそれがお世辞だとしても、少なくとも『悪役令嬢』には見えないはず。

 そんな風に自分に言い聞かせながら案内の兵士の後に続いて、城の廊下を歩く。兵士はアルの部屋の前まで私を案内した後、一礼して戻っていった。

 一つ深呼吸をし、気持ちを整える。


「リリです」

「入って」


 ノックをして名乗ると、アルの声で返事があった。

 扉を開け、中へ入る。アルは窓辺に立っていた。


「アル」

「……リリ。こっちにおいで」

「? はい」


 来た早々、手招きされ、不思議に思いつつも側に寄った。アルは窓の外を指さす。


「僕の部屋からはちょうど庭が見られるようになっているんだけどね、ほら、あそこ」

「あっ……」


 アルが指さした先を追うと、そこにはクロエとウィルフレッド王子がいた。

 彼らは中庭に設置されたベンチに座り、楽しげに語らっている。


「クロエ?」

「友人になったのだからって、誘ったようだよ。中庭なら人目もある。カーライル嬢も断らなかったみたいだね」

「……楽しそうです」


 遠目ではあるが、クロエは以前までとは違い、自然体のように見えた。ウィルフレッド王子の言葉に頷き、笑みを浮かべている。


「ね? 驚いたでしょう?」

「……はい」


 本当に吃驚だ。驚愕しつつも二人の姿から目を離せないでいると、アルが苦笑しながら言った。


「僕もさっき見つけて吃驚したんだよ。君がそろそろ来るだろうからって書類を片付けてふと外を見たらさ、あれなんだから」

「アルも知らなかったんですね」

「知ってたら、真っ先に君に教えたよ」

「そう……ですよね。すみません」


 クロエも教えてくれれば良かったのにと思ったが、友人と会うのにいちいち教えろというのも違う気がする。クロエとウィルフレッド王子が友人になったことは現場を見ていたから知っているし、友達づきあいなら彼女も気軽に応じることができたのだろう。

 二人の距離は遠すぎず近すぎずといったところで、端から見れば仲の良い男女が談笑しているようだった。


「でも、良かった……ちゃんと友人として接して下さっているのね」


 クロエが楽しそうで何よりだ。心から安堵してそう言うと、何故かアルは微妙な顔をした。


「アル?」

「……本当に、リリはそう見えるの?」

「え?」


 アルの意図が分からず、首を傾げる。彼は再度クロエたちに目を向けると、私に言った。


「あんな目立つ場所で、第二王子が年頃の女性と親しげに話している。それもどう見ても楽しそうに。目撃者は皆、思うだろうね。第二王子はあの女性を狙っているのだ、と。実情はどうあれ、二人の関係を知らない人たちは、皆、彼らを友人同士だなんて思わない」

「あ……」

「今日、彼らを目撃した者たちは間違いなく、カーライル嬢を婚約者候補の女性だと思い込む。なんだったら、ようやく第二王子も相手を決めたようだと、あっという間に噂は広がると思うよ」

「そ、そんな……誤解なのに。どうしよう、誤解を解かなきゃ」

「誤解、ね。少なくとも、ウィルは分かってやっていると思うよ。――あいつは僕の弟だって前にも言ったでしょう。少し前までがおかしかっただけ。あいつが本気を出せば、好きな女性の一人くらい簡単に落とせるはずなんだよ。どちらかというと、今のあいつの方が本来の姿だと思う」

「……」


 アルの話を聞き絶句した。まさか、ウィルフレッド王子がそんな方法を取ってくるとは誰が思うだろう。少なくとも私は考えもしなかったし、多分クロエも、今現在だって気づいていないはずだ。


「ど、どうしよう。クロエに教えなきゃ……」

「どうやって? 二人が話している間に割り込みにでも行くの? いくら君でも、第二王子相手に、さすがにそれは賢くないと思うけど」

「えっと、じゃあ……どうすれば……」


 クロエを助ける方法が分からない。気持ちだけが急いていると、アルはゆっくりと首を横に振った。


「リリ。これは二人の問題だよ。これまではウィルのやり方に問題があった。だから僕も仲介に入ったり邪魔をするのを手伝ったりした。でもね、確かにちょっとずるい方法かもしれないけど、今回ウィルは何も間違ったことはしていない。きちんとカーライル嬢に許可を取り、彼女が安心できる場所で話しているだけだ。実際彼女も、リラックスしているようだしね。それともリリにはカーライル嬢が緊張して、困っているように見える? ウィルが無理強いしているように見える?」

「……見えません」


 実際見えないので、嘘はつけなかった。アルは私の答えに頷き、更に言った。


「だとしたら、僕たちが介入するのはおかしいよ。恋愛は駆け引きだ。ウィルが友人だと言ったことで警戒をなくし、カーライル嬢は今、自分たちが周りからどう見られているのか気づいていないのは確かだ。だけどそれはカーライル嬢が気づくべき問題で、僕たちがわざわざ言ってあげることではないよね?」

「それは……そうかもしれませんけど」

「ウィルもウィルなりに考えているんだよ。まあ、外堀を先に埋めようとするやり方は確かに褒められたものではないかもしれないけど、うちの家系は代々そういうところがあるから、申し訳ないけどその点については諦めてくれとしか言えないしね」

「え? そうなんですか?」

「そうだよ。欲しい相手の周りを囲うのは基本だよね」


 平然と言われ、そうか、基本なのかと納得しかけたが……そんなことはないはずだ。

 首を傾げていると、アルは私をソファへと誘った。


「ウィルたちのことは放っておけば良いよ。彼らも自分のことは自分で責任を取れる年だしね。僕たちのお節介はここまで。僕としては、弟たちのことよりこれからの僕たちについて話したいって思うけどね」

「これから……ですか?」

「そう。君は僕の花嫁になることが決定したわけだし、そういう意味での今後のことかな」

「っ……!」


 はっきり言われると照れてしまう。もちろん、とても嬉しいのだけど。

 とはいえ、今日はその前に、話さなければならないことがあるのだ。


「アル、先に私の話をしても良いですか?」

「そういえば、できるだけ早く会いたいって言ってたね。僕に会いたくて、寂しかったのかなって都合の良いことを考えていたんだけど違ったのか。残念」

「……そ、それもありますけど」


 基本アルに会いたいのはその通りなので、否定はできない。

 私が肯定したことに気を良くしたアルが笑顔で話を促す。それに申し訳ない気持ちになりながら、私は家庭教師がノエルになった話をアルにした。





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