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◇◇◇


「あ、無理だね☆」


 屋敷に戻ってきた私たちは、待っていたノエルとルークに、城で遭った出来事を語った。

 ノエルは何を思ったのか、人の形を取っていた。

 その状態で魔法を使ったり、激しく動いたりしなければ、三十分程度は保てるらしい。

 二回目に見るノエルの姿も、やはり神々しいまでの美しさで息を呑んだが、すぐに頭を振って、気持ちを切り替えた。

 私の隣にいたアルが、冷たい目で私を見ていたことに気づいたからという理由もある。


「み、見惚れてなんていませんから!」

「本当かな」

「ほ、本当です!」


 こんなやり取りをしつつ、それぞれ部屋に置いてあるソファや椅子に好きに腰掛けたのだが、話を聞いたノエルは、眉を寄せてしまったと、そういうわけだった。


「『真実の愛』ねえ。あー、うん。確かにそれは私には絶対に解けない呪いだと思うよ。何せ私には、人を愛するという気持ちが分からないからね」

「分からない?」


 それはどういう意味だろうと聞き返すと、ノエルはのんびりとした声で答えてくれた。その声すら美声過ぎてものすごく驚く。


「女の子は可愛いと思うし、大好きだけどね。でもそれはただ欲を発散させたいだけ。恋愛感情なんてどこにもないんだ」

「……え」

「ゴシュジンサマ。君は私を何だと思っている? 同じ人間? 違うよね? 私はハイ・エルフだ。ハイ・エルフが人間に恋をすると本気で思うのかい?」

「それは――」

「同じ生殖器官があるから交わることはできるけど、根本的に私たちは違う生き物なんだ。考え方も寿命も、何もかもが違う。ともに歩むことはできないし、できるとも思えないな」


 あまりにもキッパリと告げられ、思わず言ってしまった。


「じゃ、じゃあ……同じハイ・エルフが相手なら?」

「ないね。私、実は捨て子でさ☆ 親のハイ・エルフに捨てられて、それから一人で生きてるわけ。今更、他のハイ・エルフを仲間だなんて思えないし、見つけたら、それこそとっ捕まえて魔法の実験にでも使ってやるって思うね!」


 キラキラとした笑顔で言い切られ、彼がどれほど仲間であるはずのハイ・エルフを恨んでいるかが分かってしまった。

 何ということだろう。……詰んだ。

 私が絶望を顔に張り付けていると、それを見たノエルが笑う。


「そんな泣きそうな顔をしないでよ。ゴシュジンサマ。私だって呪いは解きたいと思ってる。当たり前じゃないか。魔法の研究も自由にできない生活なんてごめんだよ」

「そう、そうよね」

「でも、真実の愛とか言われると、ちゃんちゃらおかしいって思うよね☆」

「……」


 口では残念がっては見せているものの、ノエルはある意味呪いを解くことを諦めてしまっているように見えた。解きたくないわけではなく、自分には無理だと達観しているのだ。


「百歩譲って……恋愛感情を持てるとして……うーん……ハイ・エルフよりはそりゃさあ、人間の方がマシかもしれないけど……でもねえ。私の知っているまともそうな女性って……うーん、クロエは可愛い子だとは思うけど、それだけだし……あとはゴシュジンサマくらいなんだけど――」

「リリに手を出したら殺す」

「ダヨネ☆ アハハ。分かってる、分かってるヨ☆ 私も、呪いが解けていない状態で君を敵に回したくないからね。しない、しない。ゴシュジンサマはゴシュジンサマだよ☆」


 流れるように殺害予告をしたアルに、ノエルが顔を引き攣らせながら否定した。多分、アルが怖かったのだと思う。

 でも確かにさっきのアルは私も怖かったと思うから、ノエルが怖がるのも無理はないのだろう。

 ノエルが自らの顎を掴み、うーんと悩むような素振りをみせた。


「参ったなあ。本気で相手が思いつかないぞ☆ いっそ、私に効く惚れ薬でも開発して、適当な女の前で飲み干してみるというのはどうだろう? なかなか悪くない案だと思うんだけど」


 パチンと指を鳴らすノエルを睥睨したアルは、冷たく答えた。


「それでお前が良いと思うのなら勝手にすれば良いよ。僕はリリにさえ手を出さなければ何も言わないから」

「徹底してるね、王子様。でも、そういう自分の大事な者以外を切り捨てるやり方は嫌いじゃない。さすが未来の国王陛下だ」

「僕はお前が嫌いだけどね」

「それは私がゴシュジンサマの飼い猫で、屋敷に住んで、四六時中ゴシュジンサマと一緒にいるからだろう? ただの嫉妬じゃないか」


 あっはっはと笑うノエルをアルは睨んだ。


「ただの嫉妬で何が悪い。そうだ。なんだったら城に来ればいい。僕は知らなかったけど、お前は『あなぐら』の所長なのだろう? リリの屋敷に居座らなくても居場所なんていくらでもあるじゃないか」


 アルの言葉を聞き、ノエルは目を瞬かせた。


「わー……。忘れてたような話を持ち出してきたぞー☆ それ、百年以上前の話だよ? いくらなんでも別の所長がいるでしょう」

「とても残念な話だけど、副所長が所長は『大魔法使いノエル』だと言っていたよ」

「え、嘘。本当に? もう何十年も行ってないのに。……あー、でも面倒だからいいや。今の食っちゃ寝できる隠居生活も悪くないって思ってるから、私はここで猫になっているよ」


 ポンッと煙が舞い、見慣れた猫の姿が現れる。

 ノエルが確かに大魔法使いノエルであるとわかる瞬間に、知らず息を呑んでしまった。

 アルが舌打ちをし、猫になったノエルに言う。


「その『あなぐら』の副所長から、皮とか髭とか爪とか色々お前から剥ぎ取りたいって伝言を預かっているよ。なんでもハイ・エルフは鯨と同じだそうで。どの部分も使えると、大変興奮していた」

「確かに、素材としては優秀かもしれないけど、使うなら私以外のハイ・エルフを使って欲しいな! それならむしろ協力してあげるからさ」

「そう言われても。僕も伝言を頼まれただけの身だからね。でもあの人でなし集団の頭がお前と聞いて納得したよ」


 真顔のアルに、ノエルは乾いた声で答えた。


「わあ☆ これはかなり貶されてるね☆」

「貶されているという自覚はあるのか」


 そこで意図的に話を区切り、アルは立ち上がった。


「くだらない話をしていたせいで、時間が来てしまった。僕は帰るよ。ノエル、一つ忠告しておく。リリに手を出したら、リリに恋なんてしたら、タダでは済まさないから。大魔法使いだろうがなんだろうが知るものか」

「完全に脅しだね☆ でもまあいいよ。ゴシュジンサマにはお世話になっているしね、分かった」

「その世話というのも止めさせたいのだけどね」


 ジロリとノエルを睨むアルだったが、ノエルは全く気にせず上機嫌に尻尾を立てた。


「ゴシュジンサマっていつも魔力を垂れ流しているところがあるから、魔力回復には最適の存在なんだよね。近くにいるだけで、魔力が回復している。自分に収まりきらない魔力が零れているような状態だって私は推察するけど、だからか彼女の側にいるのが一番回復が早いんだ。快適、快適☆」

「お前の都合など知るか」

「わお☆ ほんと怖いな」


 猫の姿で笑いながら、ノエルがアルから距離を取る。そうしてアルの手の届かない場所に行くと、のんびりとくつろぎ始めた。


「……ほんっと、良い性格してるよ。さすが『あなぐら』の所長」


 悪態をつきながらアルがこちらにやってくる。私も座っていた椅子から立ち上がった。


「本人はまだ所長だったとは思っていなかったようですけどね」

「ま、数十年も姿を見せなければ、普通は解任されるものだしね。それだけノエルが優秀だったってことだよ。名前だけでも置いておきたかったということだと思う」

「アラン殿下、お時間は大丈夫ですか?」


 話していると、ルークが気遣わしげにアルに尋ねてきた。それを聞き、アルが慌てたように言う。


「そうだ、そうだった。ごめんね、リリ。さすがにこれ以上は居られないから、今日は帰るよ。それと、ウィルとカーライル嬢の件、話が決まれば僕にも教えてくれるかな? 僕も時間を作って参加しようと思っているから」

「はい、もちろんです」


 二人が揉めた時、私では役に立てないと思うから、アルがいてくれるのは助かる。

 ウィルフレッド王子がもしまた激昂してしまったとしたら、それを止められるのはアルだけだ。





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