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 うろ覚えの記憶を必死で思い出そうとするかのようにウィルフレッド王子は難しい顔をした。アルがウィルフレッド王子の独り言に反応する。


「へえ? 何もアイテムを使わないのかい? じゃあ、自然治癒とか?」


 アルの言葉に、ウィルフレッド王子はふるふると首を横に振った。


「いや、そういうのでもなかったと思う。あー……なんかさ、ヒロインがキスしたら呪いが解けたとか、そんな感じ? でもこの場合だとキスするのはリズ・ベルトランになるのか? だって飼い主だし、ルート入ってるっぽいのはあんただから。ん? あれ、これ別のゲームだっけ? やっぱり自信がなくなってきたぞ」

「は? キス、だって?」


 低い声が聞こえ、思わず隣を見ると、アルがとても怖い顔でウィルフレッド王子を見ていた。


「ア、アル?」

「ねえ、ウィル。もう一度僕に聞かせてくれないかな。誰が、誰にキスすれば呪いが解けるって?」

「え、だからリズ・ベルトランがノエルにって……兄上、顔怖い! 怖いって!」


 兄の顔を見たウィルフレッド王子が頬を引き攣らせる。無意識なのだろうが、見事に腰が退けていた。アルが恐ろしい形相のままにこりと笑う。


「うん? だってね。お前があまりにも馬鹿なことを言うものだからさ。お前も分かっているよね? リリは僕のだよ?」


 アルの言葉に、ウィルフレッド王子は高速で何度も頷いた。


「分かってる! 分かってるから! それに多分それは別のゲームで……って、あ、思い出した」


 突然動きを止め、ウィルフレッド王子は目を瞬かせた。そうして私たちの顔を見つめてくる。


「ノエルは、主人公とくっつくことで呪いが解けたんだよ! ほら、あれだ……真実の愛、だったかな。それをノエルが理解したから精霊王の呪いが解けたとか、そんな展開だった気がする! いや、そうだった!」

「真実の愛?」


 胡散臭そうな顔をするアルに、ウィルフレッド王子は妙にすっきりとした様子で言った。


「ノエルには絶対に芽生えないものと精霊王が考えていたのがそれだったんだ。真実の愛を学んだノエルはその後は無為に精霊を殺すような真似はしなくなったし、反省もした。精霊王もそれでノエルを許したんだ。真実の愛を学んだのならもう良いって。そうだ、そうだ。そんな話だった」


 立て板に水のごとく話し続けるウィルフレッド王子。

 私たちはそんな彼をポカンと見つめていたが、やがて、アルが言った。


「真実の愛って……ノエルには相手がいないじゃないか。どうするんだ」


 尤もすぎる質問に、ウィルフレッド王子は真顔で答えた。


「普通ならヒロイン――クロエだけど、今ならリズ・ベルトラン? って……ああ! 分かってる、兄上! リズ・ベルトランは兄上のだよな! えと、だから相手がいないってことになるな!」


 アルに睨まれたウィルフレッド王子が慌てて否定する。

 しばらく弟を睨んでいたアルだったが、気を取り直したように言った。


「で? 相手がいないと分かったところでどうすればいいんだ」

「オレが知るかよ。でも呪いが解ける条件はノエルが『真実の愛を知ること』で間違いない。まあ、だからノエルが誰かを本気で好きになれば良いんじゃないかなあ。両想いにならないと駄目かどうかはさすがにわかんねえ。オレの知ってる話では、ノエルはクロエと結ばれたけど、『両想いにならないといけない』という条件だったかは書いてなかったからな……」

「そうか」

「とにもかくにも、まずはノエルに好きな人を作ってもらわなければ始まらないってわけ。普通だったら、ノエルを拾ったリズ・ベルトランが相手役になるんだけど……って、冗談! 冗談だから!」


 アルがピクリと眉を動かした。それを見たウィルフレッド王子が蒼白になる。


「ウィル、僕はしつこい男が嫌いなんだ。その手の冗談を二度と言うな。分かったね?」

「分かったってば……ほんと、兄上はリズ・ベルトランのことになると怖いなあ。バッドエンドのヤンデレエンドを思い出すんだけど」

「お前の言っていることは本当に分からない。全部が嘘ではないことは理解したが……しかし、気が重いな。あのノエルに『愛』か。確かにこれなら精霊たちも『好きにすればいい』と言うはずだよ」


 その言葉には私も深く同意した。

 ノエルのことが嫌いで仕方のないノワールが、どうして呪いを解くことを認める発言をしたのがずっと疑問だったのだ。だけどこの条件なら頷ける。

 ウィルフレッド王子がやけに感慨深げに言った。


「でも、真実の愛、かあ。ちょっと前までは笑うしかなかったけど、今のオレなら少し考えてしまうかもしれないな」

「ウィル?」


 アルが吃驚したようにウィルフレッド王子を見た。私も思わず彼を凝視する。

 あのウィルフレッド王子が愛について考える?

 一体どういった風の吹き回しなのだろうと思っていると、私たちの視線に気づいたウィルフレッド王子は気まずそうに笑った。


「いやさ……この前、オレ、クロエにガツンと言われて、兄上にも諭されて、ずっと考えてたんだよ。オレはこの世界をゲームだと思っていて、生きているという実感なんてどこにもなかった。だってさ、ゲーム通りの選択をすれば、狙ったキャラは落ちるし、知っている通りに話は流れる。現実なら普通にあり得ないだろう? だからそう思ってたんだけど――」


 話を区切り、ウィルフレッド王子は近くにあった緑色の四角いクッションを抱き締めた。


「いざ、始まってみたら、全然違った。兄上は悪役令嬢と恋人になってるし、悪役令嬢は悪役令嬢ではなくなってる。クロエもオレが知っているクロエとは違うんだ。知っている選択肢を答えても、彼女のオレに対する好感度は上がらない。どうしてだって、どんどん意地になっていった」


 抱き締めていたクッションに顔を埋め、ウィルフレッド王子は更に言った。


「意地になっているのは分かっていても止められなかった。そうして、ついにクロエに言われたんだ。『あなたは私を見ていない』って。何を言ってるんだって思ったよ。でも……よく考えたら確かにそうなんだよな」

「……ウィル」

「オレはオレの知っているクロエに現実のクロエを重ね合わせていた。そして知っている通りの反応を返してくれないことに苛立っていた。兄上がせっかく忠告してくれたのに、現実にいるクロエのことを知ろうともしなかった。そんなオレに彼女が怒るのは当然なんだって、ようやく分かった」


 ウィルフレッド王子が顔を上げる。その目が潤んでいるように見えるのは気のせいだろうか。

 いや、きっと気のせいではないはずだ。


「オレ、生きてるんだよな。この世界に。ゲームなんかじゃない。オレはここに生きて……そしていつかは死んでいくんだよな」

「……その通りだよ、ウィル」


 ウィルフレッド王子の言葉をアルは力強く肯定した。


「僕たちは、今、ここに生きている。そのことに、ようやく気づいてくれたようだね」

「兄上」


 ウィルフレッド王子が何度も頷いた。そして私に目を向ける。


「リズ・ベルトラン」

「は、はい」


 ここに来て、私に話を振られるとは思わなかった。

 驚きつつも返事をすると、彼は言いづらそうに、でも決意を込めた目をしてはっきりと言った。


「オレ、クロエに謝りたいって思ってるんだ。彼女にはたくさん迷惑を掛けたからさ。目を覚まさせてくれたのは彼女だし、お礼を言いたいって。だけど、こんなオレにクロエはもう会いたくないって思ってるよな」

「そんな! クロエも言い過ぎたから謝りたいって言っていました!」


 慌てて告げた。

 ウィルフレッド王子が真偽を確かめるように私を見てくる。それに大きく頷いた。


「つい先日、クロエに会いましたけど、そう言っていました。できればウィルフレッド殿下に謝りたいと。だから会いたくないなんて言わないと思います」

「本当に? それなら是非クロエに会いたいけど……リズ・ベルトラン、悪いがオレとクロエが会う段取りを組んでもらえないか? 友達のあんたが言うことなら、彼女も素直に頷いてくれると思うし。あと、その席には同席してもらえると嬉しい。その……二人きりで会うなんて言ったら、彼女はきっと警戒すると思うから」

「勿論です」


 クロエのことを思い遣ってくれる発言を嬉しく思いつつ、私は確認を求めるようにアルを見た。

 ウィルフレッド王子からの依頼という形にはなるだろうが、婚約者であるアルに話を通さないまま進めるのは良くないと思ったのだ。

 私の視線を受け、アルは苦笑した。


「……良いよ。リリには面倒を掛けるけど、同席してやって。ウィルが心根を入れ替えたということなら、僕も応援してやりたいって思うしね。迷惑を掛けた人に謝るというのは正しい行いだ」

「はい。――それではウィルフレッド殿下、近いうち、アルを通して連絡いたします。よろしいでしょうか?」

「ああ、それで良い。助かった」


 憑き物が落ちたかのように笑うウィルフレッド王子。その笑顔を見て、彼は本当に反省したのだと信じることができた。彼が真実謝罪すれば、クロエはきっと喜んで許すだろう。私の友達は優しい人だし、人の心からの謝罪をはねつけるような女性ではないからだ。

 アルがウィルフレッド王子の部屋に置かれていた時計を見ながら私に言った。


「リリ、そろそろ君の屋敷に戻ろうか。ノエルにも今の話をしなければならないしね。……その場には僕も同席したいから」

「分かりました」


 ここまで関わってもらって、最後に仲間はずれにするような真似できるはずがない。

 ウィルフレッド王子に別れを告げ、アルが待機するよう命じていた馬車に乗り込む。

 屋敷まではそんなにかからないが、少しでも息をつける時間があるのが嬉しかった。





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