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◇◇◇


 ノワールを顕現させたまま屋敷に戻ると、父も母も兄たちも、そしてルークも、皆が私の成功を喜んでくれた。

 しかも上級精霊だということで、父は周囲に自慢できるとホクホク顔だ。


「一時はどうなることかと思ったが、終わりよければすべてよしだ。リリ、よくやった。アラン殿下もさぞ喜んで下さったことだろう」

「それは……はい」

「今夜はご馳走にしよう。料理番に命じなければ」


 ウキウキと父が料理番を呼び出し、夕食内容の変更を告げる。突然の命令に驚いていた料理番たちも、私のための祝いだと説明を受け、快く頷き、下がっていった。

 私も部屋着に着替えることにし、ルークを連れて部屋に戻る。

 ノワールにはまた呼び出すからと言い、元いた場所に帰ってもらったが、ノエルは私の足下をついて歩いていた。ノワールが複雑そうな顔でノエルを見ていたが、こればかりはどうしようもない。

「ごめんね」と謝ると「わかっている。我も我が儘をいうつもりはない」と言ってくれた。

 ノワールとのやりとりを思い出しながら、屋敷の廊下を歩く。ルークが「あれ?」と声を上げた。


「どうしたの?」

「お嬢様。ノエルに首輪なんてついていませんでしたよね?」


 やはり気がついたようだ。私は何気ない口調を心掛けながら説明をした。


「……さっきアルにいただいたの。体色が白いから良く似合っていると思わない?」

「ああ、殿下からの贈り物でしたか。それは良かったですね」


 納得したようにルークが頷く。

 ノエルの正体については、とりあえずは黙っておくことになった。

 大魔法使いノエルを飼っているなど普通にあり得ないし、父や母が、いや兄だって、聞けば卒倒するのは間違いないだろう。

 私だってあの流れだったから受け入れられただけで、突然「ノエルの正体は、大魔法使いノエルなんです」と言われても、認められないし、認めたくない。

 黙っているのが無難だということくらいは分かる。

 そのうちルークにくらいは話そうと思っているが、今はまだ駄目だ。私も色々と心の整理がついていないし、できればもう少し落ち着いてから話すかどうか考えたい。


「ええっと、ルーク。悪いんだけど、着替えるからノエルを外に出してちょうだい」

「お嬢様?」


 着替えをしようと思ったところで、ノエルがいたままだということに気づいた。外見は猫でも中身は成人男性。さすがに着替えを見られるのは恥ずかしい。というか、嫌だ。

 だが、事情を知らないルークからしてみれば、私の行動は不審極まりない。

 眉を寄せ、聞いてきた。


「ノエルを追い出すんですか? 今までそんなことおっしゃったことなかったのに?」

「そ、そうよ。とにかく、命令通りにしてちょうだい。ノエルは今後、着替え中の入室は禁じるから」


 何か言い訳をと思ったが、碌なものを思いつけなかった。仕方なく誤魔化すと、ルークが察したかのように聞いてくる。


「……お嬢様、もしかして、着替え中にノエルにでも噛まれましたか? それでそんなことを言い出したとか?」

「……そうよ」


 格好悪すぎる理由だと思ったが、とりあえず頷いた。

 他に言い訳なんて思いつかない。とにかくノエルを連れていって欲しいと頼めば、ルークは肩を竦めながらもノエルを部屋から追い出してくれた。それを確認したあと、私はメイドのロッテを呼んだ。

 やはり着替えは女性の手を借りたい。ロッテは優秀だし、最近は着替えのたびに彼女を呼び出していた。

 部屋着は黒っぽいものが多い。リボンやレースが目立つデザインが好きで、室内ではそんな服ばかり着ていた。ドレスは甘いデザインのものが増えたが、部屋着はあまり変わっていない。なんとなく落ち着くので、もうしばらくはこのままでいこうと思っていた。

 着替えを済ませ、少し休憩をしたあと、食堂に移動した。

 夕食は料理番が腕を振るってくれたおかげでとても美味しく、家族は皆、終始笑顔で楽しい時間を過ごすことができた。


「良かった。本当に良かった……」


 父はずっとその言葉ばかり繰り返していたし、兄たちはそんな父を苦笑しながら見つめていた。

 だけどその視線は温かいもので、改めて、私は家族に心配を掛けていたのだなと実感してしまう。

 夕食の後のデザートも食べ、部屋に戻る。

 窓際に置いたお気に入りの肘掛け椅子に掛け、ほうっと息を吐いた。


「ようやく、スタートラインに立てたような気がするわ」


 食後のお茶を用意していたルークが、「そうですね」と同意する。


「これで、お嬢様は殿下と結婚する条件が揃ったわけですからね。これからは、妃教育が始まります。今からが本番ですよ」

「分かっているわよ」


 結婚までまだ一年以上あるが、決して余裕があるわけではない。精霊契約ができたことで、彼の正式な婚約者として認められ、アルに相応しい妃であるよう、王家主導で教育が始まるのだ。


「アルと一緒に生きて行くためだもの。勉強くらいいくらでも頑張るわ」


 元々、公爵家の令嬢として必要な教育は受けている。それにプラスされるくらい、どうということはない。むしろ、教育は城で行われるから、アルと会う機会が増え、私には楽しみに思えるくらいだ。

 そういう気持ちを率直にルークに伝えると、彼は「それなら心配は要りませんね」と微笑みと共に言ってくれた。





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