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撃鉄のキングフィッシャー  作者: みるくてぃー
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意地の張り合い

 大手町によって引き合わせられた仁と穂乃果の2人はその場でお互いのことを紹介することにした。優斗達は空気を読んでか、他の生徒の所へ戻って行った。


 「取り敢えず、自己紹介から始めましょうか。私は和田来穂乃果、和田来源蔵の孫よ。武器は今の所は太刀を使っているわ。理力特性は知っての通り『火』と『風』よ。」


 「俺は雪杜仁だ。1年間程本格的に武術の修行をしていたな。得物は拳と強いて言うなら長柄の武器、理力特性は無しのポンコツだ。」


 「……そこは『まだ』と付ける所ではないの?」


 やけにあっさりと自分が実質無能である事を白状した仁を訝しむ穂乃果。彼女は今日始めて理力を知った仁がここまで割り切れている事に戸惑いを隠せない。が、その胸中も仁の一言で吹き飛ぶ。


 「少なくとも現時点では俺の方が強いと思っているからな。」


 「へ、へぇ〜。それは本気で言っているのかな?」


 傍から見れば笑みを浮かべて仁と会話をしている穂乃果だが、よくよく見ると彼女の頬は引き攣っていて目も笑っていない事が分かる。不穏な空気を感じた優斗と竜一が戻ってくるも、衝突を回避することは出来なかった。


 「そうね、なら一対一で決着を付けるのはどうかしら?ここには御誂え向きの設備が有るそうよ?」


 「それは良い、望む所だ。」


 先程まで浮かべていた笑みは双方とも好戦的な物へと変化した。そこから暫く2人は火花を散らすかの様に睨み合っていたが、穂乃果が大手町に許可を取りに向かい、入れ替わりに優斗と竜一が仁の所に駆け込んでくると険悪な雰囲気は一瞬で霧消したのだった。


 「おまっ、何時かやらかすとは思っていたが……!」


 「まさか入学してから2日とは思いませんよ……、最速記録ですね。」


 優斗は仁の所にやって来るなり直ぐに彼の胸ぐらを掴んで上体を揺すりながら食って掛かる。脇では竜一も処置なしとでも言うように手で顔を覆う。


 「いや、でも接近戦なら絶対に負けんぞ?」

 

 仁は何が問題なのかとでも言う様な口調で問いかける。そこには言葉通り接近戦では必ず負けないという強い自信が見て取れた。


 「確かにそうかもしれんが、どうやって近づくんだ?和田来家は代々攻撃式を得意としていて、彼女もその例に漏れず攻撃式を得意としているんだぞ!?」


 しかし優斗がこの言葉を仁の背に投げかけると、彼の余裕は一瞬で崩れ去ったようで錆びた機械のように顔を後ろに回す。その顔にはありありと驚きの表情が張り付いていて、しかしながら背後の2人はそれ以上の驚いた表情をしていた。


 「……まさか、それを知らずに喧嘩を売ったんですか?和田来さんに?」


 竜一の声は震えていて、否定してくれと言う希望がはっきりと見えている。しかし、現実は非情であった。


 「……てへっ☆」


 「誰が許すかぁ!!!!」


 仁のおおよそ許しを請うとは思えない謝罪に優斗の怒声が響き、他の生徒達は何事かと彼らの方向を揃って向くのであった。










 「それで、お前に勝算はあるのか?遠距離攻撃の事は知らなかったようだが、知らなかったようだが!」


 今日は最初の授業と言う事で昼頃に授業を終えた仁は、一緒に昼食を食べる優斗達から語気荒い質問を受けていた。穂乃果との件は大手町に承認され、第三訓練場で午後二時から始まることとなった。彼の実力の片鱗を近くで見せつけられた優斗と竜一ではあるが、やはり穂乃果には勝てると思っていない様で仁の事を心配していた。


 「大丈夫だ。やり方は知っている。……余り思い出したくは無いがな。まぁ、お前等なら教えても問題ないだろうな。長くなるから少し静かにしていてくれ。」


 「最初に何故俺があれ程上手に理力を扱えるかだが、先程も言ったように『気』が関わっている。主観では有るが、理力と『気』の動かし方が同じように感じられたからだな。だから、この世界には昔から理力と似たようなエネルギーが存在していたと思っていてくれ。」


 「そんで、一年前に俺は武者修行の様な旅に出た。理由は割愛するぞ。一番に訪れた国はロシア。そこで遠距離攻撃についての対処法を学んだ訳だ。残念ながらボロ負けだったが。あれ程惨めだったことはないね。」


 二人は仁の口から出た敗北に関する話を俄には信じることは出来なかった。彼らの中には出会ってから三日しか経っていないながらも、「コイツなら何とかするのではないか」と言う確信に近いものがあったからである。


 「そう驚くな、割りとあの頃は弱かったからな。んで紆余曲折あってボコされた相手に気に入られてしまって、それで対処法を知っているんだ。」


 「ココとは別物の理論だ、間違っていたら教えていてくれ。先ず、理力式だったか?それを展開すると対応した『回路』が形成される。特性はこの時点で特徴が現れ、主に色で見分けることが出来るな。そんで回路にも色々種類がある。(ボール)だったり、(アロー)だったりがその一例だ。」


 「次に、『回路』とは言わば結果を出す為の式でも有るから、戦っている間にある程度の情報は読み解ける。方向――は基本的に腕とか指の体の一部を使って照準するが、『回路』の中にそれを仕込むやつも居る。後は速さ、威力、追尾が俺の中では重要な要素だ。これらは対人戦で有利になるからお前らも覚えておいたほうが良いぞ。」


 「後は、ハッキリ言って精神論だな。燃え盛る火の球を顔のスレスレで躱せるか、身体を切り裂かんと迫ってくる竜巻に恐れずに突っ込んで行けるか、大地から生えてくる剛槍の半歩横を駆け抜けられるか。要はビビるなって事だ。」


 仁が対策を話し終えた時、二人の頭のなかにあったのは彼に対する強い畏敬の念だった。直接戦闘に関わる家の生まれである彼らだからこそ分かる、仁が戦闘中に行っている行為の難しさ。それらを可能とする彼の技量の高さと胆力。そこに優斗と竜一は気付き、これならばと(きた)る戦いへの安心感を得るのだった。


 「あ、そういえば武者修行の時怪我とかはどうしてたんですか?その感じだとずっとロシアと言う訳でも無さそうですし。」


 「そこら辺は『気』で身体の代謝を活性化させて治りを早くする感じだったな。そもそも方向性(ベクトル)が違うだけで『気』も理力も対して変わらんだろ。」


 「「えっ……」」


 そして落とされた爆弾発言に驚く二人。しかし、そんな彼らを尻目に仁は対決の舞台となる第三訓練場へと向かうのであった。










 決闘の始まる約一時間前に訓練場へと辿り着いた仁。そして、彼に二十分程遅れて入って来た穂乃果。穂乃果の後ろには数人程上級生の姿が見受けられ、その中には初音の姿もあった。


 彼女は仁を見つけると一目散に彼の元へ向かい、観覧席の一番下の彼に一番近い場所で止まった。


 「やっほ〜、元気してるかい?」


 どうやら三兎屋初音という少女は他人との距離を詰めるのが早いようで、まだ出会って一日の仁に対する言葉遣いも軽い様だ。


 「どうも三兎屋先輩、一日で崩れるようなヤワな身体の鍛え方はしてませんよ。」


 対する仁は、身体のウォーミングアップに集中しながらも言葉遣いは丁寧だ。


 「ほぉ〜、所で勝算はあるのかな?」


 「七割ですね。」


 「……それは君の方かい?あまり彼女を舐めないほうが良いよ。」


 「近づければ俺の勝ちです。三割は和田来が強力な遠距離攻撃の手段を持っていた場合ですよ。後、武器ってありますか?」


 今回の決闘の条件は

 ・武器あり、理力ありの時間無制限

 ・審判が判断したらそこで試合終了

 の二つ。穂乃果は既に太刀を振り回しており、定刻まで二十分近くあるものの準備は万端と見えた。仁はと言うと、身体を動かすついでに隅々の確認をしていてこちらも余念がない。


 彼らは既にこの訓練場の特殊性について説明を受けていた。ここには「夢幻結界」と呼ばれる設備――と言うより「式」が設置されている。この結界の効果は、範囲内で対象に発生した『異常』を範囲外に出ると同時に全て消失させる。つまりは、結界内で受けた怪我などを全て無かった事に出来るのだ。


 これを聞いた仁は使用する靴を学校で用意された物から、底にチタン合金の板を仕込んだコンバットブーツへと変更した。他にも幾つか彼が持ち込んだ私物が有るのだが今回は使わないようだ。


 「ん、武器ならそこの出入り口付近のパネルを操作して展開してね。使い方は?」


 「えと、『武装』ってとこ押したんですけど、欲しい武器の名前をタップすれば良いんですか?」


 ディスプレイには区切られた枠の中に武器のシルエットと名前が表示されていて、彼は幾つか有る武器種の中から数瞬迷って穂乃果と同じ太刀を選択した。


 「……その心は?」


 「今更使い方なんて分からないので棍として使いやすそうな物を選びました。なので鞘ごとぶん殴ります。」


 「阿呆かな?」


 向こう側では相手の準備が出来たようで、審判を務める大手町も二人の中間となる位置に立っている。初音の問を背に受けると仁は舞台へと進む足を止めて


 「出来る事を最大限にやっているつもりですよ、人の目にどう映るかは別問題ですけどね。」


 と答え、ひらひらと彼女に後ろ手で右手を振りながらもう一度歩き始めた。










 お互いが決闘の開始位置に立つ。彼我の差は五十メートル程離れていて、仁が勝つには繰り出される攻撃式をどうにかする必要がある。二人を見て大丈夫だと判断した大手町は試合のルールの確認を始める。


 「ルール説明だ!どちらかが戦闘が不可能だと判断した場合、俺が止めに入る!その時点で攻撃行為を中止するように!お互い全力を尽くせ!試合……開始ッ!」


 号砲が響くと仁はそれが終わるやいなや穂乃果目掛けて駆け出す。対する彼女は落ち着いて式を展開し、発動する。展開された式は『火矢(ファイヤアロー)』、一瞬で数本も生み出された矢は仁の逃げ道を狭める様に、纏まりつつもバラけると言う絶妙な範囲に着弾するが、彼はそれらの中から自分に近い矢を無造作に鞘ごと太刀を振る事で突破する。


 しかし、直前の『火矢』は目眩ましだった様で太刀を振り抜いた仁の前には先程よりも火の勢いを増した『炎矢(フレイムアロー)』が迫っていた。胴体を狙ったそれを、彼は前に加速して勢いを付け、横回転を加えながら前方に跳んで回避する。


 仁が着地した所を狙って放たれた『炎矢』達は、彼が後ろに跳ぶことで地に突き刺さる。が、二段仕掛けの攻撃は手本の様にもう一度着地のタイミングを狙って放たれ、彼の足元に展開された『炎柱(フレイムピラー)』が彼を焼き焦がさんと迫る。


 彼はそれを一瞥することもなく勘を頼りに横に転がって躱すと、再び距離を詰めようと走り始める。


 「掛かったわね!」


 「んなっ!?」


 しかし、彼が足を踏み出した瞬間に彼の足元には小さな理力式が展開され、それに呼応して周囲に散りばめられていた幾つもの同じ式も発動する。展開された『風息吹(ウインドブロウ)』の式は彼の身体を軽々と吹き飛ばし、無防備になった彼に照準を合わせた穂乃果は、彼女と同年代の者では展開することの難しい攻撃式『炎弩弓(フレイムバリスタ)』でトドメを刺そうとする。


 「終わりよッ!」


 「……部分展開、『―――』…!」


 仁は焦ること無く何事かを呟くと、身体が浮き上がっている状態から強引に身体を撚り銀色の閃光を纏った右足で踵落としを繰り出し、弩弓の如く力強い炎を上げる矢を()()した。視線の先では打ち出した本人が、式を壊されるとは思っていなかったのか呆けた面を晒していた。


 驚きは舞台に上がっている者だけでなく、外から見ている者達にも広がっていた。理力式の破壊と言う高度なことをやってのけた新人に皆が驚く中、一人物静かに見つめていた生徒会長、鳥谷部凛子の脳裏には親友の言葉がよぎっていた。


 「『彼は私の恋人にして、言わずと知れた《人喰い狼》。甘く見てると痛い目合う。』、でしたね……。ロシアの《結晶魔女(クリスタルメイガス)》が認める才能、とくと見させて貰いますよ?雪杜仁君。」


 そう呟いて彼女は口元を隠して楽しそうに微笑んだ。

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