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撃鉄のキングフィッシャー  作者: みるくてぃー
2/4

理力測定

 「お願いッ!一回でいいから部隊の見学に来てっ!」


 その力強い言葉と共に縦に振れる赤のポニーテール。 


 「どうせその一回で何か仕込んで絶対に加入させる積もりですよね?」


 しかし、決して首を縦に振ろうとはしない黒頭。


 「げっ、何故バレたし!?」


 「そんなんで大丈夫なのかよオイ。」


 仁の学園生活は前途多難である。












 初音からの熱烈な勧誘を受けた仁は、何とか彼女を説得してレクトの連絡先を交換(レクトには電話の様な通話機能が有る)する所にまで譲歩させた。


傍から見ると整った身体付きをした男子生徒が、彼よりも小柄な女子生徒に詰め寄られると言う何とも言い難い光景が展開されていたが、第三訓練場に居たのは幸か不幸か彼らだけだった。その後、仁は初音から毎晩来る勧誘のメールに悩まされるのは別のお話。


 そんなこんなで初音の拘束から脱出し、男子寮の食堂で早めの夕食を食べた仁。彼は環境の変化と運動したことによる疲れに抗うことは出来ず、ベッドに入って数分で意識を手放すのだった。










 翌朝、いつも通りの朝六時頃に起きた仁。暫くの内は現実感が沸かなかった様でベッドの中でもそもそと蠢いていた彼だが、次第に朝の特有の刺すような冷たい空気に意識が覚醒してくる。


 「ふぁ〜〜〜、集合は確か八時四十五分だったよな?」


 そう呟き時計を確認する仁。時刻は少し進んで六時五分を回った所だ。数秒ほど考え込み、仁は何をするかと言うと


 「よし、二度寝だ。」


清々しい程にそう言い切り、宣言通り二度寝するのだった。


 その後、ちゃんと七時頃にもう一度起きることが出来た仁。彼は備え付けの洗面台で軽く身だしなみを整えると、朝食を食べに廊下へと出た。


 すると、隣の部屋の生徒達も同じ目的だったのか、同じタイミングでドアが開いた。


 「おはよう。あー、赤森と藤田だったか?」


 「おう、そうだぜ。そっちは雪杜か。おはような。」


 「おはようございます。雪杜君。」


 二人共、やはり仁と同じ目的だった様で挨拶を交わすと三人肩を並べて食堂へと向かって行った。


 因みに赤森と呼ばれた少年は赤毛で活発そうな見た目をしていて、藤田と呼ばれた方はきちっと揃えられた黒髪に眼鏡の、とても利発そうな少年だ。


 「そういや、仁。同じ部屋の奴はどうしたんだ?」


 「ああ、居ないぞ?」


 場所は変わって食堂。チラホラと居た上級生とは離れたテーブルで彼等は朝食を摂っていた。やはりと言うべきか、仁と話すのは専ら優斗――赤森で竜一――藤田は聞き役に回ることが多かった。


 「え、じゃ教官の言っていた一人部屋って仁の事か。」


 「女子の方は案外和田来さんかもしれないですね。」


 「「それな」」


 一度話が合えばそこから発展するまでは速く、あっという間に彼等は打ち解けていった。それこそ、元から友人だったと言っても信じることが出来る位には。しかし楽しい時間ほど過ぎてしまうのは速く、時計の針は八時少し前を指していた。八時前にもなると食堂も徐々に混み始め、空いている席も少なくなってきた。


 「そんじゃ、次は教室で。」


 「おう、またな。」


 長く居座るのも申し訳ないと思った仁は席を立ち、二人よりも一足先に自分の部屋へと帰ることにした。


 その視界の隅に小さく上下する赤いポニーテールを入れながら。










 (まさか三兎屋先輩がストーカー紛いの行為をするとは思わんでしょ……)


 食堂からの帰り道、仁は一人心の中でそう呟いた。先程仁の視界にちらりと写ったのは彼の想像する通りの三兎屋初音その人である。幸いにして、彼女は仁が食堂から去ったには気付かなかった様だが、それでも仁は心の中で初音に対する警戒を引き上げた。


 その後の道中も、何事も無く仁は部屋に帰ることが出来た。たかが部屋に移動する為だけにかなり警戒していたのはそれだけ初音の襲撃(?)を疎んじていたからだろう。


 「朝から疲れたよ……」


 部屋に戻るなり、真っ先にベッドへと飛び込んだ仁。いっその事大手町に訴えることも脳裏をよぎったが、流石に初日から問題を起こす事は気が進まない様で諦めた。


 しかし、どんなに疲れていようと今日が授業の始まり。仁はベッドから出ていつもより少しだけ遅い速度で準備を始める。


 暫くして、丁度仁が準備を終えた頃に外から扉をノックする音が聞こえてきた。


 「仁!準備できてるか?」


 「ちょっと待て。すぐ終わる。」


 声の主は優斗で、隣には恐らく竜一が居るのだろうか。何となく雰囲気で感じた仁は電気の消し忘れと戸締まりを確認してから部屋の外へと出た。


 「待たせたな。」


 「いえ、そんなに待ってないから大丈夫ですよ。」


 「それよりも授業じゃどんな事やるんだろうな!」


 三人が話しながら教室まで歩いていると、次第に他の生徒達も各々の部屋から出てきて廊下や通路は活気に溢れてきた。


 校舎の前まで辿り着いた仁はふと後ろを振り返ると、恐らく穂乃果に積極的に話しかける赤毛――初音の姿を見つけた。何やってんだか、と呆れながらもその光景を極力視界に収めないようにしていた仁だが、だからこそ彼に向けられた初音の観察するような視線には終ぞ気付くことは無かった。


 「……ちょっとはカッコ良い所、見せてよね?」










 「全員居るようだな。それでは授業を始めよう。」


 大手町が教室をぐるりと一周見回し、一言告げると少しざわめいていた教室も静かになった。


 「先ずはこの「学園」について説明しよう。学園の正式名称は「国立対外殻生命体学園」だ。そもそもこの「外殻生命体」とは何か。そもそもの始まりは、西暦2036年にアメリカのジェームズ・アルバート博士が「外界論」を発表したことに遡る。」


 「博士はこの中で、地球には宇宙という隔たりとは別にもう一つの隔たりが有るのではないかと考えた。と言うのも、その当時宇宙空間に突如として隕石が出現することが多々あったからだ。それでもその時は眉唾物の考えとして、取り上げられることは無かった。」


 「そして、外殻論が真剣に考えられるようになったのは2074年の事。この中の何人かは知っている通り、渋谷事件が起こってからだ。」


 大手町は一度話を切り、生徒達を確認しつつ説明を続けた。


 「2074年7月も中旬の頃、突如として渋谷の空に体長20メートルを超える生命体が現れた。突如として、だ。博士の理論は思いもよらぬ形で証明されてしまったのだよ。」


 「これには、当然のことながら各国の首脳陣は大きな危機感を覚えた。予定の分からぬ襲撃ほど厄介な物はないからな。隣国、或いは関係の強い国と連携を取り始め、その繋がりはいつしか世界規模にまで発展した。これが今の世界防衛機関だ。」


 「話を戻すが、外殻生命体とは「外界」より、「外界門」を通って現れる特異な性質を持った生命体の総称だ。そこら辺は別の授業で説明するから安心してくれ。」


 「君達ならもう分かるな?「学園」とは外殻生命体の脅威に対抗できる人材を育成する学校だ。日本にはここ、神奈川ともう一つ兵庫に建てられている。普通の高校と違う点があるとすれば、ここは3年制では無く4年制の所だ。」


 「では次に、この学校のカリキュラムについて簡単に話そう。この学校は初年度、つまり最初の1年は普通科と言い基礎的な知識や体術、技術について君達に教える。教えるのは俺とA組の楠島教官だ。」


 「次の2年、3年時は3つの科、それぞれ「兵士科」「戦術科」「救護科」に分かれてもらう。兵士科は専ら戦闘訓練をする事が多いな。戦術科は作戦の立案や善後策等の勉強、救護科は効率的な怪我人の手当ての仕方を学ぶ事になるだろう。」


 「4年生なると4人から6人で小隊を作り、その中での連携を磨く。小隊は希望している配属先や本人の適性等で決められることも有るな。俺が知っている中では、全員が「兵士科」の奴らだった事もある。」


 「そして最後に、この学校には「特別部隊」と言うものが存在する。」


 生徒達はこの言葉を聞くと、途端に目を輝かせた。「兵士科」「戦術科」等とは全く違う言葉の響きに、夢を見る生徒達もそう少なくは無いのだろう。


 「特別部隊とは成績、素行、それに技術に於いて優良な生徒達によって構成された部隊だ。活動内容は、部隊内での訓練だけで無く郊外――この場合は学園の敷地外等での実践訓練も行う。もしこの部隊に入ることが出来たなら、それは十分に誇れることだな。」


 「ここまでで何か質問は有るか?」


 再度教室を見回し、質問の手が上がらない事を確認した大手町は満足そうにして話をもう一度始めた。


 「よし、無いようだな。それでは続けよう。次は対抗手段についてだ。渋谷事件の時は銃器やミサイル等を使用して外殻生命体を撃退していたが、現在では銃火器の他に「理力」を用いる。弾丸よりも理力を使った方が攻撃が通るからだ。」


 「この理力と言う物は殆どの人に備わっている。一般人がそれを分からないのは知覚する手段が存在しない為で、理力を使うことは理論上誰にでも出来る事だ。極稀に理力を一切持たない人も現れるがな。」


 その言葉に教室内は俄然ざわめき出す。今までの努力が水泡に帰すとなれば不安になっても仕方のない事だろう。それでも胆力が有るのか、仁と穂乃果だけは動じることは無かった。


 「落ち着け落ち着け。君達は全員理力を持っている。」


 そこに大手町が少し笑いながら説明する。


 「君達一般科の生徒は全員理力があることが入学の条件だ。そしてそれは入学試験の段階で確認されているからな。この授業が終わり次第、第三訓練場で詳しく測定を行おう。」


 「さて、話が逸れたな。一般の兵士が使う武器と言うのはこの「理力兵器」だ。」


 そう言うと、彼は腰に提げてあるホルスターから拳銃の様な物を取り出した。


 「これはその中の一つ、「九三式理力拳銃」だ。詳しい説明は省くが、「理力兵器」と言う物は人の中にある理力を利用して攻撃する物だ。外殻生命体を相手する時は理力兵器が有効だと言う事を覚えておいてくれ。


 「もう一つ、外殻生命体と生身のままで相手する事も有る。君達「能力者」と違い一般兵士は先程の理力兵器を使うが、我々はそのまま理力を操って攻撃する。一応、理力兵器を使ってはいけないという訳ではないのでな。「能力者」の中にも理力兵器を使用するものは存在する。それと、こちらも少数派だが実弾を愛用する「能力者」もいるな。」


 彼が一通り説明をすると、丁度見計らったかのようなタイミングで授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。


 「……どうやら時間のようだな。次の授業は第一訓練場で行うが、その前に更衣室で着替えてもらう。と言う訳で案内するから付いてきてくれ。」


 生徒達も立ち上がり、大手町に追随する。多くの横顔には不安感と緊張が張り付いているかのように見えた。










 「よし、全員揃っているな。」


 場所は変わって第一訓練場。そこには大手町と、彼が教える34人の運動用の服装に着替えた生徒達がいた。これから行う行為によって進路が決まるとなっては、生徒達の表情は硬い。


 「何、そう硬くなるな。道は幾らでもある。……さて、皆も分かっていると思うがこれから理力の測定を行おう。その後には軽めの訓練も予定しているぞ。それでは、早速だが赤森から初めて行こう。」


 「うえっ!?」


 「別に取って食う訳ではないんだ。そこの測定器――箱に入るだけでいい。結果がレクトに送られるからな。」


 不安げに、足取りも重く測定器の中へ入って行く優斗。前面の扉が閉じられ、数秒も立たない内に彼は箱から出てきた。満面の笑みと共に。


 「やったぜ!「火」の特性だ!」


 すると、彼の結果に背中を押されたのか生徒達はおっかなびっくりではあるが、続々と計測を受けに行った。


 「……次、雪杜だ。」


 仁が箱の中に入る。数秒で青い光が彼の身体を通過したかと思うと、扉はもう開き始めていた。


 「……思ったよりも、早かったな。」


 柄でも無いな、と苦笑交じりに出てきた仁を待ち受けていたのは大手町の微妙な表情。


 「何か問題でもあったんですか?教官。」


 「あー、その、何だ。」


 言い淀む大手町だが、彼はとても伝えづらそうに。


 「お前は理力は多いんだが、恐らく特性が無い様だ。」


 と伝えた。

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