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眼鏡を掛けたおかげで、死んだ恋人が蘇りました。  作者: 近藤近道
君がいるせいで、物語が始まってしまう。
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君がいるせいで、物語が始まってしまう。(6)

 ドラゴンは僕に抵抗する力がないのを見抜いたらしく、ゆっくりと僕に寄ってくる。

 下手に逃げ出そうものなら、反射的に腕を伸ばして潰してしまおうという威圧感があった。

 助けを求めて視線を送る。

 眼鏡を渡せないならそれでいいけど、どうにかしてこのドラゴンをぶっ飛ばしてくれ。

 すると朱里はドラゴンをぶっ飛ばす代わりに、僕に叫んだ。

「怜、眼鏡を掛けろ!」

 眼鏡。

 さっき渡されたあの眼鏡か。

 ケースは僕の手の内にあった。

 握り締めたままになっていた。

 眼鏡と聞いて、藤原さんと銃を構えた男が驚きの目で僕の方を見る。

「でもさっき、掛けるのは今じゃないって」

「『今』は来た!」

 朱里と藤原さんの関係は逆転し、僕を止めにかかろうとした藤原さんの脚を朱里は踏みつける。

 さらに手からつぶてのような水の塊を出して、男に投げつける。

 咄嗟に銃でかばった男の手から、銃が弾き飛ばされた。

 僕は慌てた手つきで、ドラゴンの目を見て、まだ動くなまだ動くなと必死に念じながら眼鏡を取り出す。

「ビームだ! そいつの炎みたいなビームを出して、焼き尽くしちまえ!」

 火を噴くドラゴンは、焼くより凍らせた方がいいイメージがある、ゲームとかで。

 でも今は朱里の言うとおりにするっきゃない。

「よせ! 地球人が眼鏡を掛けちゃダメだ!」

 と藤原さんが叫ぶ。

 構わず僕は眼鏡を掛ける。

 こめかみが一瞬痛んだ、と思ったらその直後にこめかみから脳へとなにかが流れ込んできた。

 脳内の血液を押し出すように、なにかは僕の頭を浸食し、そして首から体へと流れていく。

 やっぱりこれはただの眼鏡じゃなかったのだ。

 異物感が僕の意識を支配する。

「あ、ああ、あああっ!」

「行け、怜! ビームを撃て!」

 と朱里は言った。

 僕は朱里の声を聞いて理性を取り戻す。

 目の前に迫るドラゴンを見上げた。

 右目のレンズに照準が浮かぶ。

 ヤメロ。

 そう藤原さんが叫ぶのが耳に入った、気がした。

 でもただのノイズとしか感じなかった。

 ドラゴンは火を噴くつもりなのか、口を再び開いた。

 その口の中に狙いを定める。

 ビームを撃てと言われたって、やり方がわからない。

 けれど、なにも知らない僕にできることはそもそも限られている。

 それをするしかないのだ。

 眼球に力を込めて、叫ぶ。

「メガネッ、ビィィィーーーームッッ!!」

 レンズが光る。

 光でなにも見えなくなる。

 眼鏡の機能か、すぐに目に入る光の量が調節される。

 いわばサングラス化したのだ。

 そして目の前の状況を見て僕は叫んだ。

「なにが起きてんだああっ!?」

 ドラゴンの大きな口の中にぶち込むつもりだったビームは、それ以上の太さでドラゴンの頭を飲み込んでいた。

 僕の放ったビームは火の濁流だった。

 口内を守るためドラゴンは口を閉じ、顔面でビームを受ける。

 皮膚が火の粒を弾くが、それも一瞬のこと。

 すぐに皮膚は焦げ付き防御性能を失った。

 すると濁流のようなビームはたちまちドラゴンの頭を燃やし尽くし、灰へと分解してしまう。

 もうやっつけたんだ、と思うとビームの放出が終わった。

 頭を失ったドラゴンの体が横倒しになった。

 全身が焦げ付いていて、黒い煙を上げる。

 僕の眼鏡のつるからは、ぶしゅう、と白い煙が出て熱が排出された。

 上に向かって放たれたビームは、胴体にはかすってもいなかった。

 それなのに、胴体まで焼いてしまった。

 なんて威力だ。

 もし撃つ方向をもっと下にしていたら、校舎を巻き込んでたくさんの人が死んでいた。

 ぞっとする。

「朱里、この眼鏡は一体……?」

 と聞こうとしたけれど、朱里は藤原さんとの取っ組み合いの果てに地面に叩き付けられていた。

 そして藤原さんが素早く走り寄ってくる。

「その眼鏡を今すぐ外せえっ!!」

 避けられない。

 藤原さんに服を掴まれ、同時に足をすくわれる。

 いとも簡単に僕は転ばされた。

 藤原さんは体重をかけて僕の全身を地面に押し付け、自由を奪う。

 そして眼鏡が奪われる。

 僕が朱里からもらったその眼鏡を掛けて、藤原さんは笑う。

「ハハハ、とんでもない物を持ち込んでくれたね」

「怜を離せ」

 朱里が体を起こす。

 それに合わせて藤原さんは僕の体を片手で引っ張り上げつつ、自分も立ち上がる。

「この人を返してほしければ、あなたの眼鏡をよこしなさい。交換です」

 朱里は口を結んで藤原さんを睨むばかりだった。

「考える時間はあげましょう。それまで彼は私が預かります。また学校で会いましょう、兆華さん」

 そう言うと藤原さんは、銃を持った男に撤退しますと告げ、地を蹴った。

 藤原さんと、彼女に捕まえられた僕は、とてつもないスピードで朱里の頭上を飛び越えて、一秒もかからずに銃を持った男と合流する。

「待て!」

 と一歩踏み出した朱里の胴体に男は何発も弾を撃った。

 朱里の体は撃たれたそばから元に戻る。

 死にはしないが、足は止まる。

 僕は眼鏡を取り戻そうと、藤原さんの顔に手を伸ばす。

 しかし眼鏡に触れる前に彼女の拳が僕の腹を突く。

 鋭い痛みに僕の意識は飛びそうになる。

 藤原さんは銃を持った男のことも掴むと、今度は校舎を飛び越えた。

 空中を駆けるような跳躍だった。

 学校が一気に遠ざかる。

 また離れ離れ。

 でも今度は僕が囚われのヒロインか。

 殴られた痛みと、相対速度でとても冷たくぶつかってくる冬の空気の中、のんきなことを僕は思ってしまった。

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