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眼鏡を掛けたおかげで、死んだ恋人が蘇りました。  作者: 近藤近道
君がいるせいで、物語が始まってしまう。
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君がいるせいで、物語が始まってしまう。(5)

 落とされた朱里は空中で体勢を立て直し、両足で着地する。

「なんだお前!」

「誰だお前は!」

 朱里と、銃を構えた男が口々に怒鳴る。

 怒声を受けた藤原さんは、制止するように手のひらを男に見せた。

「私は大魔法使い、フルリ・ムーテイ。大魔法行使の後に、この地球に異世界転生した者です。つまり貴公の味方と言えましょう」

 なかなかイタい、と言えたらいいのだけれども、人間離れした跳躍力でドラゴンの上に乗った彼女が妄想を語っているとは考えにくい。

「あなたがあのフルリ・ムーテイだと……!?」

 男は驚愕している。

 その反応もまた妄想ではないことを物語っていた。

 藤原さんが名乗ったフルリというのは有名人であるらしい。

「信じる信じないは後で結構です。それよりも今は、そこの地球人から眼鏡を剥奪することが重要。そうでしょう?」

 そして藤原さんは顔を朱里の方に向ける。

 朱里はなにも言い返さず、両の握り拳を顔の前に持ってきて反撃の構えを取る。

「兆華さん、まさかあなたがシロブザに行っていたとは思わなかったわ。でもそのおかげでドラゴンとメガネフレイムを私の所に持ってきてくれて、ありがとう」

 感謝の言葉と同時に藤原さんはドラゴンから飛び降りる。

 朱里が直前まで立っていた所に藤原さんは拳を振り下ろす。

 一歩後ろに引いていた朱里を今度は回し蹴りが襲う。

 朱里は構えていた両腕でそれを受け止める。

 しかし受け止めたその場所で水風船が弾けたように水滴が飛び散り、朱里の体がたやすく弾き飛ばされた。

 朱里は両足だけでブレーキをかける。

 体勢を崩さない。

 踏みとどまったところを、

「撃て!」

 と藤原さんが指示を出して、男に射撃させる。

 朱里は脚を撃たれた。

 男の武器はやはり銃だった。

 しかし発射された弾はなんとか目視できる程度の速さで、しかも燃えているように見えた。

 銃ではあるが、僕たちの知る銃とは別物だ。

 炎の弾は朱里の脚を貫通した。

 そして脚はすぐ元通りになる。

「さすがに地球人、厄介な魔法を使う。でもこのまま押し切ります!」

 すかさず朱里との距離を詰めていた藤原さんが続けて指示を出す。

 直後にハイキックで眼鏡を掛けた朱里のこめかみを狙う。

 朱里は防御のための腕を、藤原さんの足首に叩き付ける。

「フルリ殿、ドラゴンです!」

 と男が叫ぶ。

 藤原さんの背後のドラゴンの目が、朱里と藤原さんを見ていた。

 そして右の前肢を伸ばした。

 ドラゴンの鋭利な爪が割り込む形になって、朱里と藤原さんを左右に分断する。

 幸運が味方した、と思ったのもつかの間。

 ドラゴンは朱里を集中的に狙って爪を振るう。

「なんで私ばっかり!」

「大人しく死ねってことなんだよ!」

 藤原さんが跳躍して、朱里の逃げる先に回る。

 リスキーな行動だった。

 朱里に近づけば、自分がドラゴンの餌食になるかもしれない。

 しかしそれによって窮地に陥るのは、朱里だ。

 藤原さんとドラゴン、二つの攻撃をさばかなくてはならない。

 藤原さんのパンチの連打を、朱里は細かい動きで後退しながら避ける。

「私よりもドラゴンが先だろ!」

「いいや、あなたの眼鏡をいただく!」

 後退する朱里の後頭部を狙った男の援護射撃が入る。

 朱里はそれに反応してみせて、銃撃の一瞬だけ動きを止めた。

 しかし引かなかったせいで、藤原さんのパンチの射程内に留まることになってしまう。

 朱里は上体を反らす。

 さらに膝を折って姿勢を低くすると、大きく後方に跳ねた。

 ドラゴンは二人同時に片付けてしまえと言わんばかりに大きく口を開いていた。

 寸前まで朱里のいた所を、ドラゴンの吐き出した火が通り抜ける。

 藤原さんは火をかき分けて朱里を追った。

 なにかの力で身を守ったのだろう。

 木を溶かすほどの火の中を抜けたというのに藤原さんは無傷でいた。

「おりゃあっ!」

 朱里の顔面を狙ってパンチを何発も打つ。

 フック気味の曲線的なパンチだ。

 目当ての眼鏡を顔から外そうとする攻撃だった。

 そして男の援護射撃が朱里の足下を襲う。

 直撃はしなかったが朱里は体勢を崩す。

「よくやった!」

 上から下へと振った拳が朱里を地面に縫い付ける。

 膝をついてしまった朱里に藤原さんは猛攻する。

 顔をかばう腕にパンチを当てながら、脚や脇腹を狙って蹴りを入れる。

 朱里は十秒で耐えられなくなった。

 肉体的にではなく、精神的に我慢していられなくなった。

「こんなところでえっ!」

 と叫ぶと、藤原さんがパンチを振るうのに合わせ、藤原さんの腕を裏拳で殴った。

 カウンターを入れた拳は火をまとっていた。

 もう片方の手も燃えていた。

 その手を藤原さんの腹部に押し付けるように朱里は密着する。

 燃える手刀が藤原さんの体操服を切り裂いた。

 お腹の辺りに一筋の大きな切れ目ができたが、藤原さん自身がダメージを受けた様子はない。

「私は一方的な虐殺以外しない主義なのに、よくも」

 と朱里は藤原さんを睨む。

「地球人らしい傲慢な考え方だね。反吐が出る」

 二人に興味を失せたのか、ドラゴンは顔を背けた。

 すると僕と目が合ってしまう。

 じっと見られて、どうやら僕が標的になってしまったらしいと感じる。

 ドラゴンのことに気が付いた朱里が、

「逃げろ怜!」

 と叫びながらドラゴンに飛びかかろうとした。

 しかしそれを藤原さんがタックルして阻んだ。

「なにを!?」

 藤原さんは朱里の腕をがっちりと掴んで、僕の助けに入らせない。

「怜君を助けたいなら、眼鏡を渡しなさい」

「それはできない」

 と朱里は答えた。

 できないって、このままだと僕は死んでしまうんですけど。

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