六十八頁目
「……目が覚めたか」
「う〜〜〜ん」
Dは人狼の腕の中で伸びをした。
パッチリ開いた目はサファイアブルー、真珠色の白い髪も透き通る肌もツヤツヤピカピカ。
「Dちゃん、ふっかーつ!!」
「それは良かった」
「これもポチさんのおかげだよ〜。昨日は、と〜っても情熱的だったし……」
「マテ、誤解される表現はよせ?」
「きひひひひっ」
シーツにくるまったDは悪戯っぽい笑顔を見せた。
昨晩とは見違えるほど元気になった少女を見て、人狼の顔にも分かりにくいが笑みが浮かぶ。
「さぁさぁ、お嬢さん、狼の人。朝ごはんにしますよ!」
「わ、うさちゃん!」
「アタシはうさちゃんじゃありませんよ、お嬢さん。アタシはガムラン先生の助手で、オリーヴって名前があるんです」
「よろしくね、オリーヴ。私の名前はディーヴル、Dちゃんって呼んで」
「わかりましたわ、Dちゃん。朝ごはんの前にお着替えしましょうね。さ、狼さんはさっさと出てってくださいな」
白いウサギと白い少女は微笑みあった。
Dたちが寝るのに使っていた部屋は診療室で、その奥の部屋が台所兼居間になっている。人狼は朝食の待つそちらへ追いやり、オリーヴはテキパキとした動きでDが着るための下着や服を診療台へ並べていった。
「急ごしらえでちょっと着心地は良くないかもしれませんけど、ないよりはマシでしょう?」
「わ~い、ありがとう! か~わい~い!」
「サイズはどうかしら」
渡された半袖のワンピースは、上半分が深草色で、下のスカート部分が白地に深草色の刺繍が散りばめられたシフォンで、ちょうどDの細いウェスト部分で切り替わっていた。深草色に染められた部分は質素な作りながら友布のリボンで飾られ、軽やかなシフォンと相まって初夏の装いに最適だ。
「ピッタリだよ。本当にありがとう、オリーヴ!」
「良かったですわ。もうすぐ朝日が上ります、今日もお出かけにはちょうど良い日になるでしょう」
「うん!」
Dがちょっと小さい靴下で駆けていくのを見送って、オリーヴはシーツ類を洗濯かごにまとめて放り込んだ。そしてふっと苦笑する。実はあのワンピース、彼女の服と新品のカーテンで作ったものなのだ。しっかり縫い付けたとはいえ、早めにちゃんとした服に着替えた方がいい。
「でも、カーテンだってことは、知らない方がいいでしょうね」
朝ごはんがすんだら、Dの髪の毛を結ってあげようと決めて、オリーヴは家の裏の洗濯場へ回った。
◇◆◇
「んむむっ、のろしってやつじゃない、アレ?」
「ああ、そうだな」
療術士の老人ガムランと白ウサギの助手オリーヴに別れを告げ、Dたちは一路ユーリと別れた場所を目指していた。その途中、ガムランの家を出てすぐのところで木々の間に立ち上る煙に、最初に気づいたのはDだった。
それはユーリが自分の本隊に向けた合図であり、「合流しろ」という意味を持っていた。
まず先にユーリとその私兵、そしてセルビノとディーが王都に向かう。そこには彼らの後援者のひとりであるドランゴ卿がおり、彼の館にユーリたちを迎え入れてくれる手筈になっていた。カーンたち盗賊団は後から全員で武装し、そこへ向かう。その頃には城は陥落し王都は混乱状態、つまりは手頃な狩場となっている予定なのだ。
Dが狼煙に気づいたのと同じ頃、バンたち四人もまたこの狼煙に気づいていた。
山中で野営をしていた彼らだったが、夜の内には何の動きも見出せず、Dとも合流できず、しかも朝になってもDが現れなかったために肩透かしを食らった格好になっていた。彼らの取れる行動はふたつ、ユーリがまだここにいるかを探るか、大人しく麗筆を探すかだった。
そのため、山中で野営している団体ふたつにはあえて触れず、静かに行動することにした。つまり、麗筆が投げ込まれた川の捜索を始めたのだ。Dが現れればおそらく大きな騒ぎになるだろう、そのときは遅れず加勢するつもりだった。
しかし、そんなところへこの狼煙である。
いったい何の合図なのか、バンは首をひねった。
「……あれ、どういう意味だと思う?」
「わからんにゃ。でも、気ににゃるにゃら、見に行った方がいいにゃ」
「そうですね。どうせこの川から近いですし、避けるにしろ一度様子を見てから撤退した方が良いと思います」
ティナの提案に積極的に乗ったのは珍しいことにアイだった。
「お、いつもは慎重派のアイがどうしたにゃ~?」
「別に。川さらいが嫌とかじゃないですよ。こんなとこにレイヒさんが沈んでるわけない、なんて決めつけてるわけじゃないですし」
「それってやっぱ嫌なんじゃないか……」
バンが額をぬぐいながら呆れた声を出す。
「ともかく! 結構な人数がこの山の中にいるわけです。この狼煙は何かの合図ですよ、絶対。ユリウス王子が何かを企んでいるというのはDちゃんからも聞いているでしょう? 気になるじゃないですか!」
「そりゃそうだけどさ……」
「元々、Dちゃんの援護をしに戻ったんでしょう? もちろんレイヒさんも探しますよ、でも、せめてこの山の中で何が起こってるのかを把握しておかないと!」
「飽きたんだにゃあ……」
「飽きたのね……」
「違いますってば!」
焦って言い訳すればするほど残念な感じになるアイだった。
「まあ、確かにアイの言う通りだよな。衝突を避けてあいつらの正体を探ろうともしなかったけど、ずっとこの山中にいたかもしれないと考えると、本の状態のレイヒさんを拾ったかもしれないし、人間に戻ったレイヒさんを捕まえてるかもしれない。偵察は必要だ」
「バンさん! そうです、わたしもそれが言いたかったんです!」
「はいはい、そういうことにしとくにゃ」
「……じゃあ、狼煙の方を見に行こう? ティナ、先導よろしくね」
「任せろにゃ~」
Dと人狼、バンたち四人、そしてユーリの部下たち。それらが一堂に会そうとしていた。





