山門編-失われた天地の章(7)-神祝ぎの馬合わせ
<これまでのあらすじ>
光と命が豊かな豊秋島。そこには天と地の八百万の神々と、呪いと鏡の力を駆使する人々とが暮らしていた。
旅芸人一座の輪熊座と共に山門の都へ向かう道中、俳優の少年、御統は、黒衣をまとった美少女、豊と出会う。優れた言霊使いの豊は、当初、御統に敵意を向けるが、二人の距離は少しずつ縮まる。
山門の首邑、山門大宮に到着した輪熊座一行は、山門の御言持、大日の歓迎を受ける。
大日と輪熊座の親方に交誼があることを知った豊は、若く美しい自らを大日に献上するよう輪熊に提案する。豊には秘した目的があり、大日の嫡男の入彦に仕えることになった。
豊が輪熊座を去ったことを知った御統は初めての友達を取り戻すため入彦邸に向かうが、そこで御統の持つ白銅鏡が暴走し、光の巨人を生み出して邸の門を破壊する。
初めは豊を見下していた入彦は、豊の不思議な言霊の術に誘われ心を開きかけるが、狼藉を働いた御統を捕えさせ、極刑の可能性を豊に示す。豊は大日に取り成しを頼むが、入彦は父である大日に対しても頑なな態度を崩さなかった。
そんなおり、山門の鬱屈した雰囲気を払拭するため、持傾頭の登美彦が馳射の馬合わせの挙行を提案する。
≪是非ご一読ください。よろしければ、ご感想、ご評価をお願いします!≫
<人物紹介>
御統
俳優の少年。輪熊座の有望株。軽業と戯馬の腕前は抜群。
輪熊
旅芸人一座、輪熊座の親方。山賊のような風貌で、胸に三日月型の傷痕がある。芸と儲けにはがめついが、面倒見はよい。
靫翁
輪熊座の座員。輪熊とは古い付き合い。老人だが肉体は強靭で、強い矢を放つ。
鹿高
妙齢の女性。美形だが口と態度は悪い。女性座員の頭領格で、年端のいかない者には分けへだてなく優しい。
豊
夜色の黒衣の美少女。優れた言霊の術を使う。隠された企図を果たすため、大日に近づこうとする。
大日
山門の御言持にして春日族の氏上。貴人中の貴人だが、輪熊、鹿高、靭翁に一目置いている。清々しい人柄だが、少し好色。
大彦
大日の兄。輪熊たちとも古なじみ。鹿高に一方的に好意を抱いている。豪快な人柄。
入彦
大日の嫡男。豊からの第一印象は、好きになれそうにない人物。輪熊座関係者をどこか見下している。
登美彦
山門主の秘書官ともいうべき持傾頭にして、登美族の氏上。大日を敵視している。
山門の大地は、畳なづく山並みにぐるりと周囲を守られた広大な盆地である。山門に暮らす人々は、父母の腕のように護ってくれる山々を青垣山と呼んで、親しんだ。
中央を大きな川が流れ、その上流は初瀬川といい流れが速く、下流は川幅を広げて山門川という。
山門川は内つ海に河口を持つが、その昔、この川を天磐船で遡ってきた一族の長こそ、饒速日の初代である。彼は川の両方から迫り来る山塊を仰ぎみて、
「山の門を押し開けば、なんと麗しき天地の広がることよ」
と言挙げし、つがいの鵤に誘われて上陸した浅瀬の先にあった丘に鵤が丘の名を与え、そこに一族の集落を作った。鵤とは、黄色い嘴の鳥で、風切羽に白斑がある。その鵤の姿の特徴が由来になったのか、鵤が丘は、後世に斑鳩丘の字を当てられることになる。そして饒速日の一族は、自らを斑鳩族と号するようになった。
さて、初瀬川から山門川へ連なる流れは水量が豊富で、いくつもの支流を大地に走らせている。山門の大地を一枚の若葉と見なせば、葉脈は豊潤な栄養を各地へ運び、葉全体を美しい緑に育んでいる。
その緑光を滴らせる広大な森は、人々に日々の糧や、集落や邑を造作する際の貴重な木材を提供しているのだが、山門大宮が規模を広げていくにつれて、樹々は伐採され、大宮周辺には無粋な地肌をさらけ出しているところがある。
その無粋な地肌のひとつで、激しく土煙が舞い上がっている。数十頭の馬が、幾度も幾度も馳せ違っているのだ。
そこは春日族に与えられた馳射の修練場だ。山門大宮の周辺には、諸族の修練場が同じように造成されている。春日族の修練場は、馳射を発祥させた一族の名誉として、登美族とともに他族よりも広い土地を与えられている。
修練場の一隅に築かれた台に一旒の旗が立ち、そこに描かれた飛躍する白鹿の下で冴えない顔を佇ませているのは入彦だった。
入彦は馳射用の短甲を身につけ、冑を小脇に抱えていたが、彼が本当に抱えているのは不安だった。彼の目は、修練場で馬を駆けさせ、弓を引く騎手たちを捉えていたが、彼の視野に映っているのは屈辱に塗れる自分自身の未来だった。
父に呼ばれ、馳射の上覧馬合わせのことを聞かされたとき、入彦の頭は真っ白になった。馬合わせとは、馳射の仕合いのことだ。
馬合わせは次の望月、つまり満月の夜に挙行される。
近頃の不猟を天神地祇に訴え、その恵顔を山門に向けてもらうための神祝ぎとしての馬合わせだ。神々を楽しませるために、勇壮華麗な馬合わせを現出させなければならない。そのため馬を合わせる馳射の組は登美族と春日族から出し、組頭には各々の族長の嗣子を当てる。
さらに、山門大宮の民衆の沈滞した雰囲気を払いのけるため、馬合わせには山門主の上覧を仰ぐだけでなく、広く民衆にも開放される。
大宮建設以来の壮大な催しになることは明らかであった。この神祝ぎの馬合わせの組頭に選ばれる栄誉は、空前絶後の輝きとなるだろう。しかし、入彦の真っ白の頭に描き出されたのは、僅有絶無の屈辱の光景だった。
要するに、入彦は馳射に自信がなかった。春日族の嗜みとして馬に乗り、風のように駆けさせることはできる。男子の常として弓を引き、的を射ることも得意だ。だが、猛然と迫りくる誰かと対峙したとき、馬の胴を締める両股は戦慄き、弓引く腕は震えてしまう。己に逆らう他人の前では、入彦は子女のような手弱さに落ちてしまう。
「もし自信がないのなら、お前は組頭を辞退してもよいのだ。登美族の長には、わたしから言っておく」
大日はそう言った。入彦は馳射について誰へも虚勢を張っていたが、父は真実を見抜く目をしていた。だが、入彦は真実の色に染まることができなかった。
「何をおっしゃいますか。今から腕が鳴っております。お任せください。登美族は本族といえど手加減せず、必ずや春日族に勝利をもたらせてみせます」
春日族の若い男子であれば、だれもが期待しているであろう言葉を、入彦は流暢に紡ぎだした。
「…さようか」
父はそれだけ言って、あとは目を閉じただけだった。そのときの父の姿が、瞼の裏に残っている。
台で、入彦は重い息を吐いた。この吐息が大風となって山門の天地を吹き飛ばすのでなければ、せめて、自分をどこか彼方へ連れ去ってくれるものであればいいのに。そんな愚にもならない儚い想像で自分を慰めた。
台の階を登る足音で、入彦は悄げた表情を面皮の裏にしまい込んだ。
入彦の隣に立ったのは、春日族の青年で、名を石飛という。優れた騎手で、これまでの馬合わせでは、彼が組頭を務めていた。彼の父は大日に絶大に信用され、御言持の職務で本拠の春日に帰ることができない大日に代わって、春日族の邑の統治を委ねられている。
山門大宮への旅を終えかけていた御統が、高地から見晴るかす夕景色に見た疾走する騎馬は、実は石飛その人であったのだが、むろん互いにその遠い邂逅を知りはしない。
石飛の容姿はすらりと背が高く、輪熊が御統に教えたように、乗馬用の革の脛当を付けている。まさに長脛彦と呼ばれるべき風容だ。
石飛の人となりは名前が良く現わしている。意思が固く、目標にまっすぐに向かっていく。声も心根に調和して、清々しい。
「公子、ご命令どおり、騎手を整列させております。お言葉を」
溌剌とした石飛の声に弾かれるように台の前に出た入彦だが、彼には、騎手たちに掛けてやるべき言葉が見つかっていなかった。いや、解き放ちたい言葉は、実は心の底根に確かにあった。それは、きたる上覧馬合わせの指揮をとる自信が全くないという入彦の本音だ。しかし、栄えある御言持の子息である以上、その言葉は決して喉をせり上がってきてはならないのだった。
三十人の騎手が下馬して入彦の眼下に整列している。みな、春日族の精鋭の若手だ。手綱で繋がれた相方の馬を嘶くこともさせず、見事に御している。一人一人の騎手の鋭気が、馬の自我を完全に抑えきっているのだ。
鋭気の巨大な塊を前にして、入彦は膝が震えた。
ただ整列しているだけでこうなのだ。これが、たとえ模擬戦であるとはいえ、実戦と違わぬ殺気を鏃に込めた三十人の騎手が殺到してくれば、いったいどうなってしまうのだろう。馬上で失神し、何もかも垂れ流してしまう哀れな姿を、入彦は思い描かざるをえない。
自分にはやはり無理だ。組頭には、勇壮果敢な石飛こそがふさわしい。悲鳴を弱々しい光に変えた入彦の目配せを、しかし石飛は勘違いして受け止めた。
「はい。すでに皆、我々が神祝ぎの馬合わせの騎手に選ばれたことを知っています。この栄誉ある選抜に胴の震えぬ者はなく、乾坤一擲、身命を賭する所存でございます。そうであるな、皆」
石飛が焚きつけると、三十人の騎手は弓を持つ手を突き上げて気勢を揚げた。天地を響もすような彼らの波動を、体躯に吸い込んだ入彦は、一回り大きくなったように石飛には見えた。
「見事な覚悟である」
こういうときの入彦の声には張りがある。御言持の子息たるを弁えた声だ。主人の本音には従順でない声でもある。
「皆も承知のことであろうが、いま、山門の天地は我らに恵みを賜ることを惜しんでおられる。天神地祇と万の精霊が月を愛でる望月の夜に、観る者の血潮を逆巻かせるほどの熱戦を奉り、天地にお喜びいただかねばならぬ」
入彦の、主人に背く声は、いっそう熱を帯びた。
「だが、それだけではない。我らの使命はそれだけではないのだ。我らが山門主はむろん、天神地祇と万の精霊が照覧するきたる戦いに、我らは、春日は必ず勝利せねばならぬ。各々よ、使命を心骨に刻めよ。心火を灯せ。心機を奮い立たせるのだ」
入彦が右の拳を突き上げると、三十人の騎手の喊声が風を巻き起こした。その風を両手で受け止めつつ、
「各々よ、励め。気炎万丈、天地を響もせ」
と、演説を熱い音吐で締めた入彦は、かたわらで風にはためく飛躍の白鹿の旗を手に取り、石飛に授けた。
膝を地に付け、両手で恭しく白鹿の旗を受取りはしたが、石飛の顔には戸惑いが浮かんでいた。
一族の団結を象徴する旗は、通常、御旗とよばれる。ちなみに、斑鳩族の御旗は、特別に大御旗とよばれる。
各族から選抜された馳射の組は、この御旗を掲げて馬合わせする。御旗を奪われるか、倒されるかすれば、その組は、一族の名誉と共に敗れ去るのだ。
馬合わせ中、御旗は組頭が持つ。少数とはいえ、三十人の騎手を縦横無尽に指揮するには号令では困難で、自組の騎手への指令は御旗で伝えるからだ。そのため、組頭は旗頭ともよばれる。
修練中も、指揮者は御旗で指令を出すから、石飛はなぜ御旗を授かるのか理解できなかったというわけだ。むろん、これまでの数々の馬合わせでは組頭を務めてきたが、きたる望月の馬合わせでは、春日族の次期族長である入彦がその地位に就かねばならない。
「われはこれより御霊屋にこもり、次の望月の日まで春日の祖霊に必勝を祈願せねばならぬ。それまで、この御旗をなんじに預ける」
「…承りました」
と言ってはみたものの、石飛の戸惑いは、まだ立ち去らない。
騎手の修練は石飛で可能だが、御霊屋で祖霊に語りかける資格は族長の血族しか許されない。そのため、御霊屋に向かうのが石飛でなく入彦であることは当然だ。ところで、御霊屋とは霊廟のことだ。
馳射は個人競技ではない。旗頭と三十人の騎手とが一心同体となり、戦術によって離散することはあっても意思は一統されていなければならない。
石飛は、入彦の射御の腕前に疑問は全く持っていない。間近にその技を見たわけではないが、彼の主人への忠誠心が、崇拝というよりも肌体の条件反射というべき単純さで、入彦を信じ込ませた。
しかし、だからといって、御霊屋にこもった入彦が、ぶっつけ本番に三十人の騎手を手足のように使いこなすことができるのか。確かに、族の大事の前には祖霊の助けを請うのが一般的だ。そのためにこそ、各族には血族から選び出された清らかな男女を、祝者や巫として選び出し、祭事に専念させている。石飛の戸惑いは、そんな思いを中心にぐるぐると回っている。
だが、入彦から御旗と言葉を賜った場所は、台である。土を突き固めた壇だ。壇には天地の精霊が降り立つ。言葉に魂があると信じられ、壇の上で交わされた言葉が神聖視されるこの山門では、明確な根拠なくして畏き辺りの貴人に疑問をいだくのは禁忌である。
ともあれ、石飛に御旗を託した入彦は、外見は悠然と、しかし内面は一刻も早くこの場から立ち去りたい焦燥感に追い立てられながら台の階を降り、修練場を後にした。馬を疾走させた入彦は、居心地の悪い場所から逃げ出すという場面において、なかなかの御術をみせた。
石飛自身は、この後、託された春日族精鋭の騎手たちを入彦の期待以上に練り上げるのだが、自分の殿舎に逃げ帰った入彦には、これから先の展望はなかった。彼は御霊屋には向かわず、何もない無彩の自室に戻って、床の木材に穴をあけるほどの溜息を落とした。
自己嫌悪の時間だ。今日も、人の望む色に染まった。次の色に染められるまで自己を嫌悪し、また染められ、また嫌悪するのだ。その螺旋をさまよっていることに、当の本人は気づいていない。
気づいているのは、意外な人物だった。
山門の持傾頭、春日族にとっての本族である登美族の長、登美彦がその人だ。
登美彦の目は冷ややかで陰気ではあるが、そこに何も映らないわけではない。むしろ人よりも怜悧に、抜け目なく物事を見た。心の扉を閉めきったようだと形容される彼がかもしだす雰囲気は、怜悧に映しとった世界の事象を、心の外に逃すまいとする心構えが要因なのかもしれない。
登美彦は、その目で入彦の本質を捉えていた。外見上は悠然と振る舞い、物言いがときに爽やかときに勇壮で、官人、家臣、民衆の目を眩ましているが、実体は脆弱で、何の才能も器量もない。火種を乗せて発光させるだけの燭台にすぎない。一押ししてやるだけで倒れ、火種を投げ出す。人々はその頼りなさに気づくだろう。いや、投げ出した火種が辺りを燃やし、燭台自体を燃やすだろう。
そんな空想をし、実行に移そうとしているのが、この時の登美彦である。
「ずいぶん愉しそうではないか」
山門大宮の一隅に与えられた邸で、登美彦は遠来の客人を客舎に迎えていた。
「大木を切り倒し、その木材で設える我が家を思えば、愉しくなるものです」
登美彦は、客人にそう返した。客人は笑ったようだが、白い歯が浮かんだだけだ。
この客舎は外部からはその存在が悟られないように作られている。家臣や家僮もその存在を知らない。知っているのは登美彦と客舎を作った工人だけだが、秘密を守るため、工人はすでに始末してある。
外光が差し込まない房だ。一つの灯りが登美彦の輪郭をぼんやりと浮かばせているが、客人は闇の中である。
「ほう、山門の持傾頭ともなれば、与えられた殿舎だけでは飽き足らぬものか」
客人の声には多少の冷やかしが混じっている。
「飽き足りませぬ。山門の天地を覆い尽くすような大厦がほしいものです」
豪壮な邸が欲しいとむずがっているわけだが、当然、登美彦が望む家は物象のものではない。山門の全権を握りたいというのが本意なのだ。そのための工作の一つが、きたる望月の馬合わせである。天神地祇も、山門主も、民衆もが注目する馳射の馬合わせで、春日族を辱め、登美族の名誉を取り戻す。もちろん、矢が飛び交う馳射のどさくさで、春日族の次期族長をうっかり射殺してしまうという大事件も細工として織りこみずみだ。
馳射に用いる鏃には刃止めが施されているとはいえ、大量に用いる矢の一本に刃止のない矢が偶然混じっていたとしても、一体誰を責められよう。万霊照覧の馬合わせだ。偶然は偶然ではなく、神意だと主張することができる。山門の御言持は春日族に継承されるのではなく、登美族が取り戻す。それが神意であると演出するのが、馬合わせの真の目的なのだ。
絵を描く者は、人の評価はさておき自分の作品を愛するものだが、登美彦も自分の空想を愛した。愛するがゆえに、実行するのである。
下らぬ小細工だ、と客人は内心で笑っている。権力は奪い取ればよい。それが客人の考え方であり、そうするだけの実力を彼は持っている。山門ではなく、もっと遠い地で。
「ところで、出雲の下ごしらえは順調ですかな、御名方殿」
そう問いかけられた客人の目が細くなった。細くなったかわりに目の奥の底光りは増した。
「その地名もその名も、ここでは口にはださぬ約束ではなかったか」
「これは失礼」
慇懃無礼とは、登美彦のために用意された言葉だ。彼は仄かな灯りの中で頭を下げたが、反省などはしていない。さきほどの客人の冷やかしへの意趣返しだ。二人はそういう関係である。しかし、どこかで馬の合うところを感じている。
「ふん。まぁ、上々だと答えておこう」
「それは重畳」
「しかし、父も兄も感づきはじめている。こちらで花火を起こす前に、あちらで一戦せねばならぬかもな」
「それはそちらのご面倒。隠身と崇められたくば、すばやく事を行われることです」
「人ごとだな。おぬしも御言持となりたくば、早々に事を行うべきだ。馬合わせなど、しておる場合か。さもなければ、山門ごと飲み込まれるぞ」
何に飲み込まれるのか。それを知らせることこそ、客人が登美彦を訪れた理由なのだ。
彷徨える鉄の兵団が、虎の目の方角、つまり西から迫ってきている。台風のようでもあり、蝗の群のようでもある。鉄とは、つまり鉄器で武装しているということだ。鉄器は、山門大宮でもほとんど使われることがない。銅器のようなに光り輝輝く神々しさはないが、鉄器の武具の威力は抜群だ。
客人の出身地の出雲は、その脅威をうまくかわした。客人の父と兄の外交が功を奏した、と客人は信じている。
仄かな灯りに、登美彦は笑みを浮かべた。客人の細い目が、ますます底光りを強めた。
「まさか、おぬしの手か」
「さて、私の手はここにございます」
登美彦はとぼけた。
「おぬしの手に収まればよいがな。へたをすると、山門は灰燼となるぞ」
「…一度失ってみるのも、また一興でございましょう」
「そういうことなら、わざわざ知らせにくることもなかったな。無駄足だったか」
「いえ、客人のご厚情、身に染みました」
これは登美彦の本心だ。二人は、互いを嫌ってはいない。ただ、互いに手の内は見せないだけだ。
登美彦は灯りのそばの床に這わせている紐を引いた。床板の一部が開き、地下に伸びる階段が現れた。この房は、殿舎の敷地外から出入りできる。
客人が地下への階段を降りていくと、登美彦は床板を元に戻した。
灯りを消す。房は暗闇となったが、登美彦の脳裏には、輝く未来が見えていた。
同じように未来というものを見据えていたのは豊だが、彼女の未来展望は登美彦ほど利己主義なものではない。達成のための犠牲は最少にするものの、そこに自分を入れているところに登美彦にはない悲愴感があるのだが、それを知る者は、今のところ、豊自身しかいない。
入彦の殿舎に一房を与えられた豊は、その一隅に端座したまま身じろぎしない。一見、手持ち無沙汰に思えるが、実は豊は忙しかった。
入彦の殿舎はもちろん、同じ敷地内の大日の殿舎にまで、豊は言霊を飛ばしている。黒衣の衣嚢から取り出した木の実、木の葉、木片、石ころ、布きれなどに言葉の魂を吹き込み、広い敷地中を調べさせている。
一房を与えられたのは、豊の目的にとって幸運だった。邸には通常、それも身分が高ければ高いほど、その敷地の境界には強力な呪いが施されている。悪霊の侵入を防ぐためだ。豊の呪力では、とても敷地外から言霊を忍ばせることはできなかった。
あるいは蟻、あるいは蝶、あるいは百足、あるいは蜂だと思い込んだ木の実やら小石やらは、大日や入彦の家人の視界の縁を動き回り、一生懸命に情報を集めた。
彼らもなかなかに大変なのである。放たれた木の実やら小石たちは、簡単に主の元へ帰ってこられるわけではない。なぜなら、外呪ほどではないが、建物内部にも、至る所に内呪が仕掛けられている。蜘蛛の巣のように呪いの糸を張り巡らしているものもあるし、鏡には特に気をつけなければならない。何気に置かれている鏡の裏に、実は侵入者を苦しめる呪言が刻まれている場合がある。それでなくとも、鏡は、鏡自身が備えている特性として、呪力を映し取ってしまう。蝶だと信じ込んでいた木の葉は、鏡に映った自分の姿を見て、木の葉だったことを思い出してしまうのだ。
ところで、使役目的で術者に言霊を吹き込まれ、疑似生命を宿された物質を式神や式鬼と呼称するようになるのは遥かな後世で、豊は単に札と呼んでいる。ちなみに、式神や式鬼として物質を使役するために用いる木片や紙片は、式札と呼ばれることになる。
札たちは健気に働く。彼らを無事に手元に帰してやるためには、豊は深く精神を集中させなければならない。一度に多くの札を操れるのは、それだけ高位の術者であるということだ。
この日、豊は、札たちに大日と入彦の殿舎の構造を調べさせた。札が通れない呪いが施されたところには、後で豊自身が行って、呼見し、呪言を解除なければならない。人を呪い殺すという蠱が仕掛けられていないことは幸いだった。もっとも、呪いで保護された扉を開けた途端、蠱が発動するという仕掛けもあるので、注意しなければならない。しかし、大日の人柄を見る限り、この邸にそのような陰険な呪いが施されているとは思えない。
放っていた札たちが一通り戻り、ほっと一息をついたその時に、豊のいる房から離れた房でも、入彦がより大きな息を落としていた。
入彦の溜息が豊に届いたわけではないが、何かを感受した彼女は、黒衣の裾を払って立ち上がった。
房を出ると、外光が眩しかった。夏へ向かおうとする日射しだ。
すれ違う家人も、女官も、家僮も、豊に奇異なものを見る目を投げかけてくる。実際、彼らには不思議だろう。この鄙びて草臥れた黒衣を着た少女は何者なのか。大日の指示で入彦の近くに仕えることになった事情を知る者は知っているが、出自が分からない豊に、露骨な侮蔑を投げつける者もいる。
豊の身分が分からない。服装は野人の夷つ女に思えるが、それがこの邸で二番目に貴い人物の側仕えをするという矛盾に、家人らは戸惑うのだ。
入彦が支給させた頒巾付きの彩衣を、豊が身にまとえば済む問題ではあった。何しろ素材は抜群なのだ。ところが、豊は下された頒巾付きの彩衣を、房に置かれたそのままにしてある。ちなみに頒巾とは、両肩に掛けて左右へ垂らす帯状の装身具である。
大日や入彦が人々を虐げているとは想像できないが、しかし、豊にとって、彩衣は、権力者が貧しい人々から搾り取った血と涙の象徴である。一枚の彩衣に、何人の悲哀が織り込まれていることか。それを思う豊は、彩衣には決して手を通さない。
豊が戸を開けた無彩の房には、黒ずんだ染みがあった。その染みをよく見ると、房の隅で膝を抱えている入彦だった。豊は、染みのとなりに静かに座った。
「大変なお役目を頂戴されたようですね」
豊はわざとつつくような言い方をした。抜け殻のような入彦が反応しやすいようにだ。
「豊も、聞いたのか」
「ええ。とても名誉なことですからね。邸中、その話題が飛び交っていますよ」
これは札たちが仕入れてきた情報だ。
「なにが名誉だ」
立ち上がった入彦は壁際に行き、たまりかねたように、この房の唯一の牖を覆う掛布を開いた。賑やかな陽光が差し込んだ。ちなみに、牖とは格子窓のことだ。
入彦の心の揺らぎが陽光で静められるのを見計らって、豊はこんな提案をした。
「当隠をいたしませんか」
振り向いた入彦の目が小さくなっていた。当隠とは、つまりなぞなぞのことだ。
「雲に乗ろうとして落っこちた子と、雲に乗れると嘘をついて逃げてしまった子。みんなに笑われたのはどっちだ」
簡単な問題だ。入彦には、豊が言いたいことがすぐに分かった。
「だが、私は落っこちるわけにはいかないのだ」
「…私には、あなたの気持ちが分かっていませんか」
豊の星屑のような瞳で見つめられた入彦は、顔を背けて牖の外を見た。不思議なことだが、降りしきる日の光よりも、二つの瞳が眩しいことがある。
「じつは私も分かっていない。本当の私を、私が分かっていないのだ」
入彦は笑った。乾いた笑い声だった。
「ただ、私には何もない。それだけはわかっている」
次の笑顔は寂しげだった。
「だからあなた様は、わたしを受入れてくださったのですね」
入彦は不思議そうな顔をした。今度は、豊の言いたいことが分からない。
「そこに何もないからこそ用をなす、と西の海の果ての賢者は言ったそうです」
甕は中が空洞だからこそ水を溜められる。建物は中に空間があるからこそ人が住める。何もない人だからこそ多くの人を受入れられる。入彦の、最初の内容物になったのは自分である。豊はそう自覚している。大日が望んだことは、まさにそのことだっただろう、と豊は信じた。
「実はわたしの他にも受入れてほしいものがあります」
ここからが豊の本題なのだ。
「なんだ」
と、促してしまった入彦は、豊を受入れたことを認めてしまったことになる。そして、これから聞く豊の要望も、きっと受入れることになろうのだろうという予感があった。
「この殿舎で狼藉を働き、土の牢で泣きべそをかいている男の子のことです」
実際のその子はまったく泣きべそをかいていなかったが、そこは豊の勝手な想像だ。
「その男の子の名は御統といいます。輪熊座の戯馬の演目の主演を任されている子です。まだ子どもですが、御術はすばらしく、馬と心を通い合わせることができるほどです」
御統の戯馬を実際に見たことはないが、共に夜を駆ける一吹きの野風になった経験のある豊には、御統の御術の高さは請け負えた。馬と心を通い合わせられるというのも本当だ。御統は、翠雨と兄弟のようにして暮らしている。
「…つまり、その御統とかいう俳優の子を、私の身代わりにせよということか」
黙って聞いていた入彦が、先回りして答えを出した。豊が、形の佳い顎を上下させた。入彦は鼻を鳴らした。
「無理だな。その俳優を見たことがあるが、背格好がまるで違う」
「馬合わせは素服でなされるのですか」
「そんなはずはない。刃を入れていないとはいえ、鏃が飛び交うのだぞ。騎手は皆、短甲と冑を着ける。だが、それを着込んだとして、わたしとその俳優とを区分けできない節穴ばかりが並んでいるわけではない」
「そこはわたしにおまかせを」
豊はにっこりと笑った。悪戯をするときの笑みだ。そういえば、そんな笑顔で父を困らせたこともあったか、と入彦は遠い日の記憶をふとよみがえらせた。
「わたしの幻術で、天地の精霊の目をも眩ましてご覧にいれましょう」
豊は自信満々に請けおったが、入彦のしおれた肩が上がることはなかった。馬合わせは、春日族の祖霊も照覧するのである。入彦としては、豊の提案は受入れがたい。
「では、堂々と出場されるほかはございませんね。存分に、雲から落っこちなされてみればよいのです」
豊は、わざと突き放した言い方をした。入彦のためには、本当はそっちの方がいいことは豊には分かっている。だがここは御統を救い出すため、意地悪女を演じなければならない。
入彦のふんぎりがつきそうにないと見極めたつもりの豊は、静かに腰を浮かした。もちろん、駆け引きだ。
「まて」
入彦は小気味よいくらい鮮やかに、豊の駆け引きに屈した。
「わかった。背に腹はかえられん。豊の作戦でいくとしよう」
真顔の入彦を、豊は優しい笑顔で受け止めた。入彦の大仰な言い方が少し可笑しかった。それだけ、入彦は逼迫しているということだ。
「では、御統を牢からお出しくださいますね」
入彦はうなづいた。
「馬合わせの後は、どうなりますか」
「あの俳優のことは、すべて豊の望むようにしよう」
やはり予感は的中した、と入彦は思った。豊に全面降伏した格好だが、なぜかほっとした。本心で頼ることのできる友人を得たという実感は、まだこのときの入彦には湧いていない。美しく、言辞や挙措に品格のある豊がもしも黒衣を着た野人でなければ妃に迎えてやることができるのに、と言い名付けの美茉姫が聞けば、首を三百六十度回される平手打ちを喰らうような感想を浮かべただけである。
夕刻になって、かくして御統は湿気の多い土の牢から解放された。牢番が格子を外したとき、御統は案の定まったく悪びれる様子もなく、腕を枕に昼寝をしていた。夢から引きもどされたことが、逆に迷惑げだった。
「本当に何も知らないのね、御統。あと何日かここでうたた寝しているうちに、あなたの首は飛ばされていたのよ」
背伸びする御統は呆れるほど長閑だ。
「急に背が縮んだんじゃ、みんなびっくりするだろうな」
「たくさん食べてまた大きくおなりって、首が飛ばされてどうやって食べるのよ」
寸言入れた豊は、のんきな御統の頬をつねった。
そういう問題じゃないよなと心の中でつぶやきつつ、呆れるやりとりを見せられた牢番は、
「ここから出たんなら、早く帰りやがれ」
と、両手を振って二人をおっぱらった。
さて、輪熊座に無事に帰った御統は喜びの声に迎えられた。面倒なやつが帰ってきたと嘆く声もなくはないが、歓声にかき消された。御統は涙目の鹿高に強く抱きしめられた後、輪熊の拳骨をくらって皆を沸かした。
御統が帰るべき団欒に迎え入れられたことを確認して、豊は切なげに微笑んでから、無言で立ち去ろうとした。
「あんたが一役買ってくれたのだろう。礼も言わせずに帰ってしまうのか」
豊を呼び止めたのは、靫翁だ。この初老の人物を見ると、豊は反射的に身体を固くしてしまう。あの破魔矢で動きを封じられるのは、もうごめんだ。
「…礼をもらう謂われはないわ。わたしは、わたしの都合でこうしたの」
「そうか。だが、あんたに黙って立ち去られると、御統はまた探しにいくぞ。なにしろ、甘えん坊なんでな」
「知ってる。でも、心配はご無用よ。わたしはこの大宮を立ち去るわけじゃないから。山門の御言持のご令息のご厄介になるだけ。あの子とは、しょっちゅう顔を合わせることになるでしょうね」
残念そうな顔を豊はしてみたが、靫翁の目にはあまり上手い演技には見えなかった。
「そういうことなら、なおさら輪熊座に残ったらどうだ。如虎も寂しがってるぞ」
「ご冗談。ああいうのは嫌いだわ」
豊は、横目でちらりと、ああいうのを見た。御統と輪熊座は温かい笑いに包まれている。
「あの如虎って子がお払い箱になったら、私にゆずってくれないかしら。あの子の黒い毛は私にぴったり。臆病なところはしつけないといけないけど」
豊の言葉の最後は、夕闇の青黒さの中に吸い込まれて、木霊のような空虚のように靫翁には聞こえた。
引き抜きをかけられた如虎だったが、彼がお払い箱になるのは当面、先になりそうだ。なぜなら、山門大宮で興業を始めた輪熊座で、如虎は人気を博しているからだ。
野で一夜を過ごせば大型四足獣に出会う機会に事欠かないほど、獣は我が物顔で世界を歩き回っているが、それでも大宮の人にとって黒豹は珍しかった。輪熊がいつか豊に言ったように、如虎は佳い声で吼えてくれる。調教師に縄で首根っこを引っ張られていながら、彼が一吼えすれば、最前列の観客は顔を青ざめさせるほど迫力がある。実際、如虎が野で人に出くわせば、顔を青くするのは彼の方だが、幸いなことに、観客は彼の臆病を知らない。
輪熊座には、他に虎も熊も山犬も猪もいるが、みな心は穏やかで、ただ芸はいっぱしだった。
輪熊座の大宮での興業は成功といっていい。連日、多くの観客が詰めかけ、所狭しと並んでは、笑い声を挙げたり、喝采を送ったりしている。輪熊座が催場を設ける許可を得た広場の一等地には、いつのまにか貴人専用の台が築かれるほどだった。
滑稽芸や鏡を使った魔術、幻術の類いは、さすがに大宮の観客の目が肥えているためほどほどの盛り上がりだったが、獣回しや軽業になると観客は多いに盛り上がった。木の実や干し肉などは堆く積まれてたちまち山になったし、宝貝という大宮でも流通し始めたばかりの通貨もたちまち甕を満たした。
絶大な人気を博したのは御統だ。宙返りや綱渡りなどは序の口で、壁を背にした御統に、弓矢を構えた座員が次々に矢を射かけ、それをすべて軽々とかわす演目では女性は悲鳴を上げ、男性は興奮し、会場が響めいた。
御統が戯馬を披露するときには、観衆はもう恍惚状態だ。相棒の翠雨の背に打ち乗り、風のように疾走する翠雨の背で宙返りし、目隠しして障害物を乗り越え、鏡を構えた座員が空高く幻出させた炎の輪を、そのまま天空に飛び去るような勢いで飛びくぐる。
庶民も貴人も畏き辺りも、一日のうちに幾たび輪熊座の話題を持ち出すか数え切れないほどの盛況ぶりだったが、興業を重ねるにつれ、御統の身体に生傷が増えていることに気づいた観客が何人いただろうか。
輪熊と靫翁は気づいていたが、彼らはそろって何も言わなかった。鹿高は気を揉んでいたが、輪熊に抑えられていた。業に影響のないかぎり、こちらから声をかけるものではない。御統は、もう十二歳だ。大人に黙って何かに打ち込んでも良い年頃だ。
御統の生傷は軽業や戯馬でできたものではない。
その日の興業が終わり、座員がみな寝静まると、御統はこっそり寝床を出た。
この頃の輪熊座は大日の殿舎を出て、催場として許可された広場に幕舎を張っていた。
御統は人知れず大宮の外れに行き、そこで待ち合わせするのだ。輪熊座の調教師に油断のあるときは、こっそりと如虎も連れていく。
やがて待ち合わせ場所に現れるのは、入彦と豊だ。如虎を連れているときは、この黒豹は、豊の足音もまだ聞こえないときから駆けだしていく。匂いでわかるらしい。確かに豊は、佳い香りがする。
三人は特訓するのだ。馳射の特訓だ。とはいえ、特訓するのは、御統一人である。何しろ御統は、馳射など見たことも聞いたこともなかった。弓矢を持ったこともないのだ。
まずは弓の基本を入彦から叩き込まれた。入彦は、自分はそうされるのが嫌いなくせに、指導が厳しかった。最初は野人の子と見下していたこともあったが、そのうち、そんなことは関係なく、懸命に教えるようになった。入彦自身は気づいていないが、素人だった御統が夜を重ねるにつれ上手くなっていくのを見るのが楽しかったからだ。
弓にある程度の目星が付くと、騎射の練習に移った。
馬上での射撃は、軽業と戯馬に馴れた御統にも難しかった。何しろ重い甲冑を身にまとうのだ。しかも旗頭ともなれば、御旗を背負わなければならない。均衡を失えば、たちまち落馬した。もちろん本物の御旗を持ち出すわけにはいかないので、特訓には豊があり合わせの材料で作った旗を背負った。
しかし、御統は入彦に成り代わって馳射に出場するのだから、どうしても騎射を習得しなければならなかった。
御統がわがままを言い、入彦が用意した馬に替えて翠雨に乗るようになってからは格段に上達した。
騎射でも、入彦は、自分は実践できないくせに、理屈や理論だけを並べ立てて、御統を弱らせた。だが、その理屈やら理論やらは、だいたいにおいて正しかった。
騎射にも目星がつくと、豊は札に言霊を吹き込んで、敵の騎手を幻出させた。
望月の神祝ぎの馬合わせまで二十日ほどしかなかったが、入彦は、さてもわがままな御統を、それなりの騎手として育て上げた。彼は、もしも輪熊座の一員であったとすれば、腕の良い調教師になれたかもしれない。
さて、望月の夜はいよいよ明日となった。
この頃には御統と豊と入彦は、少し欠けた月光の黄金色の輪の下で、戯れ言を言い合ったり、笑い合ったりするようになっていた。
俳優の少年と黒衣の少女、そして山門の御言持の公子。心に孤独を抱いていた三人が、神祝ぎの馬合わせを機に友情を育んでゆく。