これから先のこと
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部屋に入るなり私は寝室へと向かい、寝室でスーツから部屋着に着替えると再びリビングへと戻って来た。
「…私これから夕飯作るけど、いる?」
何度かはこの部屋に入ったことのある湊はなんの遠慮もなくソファーで寛いでいた。
湊がいつからアパート前にいたのかはわからないけれど
大学が終わってからはかなりの時間は経っていたはず。
「いる!!美和ちゃんの久しぶりの手料理♪」
「夕飯食べてないの?」
「友達と食べに行ったけど、結構時間経ってるからお腹空いちゃった!」
「…あっそ。まあこんな時間だから大したものは作れないけど、待ってて!」
「うん♪待ってる!」
湊の返事を聞いてすぐに私は調理に取り掛かった。
***
――数分後。
私はお皿に盛り付けた料理を両手に持って湊のいるソファーの側にあるテーブルの上に置いた。
「はい、おまたせ!」
「あーー!美和ちゃんのオムライス久しぶりだー!」
そう、今晩は1人の時だと滅多に作ることのないオムライス。
湊は昔から私の作るオムライスが大好物で…湊とご飯を一緒にする時は大抵オムライスだった。
まあ湊はあんまり好き嫌いがないから…
たぶん私が何を作っても食べてくれるんだけどね。
「そんなに久しぶりだっけ?私のオムライス。」
「久しぶりだよー?だって美和ちゃん3ヶ月くらい実家帰ってきてないでしょ?最後に美和ちゃんのオムライス食べたのも3ヶ月前だったし。」
「そうだっけ?てかよくそんなこと覚えてるね…。」
「覚えてるよ。美和ちゃんとの思い出は全部覚えてる!」
「…あっそ。」
「いただきまーす!」
湊はそう挨拶をするとオムライスを食べ始めた。
「…うーーん!やっぱり美和ちゃんのオムライスが1番美味しい!」
なんて言いながら幸せそうにオムライスを食べていた。
私もそんな湊を見ながらスプーンを手にとりオムライスを食べ進めた。
***
「………はあ~~美味しかった!」
そう言って湊は再びソファーの背もたれに背中を預けて寛ぎ始めた。
私も湊が食べ終わって数分後に食べ終わり、コップに注いだお茶を一口喉に流し込んでから口を開いた。
「……で、これからどうすんの?」
とりあえず今晩は泊めてあげるにしても、これから湊がどうしたいのかを聞いておかなきゃと思いそう湊に尋ねた。
「……いつまでか俺にもわかんないから日程をはっきりとは決められない。それに自分がどんな仕事に就きたいかも正直決まってない。親父には自分がどんな仕事に就きたいかを決めてからまた話しに行こうって思ってる。だからそれまでは俺、美和ちゃんところにいたい。…美和ちゃんダメかな?」
湊はまた目を潤ますかのような表情で私を見据えた。
だけど、正直驚いた。
湊が父親と喧嘩をして家出してきたとはいえ
ちゃんとこの先どうしたいかまで決めて私のところまで訪ねてき来たことに。
「……わかった。そこまで決めてんなら暫くはここに居ていいよ。」
「え?いいの?」
「うん。但し就職決まるまでだからね?
「うん、ありがとうー!!美和ちゃん大好きー!!」
湊はそう言って今晩3度目の抱擁をしてきた。
慣れてるとはいえ、さすがに1日何回もされるのは正直鬱陶しい。
「あーーもう!イチイチ抱きつくなー!!」
「えーー?!美和ちゃんのケチッ!
「ケチじゃない!少しは控えなさいよこの抱擁癖。」
「無理ー!!俺、美和ちゃんに抱きつかないと生きていけない!」
「…大袈裟な。…もし彼女いたら抱きついてこないんでしょ?」
「まあそれはそうだけど。でも、俺、暫くは彼女いらないから。」
「……あっそ。」
別に私はツンデレとか言うわけではない。
ただ、湊のスキンシップが激しいせいかいつの間にか冷たく遇うようになっただけ。
それにこうして冷たく遇うのも湊にだけ。
湊とは昔からこんな感じでずっと一緒にいた。
そういえば、湊が私に抱擁してこ来ない時なんて…
今まで一度もない気がする。
湊には毎日会ってるわけじゃないから私と会ってない間のことはわからないけれど、湊の口振りからして彼女がいた時期もあったってことになる。
私が独り暮らしを始めたのは実家から今の就職先が少し遠かったから。
だから私が独り暮らしを始めてからは湊に会う機会も少なくなった。
まあ湊にいつ彼女がいて…。
とか考えても私には関係ないことなんだけどね。
私はそんなことを考えながら、時計を見ると時刻は……。
日付が変わる少し前だった。
「…湊、お風呂入るなら入ってきていいよ。それと、あんたの寝室は私の寝室の隣の部屋ね。布団は後で用意しておくから。」
「うん、わかった。何から何までありがとうね!美和ちゃん。」
湊はそう言ってソファーから立ち上がるとお風呂場へと向かって行った。
私は湊がお風呂に入ってる間に湊が寝室として使う部屋に布団を置きに行き、夕食後の食器洗い等を済ませた。
―――これから湊が暫くこの部屋にいるわけだから……
私の "独り"
という至福の空間が壊れてしまったことにほんの少し悲しくなった。
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