本当の理由
「………やっぱり美和ちゃんには敵わないや!」
湊はそう言うと深く嘆息してから観念したように言葉を紡いだ。
「……家、出て来た……。」
「…は?」
湊から発せられた言葉に理解できなくて…。
私はつい間抜けな声を上げてしまった。
「……喧嘩した。親父と。」
「なんで?」
またもや発せられた湊の言葉に私は疑問の言葉しか出てこない。
「……就職のことで……。色々言われて……さ。」
「……は?それだけで?家出して来たの?」
「…うん。」
湊からの言葉にはもはや呆れしか芽生えて来なかった。
──湊の実家はそんなに "お金持ち!" というわけではないけれど、父親はIT企業に務めいているからか普通よりは少し頭の堅い人間ではある。
──だからって……就職で揉めて家出って……。
子供のすることじゃないの!!
私は口には出していないけれど
思わず心の中でそう叫んでしまった。
「……で、私にどうしろと?」
「美和ちゃん、暫く泊まらせて!」
「…は?」
「ねえ?お願い!美和ちゃん!」
「嫌よ!絶対に!」
そんな湊のお願いには賛同できず、拒否を決めこむも
湊は目を潤ますように私にお願いして来る。
昔から湊にはこんな風に甘えられて来た。
それが嫌ではなかったから昔は甘えられても拒否なんてしたことはなかった。
だけど、今回ばかりはそうもいかない。
「俺、美和ちゃんしか頼る人いないのに…。」
「…大学の友達のところ行けばいいでしょ?!」
「……友達は……彼女いるし行けないもん!」
「……じゃあ、あんたも彼女のところ行けば?」
湊だってもう子供じゃないんだから彼女の1人や2人いるだろうと思い、発した一言だった。
「いないよ。彼女なんて…。そもそも彼女いたら美和ちゃんのところに来ないし美和ちゃんに抱きついたりしない。」
「……あっそ。」
「だから美和ちゃんお願い!暫く俺を美和ちゃんのところに置いてください!」
私が冷たく返事をしたのには気にも止めず
湊にはまたそうお願いされてしまった。
しかも、頭まで下げて……。
「…………あ~~~もうわかったから頭上げて!」
「え?じゃあ美和ちゃん!」
「……とりあえずよ。もう今晩は遅いし泊まらせてあげるわよ。後のことはこれから考えるから!」
「やったーー!!美和ちゃんありがとうー!!」
湊はそう歓喜の声を上げながら再度私に抱きついて来た。
「ちょっと、わかったから離しなさいよ!」
「えーー?!美和ちゃんのケチ!」
「いいから来なさい!」
「はーーい♪」
私は湊を連れてロビーに入り、ロビーのすぐ側にある画面で
門扉を解錠してから自分が借りている部屋までをエレベーターで上がった。
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