年下幼馴染み
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―――その日も次の新商品のための企画で残業をしてから定時より2時間程遅く退社をして…。
真っ直ぐに独り暮らしをしているアパートまでの道程を進んだ。
会社の最寄り駅からアパートのある最寄り駅は2駅で
その最寄り駅からアパートまでは徒歩10分。
慣れた道程を進み、その日は寄り道もせずアパートへと向かった。
◆◆◆◆
アパートのロビー前に着き、いつものように
ロビーの中へ入ろうとした瞬間のことだった。
後方からバタバタと忙しない足音が聞こえたと思った時にはそれは……
私のロビーに入る歩を阻むかのように伸びてきた手に引き寄せられそのまま抱きしめられてしまった。
突然の出来事に私は動揺して…。
声を上げそうになるが、すぐにその後方から
抱擁してきた人物の声に驚愕した。
「美和ちゃん!」
呼ばれるはもちろん私の名前──。
声の主は男だけど、聞き慣れたその声に吃驚した。
──だけど、何故……ここにいるはずのない彼がいるのか。
何故、こんな夜遅くにここにいるのか。
驚愕しながらそう疑問だらけの言葉は浮かんだものの…
やっとの思いで口から出た言葉は彼の名前だけだった。
「…湊?」
「美和ちゃん、会いたかったー!!」
私が彼の名前を呼ぶとそう言いながら再度ぎゅうと抱きついて来るのは…
やはり私のよく知る人物に違いなかった。
「…ちょっ、湊!わかったからいい加減離してっ!」
私はそう言いながら彼の手を離して後方を振り返り彼と向かい合ったカタチをとる。
「なんでー?!久しぶりに美和ちゃんに会えたのにーー!」
そんな嘆きの言葉を発しながら
拗ねたような表情をする彼は──。
香月 湊 21歳。大学生。
私の6歳年下の幼馴染みである。
「…そんなことより!……なんでここにいるの?」
湊が私の姿を見て抱擁して来るのは昔からだから慣れてはいる。
でも、湊は未だに実家暮らしで都内だとはいえ
こんな夜遅くに私のアパートにいる理由がわからない。
「…なんでって………。美和ちゃんに会いたかったからに決まってるでしょ?!」
だけど、湊から発せられた言葉はそんな内容だった。
「……こんな夜遅くに?それだけのために?」
「そうだよ。美和ちゃん全然こっちに来てくれないから俺が来ちゃった!」
確かに仕事が忙しくて実家にはなかなか帰れてなかったけど…
だからといって、湊が私に会いに来る理由にはならない。
湊は幼馴染みで彼氏というわけでもないのに。
「……理由、それだけじゃないでしょ?」
「………。」
私がそう尋ねると、湊は突如黙り込んでしまった。
湊が黙り込む時はそれが肯定だから。
つまりは私に会いに来ただけが理由じゃないってことになる。
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