9話「本題」
岡部正綱は岡部元信の兄とされることもありますが、元信の方が年上と言う説があったり父親は違う可能性が高かったりと、本当のところ良く分からないようです。
だから勝手に元信の甥という事にしてしまいました。
だって頑固で怖い叔父さんと現代っ子でイケメンの甥っこっていう設定が気にいったんです(テヘ
こういう好き勝手が出来るのが今川のいいとこだよねー(オイ
2016/10/22:日間歴史〔文芸〕ランキングで1位を頂きました。正直ビックリしすぎて言葉もありません。有り難うございます。歴史的事実とは色々違うところもありますし、言葉遣いも正直適当です。ストーリーもこれからどんどんハチャメチャになりますがどうかご容赦ください。頑張って書きます。
「実は、織田よりももっと気になっていることがある」
俺の言葉に二人が怪訝そうな表情を浮かべる。
「戦相手である織田よりも気になさっておられることとは、どのような」
岡部正綱の言葉に蒲原徳兼も無言で首を傾げる。
「それは――松平元康だ」
「元康殿が、どうかされましたか」
「松平がこれを機に今川から独立しようとするんじゃないかと思うんだ」
思う、って言うか実際そうなることはほぼ確実なんだがそうは言えないのが辛いところ。
「まさか、元康殿に限ってあり得ますまい」
正綱がすぐさま否定する。そう思うのも分かるけど、これは歴史的事実なんだよねえ。
「ほう、なんでそう思う?」
「実はそれがし、元康殿とはかねてより昵懇の間柄でございまする。元康殿の為人から考えまするに」
性格から考えてあり得ない、か。まあいいや。マサッチは家康、じゃなくて元康とは学友で仲がいいのか。知らなかったよ。元康について色々知りたかったから丁度いい。
「では正綱、元康について知っていることを教えてくれ」
「……なるほど、かなり真面目な男なんだな」
どこかの蹴鞠ばっかりしてる放蕩息子とはえらい違いだって事だな。フン、優等生め。
「はい、幼い頃より苦労している為か、年に似合わぬ落ち着きがありまする。ただ……」
「ただ、何だ?」
「ただ、思い詰めますと時折驚く程大胆な行動を取る時がござる。それこそ無謀とも言えるような」
なるほどねえ。そういや三方ヶ原で信玄に向かって行ってアレを漏らした時も如何にもヤケクソって感じだもんな。これは結構重要な情報かもしれない。
「あとそう言えば、元康殿が以前『大人どもがお家復興を五月蠅く言うので困る。いつかは大功を立てて大殿に三河の地をお返し頂けるよう励まねば』といっておりました」
「大人どもというのは松平の旧臣たちか?」
たしか徳川十六神将と呼ばれた有能な家臣のほとんどが、家康が織田の人質だったり今川の客将だっりした時代から仕えていたはずだ。ズルいよな、今川に何人か寄越せ。
「左様にございます。酒井、鳥居といった松平恩顧の者はみな強くお家復興を望んでおるとか」
「となるとその声に押されて、という可能性は?」
「三河の者は強情故、それに押し切られると考えればあるいは……」
マサッチは顎に手を当てて考え込んだ。
「独立を考える可能性はあるか」
「無いとは申せないやもしれませぬ」
ノリくんも頷いている。間違いなくそうなるよ。
「そうか、他に元康について何かないか?」
「そうですね、特には……」
「――瀬名様が」
「の、徳兼、その事は今は関係あるまい」
ノリくんがポツリと言った瞬間、マサッチが慌ててノリくんを睨む。瀬名って元康の奥さんの築山殿の名前じゃなかったか?
「正綱、瀬名様とはなんのことだ?」
「あ、その、元康殿は当家の重臣関口親永殿のご息女で大殿の姪御に当たられる瀬名様を正室に迎え、昨年嫡男竹千代殿も生まれておるのですが……」
瀬名って氏真の従妹に当たるのか。それにしても元康は十八歳でもうパパなんだ、大変だなあ。その竹千代が後の松平信康になる訳だな。
「それがどうかしたのか?」
「いや、あの、実は元康殿にはかねてより愚痴を聞かされておりまして」
「ほう、どんな愚痴だ?」
「瀬名様はそれはもう気位が高く、ことあるごとに『妾は治部大輔様の血筋じゃ、誰のお陰で松平は今川の一門衆じゃと大きな顔をしていられるのじゃ』と言われているそうです」
「わはは、それは元康も大変だな」
「はい、それで元康殿は瀬名様の居られる屋敷には戻りたくないと言って、毎夜毎夜事あるごとにそれがしの家に酒を飲みに来られまして」
かなり迷惑を被ってるんだろう、表情が渋い。だが今からもう夫婦仲がそれだけ悪いとなると、歴史上の『信康自刃事件』は実は信長に押し付けられたのではなく、家康側の意図で行われたって言う説に真実味が出てくる。なんだか面白くなってきた。オラ、ワクワクしてきたぞ。
「そこで酔うと必ず『どうせ大殿の血筋の室を頂くなら他の女が良かった、昔から惚れていた方がいたのに』と言うのです。その惚れた方というのが、その、あの――」
マサッチがなんだか妙に話にくそうにしている。
「なんだ? 遠慮せず言ってみろ」
「申し上げるのもはばかることながら、元康殿が長年想っていたのが殿の末の妹御に当たられます環姫様なのだそうで」
そこまで言うと申し訳なさそうにマサッチは頭を下げた。知らなかった、氏真って武田義信の奥さん以外にまだ妹が居たんだ。どんな子なんだろう。でも元康がその子にぞっこんだとしたらこれは使えるかもしれん。メモメモ。
「なるほど、なかなか興味深い。ところで今、岡崎城には誰がいる?」
「たしか山田景隆様が城代としておられるかと」
そいつが桶狭間の後、城を捨てて逃げたんだな。そこへ元康が入るわけだ。こいつは使えない奴決定。
「他に三河でめぼしい将と言えば誰だ?」
「それなら吉田城の城代である小原肥前守鎮実様でしょうか。東三河の要所である吉田城を任せられたお方です」
ほう、聞いた事がないな。
「それはどんな奴だ?」
「それが……よく分かりませぬ。家中でも不思議な人物だと言われております」
んん?何だそれ?
「不思議ってどういうことだ?」
「それがその、余り人前にはお出にならず、とにかくよく分からぬ御仁なのです」
マサッチが言葉に詰まる。なんの事だかさっぱり分からん。するとノリくんが横から助け船を出した。
「――素破を」
「さ、さよう、素破を使うと専らの噂でございます。大殿の内密の命を受けて動く事もしばしばとか」
素破って、忍者を使うってことか? 確かに妙な人物のようだがめっちゃ興味がある。ぜひ会ってみたいもんだな。覚えておこう。
また20時ごろ投稿します!
プレッシャー掛かると逃げ出したくなる悪い癖が……逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ