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63話「裏の裏」

なんとか書けましたが、ちょっと限界です


「良いか、声を上げるな、音を立てるな。八城山を囲む朝比奈泰朝の背後を突き、一気に攻め切る。泰朝は若いながら優れた将、不意を突くとはいえゆめゆめ油断することないようにな」


 飯尾連竜は周囲の家臣たちに言い聞かせる。朝比奈泰朝を一撃で撃破し、ただちに踵を返して曳馬の城に戻らねば留守を預かる田鶴が危ない。その為にも絶対に事前に気取られる訳にはいかないのだ。


「殿、間もなく八城山でございまする」


 家臣の報告を聞いた連竜は頷き、全軍停止の指示を出す。突撃の陣立てを整え、一気に攻めかかる為である。騎馬を先頭に兵たちが準備をしていくのを厳しいまなざしで眺めていた。




 ――朝比奈泰朝軍、陣中


「そろそろ飯尾の兵が襲って来よう。間違いなく方角は我らの背後から、先陣は騎馬の筈じゃ。大切なのはその勢いをまともに喰らわず、受け流すことだぞ。背後から襲われたとしても慌てるな。かねて打ち合わせの通り兵を左右に分け、柔らかく包み込め。すぐに援軍が来る、そうすれば逆に敵が挟み撃ちだ。それまで耐えればよいだけの事」


 八城山を囲む朝比奈泰朝は軍議の場に居た。すでに曳馬城から飯尾連竜率いる兵がこちらに向かったとの報告は受けている。その後ろから新野親矩の軍がさらに追ってきている。


 ――我らの背を衝こうという敵を逆に罠に嵌める。氏真様も悪辣な策をお立てになる。


 この策を語る時の氏真の顔を泰朝は思い出していた。主君である氏真と泰朝は同じ年で、幼い頃より傍に仕え黒衣の宰相と呼ばれた大原雪斎の元でともに学んだこともある仲である。


 ――その俺にしても氏真様にこのような面があるとは知らなんだ。


 桶狭間で義元が討たれてから、氏真は変わったと思う。以前のような気の弱さが感じられず、妙に楽天的な感じがする。しかもこのような策を立てるなど、以前では考えられない。


 ――この策が当たり謀反を鎮めることが出来れば、氏真様に刃向う者も居らぬようになるだろう。


 氏真を護ってやりたい、その思いを強く持ち続けてきた泰朝は、ここが正念場と気合を入れなおした。





 ――八城山城内


「わはは、見よ。ぞろぞろと集まって来ておるわ」


「殿、危のうございます。流れ矢にでも当たられては大事、お降り下さいませ」


 物見やぐらの上から城を囲む軍勢を見て笑う天野影信は、必死に説得しようとする家臣を笑い飛ばした。


「そちも心配性だのう、ここまで矢を飛ばすような強者は氏真の家臣にはおらぬわ。それよりここであれば奴らが不意を突かれて逃げ惑う姿がよう見えよう。そちはここでしっかり見ておれ。ワハハ」


 そう言うと影信はやぐらを降り、家臣たちに激を飛ばす。


「間もなく奴らの背後から連竜の兵が来る。それと同時に門を開き、うって出るぞ。それまで奴らの目を引きつけるため、ひたすらに矢を射掛けよっ」


 影信の命令の元、八城山を守る兵たちが一斉に矢を射かける。いよいよその時は迫っていた。





「よし、これより朝比奈泰朝の軍に掛かる。皆、脇目もふらず一気呵成に駆け抜けよ。狙うは泰朝の首じゃ。我らと共に城より兵が出て挟み撃ちにする。決して泰朝を討ち漏らすなっ」


「うおおぉぉおっ、行けっ、行けぇぇぇぇっ」


 飯尾連竜の采配が打ち振られ、同時に全軍が突撃を開始した。





「よし、敵は策にはまった。儂らはこれより飯尾連竜を討つ。その後はそのまま八城山攻略に加わるぞ。なあに気構える事はない、負ける道理のない戦じゃ。各々自らの成すべきことを成せばよい。では参ろうか」


「ははっ」


 飯尾連竜の軍が突撃を開始したという報告を受け、新野親矩の軍も動き出す。





「敵襲、敵襲っ」


「よし、手筈通り迎え撃てっ」


 背後からの突撃を知らせる声に、朝比奈泰朝は落ち着いて命令を下した。それと共に歩兵を中心とした軍の約半数が後ろを向く。弓隊のほとんどは城門に向かって矢をつがえた。





「うをおぉ、突き進めええっ――」


 連竜の軍の先陣を切った騎馬隊を率いる家臣は、朝比奈軍に突撃しながら違和感を覚えた。


 ――何故だ、不意を突かれた割に慌てふためく様子が無い。しかも手応えが無さすぎる。


 予期せず背後を突かれたのであれば、雑兵達は大混乱に陥るはずだ。それが何故か落ち着いているように感じる。しかもその癖手応えが無い。全く反撃が無いのだ。迎え撃つでもなく、慌てふためくでもなく、ただ避けられている。まるで真綿の塊を槍で突くかのようなあやふやな手応えに不安が募る。


 ――しまった、読まれていたかっ。しかもこれでは敵陣中に孤立するぞっ。


 足の速い騎馬が反撃のないまま突っ走れば、当然後ろの足軽たちとの間に空白が生じる。そこを埋められては孤立してしまう。敵陣の中で囲まれては騎馬の最大の武器である機動性も殺されてしまう。


「止まれぇッ、敵に読まれておる、先走るなっ」





「おのれ、動きを読まれておったか」


 その後ろから足軽たちを率いて突撃していた連竜は、騎馬隊が柔らかく受け止められるのを見た瞬間に理解した。何故だかわからないが、自分たちの奇襲は読まれていたのである。一体誰が漏らしたというのか。


「いや、例え策が漏れておっても我らが敵を挟撃している事に変わりはない。だが――」


 もしこの策を読まれたのが今ではなく、あらかじめ準備されていたとしたら。その事に思い当たると連竜は慄然とした。もしそれが自分なら、背後を突く軍をさらに罠にかける――。そう考えて後ろを振り返った瞬間、見張りの兵の叫び声と共に砂埃が立つのが見えた。


「背後より敵襲、今川の軍ですっ」

多分明日からしばらくお休みをいただきます。

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