表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/64

59話「龍潭寺」

いよいよ「あの人」の登場です。


 俺を女好き認定しやがった珍念坊主にはムカつくけど、とりあえずこいつを説得しなきゃ話にならない。


「おいおい、ちょっと待ってくれよ。俺がそんなことする訳ないだろ。何しろ――」 


「きゃっ」


 俺は佐奈ちゃんの手を握って自分の方に引き寄せた。佐奈ちゃんは驚いて俺の胸に倒れ込む。ごめんよ、これも芝居の為だ。ヘタレな俺もこういうシチュなら大胆なことも出来る。って誰がヘタレだよっ!


「――俺にはこの佐奈という大事な許嫁いいなずけがいるんだからな。その眼の前で尼さんに手を出すわけないじゃないか。なあそうだろ、佐奈?」


 俺の言葉に佐奈ちゃんは顔を真っ赤にしながら頷いてくれた。ムフフ、役得役得。


「なるほど。では何故なにゆえに次郎法師様に会いたいと仰るので」


「いや、そりゃ珍念さんが悪い。そこまで綺麗だ、今菩薩だとまで言われたら一目拝んでみたいと思うのが普通だろうが。しかもそのお寺は井伊谷の手前にあるんだろ? だったら俺たちは井伊谷に向かってるから丁度いい。なあ、この手代たちにも不埒な真似はしないようによく言って聞かせるから頼むよ」


 俺がそう言ってまさこと岡部正綱、ただこと庵原忠縁の二人の顔を見ると、一瞬の間の後マサッチが不満そうに反論してきた。


「なにをおっしゃいます。拙……手前どもは元より不埒な真似など致しませぬっ」


 そんなに必死になって否定しなくても。ウププ。


「こいつら武家の出なもんで言葉遣いがおかしいんだよ。気にしないでくれ」


「まあお付きの方々は真面目そうな方々ですし、あなた様も許嫁がご一緒ならば大丈夫でしょう。井伊谷へ行かれるならば寺で泊まられると良いでしょう。どうぞお越しください」


 あくまで俺だけ疑うのかよ。珍念坊主はムカつくが、ここは機嫌を取っておかなきゃ仕方がない。


「良かったな、佐奈。偶然にもこんな出来たお坊さんと知り合えて」


「はい、若旦那様。これもひとえに御仏のお導きです」


 佐奈ちゃんが上手く合わせてくれた。褒められた珍念はまんざらでもなさそうだ。


「いやいや、御仏に仕える身として人のお役に立つのは当たり前というもの。ほれ、船が着きますぞ。揺れますからお気を付け下され」




 船を降り、いよいよ遠江に入る。珍念の奴はしょっちゅうこの辺りを行き来しているようで、おかげで顔が広くて助かる。途中、何か所かで関所を通ったが特に怪しまれることもなく通ることが出来た。ただその度に銭を払わなきゃならんのがウザい。これじゃ流通の妨げになる訳だ。やっぱり関所は廃止しないとな、うん。

 

 元の世界の浜松に当たる曳馬城の手前で東海道を外れて北に折れる。曳馬城の飯尾連竜には謀反の疑いがあるから近づくのはまずい。その手前には謀反に備えて新野親矩も布陣しているはずだ。こっちに見つかるわけにもいかないからな。


 あちらこちらの道を武装した兵や侍たちが行き来して騒がしい。いかにも戦が近いという雰囲気だ。珍念のお陰でなんとか怪しまれずに進むことが出来ているのはラッキーだ。行きかう民の中には荷物をまとめて逃げ出したらしい姿も見える。戦争で一番被害にあうのはきっとこういう人たちなんだろうな。


 浜名湖の北東に流れる井伊谷川に沿ってさかのぼる。途中で川が二股になったところを左に折れ、更にしばらく歩くとようやく目的の寺に着いた。辺りはすっかり日も陰って暗くなってきていた。


「ささ、ここが龍潭寺にございます。まずは住職に皆さんの事を話して参りますので、草鞋を脱いでおくつろぎ下さい」


 珍念はそう言って中に入って行った。その言葉に甘えさせてもらう事にして旅装を解く。ふう、くたびれたよ。しかしなかなか風情のあるいい寺じゃないか。






「これはこれは。皆さま良く参られましたのう。腹も空いておいででしょう、ささやかながら夕餉など馳走いたしましょう。どうぞこちらへ」


 奥から白髭の坊さんが出てきた。これが住職らしい。散々歩いてめちゃめちゃ腹が減ってたから晩御飯は有り難い。奥の間に通されると――そこに居たよ!


「いらっしゃいませ。龍潭寺へようこそ」


 夕飯の為の膳を並べた部屋で俺たちを迎えてくれたのは、美しくも凛々しい尼さんだった。はっきりとした目鼻立ち、意志の強そうな唇、それでいて清楚さを失わない尼僧姿。間違いない、これが今菩薩と称えられるとう次郎法師――後の井伊直虎だ。


「あ、お世話になります。次郎法師様ですね?」


「確かに私は次郎法師ですが、なぜそれを」


「いや、大井川の渡し船で知り合った珍念さんからお噂を聞いていましたので」


「まあ、珍念ったらどんな噂をしたのやら。あとでお説教してあげないと」


 そう言うと直虎――次郎法師はコロコロと笑った。うーん、笑い顔も美人だ。こりゃ珍念坊主が自慢するのも分かるってものだ。


 その後俺たちは有り難く晩御飯をご馳走になった。用意してもらった部屋に入り、これからどう話をしたもんだろうかと悩んでいると佐奈ちゃんがやってきた。


「若さま、正成様がご報告に参っております――」

まだ大河見てないんですよねえ。

見たいけど影響されちゃうのもなあ、って感じだし。

どうしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ