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53話「密告」


「殿、夜分に失礼いたしまする」


 昼間のトレーニングを終え、夕食後に俺が自室で早川殿おくさんに耳かきをしてもらっていると襖の外から声がした。いやー、膝枕で耳かきしてもらうって気持ちいいもんだねえ。暑さも和らいで秋の夜風が心地いいし。


「忠縁か。いいぞ、入れ」


 残念だけど耳かきは中止して、起き上がって姿勢を正して庵原弟を部屋に入れる。君主たるもの威厳は大事だからな。軽く見られるとまた変なこと考える奴が出てこないとも限らない。いやー、戦国大名って大変だったんだなあ。


「失礼仕りまする」


 扉を開けて入ってきた庵原忠縁おとうとは膝をついて頭を下げる。


「そんなに畏まらなくていい。それでどうしたんだ? こんな夜に珍しい」


「ははっ、遠江井伊谷いいのや城のつけ家老、小野道好殿より急ぎの使いが参りました。何やら密書を持参とのことで殿に直にお渡ししたいと」


 またなんだかきな臭い感じの話だな。


「わかった、会おう。正俊と信置に謁見の間に来るよう伝えてくれ」


「かしこまりました」




「井伊谷城からの使いだと言ったな」


「ははっ、家老小野道好からの書状にございますっ。殿にお渡しせよと命ぜられて参りましたっ」


 俺の前で平伏した使者が書状を差し出す。それを三浦正俊が受け取り、俺に手渡す。どれどれ。


「なになに……城主の井伊直親いいなおちかと家老の今村正実いまむらまさみに謀反の疑いがある、と」


「な、なんとっ」


 俺が呟いた言葉に正俊オッチャンが反応する。


「まだ続きがある。直親は天野影信、飯尾連竜、小笠原氏興ら城主をそそのかし、先に謀反を起こさせる。それらを征伐に行った今川勢の背後から直親が突如兵を挙げて不意を衝くつもりだ、ってことだ」


「なるほど、それはなかなか上手い手ですな」


「信置、感心している場合ではないっ。これが真ならば一大事、小野道好はよくぞ知らせてくれたものよ」


 朝比奈信置イヤミが感心したような声を出したことにオッチャンが激高する。こらこら興奮しない。


「確かにこれは一大事だ。しかもこの夜更けにわざわざ来た、ってことはあまり時間が無いという事か?」


「左様にございます。明日にも起こるやもしれぬと」


「分かった、ご苦労だった。今夜はここで休み、明日井伊谷へ帰るがいい」


 使者は頭を下げて出て行った。





 井伊谷城の井伊直親が謀反。これはきっと井伊直虎関係のイベントに違いない。さすがの俺でもピンときた。ただ問題はその詳細を俺が全く知らない、憶えてないってことだ。何とかボンヤリ覚えてるのは、井伊直虎の元婚約者か恋人か何だかが死んで、跡取りがいなくなったから仕方なく出家していた直虎が還俗して井伊家の後を継いだ、ってことぐらいだ。でも桶狭間の後にはそんなイベントは起きなかったから、きっとこれがそうだろう。あとはその元婚約者が残した子供が成長して井伊直政になったんだったと思う。井伊直政は何としても欲しいよなあ。まだ子供か赤ん坊なんだろうけど、成長したらスーパーチート武将になるのは分かってるんだし。その為にもこのイベントの選択肢は間違えないようにしないと。


「殿、何を悩んでおられます。すぐにでも手を打たねば大変な事になりまするぞ」


 わーってるって。五月蝿いなあ。こっちにも都合って奴があるんだよ。ちょっとは考える時間をくれよ。


「明日の朝、寿桂尼様に相談しよう。その後で評定を開く。みんなにそう伝えてくれ」


「明日などと悠長な事を。今すぐ兵を集め、井伊谷へ向かわせませんと」


 テンパるオッチャンを押し止めてイヤミが頭を下げた。


「正俊、そう焦るな。承知いたしました。では明朝、伺いまする」 


 せっかく家中も何とかまとまって、内政も方針が決まってやっと蹴球サッカーに専念できるかと思えばこれだよ。しかも謀反かあ、嫌だな。下手すると史実の氏真と同じ運命をたどりかねない。それだけは何とか避けないと。






「朝早くから申し訳ありません」


「いえ、構いませぬ。今川にとって大切なお話と聞きました。それで何が起こったのですか」


 朝早くから寿桂尼様ばあちゃんの部屋を訪ねてどうすべきか相談する。こういう時頼りなるのはやっぱりこの人だ。俺は使者から受け取った手紙を見せた。


「……なるほど、これは確かに大事ですね。それで如何されるおつもりですか」


「直ちに井伊谷城へ兵を差し向けるべきです。一刻の猶予もなりませぬっ」


 相変らずオッチャンはエキサイトしている。


「ちょっと待て。まずはいろいろ聞きたいことがある。そもそも井伊直親っていうのはどういう奴なんだ? 確か桶狭間で前の当主が死んで後を継いだんだよな。本当に謀反するような人物なのか?」


「そこでございます。他の者ならいざ知らず、井伊直親ならば謀反の話を疑う余地はありませぬ」


「おいおい、ずいぶんだな。そこまで言う根拠は何だ?」


「それは、井伊直親が謀反人の息子だからでございます」


 そう言う三浦正俊の顔は険しかった。

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