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48話「不穏な気配」

明けましておめでとうございます。

昨日は更新できずすいませんでした。

今年もよろしくお願いします。


小原鎮実おはらしずざね様より殿に言付かってござる」


 小原鎮実とついえば東三河の要所である吉田城の城主で、罠作りとサプライズが好きなちょっと危ないおっさんだ。服部正成ハットリくん達俺が召し抱えた伊賀忍の元の雇い主でもある。姿を見ないと思ったら、鎮実に呼ばれてひとっ走り東三河まで行ってきたってことか。諜報などある程度自由に行動していいと言ってあるから構わないんだけど、忍者っていうのは大変だね。


「鎮実からの伝言か。で何と言ってきたんだ?」


 正成は周りを気にして言い辛そうにしている。ここにいるのは俺と寿桂尼様ばあちゃん三浦正俊(オッチャン)と朝比奈信置(イヤミ)、情報漏洩の心配はない。ないよな、多分。


「みんな信用が置けるから大丈夫だ。それで?」


「東三河の城主や国人どもの間に不穏な気配が流れてござるとの事」


「不穏な気配とはどういう事ですか」


 ばあちゃんの言葉に正成は俺の方をちらっと見たが、俺が軽く頷くと質問に答えた。


「東三河が松平の物になるという噂が流れてござる」





「松平の物になる、とは曖昧な話ですな」


 イヤミがそう言うと正成は更に言葉を続けた。


「松平が織田と手を組み攻めて参ると言う者もござれば、殿が東三河を松平に与えるつもりだという者もござる様子」


 なるほど、良く見てるな。松平が織田と手を組んで攻めてくるというのは元の世界の歴史であったことだし、東三河を松平に与えるというのは俺の構想通りだ。どちらにせよ噂の出所はきっと例の怪文書だろう。


「で、実際東三河の奴らはどんな感じになってるんだ?」


「城主国人どもは松平に近しい者とそれに反発する者に分かれておるそうでござる」


「東三河は松平所縁ゆかりの地。清康が当主であった頃にはその配下であった者も多うございますからな」


 三浦のオッチャンが頷いた。松平の旧臣もいれば今川が城主として送り込んだ者もいるってことか。そりゃあ割れるわな。しかもこの怪文書はそのどっち側にも揺さぶりをかけてるのが面倒だ。


「小原様によれば、松平にくみし傘下に入るべしというのは野田城主菅沼定盈すがぬまさだみつ、月ヶ谷城主西郷正勝さいごうまさかつら。それに反対する主な者は西郡城主鵜殿長照うどのながてる殿、牛久保城主牧野成定まきのなりさだ殿などでござる」





 うーん、キナ臭いことになった来た。せっかく落ち着いたと思ったのにこれだよ。どうすりゃいいんだ。俺が悩んでるとばあちゃんが助け舟を出してくれた。


「ともかくまずは事を落ち着かせ、皆の動揺を抑える事が肝要でしょう。元康殿と小原殿に説得をお命じになってはいかがですか」


 なるほど、それがいい。動揺している城主や国人たちも自分たちと意見の近い奴の説得なら聞くだろう。


「正成、松平元康と小原鎮実に至急伝言を頼む。元康は親松平派の、鎮実は反松平派の城主国人たちを早まった事をしないように説得してくれと」


「畏まった」


「あと服部保長に頼みたい。東三河の動揺を誘う為にこの妙な手紙を出しているのか調べるように言ってくれ」


「御意にござる。では御免」





 ハットリくんは俺から書状を受け取ってすぐさま出て行き、この会合もとりあえずお開きにして俺は自室に戻る。そのまま寝転がって頭の下で腕を組み、この事に付いて考える。


 誰が何の目的で東三河に揺さぶりをかけているのか。元の世界の史実なら当然松平元康が怪しいが、この世界ではあり得ないだろう。俺の方から東三河もそのうちやるって約束したんだから。ひょっとして今川の家中にそれを知って反対している奴がいるのか? そのための妨害工作というなら分からんでもないが、どこで漏れたんだろう。あ、そういえば曳馬城主の飯尾連竜とお田鶴の方がそっけなかったのは、あの書状が原因だったりするのか――。


「殿、お茶をお持ち致しました」


 そこへ佐奈ちゃんがお茶を運んできてくれた。あの露天風呂での一件以来、まともに話してないからなんか気まずい。


「あ、ありがとう。そこへ置いておいて」 

 

「殿、お伝えせねばならぬことが」


 佐奈ちゃんが寝転んでいる俺のそばにスッと近寄ってくる。温泉の時のこと怒られるんだろうか。うっ、距離が近い。そんな上から覗きこまれるとドキドキするじゃないか。ひょっとして逆に告白とか? ま、まさかキスしてくるとかないよね。俺も男だ、するなら自分からがいいんじゃないかな。でも受け身もちょっと悪くないかも。どうしよう、ドキドキする。目はつぶった方がいいのかな。


「殿の周りを嗅ぎまわっている者がおります」


 なんだ、色気のない話か。がっくし。


「誰なんだ?」


「恐らく甲賀の忍びかと」


 甲賀の忍者か、伊賀忍を抱えると甲賀とは敵対することになるのかな? それにしても早すぎるだろう。


「目的は何だ?」


「それが分からないのです、申し訳ありません。誰かの指図である事は間違いないのですが」


 急に佐奈が肩を落としてショボーンとなる。


「あ、責めてる訳じゃないから。やっぱり伊賀は甲賀と仲が悪いのか?」


「いえ、別にそういう訳ではありませんが」


 あ、そうなんだ。てっきりそうなんだと思ってたが。


「甲賀っていうのは確か近江おうみにあって六角の配下なんじゃなかったか?」


「良くご存じでいらっしゃいますね」


 佐奈ちゃんはちょっと驚いたようだ。やっぱり甲賀もこの時代ではそれほど知られた存在じゃないのか。


「いや、たまたまな。っていう事は俺の周りを探ってるのも六角なのかな?」


「恐らく違うと思います。甲賀の者でも外仕事も受けますし、六角に従わず伊賀に近い者もおりますので」


 そっか、じゃあ誰なんだろう。それは気になるけど、佐奈ちゃんとこうしてまた普通に話せるようになったのはめでたい。逆告白じゃなかったのは残念だけど。

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