47話「怪文書」
本日2話目の投稿です。
「いきなり言われても分からんだろう。やり方や規則は追々説明していくから覚えてくれ」
「その蹴球とやら、我らもやるのですか」
「当たり前だ。蹴鞠だって一人ではやらんだろう。蹴球は11人対11人で互いに争うんだ。面白いぞ!」
「そう言われましてもなんとお答えすればよいか」
うーん、みんなノリが悪いなあ。もっと喰いついて来るかと思ったのに。
「まあいい、次までに規則や戦い方など説明できるようにまとめておく。他にも必要な道具があるし、球ももっと数が必要だしな。元真、この球の出来は完璧だ。この調子でよろしく頼む」
「かしこまりました。お任せください」
腑に落ちない様子の連中に対し、出来栄えを褒められた安倍元真は嬉しそうだ。するとそれまで黙っていた蒲原徳兼が突然喋ったからちょっとびっくりした。
「――殿、お話が」
徳兼がなんだか深刻そうだったので二人きりで部屋で話す。ひょっとして恋の相談とか? でもなあ、俺ってゲーム以外じゃそういう経験ないしな。戦国大名が恋のアドバイスの一つも出来ないなんてちょっとないよなあ。あ、現代では死語のセリフでもこの時代だと生きるのかも。君の瞳に乾杯、とか。
「――このような書状が」
そう言いながらノリくんが俺に手紙を見せる。ラブレターかな? このミミズがのたくったような字が読めるのが自分でも不思議だ。でもこれが転生チートってなんかしょぼいな。なになに――。
「ふむふむ、当主の氏真は暗愚だ。西三河をむざむざと与えただけでなく、いずれは東三河も松平の物になるだろう。皆の権益も平然と取り上げようとしている。このような事が続けばますます今川は衰退し、周辺諸国の草刈り場になるのは必定だ、か」
「――各地の城主宛てに送られているようです」
「誰が出しているのか分からないのか」
「――皆目」
いわゆる怪文書って奴か。暗愚っていうのははまあ仕方ないとして、この手紙が厄介なのは東三河を松平に与えるっていうのが俺の方針と一致してるってことだ。書いた奴は当てずっぽう言ってるんだろうが、偶然にせよ当たってるところがたちが悪い。織田と武田を防いで今川が生き残るには松平を敵に回さないで味方にすることが必要不可欠なんだけどなあ。でもこの時代の人たちは俺の居た世界で歴史がどうなったか知らないんだから無理ない。
「良く知らせてくれた。今後も何かあったら教えてくれ」
「――御意」
この怪文書にどう対処するかを相談するため、寿桂尼様の部屋を三浦正俊と朝比奈信置を連れて訪ねた。
「これは困ったことになりましたね」
寿桂尼ばあちゃんも手紙を見て眉をひそめている。
「殿を暗愚などと無礼千万、許す訳に参りませぬ。書状を書いた者を探し出し、罪を問わねば」
三浦のオッチャンは鼻息が荒い。そこは別に気にしてないんだけどね。
「しかしなかなか良い読みでございますな。わざわざこのような物をあちらこちらに出す以上、何か意図があるはずです。それが分からぬうちは手を出しにくいですな」
信置はなかなか冷静だな。そう、目的が知りたいよな。何がしたいんだろう。
「今川の家中を揺るがすことが目的なのでしょうが、その先に何をしようというのかが気がかりですね」
ばあちゃんはさすがに読みが鋭い。この手紙に反応して騒ぎ出す城主もいるかもしれないが、それだけでは意味がないだろう。その後に何をしようっていうんだ?
「殿の供周りの服部正成殿がお目通りを願っております」
俺たちが悩んでいると、外から声が掛かった。ハットリくんの名前を聞いた途端にオッチャンの表情が険しくなる。そろそろ正体を教えといた方がいいかもな。いつまでもこの調子じゃ堪らないし、ばあちゃんには知っておいてもらった方がいい。
「ここへ通してくれ」
すぐにハットリくんがやってきた。
「寿桂尼様、これが新しく供周りに加えた正成です」
「服部正成にござる」
片膝ついて頭を下げる格好も様になる。さすがは未来の鬼半蔵、チート武将だけあってオーラがあるよ。
「このような怪しき者を近習にするのは反対したのでございますが」
オッチャンはまだぶつぶつ言ってる。あんまり言うと安倍川もちもらえなくなるぞ。
「この正成の父親である服部保長は伊賀の忍びの頭領なんです。この正成も実は凄腕の忍者なんですよ」
「な、なんとっ」
俺が正体をばらすとオッチャンは目を白黒させている。
「そ、そのような事それがし一言も聞いておりませぬぞっ。忍びなどという賤しき者ども、信用できませぬっ」
「まあ、忍びの者と直に会うのは初めてです。見たところ普通の人と変わらぬのですね」
オッチャンは興奮してゆでダコみたいに真っ赤になって怒ってるけど、ばあちゃんは面白そうにマジマジと正成を見回している。
「なるほど、情報は重要ですし殿の身を守る上でも忍びをお側に置くのは良いかもしれませぬな」
「信置、そのような事軽々しく言うでないわ。忍びなどが殿のお側に居ればいつ寝首をかかれるかもしれぬ」
冷静なイヤミに対しオッチャンはあくまで反対のようだ。そんな言い合いの中で正成は表情も変えずじっと座っている。
「正俊、そう言うな。この正成をはじめ今回召し抱えた伊賀の忍び達は信用できる。だいたい俺の命を狙うならとっくに何度も機会はあっただろうが。信置が言うようにこれからの世では何事も情報が鍵を握る。その意味では忍びの力は欠かせない。もう決めたことだ、異論は認めない」
「そこまで仰るのなら仕方ありませぬ。しかしくれぐれもお気を許されませぬよう」
そう言って睨むとオッチャンは渋々引き下がった。
「で、正成どうした?」
いよいよ話が動き始めます。
本年はお世話になりました。
新年は3日から投稿予定です。
良いお年を!




