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46話「完成」

昨日は投稿出来ず、すみませんでした。

代わりに今日は2話投稿します。


 それから様々な仕事が始まった。三浦のオッチャンは田畑の開発に楽市楽座の施行で忙しそうだ。信置イヤミには安倍元真との連絡及び服部一族の移住の手配を頼んだ。出来る部下がいると楽ができていいね。


 その間に俺は剣と馬術の練習だ。意外にも氏真は剣の使い手で、かの剣豪塚原卜伝つかはらぼくでんの弟子に当たるらしい。文系のイメージが強かったから驚いたけど、考えてみれば蹴鞠サッカーの達人なら体育会系なのか。なるほど、剣なんてはじめて触るからドキドキしたけどなんとかなるもんだ。これが体が憶えてるってやつか。乗馬はかなり苦労したが、これも何とか様になって来た。戦場で逃げる時に馬に乗れないのは致命的だからな。要は負けなきゃいいという話だけど何が起こるかわからないのが戦争だからね。


「ハア、疲れた」


「毎日お仕事ご苦労さまです。たまにはゆっくりなさって下さいね」


 早川殿おくさんは相変わらず可愛いし優しい。こんな優しい奥さんがいながら他の女の子にうつつを抜かすなんて、と思いつつも佐奈ちゃんがいるとつい目で追ってしまう。アレ以降あんまりまともに話せないんだけど、怒ってる感じはしないんで良かった良かった。




「殿、お待たせいたしました。掘り具が出来上がりましたぞ」


 工具奉行の安部元真が駿府を訪ねてきた。掘り具というのは俺が教えたシャベルやツルハシのことだ。おお、なかなか良く出来てるじゃないか。シャベルはちゃんと先が尖ってるし足を掛けられるように出来ている。ツルハシはこの時代にもその原型みたいなものはあったらしいが、元真が作ったのは現代の工事なんかで使うのと同じように片側は尖っていて逆側は平たくなっている。


「早いな、さっそく試してみるか」


 試作品のシャベルとツルハシを持って城の中で穴を掘ってもよさそうな空間スペースを見つけてさっそくテストしてみることにする。岡部正綱マサッチや庵原忠縁おとうと、あと久しぶりに挨拶に来ていた蒲原徳兼ノリくんも一緒に付いてきた。ノリくんは父親の後を継いで城主になっていろいろ苦労しているようだ。相変らず無口でほとんど話さないけど。


「この辺でいいだろ」


 まずは俺からシャベルで穴を掘ってみる。足を掛けてグイッと力を入れるとザクザク掘れる。むはは、これなら落とし穴ぐらいすぐ掘れそうだな。


「いいじゃないか。お前たちもやってみろ。使い心地はどうだ?」


「これは素晴らしゅうございますな。これを用いれば開墾もはかどること間違いありませぬ」


 みんなが口々に驚きの声を上げた。そうだろう、はるか未来の道具なんだからな。たらららったらー。なんだか自分がネコ型ロボットになった気分だ。





「元真、できるだけ早く数を揃えて三浦正俊に送ってやってくれ。田畑は少しでも多い方がいいからな。ところで服部保長たちはどうだ?」


 俺が尋ねると元真は急に顔を近づけて声を潜めた。


「保長殿の裏の仕事のこと聞きましてございます。新たな技や物を盗まれぬようにとのお計らいですな」


「まあそういう事だ。いつ誰が狙ってくるかわからないからな」


「さすがのご配慮に御座います。厳に警戒しておりまするのでご安心下され」


「他の仕事ぶりはどうだ?」


「そちらも順調でございまする。皆なかなか器用で飲み込みも早く役立っておりまする」


 うんうん、いい感じだな。伊賀の忍者だから口が堅いのは間違いないし、働きぶりもきっと真面目だろう。





「ところで殿、例の物が出来上がりましたぞ」


 安倍元真が意味ありげに笑うと供の者に何か持ってくるように指示した。


「おお、出来たか! これを待ってたんだ!」


「殿、これは何でございますか?」


 届いた物を見て俺が喜んでいるので、マサッチが不思議そうだ。


「何だと思う?」


「奇妙な玉でございますな。蹴鞠けまりの様ですが白と黒に塗り分けられておりまする」


 そう、俺が頼んでいたのはサッカーボールだ。昔懐かしい五角形と六角形の革を張り合わせた白黒のサッカーボール。蹴鞠用の鞠と大きさはほぼ変わらないが、内部には牛の膀胱に空気を入れたものが入っているから良く弾むはずだ。しかし良く出来てるな、元真グッジョブ!


「はは、そうだ。これは蹴鞠に使う球だ」


「殿は蹴鞠は止められたのではないのですか?」


 蹴鞠と聞いた瞬間に皆の顔が曇った。桶狭間以前の政治にも内政にも興味を持たず蹴鞠三昧けまりざんまいだった頃の氏真を思い出したんだろう。悪いな、俺はやっぱりサッカーがやりたいんだよ。





「ああ、前にも言ったが俺は武家の当主だ。この戦国の世、武家に貴族的な今までの蹴鞠は似つかわしくない。そこで俺は考えた。武士には武士らしい蹴鞠があっても良いのではないかと」


「武家らしい蹴鞠、でございますか」


 庵原弟が疑わしげな顔をする。また俺が妙な事を言い出したと思ってるんだろう。


「そうだ、武士がおのれの武勇を高め、戦における戦術の訓練にもなる。それが新しい武士の蹴鞠――蹴球けりだまだ。これはその蹴球に使うための球なんだよ」


 どうだ、驚いたか! と思って見回すがマサッチもノリくんも庵原弟も「この人何言ってるんだ」みたいな顔でただ唖然としているばかり。そんなんじゃ困るなあ、君たちはすでに俺のチーム構想に入ってるんだからしっかりしてもらわないと。そういえばここの所ハットリくんを見ないな。

次話は8時頃投稿予定です。

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