44話「改革」
いよいよ年末ですねえ
翌日、俺は正直眠くてもう一休みしたかったんだがそうもいかずに帰る事になった。仕事が溜まっているとオッチャンがうるさいし、ここに居たら安部元真が眠らせてくれそうにないしな。佐奈ちゃんが相手なら眠くても一晩中頑張っちゃうけど、あんな親父相手ではやっとれんから帰ろう。
「では世話になった。例の事、頼むぞ」
「かしこまりました。それがしにお任せ下され」
戻ったら工作奉行の件を寿桂尼様に話さないと。正式に物事を進めるにはばあちゃんの助けを借りるのが一番スムーズだ。
「ようお戻りになりました。お腰の具合はいかがですか」
「有り難うございます。お陰様ですっかり良くなりました」
駿府に戻り、さっそく寿桂尼のばあちゃんの所へ相談に来た。軍事的にはなんとか領内も治まったし、SLG的考えから言えば次は内政のターンだよな。
「ではゆっくりされた分も今川家当主としてしっかり働いて頂かなければなりませぬね」
ズキッ。まさか温泉が混浴目的だとバレてたとかないよな。まあ例えバレていたにせよ、その目的も二次目標も雲散霧消したお陰で今の俺に弱点はないが(涙目)。
「その事なんですが、いくつかご相談したいことがありまして」
「まあ、何でしょう」
話をする前に三浦正俊と朝比奈信置を呼び出す。どうせならまとめて話をしておいた方が楽チンだからね。
「お呼びでございましょうか」
やってきた二人と寿桂尼ばあちゃんを相手に、安部元真と話し合った今後の発明計画について話す。俺が思いついたというとややこしいから、基本的にすべて元真のアイデアだという事にしておいた。
「なかなか豊かな発想の持ち主のようですね」
「確かに思いつきとしては面白い。ただし実際に出来るまでは絵に描いた餅ですが」
よし、ばあちゃんとイヤミの反応としては悪くない。
「掛かる銭は元真殿が出すというのですからいいでしょう」
小うるさいオッチャンも金が掛からないというので反対しない。それに安倍川もちの件でおっちゃんの安倍元真の評価はMAXだからな。ここは問題なしと。
「では正式に安倍元真を工作奉行とし、今川として大々的に発明を進める事とする」
「あと、三河で始まったという綿花の栽培です。それほど木綿が重要な品であれば、こちらでやった方がよろしいのでは。特産品として面白いかと」
信置の言葉に寿桂尼も頷いた。
「そうですね、その木綿がそれほど便利な物ならば今川の直轄とした方が良いでしょう」
なるほど、そういやそうか。綿花栽培はこっちでやって、それを使った製品開発を元真に任せた方が効率がいいな。
「そうだな。綿花は今川にとって重要な資金源になる。それを正俊、お前に任せたい。頼めるか」
「おお、それがしに。かしこまりました。新田開発と共に綿花の栽培も行わせましょう」
よし、これで農業の方はとりあえずまとまった。次はいよいよ例のアレだ。戦国転移物のお約束『楽市楽座』。このカードを切れば守旧派の反対は避けられないだろうが、実際に事が進めば経済も活性化されて周りの俺に対する評価はうなぎのぼり、万々歳だ。
「えー、ゴホン。今から俺が言うことをよく聞いていてくれ。この政策は従来のやり方からするととんでもない事のように思えるかもしれない。反発も大きいだろう。しかしその効果は絶大だ。俺を信じてついて来てほしい」
「ほう、なかなか大事のようですな。そこまでおっしゃるのは如何なる策にござろうか」
朝比奈信置が興味深そうに聞いてくる。寿桂尼のばあちゃんも静かに聞いてくれている。この二人は大丈夫っぽいな。問題はオッチャンだ。頭固そうだからな、座を廃止して自由に商いが出来るようにすると言ったら慣例がとか言ってギャーギャー反対するに決まってる。どうメリットを分からせるか考えないと。
「殿がそこまで仰るのがいかなる事か、まずはお聞かせ頂きましょうか」
案の定、三浦正俊が疑い深げに言ってきた。でもこっちはお前の反発は織り込み済みなんだよ。
「その政策は『楽市楽座』と言う。いきなり言われても分からないだろうが、これは従来の座を廃止して――」
「ああ、殿もお聞きになられたのですか。今ちょうど駿府に来ておりまする故、ここへ呼び出しましょう。しばしお待ちくだされ」
オッチャンはそう言うと慌てて出て行ってしまった。えっと、俺の話はまだ終わってないんですけど。
しばらく待っているとオッチャンが宮司姿の男を連れてきた。年は30代前半位か、痩せてて如何にも勉強の出来そうな男だ。いわゆる官僚タイプって奴かね。
「富士信忠にございまする。献策をお取り上げ下さると聞き参りました」
えっと、俺は呼んだ覚えはないけど。あんた、誰?
「信忠、お前の考えた策に殿が興味をお持ちだ。ここで殿や我らにもう一度説明せよ」
えっと、この人が考えたってどういうこと?
「畏まりました。私は富士山本宮浅間大社の大宮司をしております。また富士大宮の六斎市も治めておりまする。その六斎市なのですが、近ごろ活気がございませぬ。物があまり出ておらぬ上に値が他より高いと申しまして、民があまり来ぬようになったのでございます」
「それはゆゆしき事ですね。何とかならぬのですか」
寿桂尼様が眉をひそめて尋ねた。
「ははっ。そこで品数を増やし値を下げるよう商う者どもに命じたのですが、その者どもは聞く耳を持ちませぬ。買う者が減ってはその者どもにとっても損なのですが、座で守られておるのをよいことにむしろ値を上げ、それでさらに人が減る始末」
まあそうだろうねえ。客が来なくて儲けが減ったからってその分値上げしちゃ潰れて当然でしょ。で?