40話「湯治」
ご無沙汰しております!
超久しぶりの投稿です。
ずっと悩んでいました。
何に悩んでいたのかと言いますと、色々な要素を詰め込み過ぎて話がゴチャゴチャしまして。
その結果、読者様からのアドバイスもありまして、話をシンプルにする為に一部の要素を切り取って外伝の形にする事にしました。
楽しんでいただけると嬉しいです。
「はあ、やっと着いたか」
「はい、ここが梅ヶ島温泉です。ごゆるりとなさって下さいませ」
安倍川を延々とさかのぼり、やっと目的の温泉に着いた。すんげー山奥。涼しいし景色もいいけど、遠いし、きついし、はっきり言って……こんなところに普通の女の子が温泉入りに来る訳ない! 来るとしたら猿の子だよ! 来て損した……と決めつけるにはまだ早い。
「弥一、ちょっとこっち来てくれ」
「何でございましょうか?」
久しぶりの故郷に嬉しそうに俺を案内してくれている弥一を手招きして小声で聞く。
「この温泉って、混浴か?」
「混浴とはなんですか?」
そっか、この時代には混浴なんて言葉がないのか。そう真っ直ぐ聞かれると照れるじゃないか。でもやましいところはない、自分にそう言い聞かせてさりげなく説明する。そう、あくまでさりげなくだ。
「男女が分け隔てなく同じ湯に浸かる事だ。その方が、ほら、親睦が深まるだろ?」
「そもそも温泉とはそういう物ではないのですか。男女が別々に入るなど聞いたことが無いのですが」
よし! 思わず小さくガッツポーズ。この時代は混浴が当たり前と見た。予想通りだ。
「そ、それならいいんだ。ほら俺ってお坊ちゃんだから温泉とか入ったことなくてさ」
「ああ、それで先ほどから浮かれておられたのですね」
「え? 浮かれてた? この俺が?」
「はい、明らかにいつもとご様子が違いました。妙にそわそわなさったりにやけておられたり」
知らない間に顔に出ていたとは。子供ってよく見てるね、気を付けよう。
「あー、ゴホン。いやそうなんだよ、つい初めての温泉で浮かれちゃってさ」
「わたくしは小さい頃よりこの温泉には何度も来ております。何でもお聞きください」
子供の癖にちょっと偉そうなところが可愛いな。
「ん、なら一緒に入るか。入る時の作法とか教えてもらいたいし」
「いえ、さすがに殿とご一緒させて頂くと言うのはあまりにも」
「まあそう言うなよ。せっかくここまで来たんだからさ」
ここは押し切るしかない。何故ならば、それが次の一手への切っ掛けとなるからだ。弥一も入るから佐奈も一緒にどうだ、という完璧な計画。将を射んと欲すれば先ず馬を射よ。我ながら知将だ、自分の才能が怖い。きっと後世のゲームでは今川氏真:知略82とかになるな。
「……あの、もしかしてそういう事なのでございますか」
「そういう事ってなんだよ」
すると弥一はモジモジしながら赤い顔で俯いてしまった。聞き取れないほどの小声で言う。
「まあ、あの、父からはそういう事もあろうと言いつかってきましたので覚悟は出来ております。何ぶん初めてですのでお手柔らかにして頂ければ」
おいおいおいおいおいおい。俺は衆道とかあっーとか、そういう趣味は全然ないんだからな。
「いや、いい。そういう事じゃない。勘違いさせて悪かった。そういう事じゃないんだ。一人で入る、そうゆっくり一人で入らせてもらうよ。考えて見りゃ温泉なんて適当に入ればいいんだよな。一人なら誰にも見られないし。いやー、温泉楽しみだな。あははは」
危ない危ない危ない危ない。佐奈ちゃんとどうこう以前に俺の貞操が危ない。あ、俺が攻めか。いやいや俺は攻めも受けもどっちも御免だ。俺は女の子一筋なんだ。
結局、一人で入る事になってしまった。佐奈に背中流してくれないかと言おうかと思ったけど言えず。やっぱり俺はチキン野郎だ。いいんだ、俺には早川殿がいる。それだけ元の世界よりずっと恵まれてる。そう思いながら露天風呂に浸かる。正俊も一緒に入りたそうだったが、そこは断固拒否した。何が悲しくてあんなオヤジと一緒に入らなきゃならんのだ。
確かに露天風呂は最高だ。徐々に日が傾き、夕陽が当たる美しい緑の山々。一人っきりで入ると静かだし、落ち着く。体がほぐれ、疲れが取れていくのが分かる。腰の痛みもほとんどない。けど足りない。潤いが足りない。目の潤いが足りないんだ。これがドライアイって奴か。違うか。それはどうでもいい。俺はやってやる。やってやるぞ!
「ああ、いい湯だった。お前たちも入るがいい。ゆっくりしてきていいぞ」
「おお、よろしいのですか、では早速」
俺が上がると正俊はいそいそと入りに行った。だが正綱に庵原弟、正成、弥一は行こうとしない。
「どうした、お前たちは入らんのか?」
「我らは殿の警護がありますゆえ」
「そう言わずに入ってこいよ。こんな所で襲ってくる奴もいないって」
「しかし、万が一のことも御座いますれば」
「大丈夫だって。ほら、弥一も久しぶりなんだから行って来い」
頑固に抵抗されたが、意地と気合で押し切って渋る連中を無理やり風呂に行かせる。おっと、佐奈ちゃんは一緒に行かれちゃ困るんだ。
「佐奈、ちょっと話があるんだがいいかな」
「はい、何でございましょう」
首をちょっと傾げながら佐奈ちゃんが俺を見る。おおお可愛い。そんな佐奈ちゃんを連れて温泉の横に建てられた屋敷の小部屋に入る。えーっと、何を話そう。とりあえず引き離す目的だけで連れてきちゃったからな。
「まあとりあえずそこに座ってくれ」
邪魔な連中は風呂に入ってる。ここは俺と佐奈ちゃんの二人きりだ。でへへ。すると突然佐奈ちゃんの表情が変わった。今までに見た事の無いような真剣な顔だ。そのまま深く頭を下げる。
「正成様より聞きました。我ら伊賀村の一同を御召し抱え頂いたとのこと。感謝に絶えませぬ」
あ、そうか。佐奈ちゃんって女忍者だったね。混浴で頭がいっぱいで忘れてた。
「すでにお聞き及びのことと存じますが、わたくしは伊賀の忍びにございます。今まで小原様の命で殿をお調べいたしておりました。申し訳ございませぬ」
「いやそんな謝らなくても。佐奈が好きでやった事じゃないのは分かってるし」
「有り難きお言葉。なれど罪は罪です。御手討ちになる事も覚悟の上。いかように裁かれましても文句は申しませぬ。ですが何とぞ半蔵様はもとより伊賀村の者どもに類は及ぼされませぬよう伏してお願い申し上げます」
「あ、いや、そんな事考えてもいないよ。今まで通りしてくれたらいいから」
「お許し……頂けるのですか」
「もちろんだ。それよりこれからも俺の傍に居てくれると嬉しい」
佐奈ちゃんはうつむいたまま肩を震わせている。ここはそっと肩を抱き寄せるところなんだろうか。そうなんだろうな。フラグは目の前に立ってる気がする。でもその旗をつかめない所が俺なんだ。
「有り難うございます。これからも傍に置いて頂けるのであれば、この命に代えてもお守り致します」
顔を上げて俺を見つめる佐奈ちゃんの瞳が濡れている。可愛いし、色っぽい。ああ、やっぱり抱きしめておくんだった。そんな後悔をあと幾つ繰り返したら俺は。そんなことを考えていると野郎どもが風呂から上がって来る気配がした。
「ほら、そんな泣き顔見せたらみんなが不思議に思うだろ。あいつら上がったみたいだから温泉入っといで。あいつらに見つからないようにな。ゆっくりしてきたらいいよ」
「では、そうさせて頂きます」
俺が慌てて急かすと、佐奈ちゃんはちょっと恥ずかしそうにニコッと笑って出て行った。さあ、これからが本番だ。ここには漢の戦いがある。俺も急いで姿を隠さねば。
久しぶりの更新、いかがでしたでしょうか?
しばらく毎日投稿するつもりです。
年末年始は少しお休みを頂くかもしれませんが。
外伝は本編の間に挟む、という形も考えたのですが、どうせなら主人公もテイストも変えて別の物語としても楽しむ事が出来るようにしたいと思います。
外伝のタイトルは「『戦国のファンタジスタ(外伝)』〜伊賀忍伝」です。
文字通り忍者が活躍するお話です。
奇想天外な忍術が炸裂する話にしたいと思います(笑)
もちろん本編が優先ですし、こちらの内容を受けての話になりますから、外伝は間を空けての不定期連載になります。
そちらも1話目を投稿しましたので、お読みいただけると嬉しいです。
これからまたよろしくお願いします!




