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39話「温泉」

ここから数話はちょっとした小話です。

例のアレの下準備の為に必要なので。

※11/19追記:どうしても納得出来ない為に40話を取り消して数日休載させて頂く事にしました。読んで頂いた方、ブックマークして頂いた方、大変申し訳ありません。出来るだけ早く再開しますので、しばらく時間を下さい。よろしくお願いします。

「殿、何かお飲み物をお持ち致しましょうか」


 腰痛で唸っている俺に侍女メイドの佐奈ちゃんが優しく聞いてくれる。このかわいい娘が女忍者くのいちだなんて信じられん。まだ二人きりになってないから直接聞けてないし。


「尼御台様がお越しにございます」


 小姓の弥一の声がして皆が姿勢を正す。イテテ。歩くのは何とかなるが座るのが痛い。


「おやおや氏真どの。いかがなされました」


尼御台様おばあさま、わざわざのお越しありがとうございます。道中、腰を痛められたご様子で」


 俺を見まいに来てくれた寿桂尼様ばあちゃんを出迎える早川殿おくさんの声が硬い。元の氏真と同様に寿桂尼に対して苦手意識があるようだ。打ち解けちゃえば優しい人なんだけどね、ばあちゃん。






「いやあ、ずっと駕籠に乗ってて痛めちゃったみたいで。イテテ」


「これは相当酷いご様子。典医どのには見せたのですか?」


 うーん、この時代の医療レベルってどんな物なんだろう。変な治療されて却ってひどくなったら嫌だしなあ。あ、でも逆に針治療とか漢方とかにめっちゃ詳しかったりするのかな。


「医者には見せてません。途中の城でお灸はして貰って結構楽にはなったんですが」


「なるほど、では温めるとよいのかもしれませぬねえ。もう一度灸を試してご覧になりますか」





 せっかくのばあちゃんの提案だけど、丁寧にお断りする。始めはいいんだけど最後のあの熱さにはもうコリゴリだ。どうせ温めるなら温泉とかがいいんだけど……ん?


「弥一、お前の実家には温泉があるって言ってなかったっけ?」


「はい、梅ヶ島温泉と申しまして深い山奥にありますが効能があらたかとか。わざわざ山を越えて甲州からも人が来ると聞いております」


「何に効くんだ?」


「体の節々の痛みや肌の病、傷や捻挫など万病に効くと父が自慢しておりました」


 こりゃいい。この時代だから源泉かけ流しに間違いないしな。ひょっとしたら混浴かもしれない。そう考えたら俄然行きたくなってきた。





「寿桂尼様、その温泉で腰を治したいと思うのですがどうでしょうか?」


「そうですねえ、本来ならば喪に服すべき時なのですが」


「もちろん大殿の事は片時も忘れたことはありません。心の中で常に思っております。しかしこの難局にあっていつまでも腰の痛みにかまけている訳にも参りません。一日も早く腰を直して政に励まなければ。その為にも混浴、じゃない温浴で腰を治したいのです」


「湯治という訳ですか、致し方ありませんね」


「有り難うございます! では早速準備をしないと。弥一、正綱と忠縁に準備しろと伝えてくれ」





「わたくしも連れて行っていただけるのですか」


「え?」


 隣で聞いていた早川殿おくさんがニッコリと微笑んで聞いてくる。


「あ、いや、連れて行きたいのは山々だけどほら、混……温泉って相当山奥みたいだしさ、やっぱり無理じゃないかな」


「まあ、連れて行っては頂けぬのですね」


 早川殿が明らかに落ち込んでる。可愛い。けどここは心を鬼にしないと。せっかくの混浴に奥さん連れ、じゃなくてお嬢様育ちの早川殿に無理はさせられない。


「しかしお世話をする者が弥一だけでは心許のうございます。そうです、佐奈が殿のお供をしておくれ」


 おおお、佐奈ちゃんが混浴に! でもそんなことしたら不味いんじゃ。いや、でも、しかし。


「殿、私がお供してよろしいのですか」


 佐奈ちゃんが何やら意味深な質問を。俺の頭の中で理性と欲望が手を取り合ってダンスしてる。


「ああ、そうだな、佐奈が来てくれると何かと助かるかな」


「ではお供させて頂きます」





「殿、戻られたばかりだと言うのにまたお出かけになるというのはまことですか」


 三浦正俊オッチャンが血相を変えて飛んで来た。誰だ、ばらしたのは。


「いや、ちょっと腰を痛めてしまってな。これでは仕事もままならないから混……温浴に行こうと思って」


「このような時に温泉に行かれるというのですか」


 ああ、うるさい。お説教は聞きたくない。寿桂尼様ばあちゃんがいいと言ったんだからいいじゃないか。


「分かってる、治ったらすぐに戻って仕――」


「それがしも連れてってくだされっ」


 へ?


「実はそれがし、温泉には目が無いのでございまする。温泉と言えば温泉饅頭に温泉卵、山の幸もいいですなあ。是非連れてってくだされ」


 それって食い物ばっかじゃん。温泉の効能とか風情とかそう言う理由じゃないんかい!





「でも城を任せる奴がなあ」


「そんなものは朝比奈信置にでもやらせておけばいいのです。そもそも尼御台様がいらっしゃるのですから、誰がやっても同じこと」


「正俊、それを言ったら終わりじゃないか」


「いいえ、もうそれがしは信置のあの物言いに我慢がならんのです。城代と言ってもどうせお飾りだとか、殿に気にいられているつもりだろうが気のせいだとか、お主なんぞは銭計算だけしておれば良いのだとか、もう堪忍袋の緒が切れましたわっ」


 言ってる内容は間違ってないような気が。やっぱり正俊と信置は上手く行かなかったか。最初から分かってたけどね。オッチャンはストレスで爆発寸前らしい。


「分かった分かった。じゃあ城代は信置イヤミに任せることにしてついて来てもらおうか」


「有り難き幸せっ、では早速旅支度をして参りまする。ああ温泉饅頭、楽しみですなあ」


 なんだかスキップしそうな勢いで出て行った。でもこの時代に温泉饅頭なんかあるのか?





 なんだかんだで温泉に行くのは三浦正俊オッチャン、岡部正綱マサッチ、庵原忠縁おとうと、佐奈に小姓の弥一、そして服部正成ハットリくんと決まった。俺の腰も多少はましになったし、これなら頑張れそうだ。なんせ混……温泉が待ってる。


「で、この者は何者でしょうか」


 準備が整いいざ鷲発という段階になって、何気ない顔で一向に加わっているハットリくんを見てオッチャンが怪訝な顔をしている。あ、言うの完全に忘れてた。


「西三河で見つけた服部正成だ。父親の服部保長やすながともども役に立ちそうなので武士に取り立て、知行を与えることになった」


「またそのように勝手な事をなされては困りまする。だいたい信虎殿に支払うだけでもどれだけ出費がかさんでおると――」


「ああ、その話はまた後で聞く。とにかくこの正成は供周りとしてここに置くことにしたから。ほら、急がないと温泉に着くのが遅れるぞ」


「仕方ありませんな。あとできっちり話をさせて頂きますぞ」


 ふう、温泉のおかげで何とかこの場はセーフ。それにしても佐奈ちゃんはハットリくんと少なくとも顔見知りだろうに、全く表情にも出さない。女って怖い。



現在絶賛苦闘中です。

出来るだけ早く再開できるように頑張ります。

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