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38話「腰痛」

 こうして無事に元康君との密談を終え、俺たちは駿府に戻る事になった。


「寿桂尼様にもよろしくお伝えくださいませ」


「ああ、いろいろ大変だろうけどお互い頑張ろうな」


 握手をしようと元康君に手を差し出したけど、キョトンとして見ているだけだ。この時代には握手ってなかったらしい。仕方ないから強引に手を取って握ると、元康君も一応握り返してくれた。


「あの、これは何でございましょう」


「握手っていうんだ。親しい友同士がこうして絆を確かめ合うのさ」


「おお、親しき友。なるほど、良いものですな」


 しっかりと手を握り合って別れる。分かってくれたみたいで嬉しい。そうだ、可愛い女の子とは抱擁ハグをするものだと広めたらウハウハなんじゃないだろうか。


 出発する時には元康君はじめ松平のみんなが総出で見送ってくれた。いやあ、いい仕事したなあ。これで当分は安心して暮らせそうだ。それにしてもまたあの窮屈な駕籠に乗って行くのか。あれ、結構腰に来るんだよね。姿勢が窮屈だし揺れるから好きになれないな。電車や車が恋しい。





「いてっ、いてててっ」


「殿、いかがなされましたか」


 三河を越え、遠江に入った辺りで急に腰に激痛が走った。思わず声が出る。それを聞いて、駕籠の横を馬で警護してくれていた岡部正綱マサッチと庵原忠縁おとうとが駆け寄ってきた。


「あ、いや、ちょっと腰を痛めただけだ。ずっと窮屈な姿勢だったからな。気にしなくていいから」


「大丈夫でございますか。少しここらでお休みになられたら」


 二人の勧めに従ってちょっと休憩を取る。小姓の弥一くんも心配して来てくれた。


「殿、よろしければ腰をお揉みしましょうか」


「いいから、大丈夫大丈夫」


 いくら何でも九歳の子にそれはさせられないよね。大人として恥ずかしすぎる。断ってしばらく体動かしてたら痛みがちょっとましになったから出発することにした。






「うう、痛い……」


 しばらくは大丈夫だったんだけど、ある程度進むとまた急に痛みがぶり返してきた。我慢しようとは思ったけどやっぱり無理。油汗が出る。仕方ないから庵原弟に頼んで駕籠を停めて貰う。


「かなり具合が御悪そうですね」


「ああ、ちょっと痛みが酷くてね。ここら辺で休めるところはないかな」


「でしたらこのすぐ先に曳馬ひきまという城がございます。そこで今日はお休みになられては」


「じゃあそうしようかな」


「では私は先に行って知らせて参ります。殿はごゆるりとお越しくださいませ」





 服部正成ハットリくんが先触れとして走り、俺はしばらく休んでから出発した。幸い城まではあまり距離はなく、そう時間を掛けずに着くことが出来そうだ。良かった、これ以上は我慢できない。


 曳馬城というと後に家康が縁起が悪いとか言って浜松城に名を改めた城だな。それはゲーム内イベントで見たから知ってる。そのうち俺が名前を変えてやろう。その曳馬城に向かう途中で正綱マサッチからレクチャーを受ける。城主の飯尾連竜は代々今川家に仕える重臣で沈着冷静、物静かな男らしい。話からは理詰めで物を考えるちょっと頭の固い人物のように思えた。その奥さんのお田鶴は昔の名を椿姫といい、元康の鬼嫁である瀬名と同様、氏真オレの義理の従妹に当たるんだそうだ。どこに行っても親戚が多いな。なにやら男勝りの怪力で有名だと言う。何だそれ、おっかねえ。


 城ではハットリくんと数人が待っていた。その中の一人が俺に向かって声を掛けてくる。


「ご無沙汰しております、曳馬城主、飯尾連竜いいおつらたつにございまする。此度は突然のお越し、おもてなしもままなりませぬが、どうかごゆるりとお過ごしくださいませ」


 想像通りなんだか神経質そうな人だな。声や態度に壁があるっていうか、冷たい印象を受ける。まあ評判の悪い氏真だからね、その辺は仕方ないだろう。イテテテ。


「突然済まないな。ちょっと腰が痛いんで今日はここで休ませてもらう」


「わたくしは所用がございましてお相手出来かねますが、室のお田鶴たづがおもてなし致しまする。ごゆるりとなさって下され」


 そう言って隣に立つ女性を見る。


「氏真さま、お久しぶりです。今はお田鶴と申します。ようこそお越しいただきました」


 そこに居たのは美人だけどたいそう立派な体格の女性だった。これが義理の従妹の椿姫、今はお田鶴さんか。気の強そうな顔にその体格で美人女子プロレスラーって感じ。俺を見る眼差しは気のせいかよそよそしいような。これは俺がへっぴり腰だからかもしれないけど。だって痛いんだもん。




 

「ここでございましょうか?」


「いて、そこ痛い。強い、強過ぎ。いててて。もういい、もういいからやめて」


 布団を引いてもらって寝込んでいたら、従妹のお田鶴さんが按摩マッサージが得意だと言うので少し揉んでもらったけど余りの痛みにギブアップ。思った以上に力が強い。聞いたら長刀なぎなたとか武芸もたしなむそうだ。まさに男勝りだね。按摩が無理なら、ってことでもぐさのお灸をすえてもらった。あったかくて気持ち良くて、これはなかなかいいものだ。


「アチチチチッ」


 うとうとしかけてたけど思わず飛び上がる。お灸って最初は気持ちがいいんだけど、油断してたらメチャメチャ熱いのね。きっと火傷になってると思う(涙目)。あれ……でも結構楽になったかも。


「おお、ありがとう。おかげで少し楽になった」


「殿、良かったですね」


 俺が元気になったのを見て小姓の弥一くんも喜んでくれている。いい子だ。


「それはよろしゅうございました。ではまた何かありましたらお呼び下さい」


 お田鶴さんはそう言って部屋から下がった。親切なんだけど、やっぱりなんだかよそよそしいな。






「ただ今戻りましてございます」


「いかがであった」


 城主の飯尾連竜と氏真の元から戻ったお田鶴が居室で話し合っている。


「昔とは何やら雰囲気が違われまする。何やら親しみ深くなられたような」


「ほう、してその器をどう見る」


「やはり胆力に欠けると言いますか、重みが無いように感じます」


「やはり義元公には及ばぬか――」


 お田鶴の言葉を聞いた連竜はそう言ったきり目を閉じて何かをじっと考えていた。






「世話になったな」


「いえ、おもてなしも出来ませぬで申し訳ございませぬ」


 翌朝早く、連竜やお田鶴に別れを告げて出発した。連竜は相変らず慇懃な対応だが気にしないことにする。まだ痛いのは痛いが、お灸のおかげでなんとか我慢が出来る程度に治まった。その後も痛みに耐え、なんとか駿府に辿り着いた。


「まあ殿、いかがなされたのですか」


「いや、駕籠に乗ってたら腰を痛めちゃって」


「それはお可哀そうに。さあさあ、こちらに横になってお休みください」


 早川殿おくさんが俺の惨めな姿を見て心配してくれる。暖かい対応にホッとする。やっぱ家はいいよな、落ち着くよ。ってこの間こっちの世界に来たばっかりなのにそんな風に感じてることに自分でも驚く。俺って結構ここに馴染んでるんだな。早川殿も可愛いし、戦国時代も悪くない。

煮詰まっています。

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