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35話「盟友」

前話までのあらすじ:桶狭間当日の今川氏真に転生してしまった俺は、桶狭間イベント阻止には失敗したものの松平元康の離反を防ぐことには成功する。信玄の父であり氏真の祖父にもあたる武田信虎に謀反の罪を着せて追い出すことで一応は家中をまとめることが出来た俺は元康との約束を果たす為に岡崎城に向かい、その途中で名高い伊賀の忍者「服部半蔵」こと服部正成を家臣にすることになった。

 伊賀村を出て小原鎮実と別れた俺たちはそのまま岡崎城に向かった。付いて来る家来が一人増えた。服部半蔵正成――正真正銘のチート武将。駕籠の中からその姿を見るだけでニヤニヤしてしまう。いかにも俊敏そうな身のこなし、シャープな顔つき、なんとも言えない雰囲気。あだ名はやっぱり「ハットリくん」で決まりだな。ニンニン。


「今川氏真公がお越しじゃ。早う殿にお伝えせよ」「やれ歓迎の準備を急げ」「粗相のないようにな、丁重にお出迎えするのじゃ」「これ、御前をさように駆けるでないわ。粗忽者が」


 岡崎城に着いて元康君への面会を申し入れると、城の中はてんやわんやの大騒ぎだ。いやー、歓迎されてるなあ。喜んでもらえてるみたいで嬉しい。俺にとっても元康君が味方だと心強いよ。





 俺と岡部正綱、庵原忠縁は本丸の評定の間に通され、俺は上座に座った。いや、一応遠慮したんだけどみんながどうしてもって言うから。ハットリくんと弥一は外で待ってる。ハットリくんは元康君に会わせたくないから丁度いい。歴史の修正力とかで元康君に気にいられて欲しいとか言われたら困るからね。しばらくすると松平家のみなさんがぞろぞろと入ってきた。先頭に居た若者が俺の目の前に座って頭を下げる。


「氏真様、わざわざのお越し感謝致しまする。この日を心待ちにしておりました」


 ああ、これが後の徳川家康か――ってこの世界ではどうなるのか知らないけど。歴史の超有名人に出会えてなんていうか、ちょっと震える。ハットリくんの時はただ嬉しかったけど今度はちょっと違う。まさに日本の歴史を作った人物に会っているんだという感動がある。丸顔だけど意外と太ってはいないんだな、まだ若いからか。でも年の割にすごく落ち着いて見える。俺とは大違いだ。そうか、この人が日本を統一して江戸幕府を作り、俺がいた日本の礎を築いた人か。元康の顔をじっと見ながらそう考えると胸の奥がジーンとしてなんだか目頭が熱くなってくる。


「どうかされましたか」


「あ、いや、すまない。やっと会えたと思うとなんだか嬉しくてね。変だよな」


「それほどまでに――この元康もあれからずっとお会いしたく思うておりました」


 俺に釣られたのか元康君も感動して目を真っ赤にする。後ろに居並ぶ松平の家臣たちの何人かも目頭を押さえてる。みんな大げさだって。男同士で何泣いてんだって感じだよな、へへ。


「ゴホン、では改めて。今川家当主、今川氏真だ。先に岡部正綱から伝えた通り、今日をもって正式に松平家の独立を認めるから、よろしく」


「有り難きお言葉――我ら、感謝に絶えませぬ」


 ここで一斉に松平の人たちが平伏した。みんなが泣いているのが肩の震えで分かる。ヤバい、もらい泣きするって。横で見ている岡部正綱や庵原忠縁も感動してるみたいだ。





「氏真様、一つ伺いとうございます。何故これほどまでに我らを、いやこの松平元康をお引き立て下さるのでしょう」


「それは正綱から聞かなかったか?」


「伺いました。しかし是非とも氏真様から直に伺いたいのでござる」


 んー、本当は「あなたは俺がもと居た世界では日本を統一して幕府を開いたんですよ」って言いたい。でも言えない。完全に頭おかしい奴だと思われるに決まってるから。


「俺は今まで蹴鞠サッカーにうつつを抜かして政治にも戦にも興味が持てなかった。でも義元公ちちうえが思わぬ奇襲で討たれて、戦国の世がいかに厳しいものか思い知ったんだ。この戦国を生き抜くには心の底から信用できる仲間が必要だ。それはここにいる岡部正綱や庵原忠縁のような家臣も勿論そうだが」


 自分たちの名前が出てきたことに岡部正綱マサッチ庵原忠縁いはらおとうともハッとしたが声は出さずに黙って頭を下げる。


「だが、それだけではなく同じ大名としてともに戦える仲間――それも優れた資質を持ち、なおかつ心の底から信頼できる仲間が欲しいと思った。現在、今川は武田や北条と同盟している。だがそれは永遠のものではない。特に信玄は信用できないと思う。北条は信用出来なくはないがいま一つだ。織田はもちろん当面は敵だし。そう考えた時に思い浮かんだのが元康、君なんだ」





「そこなのでございまする。何故この元康なのか、そこが分からぬのです。武田は信用ならぬにせよ、北条ならば大国。我らとは比べ物になり申さぬ」


「うーん北条は確かに大国だけど、今は関東で手いっぱいだろう。しかも北条氏政の為人ひととなりを俺は良く知らない。だけど松平元康なら良く分かる。義理堅く、粘り強い。頭も切れる。そういう奴がともに戦ってくれればこんなに心強い事はない。規模じゃないんだよ、俺が欲しいのは」


「過分な仰せ、恐縮至極。しかし氏真様とはそこまで親しかった訳でなし、何故にそれほどまで」


「俺だってただ鞠を蹴ってた訳じゃないさ(実際にはそうかもしれないけど)。その間に人を観察したり情報収集も怠らなかった。その中で元康を見て、こいつとなら戦の無い世の中を作れると思ったんだ」


「それでござる。氏真公はまことに戦の無い世を作ることが出来るとお思いか」


 元康の目は真剣だ。家臣たちもみんな声を出さず固唾を飲んで僕らの話を聞いている。






「出来るさ。もちろん永遠に戦の無い世を作ることが出来るか、と言えばそれは無理だろう。だがある期間だけ戦を無くす、というだけなら可能だと思う」


「その為にはどうすればようござる」


「それは――また後で2人きりで話そう。かなり繊細な話だからな。ただ分かって欲しいのは俺はそれが出来ると信じているし、その為に松平と手を結びたいと思っている。そう、盟友になって欲しいんだ」


「盟友――でござるか」


「そうだ。上下関係でなく、友として同盟を結んでほしい。共に助け合い、戦の無い世を作りたいと本気で思ってる。どうだ、同盟を結んで俺の盟友になってくれないか?」


 すると元康は晴れやかな笑顔で頷いた。


「得心いたしました。この松平元康、今川氏真公の盟友としてともに戦の無い世を目指しましょう」

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