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31話「葬儀」


 評定から数日後、今川義元の葬儀が行われる事になった。「東海一の弓取り」と呼ばれた義元の葬儀だ、さぞかし大掛かりに行われるだろうと思ったが意外と簡素なものになるようだ。参列者は家族以外では家臣数名、あとは同盟相手である武田と北条からの使者ぐらいだそう。


「殿、長得ちょうとくさまと環姫たまきひめさまがいらっしゃったそうです」


 侍女メイドの佐奈ちゃんが呼びに来た。誰だか分からないので佐奈ちゃんに聞くと、氏真の弟と妹だそうだ。長得ちょうとくは氏真の3つ下の弟で、曹洞宗の僧侶になっているらしい。末の妹の環姫は十五歳、お転婆だが美人で有名だそうだ。それを聞いて思い出した。たしか松平元康が片想いしてた相手がこの環姫だったな。ウシシ。





「氏真どの、さあさあこちらへ。弟の長得ちょうとくどのと妹の環姫ですよ」


 佐奈ちゃんに連れられて行った部屋には寿桂尼様ばあちゃん早川殿おくさんもいて、さりげなくばあちゃんが俺に目で合図しながら紹介してくれた。俺の記憶喪失に配慮してくれたらしい。さすがは寿桂尼様、気が利くよね。


「兄上、お久しぶりです。この度は父君の事、驚きました。この長得、仏門の身ゆえ大した事は出来ませんが、出来うる範囲で兄上を御支えする所存です」


 弟の長得は涼やかなイケメンだ。頭はツルピカ君だが品がある。坊主萌えの女子には堪らんだろうな。


「長得どのは幼い頃に仏門に入られてより、一心に学ばれておられるのですよ」


 寿桂尼様、ニッコリ笑って俺の目を見ながら言うのはやめてー。心に刺さるから。蹴鞠サッカーばっかりやって勉強してなくてすいません。


「兄上さま、父上が亡くなられたからって落ち込んでいる場合ではありませんよ。これからは兄上さまがこの今川を率いて行くんですからね! あ、公家の化粧けわいはやめたのですね。たまきはその方がいいと思います」


 妹の環姫は確かに超絶美少女だ。だがいかにも活発で押しが強そうな俺の苦手なタイプだな。俺は早川殿おくさんみたいにおしとやかな方がいい。あ、でも佐奈ちゃんみたいなドジっ子タイプもいいよねー。そこら辺悩むところだな。


 久しぶりの家族団らん(って言っても俺は会ったばっかりだけど)で義元の思い出話をしていたが、どうも義元は親しみやすいタイプの父親ではなかったようだ。寿桂尼様にとっては可愛い子供だったのかもしれないけど。戦国の世は大名でも大変だね。親子や兄弟でも争う可能性があるもんな。俺はみんなと仲良くしたいもんだ。幸い弟の長得は頭も良さそうだし権力には興味無さそうだ。この時代の僧侶は知識人だし、いい相談相手になってくれると嬉しいな。環姫にはそろそろ嫁ぎ先を考えろ、と言われてしまった。婚姻も大切な仕事で「今川の役に立つ覚悟はとっくに出来てるから」だって。しっかりしすぎてて怖いよ。


「殿、三浦正俊さまがお呼びです。北条家と武田家の使者にお目通りをとのことです」


 小姓の弥一くんが呼びに来たから評定の間に移動する。北条と武田の使者か、誰を寄越したんだろう。





「お初にお目にかかりまする。北条家家老、松田憲秀まつだのりひでに御座りまする。此度はご愁傷さまにございます」


 北条家からは松田憲秀が来た。秀吉の小田原征伐で最後に内通しようとして失敗した人だな。


「武田譜代家老衆、馬場信春ばばのぶはるに御座る。義元公のご逝去に心よりお悔やみ申す」


 おおお、チート来たー! 「不死身の鬼美濃」馬場信春だよ。もう迫力がやばい。眼力からしてやばい。目を合わせるだけで怖い。うちの元信ゴリラとかと違ってめっちゃ落ち着いてて威圧感半端ねえ。


「これはかたじけない。今川家当主、氏真です。わざわざのお越し、感謝します」


 俺もここは気合いを入れてビシッと頭を下げる。こういう時の作法は正俊オッチャン正綱マサッチのレクチャーを受けておいたから大丈夫のはず。まだ長時間の正座は無理だけどね。





 こうして葬儀がしめやかに行われた。細かい部分は弟の長得に任せてただ真面目に座ってるだけでクリア。こういう時お坊さんが兄弟に居るといいよね。一瞬信長みたいに破天荒な行動で伝説つくってやろうか、と思ったけどただのバカだと思われるだけだからやめておいた。今そう思われたら本気で離脱者が続出しかねないし。ちゃんと威厳を意識して行動した。最後に喪主挨拶があるからそこはよろしく、と長得おとうとに言われたから頑張らないと。


「えー、本日は父、義元の葬儀にご参列いただきまして有り難うございました。父の義元は幼い頃に出家して僧侶となりました。しかし長兄と次兄が同じ日に亡くなるという不幸に見舞われ、後継ぎとなるべく還俗いたしました。その後は異母兄との争いを制し、東海一の弓取りと呼ばれるまでにこの今川家を発展させたことは皆さまもご存じの通りです。それもひとえに皆様方のお力添えあってこそと我ら遺族一同感謝に絶えません。父はこの度尾張への遠征の途中で志半ばで命を落とすことになりましたが、きっとさぞ無念だったろうと思います。今後は我ら遺族一同力を合わせて父の遺志を継ぎ、この今川を発展させるように頑張っていきたいと思います。その為にどうぞ皆様の力をお貸し下さい。本日は本当にありがとうございました」


 ふう、こうして義元の葬儀を無事に行うことが出来た。俺のスピーチはどうだったかと寿桂尼様ばあちゃんに聞いたら、なかなか良かったと褒めてくれた。環姫いもうとには「長いしつまらなかった」ときっぱり言われちゃったけど。





「これはこれは馬場信春ばばのぶはる殿、お疲れ様ですなあ」


「これは松田憲秀まつだのりひで殿。ご無沙汰でござる」

 

 葬儀が終わり、控室で北条の重臣松田憲秀と武田家臣の馬場信春が顔を合わせていた。


「松田殿、今川氏真公をどう見られました」


「いやいや、立派な喪主振りであった。実は我が主である氏康公も娘の早川殿を嫁がせておられるのでかなり心配されておったのですが、あれなら大丈夫でござろう。きっと御安心になられると思いまする」


 馬場信春の問いに松田憲秀は笑顔で答えた。


 ――立派な喪主振りか、なるほど。だが事前に聞いておった氏真公とは様子が違いすぎる。しかもあの義元公が亡くなったというのに家中に余り動揺が見られぬ。聞くところによると先日信虎様を領外に追い出したというではないか。何やら色々と妙な感じがする。これは信玄公にご報告せねば。

 

 密かに警戒する馬場信春であった。

 

大名の葬儀は意外と質素な形のものが多かったようなので、

最初は大規模な葬儀で書いてたんですけど

こちらに変更しました。

武田のチート軍団、いいですねえ。

私も家臣に欲しいです(え

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