29話「帰還」
今日もご覧いただいて有難うございます!
刈屋(現代では刈谷と書きますが誤字ではありません)の城を勝手に落とした岡部元信の処遇を巡って、頂いた感想が真っ二つに割れていますw
これは作者としては本当に嬉しい事です。
それだけ楽しんで頂けている証拠だと思うので。
ここは氏真君も悩みどころでしょうし、作者としてもどう話を進めるか考えたところでした。
次の30話で氏真君の判断が出ます。
今回はその前にちょっとした小ネタを挟んで見ました。
以前感想でもご指摘いただいた、氏真君の勘違いについてです。
お楽しみいただけたら幸いです。
結局勝ったんだか負けたのだか良く分からないまま信虎は京に行くことになった。話は何とかまとまったから寿桂尼のところへ報告に行く。
「流石は信虎殿。転んでも只では起きぬということですか」
「そうなんですよ。なんかしてやられたって感じでスッキリしませんが」
「ホホ、それにしてもまた年に金一千両とは大きく出たものですね」
苦笑いの寿桂尼に、三浦のオッチャンが嚙み付いた。
「尼御台様、笑い事ではございませぬ。金一千両と言えば銭に直せば途方もない額になりまする」
ん? ちょっと待って、銭に直せばってどういうこと?
「えーっと正俊、金1000両ってお金じゃないのか?」
「仰る意味が良く分かりませぬ。金は金、銭は銭でございます。金一両は重さにして四匁、銭に直せばおよそ二貫五百文になりまする」
んー、ちょっと良く分からない。こんがらがってきたぞ。俺のあいまいな知識では銭1000文で1貫文、銭1貫文と小判の1両はだいたい同じだって思ってたんだけど、勘違いってことかな?
「っていう事は両っていうのは金の重さを表す単位で、銭の単位じゃないってことか?」
「いかにも。相場はある程度変わりまするが、今の金一千両は銭にしておよそ二千五百貫文、とてつもない額でございまする」
うわあ、これはやばい。ひょっとして俺が思ってた1両が約10万円っていうのは銭1貫文の話だったかもしれん。だとすると……2500貫文は2億5000万円! いかん、熱が出そうだ。更にそこへ困り顔のばあちゃんが口を挟む。
「三浦殿、気を付けられよ。相手は信虎殿、しかも京へ上るのじゃ。田舎目ではなく京目でと申して参る恐れが大きい」
「これはしたり。京目とならば一両の重さは四匁五分になりまする。とあらば金一千両は銭二千八百十二貫五百文、三千貫文に近こうなります。殿、如何にしてお支払いになる御つもりでござる」
きたよ3億円。どこの宝くじだ。もういい、知らん。俺のせいじゃない。田舎と京都で同じ単位なのに重さが変わるなんて意味分からん。あの時教えてくれなかったオッチャンが悪い。そういう事にしよう。しかし一つ意外な発見があった。オッチャン数字に強いのね。
――数日後。
「殿、岡部元信が間もなく駿府に到着いたすとの先触れがございました」
朝食後、早川殿と一緒に居間で休んでいると三浦正俊が知らせてきた。いよいよ義元の首が到着するらしい。夢の中で首が喋ったシーンを思い出す。嫌だなー、見たくないなー。
武田信虎を京都に向かわせてからのこの数日で、尾張侵攻軍に参加していた将や兵たちが次々と戻ってきた。彼らは精神的にも肉体的にも相当ダメージを受けていたから、元信の帰還までは休養させていたけどとうとう帰ってきたか。
「では皆で大殿さまをお出迎えしなければいけませんね」
「左様にございまするな。では皆に出迎えの準備を致すよう命じて参りまする」
早川殿の提案にオッチャンが頷いて急いで出て行った。
「では殿も急いでお着替えなされませ」
「うーん、やっぱり俺も行かなきゃダメかな?」
「おつらいお気持ちは良く分かりますが、殿がいらっしゃらなければ皆が不審に思います。ささ、着せて差し上げますからお立ち下さい」
つらいっていうか、首さえ見なくていいならいいんだけど。戦国ってやっぱ厳しい時代だね。結局早川殿に手取り足取り服を着せてもらって準備する。直垂に烏帽子を着けて、化粧はどうするかと聞かれたから断った。
「岡部元信さま、ただいまご到着されたとのことでございます」
「……で、あるか」
小姓の弥一くんこと安倍弥一郎が呼びに来たから、信長っぽく答えてやったけど通じなかったようだ。ただ妙な顔をされただけだった。ちっこい癖にいっちょ前に正装してるのが可愛いね。はあ、気が重いけど仕方ないから早川殿と一緒に迎えに出る。
そこにはもう寿桂尼のばあちゃんや他の家臣も一堂に並んでいる。そこへ城門をくぐって軍勢が入ってきた。先頭には白木の棺桶が輿に乗せられて運ばれてきた。それを見た瞬間皆が一斉に頭を下げて礼をする。あの中に入ってるんだろうなー。絶対見ないぞ、ご飯食べられなくなりそう。
出迎えの儀式も終わり、評定の間に移動する。このまま戦後処理の評定が開かれるようだ。セレモニーではみんなが棺桶を開けてワーワー泣いていた。俺にも「ぜひお父上の顔を見て差し上げて下され」とか言ってきたけど、辛すぎて見ることが出来ないと言って何とか断った。なんか見たらまた喋り出すような気がするしね。俺こういうのは苦手なんだよ。ちなみに遺体の方は庵原忠縁が運んでいたが痛みが酷く、途中の三河で葬ってきたらしい。そこにもお墓みたいなの建てなきゃいけないんだろうか。またお金かかるなあ。
「岡部元信、戻って参りました」
顔の下半分を髭が覆ったゴリラみたいな武将が正綱と一緒に俺の前で座っている。これが岡部元信か。甥っ子の正綱は爽やかな好青年なのに、どう見ても山賊みたいな顔だ。でもよく見ると目はクリッとしていて意外と愛嬌あるかも。
「元信、よく大殿の首級を届けてくれた。礼を言う」
「とんでも御座らぬ。大殿をお救い出来ませなんだこと、お詫び致す。全ては我らが力の無さによるもの、どうぞ存分に仕置きくだされ」
俺の言葉に元信は大声で答えてさらに深々と頭を下げた。
「いやいや、本当に良くやってくれた。元信のおかげで大殿もこの駿府に帰ってこられた。正綱も使いの役目ご苦労だった。元康の様子はどうだった?」
「元康殿は感銘を受けられたご様子で、殿にはくれぐれもお礼を申し上げるように言付かって参りました」
正綱が笑顔を見せた。ほっ、じゃあなんとか松平の件もまとまったってことだな。最初の難関クリア!
「ではこれより評定を始める」
三浦のオッチャンの宣言で、尾張侵攻作戦の戦後処理のための評定が始まった。
いかがだったでしょうか。
順調だと言った途端に詰まって焦ってます。
うう、ストックが減っていく…。
いよいよ次が30話です。
応援よろしくお願いします。