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26話「条件」

※これまでのあらすじ:桶狭間で義元を討った織田だったが鳴海城の攻略には手間取っていた。梶川高秀が鳴海を攻めるがまたも岡部元信によって撃退される。美濃攻略の為にも尾張統一を急ぐ信長は腹を立て、佐久間信盛に対し手段を選ばず鳴海城を落として南尾張から今川を追い出せと命ずる。一方、元信の甥である岡部正綱は主君氏真の命により、鳴海城と義元の首を交換する為の交渉に臨んだ。


昨日でブックマークが1500に到達しました。

本当にありがとうございます。

これも昨日お願いした効果かなw

「氏真公からは何としても首級をお返し頂くように。お聞き入れいただけぬとあらば武によって取り戻すまで、と強く申しつけられております。」


「なんと、再びの戦も辞さぬとの仰せか」


 岡部正綱の思った以上に強い言葉に佐久間信盛は驚いた。だが大黒柱であった義元を失った今、今川が再び戦を起こす余裕があるとは考えにくい。


 ――まず間違いなく口先だけの脅しであろう。


 そうは思うが余裕がないのは織田も同じだ。信長は一日も早く尾張を平定し、美濃攻略に取り掛かりたいと焦っている。万が一にも今川が再び仕掛けて来るようなことがあれば大変なことになる。





「氏真公のお気持ちはお察し致しまする。しかしそう易々とお返しする訳にいかぬのはお分かりでござろう」


 返してくれと言われたから返す、などと簡単に言えるはずがない。義元の首は云わば今回の戦で織田が勝利した象徴(シンボル)だ。それを返したなどと言えば織田家の中で反発する者も出てきかねない。


「それは単にそちらの御都合でござる。今川家中かちゅうでは再び織田を攻めよ、義元公の仇を取れという声が急激に高まっておりまする。それをなんとか押さえておられるのが氏真公ですが、御首級をお返し頂かねばそれも難しくなりましょう」


 信盛の困惑も全く気にしない様子で正綱はきっぱりと言い放った。だが内心はかなりのドキドキものだ。なにせ手持ちで切れる手札カードは鳴海城の1枚だけ、後は全部ブラフなのだから。


 ――殿は織田家は間違いなく交換を受け入れるであろうとの仰せ。叔父上は絶対に引くな、押しの一手だと言うし。ここまで強く出て決裂などという流れになれば、どうすべきなのかさっぱり分からぬ。






「それは脅しでござるか。ただ返せ返せと言われて返せる筈もなし。しかも先の戦に勝ったは我ら織田でござる。もしどうしてもご納得頂けぬとあらば是非もなし。お相手つかまつりましょうぞ」


 信盛も引く訳にはいかない。下手に押し切られでもしたら自分の首が飛びかねない。かといって戦になるのは絶対にマズイ。信長が納得できる形での決着を探るしかない。


 ――所詮はこけ脅し、今川にも余裕はあるまい。ここは意地比べ、我慢のしどころじゃ。互いに戦はしとうないはず、落とし処をまとめねば。


 今川も織田もお互いに戦いたくはない。しかもお互いに相手の欲しい物を持っている。ならば素直に交換してしまえばいいのだが、それがなかなか難しい。二人はまるで喧嘩してお互いに謝るタイミングを計り合っている恋人同士のような状態に陥っていた。


「無論、無条件で引き渡せと申している訳ではありませぬ。御首級をお渡し頂けるなら相応の代償をお支払いする用意はございまする」


「ほう、代償とはいかような」


有体ありていに申し上げまする。御首級をお渡し頂けるなら――我らは鳴海城より退散いたしましょう」


 ――ここが勝負だ。


 唯一の手持ち札を切り、岡部正綱は信盛の目をまっすぐ見つめた。






 ――針に掛かった。


 鳴海城と交換という事であれば信長公もお許し下さるだろう。信盛は内心で膝を打ったが、表情には全く出さない。魚釣りは完全に釣り上げるまで分からない物だ。


 ――それに相手の出した条件をそのまま飲んで、信長公が満足されるか。


 あの信長がそれで良くやったと褒めるとはとても思えない。何とかもうひと押し必要だろう。


「なるほど。首一つの為に城一つを差し出そうとまでのご覚悟、流石にございまする」


「では――」


「いや、待たれよ。残念ながら、恐らく我が主君はそれでは納得致しますまい」


「なんと、何故でございましょう」


「我が主君である信長公は気の強きお方。例え城一つ差し出すとて簡単には首を縦には振らぬでしょう」


「ではどうせよと言われまする。あくまで戦をせんとのご覚悟か」


 ――やはり素直に受け入れはせぬか。


 正綱は内心で唇を噛んだ。こういう勝負はやはり後で札を切る方に分がある。なんとかこの交渉はまとめなければならない。だがこちらにはもう手札が残っていない。


「ではこちらから条件をお出し致そう。鳴海の城のみならず、南尾張に今川が持つ全ての城から引くとお約束下され。さすればこの佐久間信盛、なんとか信長公を説き伏せて見せまする」


 正綱は安堵した。そこまでは氏真の基本方針の範疇だからだ。さらなる話し合いの結果これを基本的な条件とし、双方が持ち帰り確認することとなった。






「首一つで今川は尾張より出て行くか。首なぞ持っておっても何の役にも立たぬ。信盛、良くやった」


「有り難きお言葉、ではこの条件で話をまとめて参りまする」


「話は早い方が良い。次にお主が鳴海へ行く時に首も持って行ってやれ。丁重にな」


「かしこまりまして御座います」


 ――良かった、なんとかご納得頂けたか。


 信盛はホッと胸をなでおろした。


「その男まだ若いのであろう。それにそこまでの権を与えるとは、今川もまだまだ侮れぬというところか」


 信長は上機嫌から一気に難しい表情に変わった。この条件は予め落とし処を計算しておかなければ一介の使者が軽々しく頷ける内容ではない。つまり今川は最初から南尾張を放棄する気でいたという事になる。義元の首と引き換えにするという形を取ることで、国内の好戦派を押さえながら尾張から撤退して見せたということだ。


 ――氏真、蹴鞠狂いの盆暗と聞いていたが油断はならぬ。まあ大うつけと呼ばれた俺も似たようなものだがな。


 結果的には望む形となったが、信長は今川に対しての警戒心を新たにした。






「なるほど、敵もさる者じゃな」


「面目次第もございませぬ」


 鳴海城に戻り岡部元信に交渉の結果を報告した正綱は頭を下げた。当初の予想通りの決着とはいえ、形式上は相手の条件を飲むことになったからだ。だが元信は正綱の予想と違って満足そうだった。


「殿に言われた通りの形で決着したのであろう。ならば良いではないか」


 元信はそう言ったが、正綱としては出来ればもう少しでもいい条件で取引したかった。手札を切るタイミングがやや早かったのかもしれないと思う。そして正綱は氏真の言葉を思い出していた。 


「――いいか正綱(マサッチ)今川ウチがまとまる為に大殿の首級はどうしても必要だ。一方で南尾張の平定は織田にとっての絶対条件だ。だからこの交渉は上手く行くはずなんだ。元信にはそこをよく言い含めて、変な欲を出さずに素直に交換しろと言っておいてくれ」


 ――そう考えれば自分が交渉に行ったのは結果的には正解だったかもしれぬ。この頑固な叔父が行けば余計な面倒事を引き起こしていたかもしれないからな。それにしても叔父が素直に受け入れたのが意外だ。


 これから起こる騒動も知らず、そんなことを考えている正綱だった。

今日はもう1話投稿します。

別日ストックに余裕があるからとかではありません。

この話は続けて読んで頂きたいからです。


…あくまで今日だけですので、明日以降は期待しないでくださいw

20時頃に投稿する予定です。

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