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21話「信虎」

お待たせしました!

本日より投稿再開します。

毎日1話ずつ投稿できたらと思うのですが、どうなる事やら。

またこれから応援よろしくお願いします!


 信虎は見張り台に立ち、押し寄せる軍勢を眺めていた。


「氏真公の使いという方が大門の前に来られております。いかがいたしましょう」


 青い顔をした侍が信虎に伝える。逃げ出したいとはっきり顔に書いてある。


 ――これでは抗いようもない。


「良かろう、会おう。儂の部屋へ通せ」


 その返事を聞いた侍は安堵の表情で走って行った。戦は避けられそうだと判断したのだろう。


 ――この状況で戦も糞もあるか。


 すでに開き直った感のある信虎であった。





「ご無沙汰しております。朝比奈信置にござります」


「おお久しいのう。此度は一体何の騒ぎだ」


 頭を下げる朝比奈信置イヤミに信虎が尊大に応える。


「今川家当主、氏真公の使いとして参りました。信虎様に謀反の嫌疑がかけられております」


「さて何の事だか一向に心当たりが無いが」


 信虎はとぼけて見せた。内心は兎も角、実際何もしていないのは事実だ。


「そうでございましょうな」


 信置も至極当然といった顔でそれに応える。


「儂が謀反を企んでおるというが、何か証拠でもあるのか」


「おそらくございますまい」


 当然だ。何もしていないのだから証拠などあるわけもない。だがそれをあっさり認めるのが解せない。


「なんだと、ではこれは一体どういう了見だ」


「恐らく殿は信虎様を選ばれたのです。今川の基礎を固めるためのにえとして」


 険しい顔の信虎に対し、信置は平然と言い放った。





「つまり何の罪もない儂に策を弄したことを認めるのか」


「罪が無いと申されましても、信虎様の心中はまた別でございましょう」


 信置の目は「あわよくばという色気があった事は分かっている」と言外に告げていた。


「しかし儂は実際何もしておらんぞ」


「将来に禍根を残さず未然に防ぎ、尚且つそれを家中を纏めるために用いる。立派な策ですな」


 ――こやつ、堂々とこれが策であると認めおった。どういうつもりだ。


「先ほど氏真が儂を選んだと言ったな。選んだのは寿桂尼の間違いであろう」


「仔細は存じませぬ。しかし我らを率いておられるのは間違いなく氏真様です」


「あのひ弱な小僧に率いられるおぬしらが不憫よの」


 信虎は意地悪く笑った。だが対する信置もニヤリと笑ってみせる。


「ところがそうでもありませんで」


「どういう事だ」


「それは、ご自身でお確かめになればよろしいかと。殿は信虎様と直接話されることを望んでおられます」


 ――氏真が一体どうしたというのじゃ。こやつの妙に余裕のある態度、気になるのう。


「いいだろう、会うてやろうではないか。氏真にそう申し伝えよ」




 

 ――これが軍隊、これが戦場か。


 俺は武者姿の家臣たちに囲まれて床几に座りながら城を見上げていた。誰かが動くたびにガチャガチャと鳴る金属音と、予想以上に重い鎧がこれが現実なんだと思い起こさせる。雨は降っていないが梅雨時期の蒸し暑さが鎧のせいで倍増だ。ああ、クーラーの効いた部屋が恋しい。引き籠もりたい。


 今回は完全に虚をついて相手に準備させなかったし、実際の戦闘にはならないだろう。でもいつか本物の戦場に立つ日が来るんだろうか。嫌だな、誰かを傷つけるのも自分が傷つくのも避けたい。出来るだけ話し合いで解決したい。これって現代人の甘っちょろい感覚なんだろうか。


「ただ今戻りました」


「信置、どうだった?」


「信虎様はお会いになるとのこと。城の中でお待ちです」


「そっか、じゃあ行こう。徳兼のりかね、付いて来てくれ」


「――御意」


 信置イヤミの報告を受け、僕が徳兼ノリくんを連れて行こうとするとオッチャンが騒ぎ出す。


「殿、二人きりで行かれるなど危険すぎまする」


「そうは言っても俺が言い出したことだからな」


「敵地ですぞ、殿が捕えられては元も子もありませぬ」


「信置、そんな危ない感じか?」


「いえ、信虎様に抗う意志はないと存じます。危険はない物かと」


「では、せめてこの三浦正俊をお連れ下され。殿をお守りいたしまする」


 正俊オッチャンの鼻息が荒い。なんだかやけに張り切ってるな。ははーん、さては朝比奈信置(イヤミ)が使者に選ばれてライバル心で焦ってるな。断ると五月蝿そうだし仕方ない、連れて行くか。


「では正俊も供を頼む。信置、留守を頼む。では行こうか」






 城に入るとあっさり通されてちょっと拍子抜け。三浦のオッチャンは緊張してたけど何事もなかった。俺は徳兼ノリくんもいるし安心してたけど。


「氏真です。このたびはどうも」


「ほう、しばらく見ぬうちにずいぶんと雰囲気が変わったな」


 この爺さんが武田信虎か。出家してるらしく坊主頭で目がギョロッとして、迫力があるなあ。


「化粧をやめたので、そのせいでしょう」


「その物腰、物の言いよう、全く違う。お主まことにあの氏真か」


 なんかこっちの世界に来てから妙にみんな素直に俺が氏真だって信じてくれてたから、こう言われると新鮮だ。転生チートだか何だか知らないけど、変な力が働いてるとしか思えないほどあっさり受け入れられてきたもんな。さて、どうしよう。


「いや大殿が亡くなって今まで通りという訳にも行きませんので」


 説明になってないな。


「すると、義元は本当に討たれたのか」


 え、そこです?


「そうです。もうお聞きかと思いますが、桶狭間で信長にやられて亡くなりました。間違いありません」


「そこからすでに儂を嵌めるための奸計なのかと思うておったが、違うのか。だがそれにしてはお主、落ち着いておるな」


 まあそうなる事は元から知ってたし、会ったことない人だからねえ。


「この戦国の世の中、戦をしたらそういう事も有り得るでしょうから」


「その言いようよ。前のお主であれば泣き崩れて立ち上がることも叶うまいに。それが何事もなかったかのようにさらりと言いおる。確かに戦の世の習いとはいえ、そう割り切れる事でもあるまいにな」


 うーん、そう言われても。今さら悲しい振りをするのもワザとらしいしなあ。


「ふっふっふ。妙は妙だが、まあ良かろう。そろそろ本題に入ろうか」


 あ、いいんですか? スルーしてもらえるのは有り難いけど。


いかがだったでしょうか?

明日も20時ごろ投稿します。

これからどんどん物語は動いて行きます。

応援、よろしくお願いします。

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