10話「夕食」
ブクマ、評価、感想など本当にありがとうございます。
皆さんのおかげでランキングばっかり気になってちっとも執筆が進みません。
冗談ですw
お陰様でやる気が満々です。
でもあまり気にしないようにします。
気にしすぎると書きたいことが書けなくなっちゃうんで。
岡部正綱と蒲原徳兼の二人が頭を下げて出て行き、宿題の続きを考えようとしていると男の子が訪ねてきた。まだ小学校低学年ぐらいだろう、小っちゃいけど利発そうな子だ。
「えっと、名前はなんていったかな」
「殿、わたくしをお忘れになったのですか?」
名前を聞いたら忘れられたショックで涙ぐんでしょげてしまった。あらら、ゴメンよー。
「すまん、何やら一時的に記憶が混乱してる。許してくれ」
「いえ、働きが至らないのです。名は安倍弥一郎と申します。以後いっそう励みますのでよろしくお願い致します」
弥一郎君は年は九歳で、氏真の小姓をしてくれているそうだ。まだ幼いのに目に涙を浮かべながら一人前にちゃんとお辞儀をする。偉いぞ。ボール蹴っ飛ばすしか知らなかった俺の子供の頃とは大違いだ。お父さんは安倍元真という土豪だそうだ。氏真からは弥一って呼ばれていたらしい。
「で、どうした弥一。何か用か?」
「殿、尼御台さまがお呼びでございます。夕餉をご一緒にとの事」
ちょうどお腹も限界だったし、行くことにしよう。宿題で相談したいこともあるし。
「すぐにうかがうことにしよう」
「では先にお伝えしてきますっ」
弥一は急いで部屋を出ていった。おいコラ、そこ廊下走るなよー。
「氏真殿、よくぞ参られました。さあこちらへ」
気が合うことは分かってるんで、もう緊張はしない。寿桂尼ばあちゃんに軽く頭を下げて、向かい合った席に座る。最初から足は崩させてもらう。氏真もちゃんと話せばそんな苦手意識持たなかっただろうにねー。
目の前にはもうお膳の上に晩ご飯が載せてある。もうおなかペコペコだからありがたい。さっそく頂きます。お、魚の干物に味噌汁か、いいね!
「考えはまとまりましたか?」
「分からないことが多すぎて、ハッキリはしないんですが」
俺が箸を握ったまま頭を掻くと、ばあちゃんはニッコリ笑った。
「それで良いのです。一つ一つ考えて参りましょう。まずは織田の事ですが」
「織田は大丈夫だと思います。戦力的にも攻めてくる余裕はないでしょう。齋藤とも問題を抱えていますし」
「そうですね、尼もそのように考えておりました」
「大殿の仇をとかというのは、他の問題が片付いてから考えればいいと思います」
ばあちゃんも頷く。やっぱ同じこと考えてたみたいだな。取り敢えず織田はほっといてOK。
「ではやはり考えねばならぬのは家中の事ですね」
「はい、最大の問題は、三河の松平だと思います」
「ほう、それは何故」
ばあちゃんは少し驚いた顔をしたが、俺に話を続けるように促した。
「もし桶狭間で大殿が討たれれば、三河の岡崎城にいる者たちは織田を警戒して撤退するでしょう。そこへ松平元康が入り当家から独立しようとする可能性が高いと思います」
「それが真とならばゆゆしき事ですね。もしそのようになった時、如何なされますか。直ちに兵を出すか、まずは使いを送り話し合うか」
駿府には松平を始め国人衆や家臣の人質が集められている。元康で言えば屋敷にいる瀬名や竹千代がそれにあたる。話し合うってのはつまり人質を使って脅すってことだが、それぐらいで引く元康じゃないだろう。そもそも夫婦仲は悪いんだし。殺されたらかえってラッキーくらいな気持ちだったりして。
「恐らく人質を使っての交渉は意味がないと思います。それぐらいの覚悟が無くて独立を図るとは思えません。かといってもし兵を出せば、今川と松平は決定的に対立することになります。そうなったら三河の国人衆の大半が松平に付くでしょう。ただでさえ三河の兵は強い。もし兵を出して負けでもすれば今川の家中は大混乱に陥ります。それに――」
「それに、まだ何かあるのですか?」
ばあちゃんは真剣に俺の話を聞いてくれている。本気で俺の夢の話を信じてくれているんだな。
「もしそうなれば、元康はおそらく信長と手を結ぶでしょう。そうすれば織田も松平も後顧の憂いなく戦う事が出来ますから。そうなるとさらに多くの国人衆が動揺し、当家を見限るでしょう。何せ当主が蹴鞠狂いのボンクラですからねえ」
「確かにそれは大変な事ですね。ではどうなされるおつもりですか」
かなり衝撃的な事を言ってると思うんだが、このばあちゃんは極めて冷静に聞いている。さすが女戦国大名、肝が据わってるにも程がある。
ここまでは俺が知ってる歴史的な事実を話したに過ぎない。だがこのルートをたどれば今川の行く先は見えてる。滅亡へ一直線だ。何とか生き残るためにはよほど大胆な策を取らなきゃいけないだろう。どうするか。
「三河を――諦めようかと思います」
「それは手を打たず松平の思うがまま、為すがままにされるという意味ですか」
「いえ、もっと積極的に、こちらから三河を元康に譲ろうと思うんです」
どうせ失うなら有効に使う方がいい。ポイントは家康が今川から独立して信長と同盟するのを防ぐことだ。三河を無くしても、清洲同盟のイベントさえ阻止できれば滅亡フラグはかなり遠のく。
「しかしそれでは却って家中の動揺や反発を招くのではありませぬか。義元殿を討たれ、時を置かずして三河を失うとならば」
ばあちゃんはしばらく考えた後にそう言った。確かにそれはある。文句言う奴、逆らう奴は出てくるだろう。でもそれでも清洲同盟は阻止しないと。なんせその後に大ボスが出てくるんだから。
「俺もそう思います。でも元康はそれだけの危険性を犯しても敵に回したくないんです。まだ若いですが、彼はかなりの人物です。元康を繋ぎとめられるなら、三河一国は安いものです」
「また随分と元康殿を買っておられるのですね」
そりゃ徳川家康だからね。おまけに家臣はキラ星のごとく。知ってて先物買いしなきゃ勿体無いお化けが出る。
「元康を敵に回したくない理由は、織田への対策だけではありません」
「と、申されますと」
「今すぐではありませんが、近いうちに必ず――武田が攻めて来ると思います」
「まさか、甲斐武田は盟友ではありませぬか」
これにはさすがにばあちゃんも目を見開いた。
今日もありがとうございます。
今ちょうどアノ人の登場するシーンを書いているんですが
これがなかなか難しい。
でも頑張ります。




