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幸運なロッソ  作者: 天有酢(テンアリス)
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第7話 帰る時間



「ロッソ――」


自宅でコウが帰りを待つ者の名を呟いた。

昨日までの事が夢だったように彼女の痕跡はコウの家の中には無く、行儀悪く食べた皿の汚れも綺麗に洗い流されて舐め痕も残っていない、使っていたベッドもしわ一つ無くコウがメイクし直しておいてある。


ロッソが持っているものはほぼ何も無く、何かを置いていったことも無い。

強いて言えば遭った時の衝撃とガサツな印象、晩飯までには帰るという言葉をコウの心に残していったぐらいだ。

そんな彼女コウはただただ信じて待つ、出会って一日そこらの間柄だが彼女の役に立ちたい。

彼にとっては助けてもらった分だけじゃなくこれからも手伝いたいと思える存在に彼女を感じていた。



――――――――――――――――――――――――――――――


「ロッソ・・・!!」


岩山の研究所が過去形となろうとしている今現在、グレイが明確に取り乱しロッソの名を叫んでしまう。

いくらロリードの身体であろうとあの規模の崩落に巻き込まれては到底助からない、彼女が望んだ事とはいえグレイが年端も行かぬ娘を置いて言った事を心の中で後悔しかけていた。


「お姉さん・・・いるんですよね・・・あそこ・・・助けてくれた人が・・・!」

「くそっ・・・!!」

少女も驚愕し今しがた話していた人の危機を感じる。

まだ全快してはいない助けた少女を置いていく事になるがグレイはホバーバイクを走らせて崩落現場にある程度近づいて行く。

(ロッソ・・・脱出していてくれ・・・!)

岩山は研究所を覆い隠すように崩れて行き、ずぶずぶと砂の中に崩れた箇所が沈んでゆく光景が遠目から確認でき、それが彼の焦燥と絶望感を深めてゆく。

グレイは無事を祈りつつバイクの速度を上げていくのであった。



そう離れてはいない「元・岩山」にかなり近づいていくとなにやら点々と落ちているものが見えてくる。

白い何かがまばらに散ってたり、二つ重なって見え足りもしている。


「・・・これは!?」


その正体は人、白衣を着た人間、中にいた研究員達だったのだ全員一人残らず外に放られて助かっていたのだ。

その様子からロッソが爆発する前に研究員達を助ける為に外に出ていたという事は察することが出来たが、彼女の姿自体は見当たらない、粗野な面もあるが勝手に何処かへ去っていく風には見えないし、無事に助かっていると信じたいが。

「!っ・・・ロッソ・・・」


グレイがポシェットから取り出した道具の一つ、ロリードである女性を捜索する為に改修品である金属レーダーが反応し、「元・岩山」の方を無情にも示していた。

グレイがその反応に膝をついてしまい、強い罪悪感が彼の心に差し込み、絶望感が包んでゆく。


だがその時、レーダー反応は強くなって行き何かの音が聞こえて来る、何か移動しているような音が、地の底の研究所が今現在も沈み続けている、いや違う、同時に何かが壊されているような音が出ている。


そして音が鳴り止み、レーダーの音を除いた静寂が5秒続いた次の瞬間、

衝撃音と共に何かが地面から飛び出して来たのだ。

グレイがはっと上空を見上げると快晴に重なるように人影が一つ瞳に映っていた、ついさっきまで見ていたそのシルエットこそ紛れも無いロッソであった。

グレイの表情にも思わず笑みが浮かび、脱力気味な身体を立ち上げて彼女を見ていた。

ロッソも何かを抱えつつ得意げな笑顔見せて地へと加速しながら降り立つのであった。




―――休んでいた少女の方へと二人で戻り、合流して岩の上で一息つく。

その際目を離してしまっていた事をロッソからなじられて少女にも彼女にも深く謝り反省するグレイの姿があった。



「いや・・・・・・今回は本当に助かった。ありがとう、ロッソ。今日の事は全て君がいるという幸運だった」

「ははーん♪まあそれほどでもあるけどねー♪」


グレイからの感謝に謙遜せずすっかり上機嫌になるロッソ。その様子をみていた少女も助けてもらった事もあってかつい微笑んでしまう。

「そいやアンタ名前なんての?」

「あ・・・私、・・・ラシャ・・・です」

「アタシ、ロッソ。ヨロシク」

名前を聞かれ、少女は答える。

ロッソの見た目自体は露出度の高い格好をした妙齢の女性と言えるものである為か緊張気味になっており、頬も赤らめていた。


「ロッソ・・・さん・・・、グレイさん・・・ありがとうございます、助けてくださって」

「・・・気にしなくて良い、少し休んだら送らせてもらう・・・・・・それにしてもロッソ、アイツらを爆発前に助けていたのか、お前にとって加害者同然の奴らを」

「んーまあ元々アタシは殺す気はなかったし、ムカつく奴らだけど寝てる内に死んでるってのはどーもね」

ロッソに研究者達の救助をした事に対する疑問に、多少の怨恨もあるが見殺しをするという寝覚めの悪い事をする気にはならなかった事を彼女から聞き、グレイは考える。

当の研究者達は縄で縛られ3人の目の届く位置に転がされており、呻いていたり未だ気絶していたりしている。もっとも非道な研究を単なる依頼仕事だけじゃなく興味深く嬉々として行っていた者達には同情すべくも無い似合いの末路でもあるのだが。


ロッソの話では青い番号無しを撃破後に自爆装置が作動し、爆破するまでに研究所内の全員を一箇所に物理的に集めてから(その際作動させた者に一発制裁したとの事)外に向かって放り出す事を繰り返し最後に何かを取りに向かい、出口にたどり着く前に爆発してしまったようだが爆発時に研究所の地下側のドアの前までは行けたので、崩れ落ちる瓦礫を足場に飛び移り、地上近くで天に向かって蹴りを放ち飛び出してきたと本人が曰く。


時刻はもう夕方近くになり、『砂賊』の情報を貰ってから数時間が経過し日が西に向かって沈んで行く。

今日だけでも色々なことがあり、ロッソは自分の手がかりは掴めなかったがどこか満足感のようなものを感じて空を眺めていた。


「さて・・・そろそろ行こうか」

「あっ・・・はい」

「ん」


グレイがラシャを家まで送り届けるため腰をあげ、ラシャも元気になったのか岩から滑って降り立ち、ロッソも無造作に立ち上がる。


「こいつらどーすんの」

「保安官に連絡を入れておく、『砂賊』の奴らと同じく出るとこには出てもらう」

研究員達の扱いに関しては無論、通報してしょっ引いてもらうようグレイが答え、エアーバイクの方向へと歩いていった。

グレイがバイクに跨り、後ろにラシャがヘルメットをかぶせてもらい引っ付いて座る。


「・・・ロッソ、改めて俺達の元に来て欲しい、出来ればこのまま着いて来てくれないか」

「!」

グレイから突然誘いを受ける、彼が言っていた組織への。

ロッソは一瞬躊躇し、目を背けて口を開く。


「わりーけどさ、そういうワケにもいかないんだよ」

「何か理由があるのか?」

「・・・世話になってんのがいて、アタシが帰るのを待ってんだよ」

自身を案じているであろう存在、コウの事を理由に拒否を示すロッソ。

知る由も無いし彼女をアテにしているグレイはまだ少し粘る。


「だが、君がいてくれればこれからの先の作戦の目処が立ちやすくなる、君の本体もいずれ見つかるだろう」

「・・・なら、ソイツを連れて来ていいなら入ってやんよ」

「どんな奴だ」

「アタシとあんま年変わんない子供だよ、コウって名前。『カンパニー』ってところで一人で働いてる、呑めないってんならアタシは行かない」

「・・・わかった、考えておこう」

「つか一度会ってよ、明後日ジャリーってとこで仕事場だからさ」


本人の預かり知らぬところでコウを連れて行く交渉を行い、考慮と対面だけでもロッソは取り付け、恩も有る為かグレイも承諾する。

ラシャからしたら何が何やらだがもう関係の無くなる話題でも有る為か口は挟まなかった。


「・・・じゃあロッソ、俺はラシャを送り届けてくる」

「うーっす、犯人と思われんなよー♪」

一旦の別れの時がいよいよ来て、ロッソのからかいに対しグレイが鼻で笑って応える。


「あーあと、アレのことなんだけど」

「心配ない、悪いようにはしないさ」

その言葉にラシャが座っている所の下辺りを指差し、ハンドルに手を戻し、エンジンを掛けて走り始めた。

離れて去って行く姿をロッソが見送り、どんどん小さく様子をどこか寂しそうに見届けていると・・・

「あのっロッソさーん!ありがとうございましたっ・・・!!」

ラシャが振り向いて改めての感謝が届き、ロッソは笑って手を振り応えるのであった。


グレイ達が見えなくなった頃、ロッソはどこからか取り出した腕輪を手に取り見つめる、あの番号無しが持っていたものを。



――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ロッソ・・・それは」

脱出直後、ロッソは『ナンバーレス』の首から上と左腕を抱えて出てきていた、

主人に逆らえぬ人形に思うところもあったのかこの二つを持ち出して来ていたのだった。

「なんかさ、なんも出来ないまま壊れんのはねえって、持ってきちゃった」

それを見たグレイはロッソの気持ちを汲みとったのか、

それとも何か考えがあるのか頭の方を手に取り、バイクの方へ運んで行く。

「あの子にはこれは心臓に悪い、ウチのチームに見せてどうにかしてみよう」

そういいながらバイクのシート下のケースに頭部を入れ、隠すよう入れる。


「こっちは?」

「それは君が着ける、元々ロリードの武装の一つだから君の身体にも適応するはずだ」

「ふーん・・・」


――――――――――――――――――――――――――――――――――


そういわれていたことを思い出す。

腕輪に関しては左腕から外し、ラシャを不穏がらせないよう仕舞っていたのだ。


ロッソは意を決して腕輪を思い切り自身の右腕の方につけてみる。

「・・・おお!」

その感触は・・・腕輪が僅かに自動で変形し、驚くほど彼女の腕にピッタリと嵌りもはや昔からの私物のように馴染んで彼女の体の一部となって行く。

ロッソが少し力を込めて右腕を構えてみるとそれに呼応するかのようにあのアームエッジが展開し、鋭いその刀身を輝かせていた。


「ふんー・・・」

悪い気は全くせず、新たな力を得てまた少し満たされた気分になった後、そろそろコウの元へと戻ろうとしたその時、上空を何かが飛びまわっているのに気づく。


「・・・あ?」

さほど離れていない高度と距離に丸い球体、いや、眼球のような機械が彼女の方を見ており、警戒をすると目が光り、サーチライトのようなものでロッソを照らし始める。


「なんっ・・・だよ・・・っ!?」

その光はロッソの肢体を舐め回す動きで観察するように動き、ロッソ自身もいい気のしない行為に困惑し、動いても離れずに追い回してくる。

「・・・・・・このっ」

近くの小さい岩を手に掴み投げつけるもひらりと眼球機械がかわし、観察を続行していく。

さらに苛立って飛び上がって蹴りをかまそうとするもこれまた回避されて至近距離での観察を許してしまう。


「キミ・・・でかしたぞ・・・」

「ええ、順調に『スキャン』できております」


ロッソと眼球機械からやや離れた距離で、監視とバイタルチェックの両方を押し付けられていた研究員が一緒に縛られている中年研究員に褒められていた。

眼球機械の正体は『スキャナー』で、研究員達が縛られている状態でも作動できるよう声紋起動仕様にしてある為、頃合を見計らって作動させロッソの『スキャン』を許してしまっている。


「くのっ!・・・」

ロッソが格闘するも攻撃が当たらず、素早い動きで翻弄する、そしてついに――

「ああっ!!」

眼球機械が光を出さなくなりその場で粉々に自爆してしまう。

他者を巻き込むような物ではなく自身のみを隠滅するように塵と化して行った。


「スキャン完了です・・・他の方々全員に情報が行き届いているはずです」

ほくそ笑み、スキャンした情報をこの場にいない者含め研究者全体に行き渡らせた事を告げる。


距離的にロッソの耳には届かないはずだが、勘付いたのかロッソが研究員達の方を向き、悔しさと憤怒の眼で睨んだ。


「ひっ・・・」

「しっ・・・死んだフリをするのだ・・・」


意識の残っている研究者一同は怯えて縮こまる他無かった――。




――――――――――――――――――――――――――――――――――



所変わってコウの家。

もうじき日が暮れて夜になろうとしている時間帯、コウは部屋の中で特に何もする事が無く、じっと部屋に縮こまっていた。

時折溜め息をついてしまうも何も変わらない、ビジョンを点ける気にもならないただただ彼女の帰りを待っている。


「ロッソ・・・そろそろ晩御飯作っちゃうよ」

この場にいない相手に向かっての言葉も何かを変えることは無く、虚しく部屋の中に響く。


暗くなってきた部屋の闇がうつらうつらと眠気を誘い、目を閉じて眠りに落ちようとしていたその時、

家のベルが鳴り、現に引き戻す。

「はいっ、はいっ!!」

大慌てでコウが飛び出し、玄関へと向かってドアのロックを解除し扉を開けてその姿を目にしたのは・・・

「どうもコウ君、注文の食料品お届けに参りましたよー」

「ああ・・・どうも」

注文していた食料の配達員だった、注文していたが、望んでいた「者」ではなかった。

「えーと合計金額が760ギリーですねー」

「・・・・・・ごくろうさまです」

金額を提示され所持しているタブレット操作によるクレジット払いを行い、サインを記入しコウは適当にねぎらってドアを閉め、ロックを掛ける。


溜め息を再度つきつつ食料箱を台所まで持って行き、またソファーに座って天井を見上げる。


「考えてみればロッソは・・・ベルなんて鳴らさないか・・・はは」

彼女の性格を分かったいたような口ぶりで呟き、意気が抜けたのかまたうとうととしてくるコウ、

目を瞑り、眠りに落ちようとしていると、


がたんっ、と上のほうから音が鳴りまたコウが起き上がる。


階段を上って2階に行き、周りを見渡してみてみるが誰もいない。

屋上の方かと梯子の方を振り向くと、天井扉が開かれ、すたっと家の中に降り立って来た者がいた。


「うーっすコウっ、飲むもんちょっといれてくんない?サボテンジュースでいいからさ」

「・・・うんっ!」


帰りの言葉も、迎える言葉も無かったがお互いに安心できる時が戻ってきたのだった。





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