第6話 灰色の男と番号無し 後編
ロッソとグレイ、二人が研究所の層まで下り、
即席研究所のドアの前に着いた直後、ドアの横に同時に壁を背にするように立ち、内側から出てくる存在の死角へ隠れる。
グレイが6秒程様子を伺うとロッソが壁に耳を当て物音を探り、
内部から此方へと来る者が無い事を手を横に振ってサインする。
確認したグレイが頷きポケットから何処からか拝借してきたのかカードキーを取り出す、が、直後ロッソが今度は壁に向かって指を刺しツンツンといった仕草を見せる。
すぐにカードキーをしまい、隠れつつ臨戦態勢になり警戒を行う。
そしてドアが横に開かれ・・・
「はあっ、クソッ!さっきのでようやく一体か・・・ブゲッ!」
「!?・・・おいどうしガッ・・・あが」
ノルマらしき事を愚痴りながら一人の研究員が出てきた直後にロッソがエルボーを瞬速で喰らわせて気絶させ、ついて来ていたもう一人はグレイが頭蓋を絞めて失神。
既に女の子が捕らわれている事がまず確認できた。
研究員達は階段の陰に放り、グレイとロッソが身を屈めながら移動し物陰に隠れつつ侵入を開始する。
「こーいう時、もうばれてんじゃねーの?」
「分かりきってる、気にせず行くぞ」
軽く言葉を交わしながら進んでゆき、目に見えている扉を手当たり次第二人がかりで探り始めた。
――「保管室」
突入し室内をパッと見ると起動しているモニター数台と機材と思しき物がすみに透明ラップをかぶされて置かれており、「何」を保管しているか分かり辛い空間が広がる。
ふとロッソが天井の方に目を見やると女性が力なく下着姿でぶら下がっている事を確認する。
「成程・・・作り置きって訳か」
その言葉にロッソがぶら下がっているものが「中身」の無いロリードの身体であることを理解し、気分を悪くする。
「安心しろロッソ、モニターを見てみたがどれにも「入る」予定は立っていない、依頼主の要望通りの見た目のお人形を先に作って保管してあるだけだ、後は望みどおりの性格の女の子を入れるだけなんだろう」
「・・・それでもキモイッつーの」
嫌悪感を感じつつとりわけこの場所の用が無いことを確認し、部屋の外に出て迅速に隣の部屋に潜り込む。
――次に忍び込んだのは「休憩室」・・・と思われる名称プレートの無いやや広い部屋、8台しかない楕円のテーブル、内部に機材等が余り無く、パック状食品や飲料が部屋の一角に積まれ、古い型の『眠気覚まし』メーカーが置かれているところからグレイが察す。
「こっちだ」
入り口から一番遠いテーブルの陰に二人が身を潜め少し小声で話し始める。
「監視とかついてねーのこの部屋」
「いや、ここにもさっきから通ってきた道にカメラはあった・・・が明らかに俺達に気づいていないのは流石に気になる、この手の場所にありがちな未登録者自動認識の警報システムも無いようだ」
「ザルな作りじゃね~?」
「導入出来る人員が限られているのは知っている・・・考えられるのは、「それ(ザル)」か、監視室に誰もいないか、あるいは『カメラを見る暇も無い程忙しい』か」
「なんか思ったよりはムズく無くない?」
「ココに関しては急ごしらえの上立地も良くないから、俺達にとって好条件が重なったんだろう」
なんだか呆れの感情も混じってくるロッソに対し、グレイに関しては少しも安心、拍子抜けのしていない険しい表情で腰の銃に手をかけていた、お互い隠れている場所がやや滑稽に感じるが。
そうしている内にドアが開かれる音と共に、研究員が3名程入ってくる。
「・・・全く女の子の性格指定なんて面倒な・・・13未満の娘なんかどれも一緒だろうに」
「いやあ、流石にそんな・・・まあ出来上がったらもう下っ端の僕らは関与する必要ないし」
「起動後のチェックは上がやってくれるから気が楽だよな、ハッハ」
下級の研究員達が要望された女の子について愚痴り、部屋の中で休憩を取ろうとしていた。
(!・・・)
(・・・既に作業に入る直前か・・・)
入り口の研究員達も話していた「一体目」の愚痴、さっきので誰かが囚われて、攫われた日も今日であることが分かったが、さらにこちらの者達の言葉で「手遅れ」ではないことを確信する、が、時間も余り無い事も同時に確認する。
(急いだほうがいいな)
グレイがロッソに合図を送り気を逸らすよう命じ、それにロッソは疑問に思う事無く頷き、帽子をとってフリスビーのように投げつける。
「・・・たっ、ん・・・えっ?」
音もほぼ無くに勢いに乗って一番後ろ側に立っていた男に当たり、驚く。
「ん、どうし・・・だあっ!?」
「ガッ・・・」
他の研究員がカップを持ったまま反応した瞬間横から銃、パラライザーの弾丸を直撃させ、
二人の研究員が地面に這いつくばる。
「なっ・・・あ・・・げっ」
帽子を当てられた奴は困惑している内にロッソに背後からどつかれ、気を失って倒れる。
「行くぞ」
グレイが部屋から出ようとした時、痺れている研究員の一人が力を振り絞って白衣の胸ポケットに手を入れようとする。
ロッソはそれに一瞬早く気付き背中を小さくジャンプして踏みつけ、研究員が呻きをあげて失神する。
胸ポケットをロッソが弄ると大きいボタンのついた装置、リモコン式の警報機であることを確認し、ボタン部分を押さないよう破壊した。
「すまん!」
「うっす」
油断しかけたグレイが謝罪し、ロッソが軽く返す。
周りを再確認するともう一人の痺れている研究員は警報機を落としたようで手をその先に伸ばしていた。
「! ロッソ、そいつもだ」
「ぐっ・・・うっ・・・・・・・・・あっ」
「わっりーね」
此方はグレイが先に警報機に気づき、ロッソ蹴ってリフティングで手中に収められ、
目の前で破壊されてしまいついぞ侵入者の情報を伝えることが出来なくなってしまった。
「だっっっ・・・!!」
意気消沈した最後の研究員も念には念をいれてロッソがチョップを喰らわしてノビさせ、グレイと共に足早に部屋を去った。
残っている部屋は一つ、一番遠くに造られている箇所、そこが作業を行っている場所と信じて二人はロックの掛かったドアの前に立ち、「実験室」とプレートがドア付近にかけられている。。
ロッソが先に入ると合図してグレイが頷き、意を決して扉をフルパワーで蹴破り中に飛び込む。
入った瞬間目に入ったものは四角い間取りの部屋の壁の上側にに投影された大きいモニター映像3つ、「部品」として扱われている少女とロリードの身体の情報、もう一つがロッソでは理解できない各機材の計測している情報のグラフ、そしてもうひとつはこの研究所の監視カメラの映像だった。
次に二つの台があり攫われた少女とロリードの身体がそれぞれ寝かされ周りにある機械とチューブ、ケーブルを大量に繋げられいかにも実験の途中という様子であった。
最後に、突然の破壊音に部屋に居た研究員達が豆鉄砲でも食らったような顔でロッソの方向を見ていた。
研究員達は入り口や休憩室にいた者より大体が2、30歳程上の年齢に見え、上級の存在であることが一応伺えた。
「なっ・・・あっ・・・えっ!?」
一人の研究員が監視カメラ映像とロッソをそれぞれ二度見して信じられないような顔をしており、どうやら製作に夢中で監視室も兼ねておきながら監視カメラを気にする事も出来なかった様だ。
「なっ・・・そんな、侵入者だとッ・・・小童どもめなぜ気づかんかった・・・!!」
「君、監視カメラを見ていろと言ったではないか!!」
「すっすみません・・・ですがこちらのバイタルチェックも見ていろと言われて・・・」
(・・・グレイの言ってたパターンの3つ目かよアホくせー)
初老、中年達が他人の所為にしつつ内輪揉めしかけた様子にロッソは呆れ溜め息をついた後、その隙に構えて突っ込んで行く。
驚いて対処も出来ない研究員達を手刀で、うめき声さえあげさせずに地に突っ伏させ、適当に機械を蹴飛ばして壊してゆき、ロリード側に繋がれたチューブも引きちぎって行く。
「く、くそっ・・・」
監視カメラとバイタルチェックを同時に押し付けもとい任されていた比較的若い研究員が腰元から銃を抜いて構え、ロッソを狙う。
「がっ・・・!?」
自分の見ていない方向から不運にも痺れるような一撃を受けてしまう。
グレイがパラライザーによる援護射撃で彼に恨み無く一撃を喰らわせたのだ。
これにより研究員達は粗方ダウンさせられ、グレイが女の子に駆け寄って彼女に繋げられているチューブ等を外し抱きかかえる。
今にも身体を移し変えられそうだった子を助ける事ができたのだ。
「よし、もう用は無い、脱出しよう。・・・作戦成功だ!」
グレイが先程までより高揚した風に任務成功を告げる、もっとも作戦らしい作戦など無いのだが。
ロッソもどこか嬉しそうに笑みを浮かべ、二人でドアの方へと向かう。
「ぐ・・・う・・・」
背後で一番年老いて見える研究員が受けた一撃が浅かったのか意識を取り戻し地を這い台に向かう。
残ったロリードの身体のいる方だった。
「く・・・これを・・・使うとは、思わなんだ・・・」
なんとか台に掴まって立ち上がり、震える手でポケットから小型の電池のような機械を取り出し、ロリードの方の首裏に取り付ける。
機械が作動し、奇怪な起動音を立てて何かが飛び去るような音がロッソとグレイの背後から聞こえ、二人は振り向く。
だがそちらには研究員達「しか」いなかった、そして――
「お早うござイマス、ご主人サマ、ご命令ヲドウゾ」
愛らしくもどこか抑揚の無い声がさっきまで向いていた方向から聞こえ、正面を向くと実験室のドアの前に立ち塞がるように女性が立っていた。
そいつはロッソと同じくらいの外見年齢、やや幼げな顔つき、髪や目の色は水色がかった青色で、起動直後のロッソのような露出度の高さに負けず劣らずのプロポーションを持っている。
左腕には銀色の長い腕輪がとり付けられていた。
「ソイツ等を・・・始末しろッ・・・生かして帰すな!!」
先程の研究員がしわがれて息も絶え絶えの怒鳴り声で女性に命令し、屈みこむ。
「かしこまりマシタ、ご主人サマ♪」
女性は命令を快諾し次第少女を抱えたグレイを狙い、彼の反応の出来ないスピードで突っ込む。
直後強い衝撃音が響き渡り、気づくとロッソが反応して女性の手を掴んで止めていた。
「ロリードになんの止めたんじゃなかったの!?」
「いや、違うロッソ!こいつは恐らく『ナンバーレス』、ロリードより前に発案者様が考えた完全な奉仕人形だ!」
ロッソの疑問に怯まず答え、グレイが女性に対しロリードよりも前に考案された奉仕目的、主人の命令には絶対服従な忠誠心を持ったAI仕込みの機械人形『ナンバーレス』である事を伝える。
「ロリード」が番号を割り振られて居る為便宜上名付けられ、こちらはこちらで開発が続けられている代物である。
(もっとも、ロリードになる予定だった身体に何かして『ナンバーレス』に変えるなんてのは初めてだがな・・・!)
グレイは苦い表情で後ずさり、本能でロッソに頼らざるを得ない事をひしひしと感じる。
ロッソは『番号無し』となった彼女をじりじりと押し、隙を上手く突いて膝蹴りを浴びせ距離を離す。
「グレイ、先行って!助けんでしょそいつ!」
「!・・・ぐ・・・しかし」
ロッソが乱暴に先に脱出を促すも、グレイは躊躇ってしまう。
離された『ナンバーレス』がすぐに体制を建て直し再度グレイに向かうもまたロッソが食い下がる。
「いいから行けっての!」
「・・・ッ!すまん・・・!」
乱暴な気遣いを汲み、「少女」にこの場を任せる事に苦しみつつ部屋の出口へと走った。
「なりマセンッ・・・・!」
グレイのいる方向をなおも突撃しようとロッソを押さえつけ左手を伸ばすもロッソがその度に掴みかかり、身動きを取れないでいた。
「ぐヌウッ・・・!!」
『ナンバーレス』が何としても命令を遂行すべく、左腕の腕輪からなんと刃、アームエッジを変形展開させ、本来主を守る為のボディガード機能をロッソに対して仕留めるべく不意打ち気味に斬りかかる。
だがロッソも間一髪で左腕を自身の右手の握力で止め、互いに膠着している。
「ロッソ!!」
「大丈夫だっての! 必ず戻っから!!!」
走りながら横目で見ていたグレイが声を上げ、ロッソが無事に戻る事をさらに大声で返し、ついにグレイが部屋の外へと脱出する。
「!!・・・・・・アアアアッ!」
最優先の始末対象から明確に逃げられ仕組まれた思考が怒りを表わして目の前のロッソを抹殺対象に切り替える、自身に組まれた身体能力スペックを思考し、手早くロッソを倒せば直ぐに追い着けると判断し、挑んできた。
直後、ロッソをアームエッジで斬るというより力で弾き飛ばし、すっ転ばさせる。
「オアアアアアアアアッ!!」
雄たけびを上げて突っ込んで来てから改めてアームエッジを渾身の力で振り下ろす。
だが、その時にはロッソの姿は消えており、空振りに終わって『ナンバーレス』の思考に「ラグ」が発生する。
ロッソは回転を加えながら敵の上空に舞い、相手が気づかない一瞬に回転力を込めたかかとを落とし『ナンバーレス』の左腕を切断する。
思考が戻った時にはもう遅い、ロッソに気づいて振り向いた直後身体を渾身の手の突きで心臓部を貫かれると同時に多大なエラーが『ナンバーレス』のAIを駆け巡った。
造られた身体は挙動不審に震えた後、床に頭を打ちつけて倒れたのだった。
――――戦いが終わった直後、
ロッソは溜め息を突きながら立ち上がり、ロリードになる予定だった『ナンバーレス』を見下ろしていた。
「ゴシュ・・・ジン、サマ・・・メイ・・・レイ、ヲ」
打ち所が悪かったのか主の命令を待つ状態にリセットされており、うっすらとした笑顔を浮かべ先程までの怒気は消え失せていた。
造られた偽りの心だったが、ロッソは憐憫の目で見つめ、
奉仕人形としても役割を果たせず、終わりを迎えてしまった彼女の姿を柄にも無く哀れんでいた。
センチな気分になっていたのも束の間、けたたましいサイレンが鳴り、アナウンスが流れる。
「自爆装置が作動しました、間もなくこの研究所は爆発されます。職員の方は退避をお願い致します」
実験室内が赤く点滅し、ロッソは辺りを見回し、
『ナンバーレス』を起動させたのと同一の研究者が這いずり、壁際のパネルについていた自爆装置を作動させていたのだ。
「くく・・・仕舞いじゃ・・・証拠は残さん・・・爆破と同時にすべて地中深くまで崩れ落ちる・・・」
最後っ屁と言わんばかりに研究員が自棄になってこの先起こる事を口にする。
「ゴシュ・・・・・・ジ・・・サマ・・・」
なおも命令を待つ彼女にロッソは再度憐憫の目で見た後、自身が切断したアームエッジの左腕を掴み手に取る。
その後高くジャンプし、研究員の目の前に降り立つ。
「ひ・・・・・・・・・お前・・・やはり『777(スリーセブン)』か・・・さっきの戦いで番号が見えたが・・・むしろその能力で確信出来たわ・・・」
ロリードだと気づいていた研究員、だが今はそんなことはどうでもいい。
ロッソは左腕を持ったまま彼を侮蔑の眼差しで見下ろしていた・・・
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――研究所からやや遠くに離れた位置にて。
「ん・・・え・・・・・・お兄さん・・・誰?」
昏睡させられていた少女が目を覚まし、視界に入っていたグレイに気づく。
介抱されていたが、その身体は上手く動かないでいた。
「気づいたか・・・、俺はグレイ、君を仲間と共に助けに来た」
「助け・・・あっ・・・私ッ・・・!ケホッ」
自身が町の裏道を通った際に何者かに口を塞がれ、意識が沈んでいくことを思い出し、
少女はパニックを起こしそうになるが本調子ではない体が幸か不幸かそれを止める。
「まだ動かないほうがいい、俺もここで仲間を待ってる、すぐ来るはずさ」
「なかま・・・ですか?」
「ああ・・・そいつのお陰で君は助かったと言っていい位だ、俺よりずっと頼りになるお姉さんだ」
グレイはロッソの手柄であると主張するように話し、少女も聞いていて僅かに安心感が芽生え始める。
「女の人なんですか・・・?」
「ああ・・・名前は・・・ッ!!?」
突如轟音が鳴り、大地が揺れている事に二人は驚き、身を寄せる。
一瞬の揺れだったが、グレイが辺りを見回すと・・・
「!!!・・・・・・」
研究所の岩山が音を立てて崩れ、その形を無くして行く光景が映っていた。
「・・・ロッソ・・・!!」
グレイの叫びが、砂漠にこだました。




