第10話 インプリスティン
――移動式潜砂艇「アングラー」内部。
コウはグレイに連れられて艇内を案内して貰っていた。
その間にロッソは別室へ連れられていた。
なにやら円柱型のカプセルのような物に白衣を脱いでから入れられ、緑髪の男が離れた位置で機械を弄り何かの準備をしているのがロッソからも見えていた。
「ねーシャワー早くしてよー」
「もうちょい待つんですナ」
カプセル内に水を出す穴が無い為傍目から見てもシャワーで身体を洗うようには見えないがロッソは理解しておらずせがみ、緑髪の男は適当に返事をして待たせる。
「・・・OK、準備完了ですナ」
直後、カプセル内が光り天井から円形の光の線がロッソを頭から足の先まで通り抜けて行った。
「へ?終わったの?」
「はイ」
一瞬で終わったロッソのシャワータイム、準備が遅いと思ってたらあっという間に終了する流れにロッソはぽかんとしながら男に聞いて即答されてしまう。
カプセルのドアが開きロッソが不満気に出てきて、男が近くに置いていた彼女の白衣を持って近寄り受け渡す。
ロッソは白衣をいつものようにマントよろしく肩に纏い、頭を掻いて溜め息をつく。
「そーいやあんたなんてーの」
「ベルデともうしまス、ここの技術屋をやっておりまス、お見知りおきをロッソさン」
「ふーん、ヨロシクベルデ」
声を聞いた時から胡散臭い口調の男の名はベルデ。
名前を聞いたロッソは適当な挨拶を行い、近くにあった椅子にどかりと腰掛ける。
「そんでさ、カラダそんな綺麗になった気しねーんだけど」
「そりャそうですヨ、シャワーなんかじゃありませんかラ見りゃわか・・・どワっ」
勝手な勘違いをしてベルデにロッソが近寄って詰め寄る、暴力をふるう気はないようだが仮にも女の子ロッソからしたら本物ではないとはいえ綺麗に出来ないのは我慢ならないようだった。
「いやそノ、最初からそういうイミではなくてですネ、ロッソさン『サーチャー』に身体を見られたって聞きましテ、研究者側にデータが渡らないようにする為の洗いなんですヨ!」
「!・・・アタシの事がジジイ達に渡らないようにしてくれたワケ?」
「既に調べられた部分はどうしようもありませんガ、『サーチャー』に認識されないよう施しましたんデ、もうこれ以上は向こうに現在進行でロッソさんの情報は渡らなくなりましタ」
ロッソはベルデの言葉に表情が柔らかくなり、白衣を翻して後ろを向いて部屋を出て行こうとする。
「ベルデ、ありがと」
「へ・・・いヤ、いえいエ、このくらいハ」
シャワーを浴びれなかったことは不問にして礼をベルデに言い、彼の方も謙遜してロッソについていった。
廊下に出て二人は歩いて行く。
「そーいやコウどこよ」
「グレイさんに連れられて艇内の見学ですナ、しっかりみてる感じでしタ」
「ニセホアンカンってのはどしたの」
「グレイさんは意識有る奴だけで良さそうにしてましたガ、念の為全員捕らえて身包み剥いで閉じ込めておりまス」
ぶしつけなロッソの質問ラッシュにベルデは動じず淡々と彼女の欲しい回答を返す。
「ふーん・・・じゃ最後、ココの組織名って」
「『インプリスティン』、ですナ」
「どーいうイミ?」
「自然のままに、ですナ」
「へぇ~・・・」
組織名に深い意図があるかどうかは聞かずにロッソは納得したような返事をして、質問を止めてあえてベルデに追い越して貰いまだ分からない場所の道案内を無言で任せたのだった。
「うわぁ・・・・・・」
一方、コウは操縦室を見学していた。
自分がまだウワサだけは聞いて見たことも運転したこともない未知の乗り物の内部を見て感嘆の声を上げていた。
計器類がせわしなく動き、レーダーやモニターから音が鳴り、四人程の人員がパネルを操作し、最後に後ろ側に一人操舵士とグレイとコウが立っている。
「こんな大きいのに設備を積んで動かしているなんて・・・」
「自分で言うのもなんだがかなりの骨董品だ、外装は切り貼りパッチワークしている所も有る、敵方の最新金属レーダーが認識できないようにステルスコート加工してはあるがな」
「リーダーを筆頭にこつこつ資材集めて、技術屋を上手くノせて完成させたんですよね~」
グレイの説明に操舵士の青年が軽く補足し上機嫌にレトロな形の舵輪を回して行く。
「これで別地区へ移動していたりするの?」
「ああ、ただ多くの人が使う検問から遠く離れた岩壁地帯からの遠回りかつ不法通行になってしまうがな」
「地面の下まで伸びてる柱のせいでね~、無茶できないけど特別おそくなるこたぁないよ」
合法ではない移動の方法に若干考え込んでしまうコウだったが、ロッソと同じ境遇の娘達を助ける事を考えると非合法には非合法をというスタンスには一応納得する。
なにしろ研究者側にロリードを注文している捻じ曲がった金持ち連中の厄介事の揉み消し上手さを考えると強引かつ掠め手で行かないと成果も出せないのであろう。
「そろそろ夕飯の時間だな・・・手伝ってくるか」
「あっ・・・」
「ふふふ」
突如コウがお腹から音を出し、気づいたグレイが気を回し操舵士が笑う。
グレイだけ部屋を出て調理に向かい、コウは操舵室に残りアングラーの前方を写すモニターを眺めていた。
「コウくんだっけ、どう?つまらないでしょう、ほとんど地中の砂と岩くらいしか映りませんからねぇ~」
「いえ・・・こういう潜砂艇のモニターと考えるとちょっとドキドキします・・・」
「ふぅんそう感じるかぁ」
「遺物とかは見つかったりしないんですか?」
「あ~あるけど集めずにのけてるよ、『カンパニー』側に遺物の収集率が下がって不振がられると困るからね~」
「なるほど・・・」
料理が出来るまでの間、操舵士との会話を楽しみ少しだけ舵輪を触らせてもらったりもしたのだった。
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夜20時半頃、ダイニングルームで複数のテーブルを囲んでロッソ、コウを含めた十数人の組織メンバーが集まって食事を取ろうとしていた。
ワイワイガヤガヤといった雰囲気で料理を自分の所に運び席に着く、気のせいか足早にロッソと隣接する位置に着席する者達がいたがさすがにコウには横隣を譲られていた。
ロッソの露出度の高さを考えると気になるのも無理はないかもしれないが。
「ゴホン!」
皆が食べ始める前に座っているメンバー全員を見渡せる位置でグレイが咳き込み注目させる。
「みんなに知らせた通りだがこの度、一時的になるかもしれないが新メンバーが加入した、そこに座っている二人、ロッソとコウだ」
グレイからの紹介に預かり、コウが立ち上がる。
「あっそのっ、コウです!『カンパニー』で働いていまして、ロッソと短い間ながら暮らしていました!よろしくお願い致します!」
緊張気味に話し、手短に自己紹介を行う。
ロッソの方はというと既に料理にがっついており聞いていなかったようだ。
「ロッ、ロッソ!ほらロッソも自己紹介して!」
「むぐ?・・・んぐっ!う――――っす!!」
コウからの呼びかけに気づき、口の中の物を飲み込んだ直後挨拶しながら勢い良く立ち上がる。
「アタシ、ロッソ!!いろいろあってアンタ達ン所に世話んなるから!どーなるかしんないけどヨロシクっ!!」
豪快かつ簡潔な紹介と加入経緯を話し、周りのメンバーが微笑ましげに笑ってくれていてコウもホッと安心する。
「という訳だ、それともう一人、こっちは正式加入ということになっている、ロッソも見てくれ」
さらにもう一人加入者がいると聞きそれは知らされていないのかメンバーの大半がどよめき、ロッソも名指しで呼ばれて反応する。
グレイがモニターの方を向き一同を注目させると、映像が表示される。
「はじめまして皆さん、シアンと申します。以後お見知りおきを」
「んぁ?・・・あーッ!」
映し出された存在、水色がかったその髪色と幼げな顔立ちの女性に見覚えのあるロッソが思い出し声を上げて驚く。
「ロッソ、知り合い?」
「あーなんかそのグレイと居たときにちょっとね」
ロッソは説明を面倒くさがるが間違いなく地中の研究所にて一戦交えた『ナンバーレス』の姿がそこにあったのだった。
「取り付けられたメモリーデータと思考をベルデに修復させてAIにさせてもらった、身体部分は流石にどうしようもなかったが保管はしている」
「どーモ」
「私に出来ることがあればなんなりとお申し付けくださいね」
「ひひっ♪」
復活した経緯と改めシアンの以前とは違う流暢な口調にロッソも嬉しそうに笑う。
「シアンはこれから先の突入、戦闘に対してのアドバイザーになりうるはずだ、出会いはロッソと同じく偶然だったが心強いパートナーになるだろう、では諸君食事を続けてくれ」
「乾パ――イ!」
「音頭はとってないぞ」
正式に加入するかは決まっては居ないが仲間入りを祝してメンバーが乾杯する。
グレイからの突っ込みにどっと笑って料理を食べ始める。
既にロッソは2皿目の品に手を付けて美味そうに食べており、その様子にコウがずっと思っていた疑問を口にする。
「そういえばロッソはどうして食事が取れるんだろう・・・」
「んん・・・そーいや腹も減るし、食べれば力も湧くカンジするけどわかんねーや」
ロッソ自身も分からずに思うがまま食事を取っていた様子にお互いにハテナ浮べているところにグレイが前側の席に座る。
「ロリードの機体番号No.201までは旧型と呼ばれ、食事をとる必要がある造りと聞いている」
「それならアタシがメシ食えるのおかしくね?」
「うん、ロッソは『777』体目だからその旧型には当てはまらないはず」
グレイの説明に二人は食い違っている所を指摘していると今度は3人に近い席に居るベルデが話に加わる。
「確かにNo.202以降は新型と呼ばれ半永久機関が体内に搭載されてますかラ、おかしいですナ。ただロッソさんの身体をを調べたんですが旧型と同じ食物消化エネルギー機関が搭載されておりましたナ」
「え~なんだよアタシ新型じゃねーの?」
「いエ、他の箇所の造りの精密さかラ新型の中でも群を抜いた性能ではありますナ、ただエネルギー機関は旧型と同様なので食事を取らないト・・・」
「とらないと?」
「信号維持が出来なくなり身体も頭も働かなくなり機能停止しまス、実質の「餓死」ですナ」
「!!!!」
「ですのでロッソさんはどうぞ食事を取り続けてくださイ」
「なんでそんな造りにしやがったあのジジイー!!」
突きつけられた事実に二人は驚き、ロッソが喚きコウがどうにか落ち着かせようとする、他のメンバー達もどよめいていく。
「お、落ち着いてロッソ、食べ続ければ死なないから!その、そうなった心当たりとかはある?」
「あ~!!・・・え~とぉ」
記憶を手繰り、自分の身体がどんな扱いであった事を思い出し、老科学者の声をよみがえらせていく。
「ジジイがカイハツサイショキから居たとかいってたぐらいしか~」
「ふム・・・ロッソさんは記念品と聞いていますから初心に帰るつもりでそうしたんでしょうかナ」
「げぇ・・・」
真実は分からないがベルデからの科学者のこだわりとしてありそうな予想にロッソが気分悪そうに舌を出す。
自身の身体が趣味嗜好の塊であることを改めて痛感し、少し押し黙りコウが励まそうとした時に料理をやけ食いし始める。
「むぐっ・・・元々ハラペコだったからいいよ、食いまくってやる!!おかわりっ」
「はは・・・」
辛い事実に手ひどい精神的ダメージを負った風には見えず、コウは安心した意味で苦笑いし、食事を続けるのであった。
―30分後、大体皆腹が満たされ、持ち場の交代や一服する為に別の部屋へと何人かは移動している。
ベルデも自分の仕事が有る為かすでにダイニングルームには居ない。
ロッソはスピードはまだ緩まってきているがまだ食べており、まだデザートにも移行していない様子で肉にかじりついており、コウとグレイはその様子に冷や汗をかきながらドリンクを飲んでいた。
「んっく、そーいやグレイ、ラシャは?」
「ああ、無事に送り届けられた」
「ロッソとグレイが助けたって言う女の子?」
「そうだ、彼女の母親に一瞬犯人と疑われたがな」
「ひひっ♪」
ラシャの無事を聞いて、ロッソが笑い、コウはロッソ伝いで聞いていた情報で会話に加わる。
「グレイ、この組織はいつから活動しているの?」
「・・・科学者連中に居場所と命を奪われた仲間が居たというのもあって結成された」
「えっ・・・」
「集まっているメンバー自体はもう10年以上前になるか、その時は貧しい集落の集まりだった。生きる為に懸命に働いたり売れそうなものを探したりして食い繋いでな、やがて大きくなって俺が10代後半になる頃には有る程度集落全体に僅かに潤いが出てきた頃に、集落の娘が一人攫われた」
「その子は!?」
「数日後に帰ってきたさ、変わり果てた姿になってな、ロリードの身体を得て戻ってきていた。」
グレイの語りだした過去を懸命に二人は聞く。
「最初は誰なんだとどよめいたが、その子の母親は心で理解していたのか自身の娘だと分かって向かっていったんだ、だが・・・」
「・・・?」
「その子は集落内で暴れた、科学者連中が操り戦闘能力のテストとして住んでいた所を破壊し尽くしてしまったんだ」
「!!・・・そんな」
「自分の意思とは関係なく止めようとした同じ故郷の仲間達を薙ぎ倒し、手に掛けていってしまったんだ。その時の表情は俺達に逃げて欲しいと言わんばかりだった・・・」
「その子のお母さんは!?」
「その人は俺が庇ったのもあってか辛うじて一命を取り留めた・・・だが打ち所の悪かった他の奴らは・・・」
凄惨な過去をグレイはそれ以上続けず、察して欲しいという態度を取りコウもロッソも黙っていた。
「生き残った面子で結成したのがここというワケだ、皆で資材集めや情報収集をコツコツ積み重ねたり、小さい頃から機械を弄っていたベルデの尽力もあってそれなりに動けるまでには成長した。二度とあんな事を起こさせないよう誓って今の俺達がある」
経緯を一通り話してドリンクを啜り、落ち着いた様子に戻るグレイ。
コウは同情、ロッソは脱いでいた帽子を深く被って黙っていた。
「君達を繋ぎ止める権利は無い、次の作戦には参加してもらうことになるがその後は君達で決めていい」
念を押すようにグレイは二人に話しかけ、その場を立って去ってくのだった。




