第9話 「仮加入」
「そーいやさ、アンタと別れた時になんか目玉みたいのに身体じろじろ見られたんだけど何かしらねー?」
「えっ!?」
「・・・それは、マズイな」
ロッソの発した言葉にコウもグレイも驚き、困ったような反応を見せる。
「ん?なになにマズかった?」
「うん、マズイよ・・・多分それ『スキャナー』だと思う、『カンパニー』でも使われているから」
二人の感じている事態の大きさを理解していない風な反応のロッソ、知らないことだから無理も無いのだが。
『スキャナー』は捉えた標的の主にスペック中心の情報を登録済みの組織全体にその情報を浸透、把握させる為の機械、研究者側のそれがグレイと別れた直後のロッソを捕捉されてしまったのだ
「恐らくロッソ、もうお前の事は研究者側全体に知られてしまっている・・・」
「あー・・・アソコの奴ら皆のしとくべきだった?」
「そうだったかもしれん、あるいは俺がアイツらを直接保安官達の元にしょっぴくべきだったか」
研究者達への対応に今更後悔の念が押し寄せるも話し合っている場合でもない。
とりあえず今は組織アジトへと進んでいくのであった。
―――20分後、『ジャリー』地区からそろそろ別地区に切り替わろうとしている地点にて、トラックが停止する。
急停止気味だった為コウは眠りかけていたところをハッと起きて周りを見回す、
呑寝転がっているロッソと食料等以外は見当たらなかったが。
「なっなにっ!?」
「地区の境界線毎に有る検問だ、安心しろ中身を直接改められる事は無い」
スピーカーでグレイの言葉が響き、検問の言葉に少し緊張し身を固めるコウと、聴いていないのか帽子を顔に被せて寝転がっている。
検閲門に勤めている中年がスピードを緩めてやってくるトラックに声を掛ける。
「どうもー、食料品は無事届けられたかい」
「ええ、ちょっと遠くの町でしたが依然問題はありませんでした」
「ふむふむ・・・ちょっといいかね」
グレイの返答後中年がなにやらスティック状マシンを取り出し、コンテナに向けて光を出し中身を「検査」する。
コンテナの中でコウは両手で口を塞ぎ、物音を立てないよう縮こまっていた。
「・・・ナマモノと金属の反応があるがこれは」
「ああお恥ずかしい、こちらミスで頼まれていない物を積んでしまったんです、おまけにケースから中身が零れてしまったようだ、すみません」
「ふむ・・・そうかね・・・気を付けたまえよ、行ってよし」
「ありがとうございます」
グレイが心にも無い演技で嘘をつき、検問をまかりとおる。
「・・・・・・少し飛ばす」
だが直後険しい表情でトラックを加速させ、北東地区へと進んでいく。
「ぷはっ・・・どうしたのグレイ、不味いことでもあった?」
「・・・お前達を迎えに行く際の「行き」では中身にまでは聞かれなかった、手が早いようだ」
「!!」
異変に勘付いた質問にグレイが今回の「戻り」での違いを答え、コウは不安を募らせるのであった。
「・・・ええ、そのトラックが、怪しいかと・・・」
通り過ぎて一分もしない内に、検問の中年が静かに誰かへと報告を行っていた。
北東地区、『サラスナ』へと一向は入り、進行している。
「コウ、いきなりのしくじりですまない、さっきの件にロッソの落ち度は無い。俺がもっと柔軟に対応すべきだった」
「いーってそんなの、アタシがジジイ達シメてりゃよかったんだって!」
庇い合いの言葉が飛び交い、コウは自分の知らぬ所で起きた事ある為口出しも出来ずロッソとグレイの居る運転席の方向を交互に見ている。
「つーかこのままイったらアジトやらが見つかっちまうんじゃねっ」
「それは承知している、みつけられるのならな」
「?」
アジトの特定の危険性に関してはなにやら自信の有る答えをグレイが返し、トラックを加速させていく。
意図自体は不明なその返答にコウとロッソは顔を見合わせハテナが浮かぶ。
そのまま速度を上げて砂漠地帯を疾走し続けること5分、コンテナ内の入り口が突如透け後ろの様子がロッソ達から見える様になる。
「ステルスモードに切り替えておいた、こんなこともあろうかとな、すまないが後ろの様子を見てくれ、もし誰か来てもコンテナ内のお前達は見えないマジック加工もしてある」
「えっ、うんっ!」
「はいよっと」
グレイからの指示に従い二人は構えて後方を見る。
コウは右方、ロッソは左方を担当し入り口前まで近づいてなるべく遠く見渡す。
「・・・ああ・・・すぐ近くだ・・・頼む・・・任せた」
スピーカーからグレイの声が聞こえるがこちらに対しての指示ではなく誰かと話している様子だった、二人はそれに対しては質問を投げかける事無く確認を続ける。
指示が来てから2分後、コウの視界に何かが写り伝えられる。
「・・・!!来たよ!遠くでまだ分からないけど・・・」
「ロッソ、コウの見つけたヤツを確認してくれ!お前の眼なら見えるはずだ!」
「へいへいっと・・・・・・・・・サカナァ?」
ロッソがコウの方向に移動し彼を抱え、コウが発見した存在をロリードの機能として造られた遠視を行い、確認した追跡者の姿を伝える、ただしそれはロッソの幼い知識では知りえない砂を飛び泳ぐ巨大な『魚』の姿があった。
「『砂跳魚』か、なら安心だ」
グレイがほくそ笑んだような口ぶりで呟き、トラックの速度を緩めていき距離を寧ろ縮めていく。
やがてその姿がコウからもハッキリと見え、『砂跳魚』に騎乗している者の姿が見える。
きっちりしたジャケットとシャツ姿でロッソが被っているようなハットを深く被った保安官といえる見た目の六人組の男達が近づいてくる。
「そこの止まれ、止まらんとしょっ引くぞお!」
拡声機でこちらへの呼び止めに減速し、素直に従うようにトラックを停車する。
直後に『砂跳魚』に乗った男達に囲まれて運転席から外に降りたグレイが対応する。
「なにか・・・御用でしょうか」
「いやなに、見慣れない会社のトラックと聞いたんでちょいとね」
「こっちの方角を真っ直ぐ進んでもトラック倉庫も町もありませんぜ、なしてこんな所に」
「積荷の中身が飛び出ちまってるとも聞いてるぜぇ」
男達がグレイに対して言葉を投げかけ、コウは手で口を覆い再び押し黙りロッソは帽子手を当てて深く被ったまま待機している。
「独自のルートなんです、企業秘密なんで言えませんが・・・」
「ほーん・・・秘密ねぇ・・・・・・そんじゃあ積荷の中は改めてもいいかな?」
「ええ、それは構いません」
グレイの中身確認の許可にコウは中で汗が噴出し震えを起こす、対してロッソは目つきを鋭くさせる以外に変化は無く落ち着き払っている方だった。
「・・・ところで保安官さん達・・・『ラクダ』はどうしたんですか?」
「ん・・・・・・・・・ああ、今日はコイツらをたまたま使ってるだけさ」
「まあとりあえず中身みさしてもらうぜ」
グレイの問いに一瞬間が空き、適当な返しがされ、別の男がコンテナの扉に近づく。
「ええ・・・・・・とても活きがいいので気を付けてください」
そう言いながらリモコンロックのドアを解錠し、
「・・・行け、ロッソ!!」
「ッ!? ぶわっ!!」
合図と共にドアがぶち破られ、ドア前にいた男の顔に渾身の膝蹴りが叩き込まれる。
「なっどうした!?・・・ぐわっ!!」
グレイが至近距離に居た男に肘打ちを喰らわせ地面に組みふす。
ロッソの近くに居た男達は腰から取り出したパラライザーを向け放とうとするもロッソがハイスピードで動き回り視界に捉えることも出来ず、一撃一撃を重く叩き込まれ昏倒させられる。
「ぎああっ・・・!!」
「げあっ!」
「こいつっ・・・がっ!」
六人中四名が既に地に這い蹲り、異変を察したのか待機していた『砂跳魚』達もロッソに向かって立ち向かって行った、が、即座にロッソは右腕を唸らせ、得物であるアームエッジを展開させる。
大きく口を開き噛み付こうとしている所を一閃、ロッソが右腕を振るうと頭部から胴体まで一瞬でバラバラの切り身と化し、無残な姿へ変えられる。
「おりゃああああああああああああああ!!」
既に攻撃に入っている後続の『砂跳魚』も自制することが間に合わず、ロッソの咆哮と共に犠牲者と同じ運命を辿る事になった。
「くそっ!!」
残る一人の男がグレイに向けてパラライザーを放つも既に組み伏せていた奴を盾にして回避し、動揺させる。
「キサマっ!・・・がッ」
「とーう!」
粗方自分の所を片付けたロッソが上機嫌なステップを加えた蹴りを後頭部に叩き込み、残る男を沈めて着地する。
「すまん」
「いいっての」
「!」
軽い交し合いの直後残った『砂跳魚』が不意打ち気味にグレイに向かって飛び掛るもロッソがあらかじめ予知していたように難なく斬り捨てられる。
コンテナ内で縮こまっていたコウが顔をおそるおそる出し、周りを見渡すと男達が数人倒れ、魚肉片が散乱しているのが見えて身体を固めてしまう。
「コウ!おわったってーの!出てこいよー!」
そんな時にロッソから身を解せる言葉が届き、周りを注意しながら外に降り立つ。
戦闘は確かに終わっており、見知らぬ大人達が気絶し『砂跳魚』がロッソによって切り身にされている事を理解する。
「あ・・・えっこれ!」
「ふわぁ~どしたコウ」
倒れている男達の格好を見て驚愕するコウにロッソが欠伸をしながら近づく。
「この人達、保安官じゃないか!!こんなことしていいの!?」
「へ・・・」
コウは半ば怒り気味にグレイに対して叫ぶ。
各地区毎にいる保安官、彼らこそが治安を守る保安官であり、
彼が言うには白いスカーフに紋章入りのジャケットがそれであることを表していた。
流石にロッソもマズイ事をした風に感じて口に手を当てて目を逸らしてしまう。
「ふ・・・」
グレイはなぜか余裕の表情を浮べて髪の乱れを直していた。
「ふじゃなくてさあ!」
「安心しろコウ、こいつらは偽保安官だ」
「えっ」
予想外の答えが返ってきて怒りと焦りの感情が吹っ飛ぶ、まさかの偽者であるとのこと。
「最初に『砂跳魚』であることに安心していたろう、今の保安官達は性能面から『速駱駝』にしか乗っていない、『砂跳魚』にも乗っていたのは俺がガキの頃までだ。つまり今『砂跳魚』に乗っている奴らはほぼ確実になりすましたならず者って訳だ」
「そ、そうだったんだ、ごめん」
「気にするな」
「んー?」
保安官の区別を語るグレイに再度驚き、責めかけた事を反省するコウ。
ロッソは住んでいるところが辺境だったのと知識が無いせいか理解が出来ていない様子を見せた。
「服はそっくりに何処かが仕立て上げ、パラライザーは横流し品を買い、『砂跳魚』は何処にでも居るから捕獲して飼いならし後はグループを作って適当にたかって奪いにいけば良し。」
「本物の保安官が『ラクダ』オンリーになった事、知らなかった・・・」
「無理も無い、その喚起が一般に広がったのが中央区だけで、他地区の小さな町にはまず伝わっていない。結果これ幸いとそのやり口を始めた奴らが散り散りになって別地区に移動し目立たぬよう行動していたようだ、『砂賊』も同じ手を使うらしい」
「ビジョンやラジオには報道されて無かったのかな」
「当時から被害があったからか注意喚起を促していたが俺が成人になる頃、中央側がもう浸透されていると思ってかコマーシャルも放送され無くなったな」
「ほおほお」
ロッソが理解しているようでしていない相槌を打ち、腕を組んで感心した風に頷く。
対して偽保安官の情報を理解したコウはこれから注意しようと心に決める。
「う・・・うぐ・・・」
話している内にグレイに組み伏せられ、パラライザーの盾にされた偽保安官が意識を取り戻す。
「お、どりゃー」
「待てロッソ、コイツには聞きたいことがある、恐らく研究者側と接触しているはずだ」
「ういっと」
気づいたロッソが完全に気絶させようと飛び上がって蹴りを叩き込もうとするもグレイに制止され、ロッソが静かに着地する。
「それじゃあ、アジトにまた向かわないとね」
「いや、ちょうどもうすぐ来るはずだ、アジトがな」
「えっアジトが・・・?」
不可解な発言を聞き、先程グレイが通信かなにかで話していた事とコウの頭の中で繋がりはするがアジトが来るという発言は理解できない。
「・・・来た、こういうことさ」
グレイが不敵に笑うと地面が揺れ、砂の下から何かがせりあがり・・・
ばぐぅ
気付いた時には何かに『喰われ』、訳の分からぬ内にどこかに落ちていく感覚をロッソと一緒に味わった。
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「・・・ウ」
暗闇の中、声が聞こえ、誰かを呼んでいた。
「・・コウ!・・・コウってば!」
自分の名を呼んでいる、聞き覚えがある声だ。
そうこれは・・・
「コウってば!起きろってのっ!」
ロッソの声だ。
目を開けると彼女の扇情的な身体が目に入りコウに覆いかぶさるようにマットの上で四つんばいになっていた。
「うわあっ」
「あーよかった、そんくらいで気絶スンナっての」
思わず飛び起きるとロッソが回避するように横に座り、呆れ気味にほっとしてくれた。
「手荒な真似ですまなかったな」
「どーもどーも切羽詰まってそうだったんで一気にやっちゃいましたヨ」
寝ていた部屋の入り口側にグレイと緑髪でゴーグルをつけた青年が立っており、豪快な手段でこの場所に連れて来た事を謝罪してきた。
「ここが・・・アジト?」
「ああ、移動式潜砂艇型アジト『アングラー』へようこそ」
「潜砂・・・って事はホントに動くアジトなのっ!?」
アジトが来るという意味がようやく分かった、グレイの言葉通り砂の中を泳ぎ移動するアジトだったのだ。
「さてロッソ、君をまず洗わせてもらおうか」
「んあ?シャワーでも用意してくれてるワケ?」
「まあそんなところでス」
グレイの言葉と青年の言葉から何かしらロッソのイメージしている事とは違うのは分かる。
コウは起き上がった場所を見回していた。
「コウ、君にもこの中を案内しよう、『仮加入』だからこそしっかり確認して言って欲しい」
「!・・・うん」
グレイの言葉に改めて気を引き締めてコウは頷く。




