鮭の旅
秋、満天の星空の下、1組のつがいが卵を産んだ。
生涯の役目を終え、力尽きた2匹は、川を流れた。
それから時が経ち、冬になった。
たくさんの卵のうちの1つが動き出す。力の限り身体を震わせ、外の世界へ出ようとする。しかし、目の前の柔らかいものが行く手を阻む。
鮭が突撃を続けるうちに、やがて尾が出て、そして世界へ飛び出す。かつて守ってくれたものを振り切って。そうしてKは生まれた。
それからさらに時は流れ、春になる。Kの親から貰った栄養も少なくなり、邪魔なものが小さくなって身体も軽くなった。兄弟達も無事生まれて、近くを泳いでいる。そろそろ虫を食べるべきか。Kがそう思っていると、ちょうど良く虫が流れてきた。これはチャンスだ!そう思ったKは、虫へと近づく。虫を食べようと口を開けるが、虫はKの口をするりと避ける。腹が減ってきたKは再び捕食を試みる。今度は成功して食べ物を手に入れた。
そろそろ旅立つ時だろうか。Kがそう思って兄弟達に話すと、皆で旅立つことになった。翌朝、K達は緩やかな流れを通り故郷に別れを告げる。絶対にもう一度ここへ帰る。その思いを胸に抱いて。
しばらく進むと急に流れが変わった。流れに沿って進むと、滝が現れた。もう引き返すことは出来ずに水と一緒に落ちていく。みるみる川底が近づき死を覚悟した時、水のクッションがKを受け止めた。Kは気絶した数匹の兄弟をおいて先へ進む。
やがて川辺の木々が消えた所へ到着する。夕日が綺麗だ。その人間の声を聞いて近くの岩場に隠れる。今日はここで休もう。そうしてKは眠りの中に落ちていった。
そうした日々が数日続き、ついにK達は海にたどり着いた。
それから3年の月日が流れ、Kは日本海に帰ってきた。長い旅の間に多くの仲間が命を落とした。雨が降っている中、河口が近づいて来た。もうすぐ河口にたどり着こうかという時、仲間の1匹が網にかかった。Kは慌てて避けるが、一部の仲間が避けられずに引っかかる。
しかし、Kはそれに気づかず河を登る。しばらく登ると、行く手にダムが見えてきた。下る時は落ちるだけだったが、今は登らないといけない。さらに進むと河の端に道が見えた。壁があるようだが、あれなら登れそうだ。そう思ったKはそこへ行き、上からの流れに渾身の力で抗い続ける。最後の一つを登った時、空が晴れた。
日暮れまで進むと、疲れてきた。何処かに丁度いい岩場はないか。しばらく進んだ所で見つけて休む。翌朝、もう一つのダムを目指して進む。
そうして進んで故郷へ帰ると、鮭はその生涯最後の役目を果たす相手を見つける。必死のアピールの結果、2匹は結ばれると、子孫を残して息絶える。そうして鮭はこの星に還っていく。
そして、卵は動き出す。