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2. 俺様勇者!

 勇者協会コルペ支部一般退治課の出勤簿にわたくしの判子がまた一つ多く押されてから、30分が過ぎました。


 わたくしは、ツバラ洞窟の前に立っていました。

 奥からは生ぬるい風が吹いてきていました。その風に、血の匂いも混じっていました。奥に棲む巨大蜘蛛に食べられた犠牲者のものでしょう。


「なんまんだぶ、なんまんだぶ」


 洞窟の入り口で、わたくしは手を合わせました。


 それが終わると、腰に下げた剣のつかに手を置きました。


「よし。行くぞ」


 洞窟内に踏み入ると、昨日、ユリアン・ソードから借りた「戦いの手順簡易マニュアル」の18ページ目に載っていた「巨大蜘蛛を退治する方法(洞窟編)」の内容を思い出しました。


《巨大蜘蛛を退治する方法(洞窟編)……①洞窟の奥へと進む。注意点:洞窟内は地面も天井も空気もじめっとしている。気味悪く感じるが、勇気を振り絞ること。》


「勇気を振り絞る……。勇気を振り絞る……」


 マニュアルの内容を復唱しながら、わたくしは洞窟の奥を目指していきました。


《巨大蜘蛛を退治する方法(洞窟編)……②しばらくすると、暗がりに二つの金色の光点を発見します。それは、巨大蜘蛛の目です。つまるところ、目が合った状態なので、確実に相手は襲い掛かってきます。注意点:蜘蛛の糸を吐いてきたら、必ず避けること。》


 マニュアルどおり、洞窟の奥に進んでしばらくすると、金色の光点を発見しました。ヒカリゴケと間違っていないか確認するためにランタンを翳した直後、光点がわたくしに接近してきました。巨大蜘蛛です。


 距離30メル(とある世界では30メートルと称するそうです。)の位置まで近づいてきたとき口から白い糸を飛ばしてきたので、左に飛びのいて避けました。


 その間に、巨大蜘蛛はわたくしとの距離を5メルまでに縮めていました。


《巨大蜘蛛を退治する方法(洞窟編)……③1メルまで引き付けたら、蜘蛛の背中に飛び乗りましょう。跳躍力に自信がないときは、縄などの道具を活用すること。魔法を使う方法も推奨します。》


「エア!」


 飛行魔法の呪文を唱えると、わたくしは眼前に迫っていた巨大蜘蛛の背中に素早く飛び移りました。


 巨大蜘蛛は獲物が自分の背中に飛び乗ったことに気づいて振り下ろそうと暴れましたが、わたくしは、しがみついておりました。しがみつくことは、組織内で給金をもらって生きる身分になってからかれこれ20年ほど鍛えておりますので、お手の物です。いや、撤回しますね。お手の物じゃなかったせいで、賢者の地位から落っこちちゃったのでした。


 ま、そんなことは今は置いておいて、マニュアルの続きです。


《巨大蜘蛛を退治する方法(洞窟編)……④巨大蜘蛛が動き疲れて緩慢になったら、剣で胴体を突き刺しましょう。毒を持っているタイプだと返り血を浴びると危険なので、剣を引き抜いたらすぐに背中から飛び降りで、蜘蛛からできるだけ距離を取りましょう。マントで口元を押さえておくこと。もしくは、事前に対毒用の薬草やマスクを準備しておきましょう。》


 対毒用マスクは、勇者協会の総務係から貸し出してもらったものを、洞窟に入る前に既に装着していました。


「あとは、剣を振るうのみ!観念しろ、巨大蜘蛛よ!」


 勇者に転職したときに、町の武器屋「キング工房」で自前で調達した、使い勝手抜群の剣を巨大蜘蛛の背中に突き立てました。


 剣を引き抜くと傷口から緑色の体液が吹き出したので、それが体にかからない内に、わたくしは離れた場所に避難しました。


 巨大蜘蛛はしばらく絶叫を上げていましたが、じきに動けなくなり、どざりと土煙を立てて地面に崩れ落ちました。目から光が消えました。息絶えたのです。


「倒せたのか・・・」


 呼吸を整えながら、巨大蜘蛛が再び起き上がってこないことを確かめました。

 それから、剣を鞘に納めると、わたくしは洞窟の入り口に戻っていきました。


 外に出ると、太陽の光が優しく体を包み込んでくれました。

 周りの木々からは小鳥のさえずりが聞こえてきます。


 ふぅ、とわたくしは安堵をもらしました。

 それから、両手こぶしを晴天に向かって突き上げました。


「あっはっはー!巨大蜘蛛倒したぞー!賢者の頭脳をなめんなよ、勇者どもめー。初陣から4日目でこんなに鮮やかに怪物討伐がお前らにできたかー!?できなかったろう!“俺様”にはそれができたぞ!マニュアル本を読めば、ざっとこんなもんよ!この大賢者さまを今まで馬鹿にしやがったことを、恥じ入るがいい!ひゃっほー!」


 周りに誰もいないことを良いことに、わたくしはありったけ勝利に酔いしれました。


 どうやら、勇者として今後も生きていけそうです。


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