3. 勇者レベル0だということを学びまし
見上げると、青い鎧に身を包んだ、精悍な顔つきの金髪青年が、黄金の剣を振り上げてこちらに跳躍してきていました。
常人離れしたジャンプ力。すっげー!
この金髪青年、昨日までわたくしを指導してくださっていた勇者先生の一人で、ロイ・タビットという名前だったと記憶しております。どうやら、わたくしの無様なゴブリン討伐を見ていられなくなって、加勢しに来てくれたようでした。
「コルペ街道で旅人を食らうゴブリンどもよ、滅びるがよい」
ひらりとわたくしのいるゴブリンの輪の中に降り立ってきたロイ先生は、剣を構えると、目にも止まらぬスピードでゴブリンを次々と切り捨てていきました。
この処理能力、どうなってんの?ドーピングでもしてるんじゃないの?
気がつくと、先生は、何十匹もいたゴブリンを全て一掃していました。
「す……すごいですね。ありがとうございます。助かりました」
わたくしは、剣を鞘に戻している先生に後ろから声を掛けました。
肩越しにくるりと振り替えるロイ先生。金髪が風に靡きました。
仕草まで、完成された勇者です。
先生はゆっくりと口を開きました。どうやら、わたくしにゴブリン討伐の手解きをしてくださるようです。
「今のように敵をうち滅ぼしてください」
「は、はい」
手際が良すぎて、何してたかさっぱり分からなかったけど。
「わたしの見せたこと、分かりますよね?」
「いえ……それが……」
正直に、先生の見本が早すぎて修得できなかったことを伝えました。ただし、ありのまま伝えると、先生の指導を非難していると受け取られそうだったので、口ごもったような言い方になってしまいました。
それが、いけなかったようです。
「あぁ、分からなかった。そう。ま、おいおい修得できますよ」
あれ?先生、待ってよ。何だか、こちらが全面的に駄目みたいな言いぶりするね。
そりゃ、一目で理解できなかったのは情けないと反省しておりますよ。でも、流星のようなスピードで動かれたら、習ってる側には、頭が追いつかねーっての。
しかも、理解できていないようだからって、「おいおい修得できますよ」ですと?
生徒が理解できていないようなら、もう一度、同じ動きをしてみせてやるべきでしょうが。そこにゴブリンがいると見立てて、エア討伐してくんないかな。
だけど、わたくしの望みは叶えられるはずもなく、タビット先生はさっさと立ち去っていってしまいました。
きっと、忙しいのに、わたくしが討伐に出掛けたと聞いて、心配して来てくださったんでしょう。
教え方が下手くそだなんて、失礼な感情を抱いた自分が不細工だと、反省しました。
そして、数時間後、勇者協会コルペ支部にわたくしは戻りました。
「明日は、コルペ山のツバラ洞窟に出没する巨大蜘蛛を退治してくるように」
直属上司のレオナルド・カックーウ氏が、帰還を果たしたばかりのわたくしに命じました。
また、死地に赴けというのですか?
はい。そりゃ、勇者だから当たり前なんてしょうけど、今のままでは、餌になりに行くようなものです。
餌にはなりたくない。しかし、食べられないで済む方法が思い付きません。
「頼んだぞ、ファルナーくん」
「はい。お任せください」
自らの本心とは裏腹に、わたくしはカックーウ氏に頷いてみせました。
素直に引き受けてる場合じゃないだろ、アルフレド・ファルナー。
コルペ街道のゴブリン討伐で、勇者の能力が皆無だと思い知ったばかりじゃないか。今度も先生が駆けつけてくる保障はないんだぞ。
「このアルフレド・ファルナー、命に替えても、ツバラ洞窟の巨大蜘蛛を倒してみせましょう」
嗚呼、もうどうすりゃいいんだ。




