本当にあったかもしれない妄想世界
都市伝説。
誰もが一度は耳にした事のあるような不可思議な現象を、誰かが面白おかしく脚色した、一種の創作物のようなもの。
どうやら最近、またそんなのが流行っているそうで、掲示板には都市伝説スレが山ほど立っていた。
そんな記事を眺める俺、今年で18歳。つまり高三っつー年齢。
ん?俺の特徴?そうだなー……。
モテない冴えない部屋から出ない。
そんな三拍子をリズム良く頭で奏で、自分でダメージを負う。
ヒキコモリに3000のダメージ!
やめて!俺のライフはもう0よ!
…………何やってんだろ。
目の前では、目に害悪なブルーライトがチカチカと発光している。
あ、ごめん嘘。ブルーライト超サイコーだわ。だってゲームできる。
そのブルーライトの発生源であるデスクトップ。
皆のグー○ル先生を閉じ、別のウィンドウを開く。
そこでは今日も──美少女達が俺に愛を語りかける。
『んもぅ、[主人公の名前]が起きないからぁ、私が起こしにきちゃったんだゾ♡』
「……うっわ」
あ、今ちょっと声に出ちまった。
ヘッドホン越しに聞こえる甘ったるい声が耳の中を飛び交いキーンと鳴る。
この美少女ゲー……エロゲーな。うん。言葉を飾ってごめんなさい。
部屋を片付けた際に、いつ買ったのかわからないこのエロゲーが飛び出してきてちょーっと電源をオンした次第でして。
そのまま丸三日、ゲーム三昧……エロゲー三昧なのである。
だが。
「あぁ……ダメだ。この甲高い声を俺の脳が受け付けない……胸焼けする……」
といった具合に消化不良を起こしている俺である。
そのくせ丸三日、寝ずにプレイしている。
本当、何やってんだろ。
これでも昔はそれなりにモテていたはずなのだ。
彼女だっていた。
何がどうなって……こうなったのだろうか。俺にはさっぱりだ。
さて、ここいらで俺の名前を語ろう。……え?興味ない?んじゃいいや。
どうせ、これからも俺の名前を誰かに語る日なんて来やしない。
来るとしても、それは何十年も先の事なのだろう。
「…………」
カチ、カチとマウスを鳴らし、ゲームを進めて行く。
一体俺はこの生活に、何を見出す気なのだろうか。
その答えは知っている。
というか、答えは……ない。
ただのうのうと怠惰を貪っているだけ。それが俺。
そろそろゲームも全CG・BGMゲットの全キャラ攻略完了。
そして、ついにその瞬間が。
『CG・BGMコンプリート こんぐらっちゅれーしょん!』
「……ふぅ」
丸三日を費やし、全クリ完了。ちょっとした満足感に浸る。
終わったエロゲーはさっさと部屋の奥へと投げ込み、デスクトップに残ったファイルには鍵をかける。
たまにある人が勝手に覗くのだ。今回のようなゲームはあまり他人には見られたくないのが高校生男児の心境である。……はず。
まあ他人とは呼べない間柄なのだが。
これまた丸三日付けていたヘッドホンを外し、蒸れた髪の毛をわしゃわしゃと振る。
そしてもう何度目かわからない、それを口にする。
「──本当、何やってんだろ」
「なー、ちか」
「んー?なぁにー?」
夕焼け空をバックに歩く高校生二人。
一人はその長めの黒髪を無造作にかきあげ、肩にバックを提げている少年。
一人は夕日に反射し綺麗に輝く、赤みがかった茶髪を高めの位置でポニーテールにして、両手で手提げ鞄を持っている少女。
二人は今年高校に入学した一年で、そろそろ入学して半年になる十月の終わり。
少年は、夕焼けと言えば秋、といった偏った知識から、今は秋かー、などと呑気なことを考える。
「ちかって俺のこと、好き?」
「おー。好き好き。ちょー好き。好きすぎて食事も喉を通らない」
「……なんか、嘘くせえ」
にへらにへらと笑う、ちか、と呼ばれた少女。
少年はわかっているのだ。少女が、少年で遊んでいることを。
そう、これは戯れ。嘘っぽく聞こえるのもそのせいだ。
だがそれでも、高校生男児としてはそれなりに揺れざるを得ない。
「……なんか、嫌なこととかあった?」
「……?なんで?」
少年の質問の意味がわからないといった風に、キョトンと小首をかしげる少女。
あーもう、いちいち可愛いな……。
この少女がいれば、もうなんでもいいや……。
「……あのね。このくらいがちょーど良いんだよ」
唐突に喋り出した少女の声に耳を傾ける。
「あんまり強く好きになっちゃうと、互いのために身を滅ぼしちゃうんだ。だから、これでいいの。これくらいの緩さが、ちょーど良いんだよ」
少女の言葉はやけに重く、俺にのしかかる。
少女の前の彼氏は、どういった経緯があったのかは知らないが……死んでいる。
交通事故ということになってはいるが、少女が必要以上に感じている責任感が、本当は交通事故なんかじゃないんじゃ、という気にさせる。
本当に、ただの交通事故だったのか。
考えるも、答えは出ない。
そもそも、なぜ少女は冴えない少年なんかと付き合っているのか。
多少とは言えども、そこに異性に対しての好意はあるのか。
何も、わからない。
エレベーターを待つのももどかしく、階段を二段飛ばしで駆け上がる。
普段走らない少年の肺は、今にも掠れ消え入りそうな息を吐き出す。
脚だって悲鳴を上げ、いい加減休ませろ!と訴えかけている。
──うっせぇ、文句言わずにとっとと足を前に出せ!
最早など微塵も残っておらず、単なる気力だけで身を動かしている状態。
目的の階層に辿り着き、先ほどロビーで憶えた数字が記されている部屋を探す。
503号室。
あった──!
「ちかっ!ちかぁっ!」
重い引き戸を、満身創痍の身体でどうにかこうにか開け、ベッドに横たわる少女へと駆け寄る。
全身が包帯で包まれ、愛らしい顔も今は見ることができない。
なんだよ……なにが──どうなってんだよ!!
「……君は?」
やっと落ち着いた少年に、白衣をきた医師と思しき人に声をかけられる。
「……こいつの、多分、彼氏です」
虚ろな表情で返す少年は、現実を目の当たりにしてもやはりまだ信じられない。
────ちかが!ちかがぁ!
少女の母親から少年に電話がかかってきた。
最初は、またいつものように、一緒に鍋をつつこうだとか、そんな日常へのご招待だろうと思っていた。
けれどそれは、幻想へと霧散した。
少女が──ちかが、トラックに轢かれた。
全身から出血し、骨は砕け、綺麗だった赤みがかった茶髪は引きちぎれた。
目の前の惨状に、誰も彼もが通報を忘れ、もう少し手当てが遅れれば死に──
相手方のトラックの運転手は、急にハンドルが効かなくなり、そのまま一直線に少女の方へと……と供述しているらしい。これは事件から三日後、少年に知らされることになる。
「あの……おばさ──この子のお母さんは」
「彼女も心労から倒れ、今は隣の病室で眠っているよ……その子は生きている。だがまだ危うい状態だ。彼氏の君が……傍にいて、見守ってやってくれ」
「……言われ、なくても」
医者は病室を後にした。
「……ちかぁ……」
つい先日まで少年をからかっていたその少女は、今はその軽口を叩かない。誤魔化すことをしない。ただ、少年の言葉を受け入れる。
「……俺、泣かないから。だってちか、死んでないもん。生きてるじゃん。痛いだろうけど……辛いだろうけど、俺はそれ、わかんないよ……そんくらいの痛さも、辛さも、経験したこと……ないから。だから、同情なんてしない。ただ待ってっから。だから……生きて……そしたら、また聞くから。──俺のこと、好き?……って」
うわ言のように少女に語りかける少年は、何もできない自分を歯がゆく思い……心を、ズタズタにした。
葬式には少年も参加した。
辺りを見渡すと、すっかり変わり果てた少女の母親もいた。
少女は死んだ。
必死に語りかける少年に、本当の答えを明かすことなく。
少年は泣かなかった。
言葉が涙に代わりボロボロと零れていたからだろうか。
葬式に来た人の中で、少年だけが泣いていなかった。
やがて葬式は終わり、火葬へと。
上がる煙は、少しも躊躇うことなく……空へ、消えて行った。
葬式が終わり、それぞれが帰途へつく。
少年も、夕焼けが覆う道をゆっくりと歩んで行く。
俺は、ちかが好きだった?──当たり前だろ?
俺は、ちかのためになんでもできた?──俺の身一つでできることなら、なんでも。
俺は、──ちかを、助けることができた?
「…………できなかったよ、ちくしょう」
それから一年が過ぎ、梅雨が来た。
土砂降りによって、激流を生み出す河を横目に橋を歩く。
傘を差してはいるが、そんなものは無駄無駄無駄と言わんばかりに少年の衣服を濡らしていく。
「……ん?」
ふと見やると、河の岸辺で少年の通っていた高校の制服を来た少年が何かを叫んでいる。
もう一年も前から高校に行っていないため、その制服が本当に少年と同じ高校のものかはあやふやだが、今はそんなのどうでもいい。
見てしまった。
岸辺で叫ぶ少年の視線の先に……河でもがいている人影が。
この豪雨の中でも聞こえるくらいに叫んでいる。そのことから、岸辺で叫ぶ少年にとっての大事な誰かなのだろうことは容易に想像がついた。
そう思った少年は、傘を投げ出し駆け出した。
「……なにやってんの」
「あ、あぁ……ちーちゃんが……ちーちゃんが……!!」
突然現れた少年が何者なのか、なんてものは、目の前で泣き叫ぶ少年にとってはどうでもよくて。
「ちーちゃん……?あそこで溺れてる人のこと?」.
こくこくと必死に頷く少年は、幾分か幼く見える。……高校に入学したばかりだろうか。
ってか、ちーちゃんって……。
ちかが友達に呼ばれていたあだ名だ。
…………。
既に高校に通わなくなって相当長い。
体力だってあるかわからない。
だが。
「──俺が助けるから、待ってろ」
そう言い残し、少年は河へと飛び込んだ。
「──ッ!! ────ッッッ!!」
背後から叫ぶ声が聞こえるが、何を言っているのかは聞こえない。
増水した河の流れは思ったほどでもなく、少し流されながらも溺れている少女の元に辿り着いた。
「プハッ!はぁっ、はぁっ!」
その少女を抱え、また少し流されながらも岸へと向かう。
──やべ、足、攣りそう……!
必死にもがきながら、やっとのことで岸に辿り着く。
「ッ!はぁっ!はぁっ!」
少女を岸に上げ、少年から礼をもらう。
「ちーちゃん!……ありがと、……ありがとぅ……っ!」
あーあ。男からの礼なんて、嬉しかねーよ……。
そこで、少年は気を抜いてしまった。
さっさと岸に上がれば良かったのだ。
だが、そうしなかった。
急に流れが速くなった河で、見てしまった。
少年に迫る──流木を。
「────ッ!!」
誰の悲鳴ともわからぬ悲鳴が、流木に押し流される少年の耳に届いた。
──……あれ、ここ、どこだ。
「おかえり」
──……ち、か……?
「一つだけ、選ばせてあげる」
──……何を?
「その前に、答えなきゃいけないね」
──…………。
「私は……本当に、好きだったよ」
──……そう。
──……そりゃ、よかった。
「じゃあ、選んで」
「元の生活に戻って生きるか」
「私と一緒に暮らす代わりに、死ぬか」
──……死ぬ?
「もう、二度と家族のいる世界には戻れないってこと」
──……あぁ。
──……別に、いいや。
──……ちかがいれば、それだけで……。
「じゃあ、決まり?」
──……あぁ。
──……ちかと、一緒に……。
「……ごめんね。私のせいで、そんな答えを選ばせちゃった」
「私を、好きになっちゃったせいで……」
──……何、言ってんの……?
「こうなるのはわかってたのに。私も……一度この選択を迫られて、生きる方を選んだから」
──……え?
──……ちか、それ、どういう……──
気付いたら俺は、この部屋にいた。
身体もなんともなくて、もしかしたら今までのは全部夢?とも思ったが、それにしては全てが鮮明すぎる。
夢だと言うなら、最後のちかとの会話。
あれだけがボーッとした記憶になっていて、夢だと言われたらなるほど、夢なのだろうと納得できる。
だが、それを確かめるのが嫌だった俺は、この部屋に閉じこもることを選んだ。
幸い、食料やゲームなんかは通販で手に入るようだったし、何も不便はなかった。
だが、ここに来る前の引きこもり生活には確実になかったものが、ここにはある。
それは。
──ただいまー。
噂をすればなんとやら。
階段を慌ただしく上がってくる足音がする。
その足音の持ち主はやんちゃで、たまに俺のPCのファイルを勝手に覗いたりしてしまう。
だが、俺はそれを許す。
なぜか?
どうしようもなく、愛らしくて──好きだからだ。
やがて部屋の扉が開け放たれ、カーテンで締め切られた部屋に光が射し込む。
「おかえり──ちか」
綺麗な赤みがかった茶髪を、少し高い位置でポニーテールにした俺の大好きな彼女は、元気に手をあげて。
「おっす!ただいま、志貴!」
数多ある都市伝説。
そのどれもが、基本は面白おかしく脚色されたデマである。
だが、たまーに、『これはホンモノでは?』と囁かれる都市伝説がある。
その中の一つに、こんなモノが。
ある人の本当に愛する人が死んだら、死神が死を囁き、そのある人も死に追いやる。
そして、愛する人に姿を変え、こう言うのだ。
──現実に生きるか、妄想に死ぬか、と。
生きるを選んだ人は、愛する人のいない現実世界で生き続ける。
死ぬを選んだ人は、妄想で生み出した世界で、妄想で生み出した愛する人と死に続ける。
一度見た夢からは覚めることなく、ずっと、ずぅぅーっと……妄想の中で、死に続けるのだ。
自らの都合の良いように脚色された、仮初めの幸せの世界で、ずっと、ずぅぅーっと……。
「私はあなたを── ア イ シ テ ル」
短編書きたい。
唐突にそんなことを言い出した僕にそれとなく無駄話を交えながら
「モテない冴えない部屋から出ない主人公が妄想の世界でダラダラする話」
っつーテーマを提供してくれて……あれ、こんなんだったよね?あれ?ん?
まあいいや。
で、まあ書いてみた次第ですが。絶対そいつが思ってた感じのと違う……。
まあ僕的には短編書けたからいいや的な。




