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第六話 旧友を訪ねて-地底-

 先の半刻ばかりの短き異変、後に昼夜異変と呼ばれることになる異変を起こした黒斗だったが


「……すぅー……すぅー……」


 ぐっすり眠っていた。


 あれほどの事を仕出かした後、黒斗は打って変わってすぐに寝に入ってしまった。あの異変のせいで、人間の里は厳重に守りを固める等の事態になったりしていたのだが、本人は知るよしもない。ただ、黒斗が使った力の余波を感じ取ったのは地上の有力者だけではなかった。


「…すぅー……ん?」


 黒斗は辺りに立ち込める気配を察知して体を起こした。


「あ~あ…ふぅ、やっべぇーな。すっかり忘れ……ん?」


 辺りに漂う極小の気配に気付く。しかし、見渡しても誰も見当たらない。


「あー、そういうこと。」


 黒斗は何かに納得し、そして不意に手を上げる。するとそこには拳を振り抜いた体勢の少女がいた。頭からは長くねじれた二本の角を生やし、腕などに三本の鎖を付けている。その鎖の先にはそれぞれ三角錐、球、立方体の分銅が繋げられていた。


「本気じゃないとはいえ、なんで毎回毎回受け止められるのさ…。私これでも鬼なんだよ?」


「萃香の一撃ぐらい受け止められなきゃアイツの相手はできんだろ?」


 そう言って床に胡座で座った少女―伊吹萃香に向き直る。彼女の顔は納得行かなそうにうんうん唸っていた。


「それもそうだけどさぁ。床も陥没してないし、止められた感覚も紫みたいに変だしさ~」


「自分の家を壊そうとするわけあるか。それに俺が紫に似てるんじゃないよ、紫が俺に似てるんだ」


「あれ?そうだったの?」


「あぁ、あいつに体術教えたのは俺だからな」


 紫のやつ、昔は基本能力に頼ってばかりだったからなぁ


「そう言えば萃香、お前何しに来たん?まぁ検討はつくけど」


 黒斗の言葉に、萃香は思い出したと言わんばかりにぽんっと手を打った。


「そうだったそうだった。黒斗、頭が呼んでるよ。早く来ないとこっちから行くぞコラ、だってさ」


「はぁ~、そうだろうと思ったよ……。伝言を寄越せるだけ少しは落ち着いたと考えるべきか」


「普段は結構落ち着いてるんだけどねー。昨日やったあれであんたがこっちに来てるって気付いちゃったらしいよ?」


 うへぇ、やっぱり止めとけば良かったか。でも凄く舞い上がっちゃってたしな~。まあいいや、とりあえず用件を済ましちゃいますか。


「それで?すぐに来いってか?」


「その通りだよ。早急に連れてこいって」


「行かなかったら?」


「説明がいる?」


 うん、いらないな。旧地獄が本当の地獄に逆戻りしかねない。いや、地獄にすらならないな。多分全部無くなるだろうし...。よし!すぐに行こう!


「分かった。至急に地底に向かおう」


 そう言うと黒斗はタンスの引き出しから一枚のお札を取りだし、萃香に尋ねた。


「アイツまだ札持ってるよな?」


「黒斗があげたやつ?持ってるよー、大事そうにねー」


 なら問題ない。さっさと行ってやりますか!


「じゃあ萃香、先に行ってるわ。また後でな」


 お札に力を込めると辺りを莫大な量の光が覆った。徐々に光が収まってくると黒斗の姿は既にそこにはなかった。一人取り残された萃香はこの一瞬の出来事に驚きを通り越して呆れ返っていた。


「ほんとどんな手品使えばこんな事が出来るんだか……。まあいいや、私もすぐに地底に向かわないとね」


 そうぼやくと自分の能力―密と疎を操る程度の能力を使って黒斗の後を追った。








「よっと。…ここはアイツの部屋か?足場がねぇじゃんか」


 八畳程の広さを持つ部屋は至る所に道具が散乱しており、まだ敷かれている布団以外の場所はほとんどが物で埋まっていて畳が見えない。


「相変わらず汚いけど下手に触ると起こられるからな~、さっさと外に出とくか」


 開け放たれていた窓まで跳躍しそこから外に出る。建物は大通りに面していたらしく多くの妖怪たちで賑わっていた。道沿いに建ち並ぶ店を見渡していると黒斗はあることに気づいた。


「………酒屋多すぎじゃね?」


 そう店の種類が異様なのだ。酒屋が多いというよりも他の店が少なすぎる。良くて五軒につき一軒有るかないかだ。しかも、ほとんどの酒屋がこの時間から埋まっているのだ。


 そりゃあ、地底じゃ昼とか夜とか関係ないけどさ。これはさすがにおかしいでしょ。どうすっかな~、絡まれる未来しか思いつかん


 そんなことを考えていると突如一軒の店の壁が大きな破壊音と共に砕け散り一人の妖怪が飛び出し、それをもう一人が後を追う。


「ふざけんじゃねえぞ、俺の酒を飲みやがって!」


「宴会なんだからいいだろうが!ごちゃごちゃ言いやがって、女々しいぞこら!」


 互いに言い合うと、白昼堂々と殴り合い始める。流石は意味嫌われた者共の巣窟、地底。繰り出される一撃一撃が相当な威力だ。周囲では二人の争いに気づいた妖怪が二人を囃し立てている。面倒なことに巻き込まれたくない黒斗は遠目に傍観していると、一人が黒斗に近づいてきた。


「あいつらまたやってるや、あんたは混ざってこないのかい?」


 その女性は長い金髪に赤く光る目、同じく赤い一本の角を持ち、外来では体操服と言われる上着に青と赤のロングスカートを身に纏っている。赤い角から分かるように彼女も鬼の一人である。


「生憎予定が詰まっててな。寄り道してる余裕はないんだ」


地底(ここ)の道草は美味しいよ、食べていったらどうだい?」


「残念、俺は肉食なんだ。植物はご勘弁したいな」


「つれないねぇ、女の我が儘に付き合うのが男じゃないのかい?」


「幻想郷は女尊男卑だろうよ。実力者のほとんどが女性なのはどうなんだ?男の俺は肩身が狭いよ」


「その実力者の中でも突出してるやつの言葉とは思えないね。あー、興が醒めちゃったよ。付いてきな、頭はこっちだよ」


 そう言うと、ひっそりと佇む一軒の食事処に向かっていく。


「了解、勇儀の姉御」


「やめてくれよ。あんたから姉御なんて言われると調子が狂う」


 こんなやり取りも久しぶりだなぁ。数百年振りだっけか?だとするとよく俺の事を覚えていてくれたもんだ。


 黒斗が考え事をしていると、勇儀の足が止まった。どうやら目的地に着いたようだ。


「ほらここで待ってるよ」


「ちょっと待て。入ってきた時は少し古い食事処だったよな?」


「そうだけど、それがどうしたんだい?」


「…じゃあなんで食事処に闘技場みたいな場所があんだよ!!」


「そりゃ俺が造らせたからな」


 不意に声がかけられる、と同時に身を刺すような殺気が浴びせられた。見るとそこには一人、藍色の短髪にゴムバンドを着け現代の半袖Tシャツにハーフパンツを着た、細身ながらも長身な男が立っていた。何とも幻想郷に似つかわし姿である。


「はいストーップ、いきなりご挨拶じゃないか鬼の頭領さんや」


 黒斗が四方に札を投げる。するとその札を基に直方体の結界が張られた。それにより中からの影響を外に出さないようにする。そんな黒斗の行動を黙って見ていた鬼の頭領、名を鬼宿(きしゅく) (みやび)


「こんなに殺気なんて出しちゃって、どれだけの妖怪が気絶しちゃってるやら」


「旧都の八割は堅いな」


「いや九割はいってるだろ」


「まぁそんなことはどうでもいい」


 いやよくねぇよ


「五百年近く待ったぞ」


「そんなに経ってたっけ?三百年ぐらいじゃないか?随分とまぁおかしな格好しちゃって、それ外の服だぞ?何でお前が持ってんだか」


 曖昧ながらも自分の体感年数を出すが、それよりも相手の服装の方が気になるらしい。


「嬢ちゃんに貰った。動きやすいぞ、これ」


「犯人は紫か」


 まぁ分かってはいたけど、と大袈裟にやれやれと首をふる。


「それよりも」


「ん?」


「よくもこんなに待たせてくれたな。五百年もかけやがって」


「お前にとってはそんなに長くないじゃん」


「そっちもだろ?」


「いや、さすがに五百年は長い」


 ははっ、と二人の間で笑いが起こる。何百年経っても変わらない会話、どうでもいい取り留めのない掛け合い、只々可笑しくて只々懐かしい。


「俺がやりたいことは分かってるよな?」


「俺がやりたくないことだろうとはわかる」


 そう言って殺気に耐えていた勇儀に首を向けた。


「多分外で気絶してるやつがいるだろうから介抱でもしといてくれ、そろそろ萃香も来てるだろうし」


「分かったよ、外は任せときな」


 急いで介抱に向かう勇儀を見送ると辺りを重圧的な妖力が包む。


「準備は万端ってか?」


「すぐに喰い散らかしてやる、覚悟しとけオラ!」


 雅はポケットから一枚の札を取り出すとそこに妖力を込め始める。すると一瞬光を発したかと思えば辺り一面に様々な武器、真新しいものから所々欠けているものまで出現した。


「また数が増えたか?」


「前回の5割増し」


「増えすぎじゃね!?」


 知るか、言って雅が腕を振ると連動するように散らばっていた武器が宙を舞った。さらに雅が人差し指を黒斗に向けると塊の一部が黒斗目掛けて飛び出した。


「畳返し!!」


 黒斗が地面を踏み鳴らすと二メートルを超す土壁が立ち塞がった。


「畳でもねぇし、んなもんじゃ壁にもなんねぇよ!」


 土壁に武器が当たったと思ったその瞬間、なんと武器が触れた場所から壁が消えていったのだ。比喩にあらず、武器に削られたなではなく文字通りの消滅。驚きの出来事にも冷静に対処し黒斗はその場を飛び退く。


「え?武器に付加まで出来るようになったの?」


「こちとらただ遊んでたんじゃねぇってことだ」


 うへぇ面倒くせえ、と顔を歪ませる黒斗。なんでも雅は自分の持つ能力を武器に持たせることが出来るらしい。


「オラ!まだ終わっちゃいねぇぞ!」


 再び腕を振るう、ただし今度は両腕だ。武器群はふた手に別れ黒斗を追撃する。


「来いよ白虹、遊びの時間だ」


 呼び出すは純白の七支刀、鞘こそ無けれど刀を腰の横に据えた抜刀の構え。


「まずはその妖力(ライン)を切らせてもらうわ」


 一歩踏み込み跳躍、武器と雅の間に入り込み刀を振る。だが、得られるはずの感触がない。それに武器の勢いもいまだに健在である。


「あれ?何で切れとらんの?」


「残念、今じゃ着脱可能なんだよ!」


 あ~、つまり俺が刀を振ったのと同時に妖力を切ってすぐにまた繋いだと。昔から面倒くせえこと覚えやがって、もういいさ終わらせてやんよ!


「そろそろ終わらせっからな」


「ふざけんな!まだ始まったばっ」


「そら、歪め!」


 そんな少ない言葉は周囲に劇的な変化を生んだ。武器は上に落ちていき(・・・・・)、雅はその場に倒れ伏す。地面は一部粉々になり結界内を漂っている。何もかもがめちゃくちゃでぐちゃぐちゃな中、唯一黒斗だけが悠々と歩き雅に近づいていく。


「終わり、で良いよな?」


「……クソ野郎が」


「よろしい、今度は結界なんて簡単に張らせちゃあかんよ」


 そう、最初に張った結界は黒斗の能力を補助する役割も担っていたのだ。故に簡単に規模のある術を使えたのである。


「次は能力なしの殴り合いだかんな!」


「その内な~、ほら」


 黒斗は雅に向けて手を伸ばし雅は躊躇いなくその手を取る。


「おかえり、遅くなったじゃねぇか」


「ただいま、道に迷ってたんだ」


「退屈させんじゃねぇぞ?」


「大丈夫、これから飛びっきり面白い事が起こっから」


「ならいい」


「んじゃ、倒れた奴らの介抱にでも行きますか」


 雅の威圧もなくなったので結界を消し闘技場を後にする。


「弱ぇ奴らが悪い」


「馬鹿言うな、お前の全力の殺気に耐えられる奴なんてそうそういないわ」


「そう言うもんか?」


「そう言うもんだ、ほらさっさと行くぞ」


 そう言いながらも、介抱しなければいけない人数を考えて若干憂う黒斗だった。


どうも、ねこのめです。


前回から二ヶ月も経っての投稿となりました。待っててくれた人は少ないと思いますがその人にはすみません^^;

MH4Gが出ると友人に聞いてなんかMH4やりたくなったので買っちゃったり、頼んでいた地霊殿が届いたので没頭したり、試験があったりで…

次は早めに投稿できるかと、長期の休みに入るので。


感想・ご意見等々ありましたら是非教えていただけると嬉しいです。ではまた次回会いましょう

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