表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

第五話 さぁ、始めよう

 あれから、今日は泊まっていって、という幽々子のお願いにより白玉楼で一夜を過ごすことになった黒斗。深夜になると縁側で一人夜空を眺めていた。


「やっぱり幻想郷の方が綺麗に見えるなぁ」


 服の袖に手を入れてお猪口を二つ取り出す。


「ご一緒いかがかな?」


 近づいてきた背後の気配を察知して声を投げかける。


「気が利くのね。それではご同伴に預かろうかしら」


 肩が触れるかどうかという位置に座る。互いにお酒を注ぐと一緒に味わい、一息。


「妖夢はどうした?」


「あの子はぐっすり寝てるわ。こーちゃんとのやり取りで疲れちゃったみたい」


 少しやり過ぎちゃったかな?でも俺から攻撃したの少なかったはずだけど...


「それもなんだけど。ほら、こーちゃんが幻想郷の創立に関わってる話したじゃない?それからなんか恐れ多くなっちゃったみたいで」


「別に俺ここ造ってねぇぞ?」


「言ったでしょ?関わったって。紫のために色々暗躍してたって聞いてるわよ?」


「大したことなんてしてねぇよ」


「幻想郷の基になる土地情報の提供、妖怪の山の天狗達・鬼達との協定等々、これでも大したことないと言うのかしら?」


「……情報の提供は認めよう。だが天狗と鬼のことは、偶々友人がいただけだ」


 その答えに幽々子はクスクスと笑う。


「その友人がそれぞれのトップ何だもの、ほんと呆れちゃうわ」


「片方は本人にその気はないけどな」


 早めに会いに行かないとなぁ。何よりも周りの被害がヤバいことになる


「まぁその話は置いといてだな」


「あら、逃げた」


 うるせぇ、ほっとけ


「妖夢の事だが、どうにかならんものか。出来るだけ仲良くやっていきたいんだけど…」


 そう言って頭を掻く。あまりに畏まられすぎると調子が出ないようだ。


「ああいう娘が趣味なのかしら?妬いちゃうわね」


 ふわっと黒斗に寄りかかり体を預ける。幽々子の顔は酔っているのか、それとも別の理由があるのか、仄かに朱色に染まっている。また彼女が亡霊のためか、触れている部分にはヒンヤリとした感覚が。普段は見せることのない行動。だが黒斗と二人きりの時にはよくある光景、幽々子にとっては偽ることも遠慮することもない本当に自由な時間。


「そういう訳じゃないよ、これからここに来るたびにあれじゃあこっちの気も滅入るからな」


 幽々子の頭を撫で始める黒斗。彼は理解していた。妖怪をはじめとする人外はその容姿を自身の精神に左右される。それは何千年、何百年生きていても同じである。少女相応の姿をもつ彼女や紫も、普段は胡散臭かったり大人びていたりするものの、考えの根幹は子ども染みていたりするのだ。だが、立場もあって誰かに甘えることもできない。だからこそ、自分がその場所になってやる、それが黒斗の思いだった。


「分かってるわ、言ってみたかっただけ」


 もたれ掛かっている姿勢から、スルッと体を黒斗の前に倒す。所謂、膝枕の状態だ。


「こういうのは逆なんじゃないか?堅いだけだろ、男の膝なんて」


「たまにはいいでしょ、ほら手が止まってる」


 まったく手のかかる子どもだ。

 ほらほら、と言わんばかりに幽々は頭を俺の手に当ててくる。まぁ幽々の髪はすっごくサラサラしてるから是非もないけど。


「こうして貰うのも随分久しぶりね。誰かさんが勝手に何処かに行っちゃうから」


「誰だろうなそんな最高なやつは」


 分かってるくせに、ふふふと笑ってそう言う幽々子に黒斗も笑いを返す。


「なあ幽々、妖夢のことなんだが」


「せっかく二人きりなのに他の女の話をするなんて、なってないわね」


「いつもの事だろ?」


「そうだけどぉ」


 不満げに頬を膨らまし怒ってますよアピールをしてくる幽々子。しかしやられた本人は何処吹く風だ。


「あの娘、妖忌に似すぎてないか?」


「妖忌と?妖忌はもっと冷めてる感じじゃなかったかしら?」


 確かにそうだ。初めて会ったときも絶対零度の瞳で睨まれたし。いっつも無愛想だったし、少しふざけたらすげぇ怒ったし。


「……あれは“少し”だったかしら?ポッキリいってたわよね?」


「だって本気で来いなんて言うし、あんなに脆いとは思ってなかったんだよ…。だけど、その後謝ったじゃん」


 ふざけたけどさぁ


「そのふざけたのがいけないんでしょ」


 なんてことはない。かつて組み手をした時に黒斗が妖忌の刀を折ってしまったのだ。しかも、謝るときに「許してちょんまげ、そう言えば妖忌って剣士なのにちょんまげじゃないのな」なんて言うから完全に妖忌は激怒してしまった。


「代わりの刀あげてようやく許してくれたからな」


 その刀が楼観剣だったりするのだが。


「それで妖夢は?」


「おっとそうだった。昔さ、妖忌も斬れば分かるみたいなこと言ってただろ?あの娘も言ってたんだよさっき」


 まぁ意味は履き違えてたけど、と苦笑がもれる。


「けど、妖忌も一緒だったんだよなぁ、斬りかかられたし。加えて、何事にも真剣だし、刀は器用に扱うくせに他は不器用だし、そして意志が強い。充分似てるよ」


「そう言えばそうね、だからこそからかいがいがあるんだけど」


 やれやれ変わらんな、と言いたげに首を竦める黒斗。


「やるなとは言わない、どうせ聞かないだろうし。だが程々にな」


「分かってるわよ~」


 そう言うと今まで倒していた体を上げ、お猪口に手を伸ばす。


「なんだ、もういいのか?」


「えぇ、もう十分よ。これからは幻想郷(ここ)に住むんでしょ?」


「当分はな、面白いことが起きそうだし。」


「面白いこと?」


「あぁ、うんと面白いことが起こる。こっちに来て感じたよ、だから目一杯楽しむまでは出て行ったりしないよ」


「そう、それならいいの。私もその面白いことに期待してるわ。もしかしたら私が起こしちゃうかも」


 ふふっ、と笑って一気にお酒を煽る。頬が少し赤みがかっているのはお酒のせいだろうか。


「でも、楽しみたいならちゃんと弾幕ごっこを覚えておいた方がいいわよ。ほぼ必要不可欠だから」


「それなんだがいまいち分かんないんだよな~、妖夢のスペルカードは見たけど如何せん直接的だったし。幽々は持ってる?持ってたら見せてくれよ」


「そうね、じゃあ見せてあげるわ」


 一枚のお札を取り出して宣する。


「死符『ギャストリドリーム』」


 色とりどりの蝶が夜空を舞った。幽々子を中心として放射状に拡がっていき、互いに交差するように旋回する。


 これが、弾幕か。正直心の何処かで侮っていた。ここまで美しく、華やかで、儚いものなのか。いや違うか、これが幽々の弾幕なのだ。俺が感じるのも幽々の表した美しさだ。各々が内に持つ美しさ、各々が表現する美しさ、個性が出るどこの話じゃないよこれは。コミュニケーション、対話、それらに準ずる新しい決闘方法。


「訂正するわ、こりゃただの『ごっこ』じゃないな。ここまで来ると一種の境地なんじゃないか?個性に芸術性、そして行動性ときたもんだ」


 ゆっくりと、ゆっくりとその口端を上げていく黒斗。そして子どものように無邪気に笑い始める。どこまでも楽しそうにどこまでも嬉しそうにどこまでも愉快そうに笑い続ける。が、ふと黒斗は笑うのを止めた。口元には笑みを残しながら言う。


「あー、幻想郷(ここ)に帰ってきて本当に良かったわ。こんなに面白そうな事がすぐに見つかるなんてな。……よし、決めたぞ幽々!」


 勢いよく立ち上がり、開いた手のひらを月にかざす。


「まぁ大体予想はつくけど、何を?」


「この幻想郷で!弾幕ごっこを遊び尽くす!誰のためでもない俺のために、存分に楽しませろ!幻想郷に住まう者共!!」


 グッと拳を握りしめる。

 こんなに楽しそうなものを見つけたのは数百年ぶりだ。これはマジで盛り上がってきたぞ!折角だ。意思表示、宣戦布告といきますか。


「悪い幽々、俺帰るわ。やることができた」


「だろうと思ったわ。もちろん楽しいものを見せてくれるのよね?」


「俺を誰だと思ってる。愉快で痛快で爽快なもんを見せてやんよ!」


 じゃあなまた来る、と言ってその場から消える黒斗。幽々子はそれに驚くこともなくお猪口を傾ける。


「ほんと速いわねぇ」


 その言葉を聞くのは辺りを漂う数体の霊魂だけだった。







 白玉楼を後にした黒斗は自宅に戻っていた。


「さて、派手にいこうか」


 いつの間に用意したのかその手には一枚のカードが握られていた。


「ではでは一見。即興で作ったこのカード、しかと目に焼き付けな!」


 転倒『逆巻く昼夜』








 ~白玉楼~


 最初に異変に気づいたのは黒斗が去ってから縁側で待機したいた幽々子だった。


「あらあら、これはまた壮大にやったわねぇ」


 彼女の見つめる先には本来あるはずのないものが浮かんでいた。


「擬似的な太陽かしら?夜空が広がっているのに地上は昼間の様に明るい。相変わらず派手なことするわねぇ」


 これは私も参加してみようかしら、今後の楽しみが増えたと幽々子は嬉しそうに微笑んだ。







 ~八雲の屋敷~


「あのバカは………」


「あの~紫様?」


「…何かしら、藍?」


 多分知り合いであろう犯人に怒りを覚えながら、紫は上空に浮かぶ光源から目を話さずに受け答えをする。


「あれはどうしますか?」


 藍は紫の様子に戸惑いながらも、急に現れた光源をどう処分するか尋ねる。


「はぁ...いいわ、ほっときましょう。こんな事するのは……いや、出来るのは黒斗ぐらいだし。そうならその内終わるわよ」


「そうですか。しかしながら、あの人のやることはいつも無茶苦茶ですねー」


「仕方ないわ、黒斗だもの。彼が童心を忘れることなんて無いんじゃないかしら」


 互いに顔を見合わせて苦笑する。その表情がこれまでの黒斗の突飛な行動を物語っていた。







 ~妖怪の山~


 紫達が黒斗の行動に気づくのとほとんど同じタイミングで天魔も空の異常に気が付き


「うん、まぁ黒だからな」


 何かもう全てを諦めていた。


「天魔様!異常事態でございます!」


 すると一人の大天狗が慌てながら外の事態を報告に来た。


「気付いているわ。犯人の目星もな」


「ならば至急その者を捕らえなければ!この山に被害が及ぶ前に」


「あー、よいよい。こちらに危害は加えてこんよ。それに行っても一瞬で返り討ちじゃ」


 天魔の言葉に苦虫を噛んだように表情を歪める大天狗。それを気にする様子もなく天魔は目を細めながら空に浮かぶ光源を見つめる。







 この日、一刻にも満たない異変は各地で観測されることになる。その光景にある者は天変地異の前触れだと慌て、ある者はその眼に好奇を浮かべ、ある者は面倒なことが増えそうだと頭を掻く。皆がそれぞれの思いを持つ中で、中心の人物は声を張り上げた。


「さぁ、祭りを始めよう!」

どうもお久しぶり、ねこのめです。


前回からかなり時間が空いてしまいました(^^;

テストに追われてまして、こんな駄文を心待ちにしてくれた人には申し訳ないッス

今度も期間が空いちゃうかなぁー(遠い目 まぁ頑張ります!


さてさて、今回も読んでいただいてありがとうございます。ご感想・ご意見等々ありましたらぜひお聞かせください。

それではまた次回 (^^)ノシ



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ