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第四話 旧友を訪ねて-白玉楼-

「どうしたものか…」


「ここから先は行かせません!」


 冥界にて黒斗は珍しく困っていた。昔馴染みに会いに行こうとして長い階段に差し掛かったところで銀髮の少女に邪魔されているのだ。


「何回も言ってるけど俺は西行寺幽々子の友人なんだってば。確認を取って貰ってもいいんだけど」


「その必要は有りません。貴方の言うことが真実かどうかは斬れば分かります」


 またこれかぁ~、いくら言っても聞き入れて貰えずに階段を登ることも出来ない黒斗。


 何でこうなるのかねぇ、やっぱり天魔よりも先にこっちに来るべきだったか。いやでも、この子はここの庭師だろうしいつ来ても一緒か。


「じゃあどうすれば通してくれる?」


「先に進みたいなら私を倒してみなさい!」


 そう言って一振りの刀を構える少女。


 血の気盛んだねぇ、だけど...


「嫌いじゃないよそういうの」


 対し黒斗は余裕そうに自然体のままだ。


「白玉楼の剣術指南役兼庭師、魂魄妖夢。妖怪が鍛えたこの楼観剣に斬れぬものなど、あんまり無い!」


「口上かぁ、いいねいいね最っ高だ!」


 刹那、黒斗に変化が起きた。瞬く間に彼の髪が純白に変化したのだ。普段の何もかもを呑み込む黒ではない。何にも染まらぬ白。すべてに染まりすべてに染まらない、故に何にも捕らわれず囚われない。自由に生き風のように彷徨い流れゆく彼は次第にこう呼ばれるようになった。


「風来猫、藤白黒斗。来な嬢ちゃん、君に俺は捕らえられない!」


 先手必勝とばかりに妖夢が駆け出す。


「はっ!」


「ほいっと」


「なっ!?」


 十数メートルの距離を一気に詰めた妖夢は楼観剣で斬りかかる。が、黒斗は難なく避け蹴りを放つ。自分の攻撃を避け反撃してくるとは思わなかった妖夢だったが、かろうじて横に跳んで免れた。


「せいっ!」


 姿勢を低くしたまま黒斗の下段を斬りにかかる。それをバックステップで避け震脚。土煙が上がり一帯の視界を遮る。追撃が来ると考えた妖夢はその場を飛び退き土煙から逃れた。


 煙が次第に薄くなってくると中に人影が見てとれる。先ほどまでのやり取りから下手な奇襲は反撃を受ける可能性が高いと妖夢は予想する。


「それなら!」


 妖夢は一枚の札の様なものを取り出した。


「スペルカード、人符『現世斬』!」


 そう宣言した妖夢が先ほどとは比較ならない速度で斬りかかった。一閃、剣先が相手を捉える。決まった、そう確信する妖夢だが不意に声が響く。


「ほー、いい太刀筋だ。流石妖忌の弟子と言ったところか」


 慌てて振り返るとそこには階段に腰掛ける黒斗がいた。見たところ傷もない。


「そんな!当たったはずなのに!」


「間違っちゃいないさ、確かにお前の剣は当たったよ。ただ当たったのが俺じゃなくてその土塊だった、それだけだ」


 黒斗の指さす方に目を向ける。煙が完全に晴れたその位置には二つに分かれた土の塊が落ちていた。


(そんな!いつの間に!?)


「俗に言う変わり身ってやつだな、結構便利なんよ。まぁそれは置いといて、さっきの札ってなんだ?」


「スペルカードですが知らないのですか?」


「昨日こっちに来たばかりだからな」


「そうでしたか。ですが、知りたければ私を倒してみなさい!」


「結局そうなるのね。……あーもう分かったよ、続きだ続き!」


 そういうと帯に差していた扇子を取り出し霊力を注ぎ込む。すると


「目には目を歯には歯を、剣には剣をってな」


 霊力を纏った白く輝く刀が握られていた。しかしただの刀ではない。その刃の左右からは三本づつの枝刃が出ている。それは一般に七支刀、または六叉の鉾として知られている物と似通った形状をしていた。


「白刀・白虹。これが俺の愛刀だ」


「霊力!?妖怪じゃなかったんですか!?それに扇子ご刀になるなんて…」


「いや、間違っちゃいないよ。そうだな、知りたいなら俺を倒してみな」


 口端をつり上げシニカルに笑う。先ほどの意趣返しだろう。それを知りつつも妖夢は誘いに乗る。


「いいでしょう、楼観剣の錆びにしてみせます!」


 先ほどと同様に一足で距離を詰めにかかる。それに対して黒斗は避けることなく白刀で迎え撃つ。居合いの如く真横に振り抜かれた楼観剣を上に切り払う。妖夢は払われた反動を利用してそのまま蹴りかかるが黒斗は体を半歩だけずらして躱す。


「こんなもんかい?これじゃいつまで経っても俺には届かんよ」


「まだだっ!人鬼『未来永劫斬』!!」


 現世斬と同じ構えから踏み込み、下段から切り上げる。それを白刀で受けた黒斗が宙に投げ出される。


(捕らえた!)


 地面を蹴り追いかける様に跳躍。黒斗へ全方位から無数の連撃を叩き込む。だがそこで妖夢はふと気づく。


(手応えが軽い?…まさか!!)


 黒斗に目を向けると彼の口元に笑みが浮かんでいるのが見えた。


「その若さでよくここまで極めたもんだ」


 その身体には全くの傷も付いていない。


「無傷?どうして…」


「技の一つ一つを捌いた、ただそれだけだよ」


(あり得ない!?簡単に言ってるがあれだけの手数を捌くなんてどれ程の技量が必要になるか!それに彼は未だに息一つ乱していない。さっきのやり取りから彼は妖怪の類いの可能性が高い、ならこれ程の力を持っていると仮定すれば大妖怪か…)


 自分のスペルが二つも敗れ困惑するが、なんとか冷静に分析する妖夢。相手と自分の差を思いしるが...


「それでもここで引くわけにはいかない!」


「ジーザス!それでこそアイツの弟子だ!」


 今度は黒斗から仕掛けた。白虹を横に振ったと思ったら急に妖夢の視界から消える。辺りを見回すが見つからず、ここに来て逃げたのかという考えが頭を過った瞬間、突如背後から気配を感じ取った。


「後ろか!」


 慌てずに距離をとり白虹の範囲から抜け出す。元いた位置に目をやると白虹を振り抜いた姿の黒斗がいた。


「簡単にはやらせません!」


 それに対し黒斗は笑みを返す。


(?何か策が…)


 そこまでしか妖夢は考えられなかった。黒斗が白虹を持ち上げる、そう認識した。そして気が付いた時には自分の手から楼観剣が離れ、黒斗の背後の地面に突き刺さっていた。


 実際には白虹の主刀と枝刃で楼観剣を挟み、手首を回して絡めとりそのまま投げ飛ばす、という流れだったのだが一連の動作が速すぎて妖夢には捉えきれなかったのだ。


「………え?」


 今度こそ頭が追い付けなかった。そして何が起きたのか、一体どうやって、そんな疑問が浮かぶ前にただただ思った。


(彼には……勝てない…)


「さて、まだ続けるかい?」


「………参りました」


「それじゃ通らせてもらうよ。大丈夫、ここの主人に手を出したりはしない。ついでにスペルカードとやらも教えてくれ」


「分かりました、ついてきてください」


「おう」








 スペルカードルール

 それはこの幻想郷においての揉め事などを解決するための手段であり、『殺し合い』を『遊び』に変えるためのルール。弾幕ごっことも呼ばれるが特に弾幕に限定されるわけではない。先ほどの妖夢のスペルカードがいい例である。また、弾幕に美しさを付加することで弾幕その物に意味を付加する。逆に言えば意味のない弾幕は使ってはいけない。ただ『遊び』とはいえ必ずしも非殺傷ではない。死傷者が出ることもあるそうだ。

主なルールとしては

・カードの枚数の宣言

・技を使う際はこれを宣言する。ただし発動が分かれば叫んだりする必要はない

・回避が不可能な弾幕は制限される

・体力が尽きる、または全てのスペルが攻略されたら敗北

・敗北したらまだ戦えても戦ってはならない。つまり潔く

 基本的に妖怪と人間の体力には大きな差があるため、制限時間を設けてその時間内に相手の体力を削りきるか、避け続けることになる。重要なのは美しさであるため、単純な実力を競うのではなく精神的な勝負であるとのこと。一人一人が美しさに異なる考えを持つため、弾幕にはそれぞれの個性が現れるという。


「そりゃ『ごっこ』って言われるわけだ」


 これまで俺がしてきた戦闘は命の削り合い、殺し合いだ。対してこちらは、負傷するにしても元は『遊び』、殺すことが目的ではない。鬼ごっこで追われている最中に転んで怪我をするのと大差ない。けど流石だな、『殺し合い』にルールを与え、意味を与えることで『遊び』に変える。本当に面白いものを持っている


「着きましたよ」


 っと、色々考えてたらようやく着いたか。それにしても...


「博麗神社といい白玉楼といいどうしてこう階段が長いかな…」


「一種の守りでは?高低差は勝負の優位性に関わりますから」


 成る程な~、少なくともその二ヵ所は守りが必要な程大切な場所だということこ


「幽々子様ー、客人をお連れしました」


 とっとっと、襖の奥から誰かが小走りする音が聞こえてくる。主人だったらもっと謹み深く、とか考える黒斗だがその主人を知っているため、やむ無しと思う。


「ようこそ白玉ろ…う…へ……あー!」


 襖が開くと桃色の髪に水色を基調にした和服に身を包んだ少女が顔を出した。途中までは恭しく挨拶をしていた彼女だが、黒斗を認識した途端に硬直し震え始めた。何事かと妖夢が考えている中、最初に口を開いたのは黒斗だった。


「よう、ご無沙汰」


「こーちゃんだー!!」


 堰を切ったように飛び付いてきた少女-西行寺幽々子を黒斗は優しく受け止める。


「久し振りだな、幽々」


「紫に聞いてたのよ!何ですぐに来てくれなかったの?」


「神様に会ったり天魔に絡まれたり、後引っ越ししたりで忙しかったんだよ」


「まぁいいわ、いらっしゃい!待ってたわよ」


 主人のあまりの豹変ぶりに唖然としている妖夢を余所に幽々子は盛り上がっている。


「ほら、お土産だ。外の世界で評判だったお茶菓子だよ」


 白玉楼にくる前に外の世界から勝手に拝借したのだが、黒斗は我が物顔で振る舞う。


「嬉しい!流石こーちゃん分かってるわ」


「妖夢もいるんだから一人で食べきるなよ」


「はーい」


 これは夢かと考える妖夢。確かに今までも子どもみたいな態度は何回か、いや何十回もあった。あったけど。これ程の幽々子様を見たのは初めてだ。その原因は紛れもなく彼だ。それを、どうだ?自分はさっきまで彼に斬りかかっていた。結果的には彼に傷をつけることはなかったが、もし、もしも彼に傷をつける事があったら今頃私は...


「気にするな、お前さんは間違った事はしてないよ」


 青ざめていた妖夢を見て考えを悟った黒斗は彼女の頭を撫でながら、慰めるように言葉をかける。


「けどな、誰これ構わず斬りかかるのは駄目だ。斬れば分かる、多分妖忌の教えだろうがそのままの意味じゃない。まぁ理解するにはまだかかるだろうけど、ヒントはもうさっきの勝負で掴んでるはずだ」


「ヒント?私が?」


「そうだ。それとな、妖忌と約束してたことなんだが、もしお前さんさえ良ければたまにでも稽古をつけてやるよ」


「……いいんですか?私は貴方を斬り」


 スッと手のひらをだして妖夢の言葉を遮る。その顔には笑顔が浮かんでいた。


「いいんだって。それとも君は人の厚意を無碍にするのかな?」


「…分かりました。よろしくお願いします、藤白さん」


「黒斗でいいよ。それか幽々みたいにこーちゃんって呼ぶか?」


 なっはっは、と黒斗は笑う。釣られて妖夢も表情が柔らかくなる。


「ちょっとー、何二人でいい雰囲気だしてるのよー!」


「なっ!?そ、そんなことありません!」


「このっ、このっ!」


「痛っ!痛いですから叩かないでください!」


 二人がじゃれつくのを見て黒斗は昔の光景を思い浮かべる。そっくりだった。流石祖父と娘、あまりに似ている。


「ほらほら二人とも、食べないなら俺が貰っちまうぞ」


「駄目っ、私が貰うわ!」


「幽々子様!私の分もあるんですからね!」


 ………本っ当に仲の良い主人と従者だこと。



お久しぶり、ねこのめです。


やっぱり戦闘描写は難しいですわ。想像したものを書いたと思っても読み返してみたら、なんだか違うなぁって思って書き直し。結構大変でした...まぁ楽しいんですけどね。


さて、第四話楽しんでもらえたでしょうか。誤字・脱字を見つけたらご報告いただけると幸いです。感想・ご意見もお待ちしてます。それではまた次回に会いましょう。


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