第三話 旧友を訪ねて-妖怪の山-
~妖怪の山~
トントン
「天魔様―、入りますよー」
大量の紙束を抱えながら犬走椛は襖を叩く。
「………」
「あれ?天魔様いらっしゃらないんですかー?」
いくら呼びかけても反応はない。だが、いつまでも立っているわけにもいかないので襖を開け中に入る。と、そこにはテーブルに突っ伏して寝ている天魔がいた。
「起きてください天魔様、書類持ってきたんで処理お願いします」
「ん~?犬走か、一体どうしたんじゃ?」
「ですから書類を持ってきたので処理をお願いします」
「おー、分かったその辺にでも置いといてくれ」
「なるべく早めにお願いしますね」
「うむ、ちゃんとやっておくから心配せんでも……」
「?天魔様どうかしましたか?」
「これはやつの………。すまん犬走、急用ができた。ちょっと出てくる」
「え?何を言って」
椛が止める間もなく、天魔は開いたままの襖から飛び去って行った。
「うぅ、どうすればいいんですかー……」
「この山もあんまり変わらないもんだなー」
博麗神社を後にした黒斗は幻想郷において妖怪の山と呼ばれ、人間があまり近づかない場所まで足を運んでいた。木々が赤み付いていることから察するに今の幻想郷は秋なのだろう。ならばあいつらにも会えそうなもんだが。
「噂をすればなんとやら、諺も馬鹿にできないな」
目線の先には金髪金眼の少女がいた。少女はせっせと落ち葉をかき集めている。それを見た黒斗は何かを思いついたのかニヤニヤと笑い始める。落ち葉が小さな山になり始めたところで黒斗は考えを実行に移した。
「あの子まだ戻ってこないのかしら。芋を取りに行ってからずいぶん時間が経ったのだけれど」
そんな黒斗に気が付くはずもなく、少女は自作のさつまいもを持ってくるだろう妹の到着を待つ。
「よっ静葉!久しぶり!」
「うぇ!?藤白さん!?」
いきなり起こった出来事に秋静葉は驚愕した。そりゃそうだろう、今まで集めていた落ち葉の山から急に顔が出てきたのだ。
「あっはっは!すごい顔だな、大丈夫か?」
「これが大丈夫に見えますか!!」
うー、っと涙目で訴えてくる静葉。なにこれ可愛いわ。
「スマンスマン、ついな」
「ついで脅かしてくるのやめてください!」
「久しぶりの再会ってインパクトが欲しいじゃん?」
「知りませんよ。はぁまったく、昔から変わりませんね」
「ほらよ」
「ありがとうございます。…あれ?」
黒斗が差し出した手を静葉がつかむ。が、一向に立ち上がらない。
「お前もしかして………腰抜かした?」
「うっ」
「図星か。しゃーねえなぁ、ほらよっと」
そう言って静葉を背負う。
「ちょっ!?何してるんですか!」
「何ってただ背負ってるだけだろ」
「こんなところあの子に見られたら」
「見られたらどうなるの?おねーちゃん」
「笑われるに決まって…る……」
「?」
「なっ!?穣子いつからいたの!?」
「今来たところだよ。それよりも黒斗久しぶりー!」
「久しぶりだな、穣子元気にしてたか?」
「秋だけはね」
「ま、秋のかみさまだからなぁ」
「あの、そろそろ降ろしてくれない?もう大丈夫だから」
「おねーちゃん顔真っ赤だよ?照れてるの?」
「そんなわけないでしょ!」
「こらこらあんまり暴れるなよ。落ちるぞ」
「だから降ろしてくださいって」
「はいはい分かった分かった」
「ちょっと待ってろ」そういって黒斗はつま先で地面を叩く。すると地面が隆起し始め人が一人ほど座れる程度の台座が出来上がった。
「いつ見ても惚れ惚れする手際だね」
「秘訣は日々の努力だな」
「努力だけでこの領域に達しますか…」
「俺の場合は日数のほうが長かったからなー」
「黒斗は長生きだからね」
久し振りの再開に話を弾ませる三人。だがここで思わぬ横やりが入ることになる。
「………ぅ……ろ……」
「ん?」
「どうしたの?」
「……く…………ろ…」
遠くから飛来する何かを見つける。
「あ、ヤバい」
「ヤバいって何が」
「くぅぅぅろぉぉぉぉぉ」
「馬鹿野郎ッ!」
「きゃあ!」
「うわっ!」
黒斗が両脇に秋姉妹を抱えて跳ぶ。すると今まで三人がいた場所に何かが突っ込んできた。
「ちょっと何なんですか!」
「それはアイツに聞いてくれ」
そう言って何者かが墜落して立ち上がった土煙を指さす。
「おー、痛いわぁ。こら黒、なんで避けた」
「あんなスピードで突っ込んで来たらそりゃぁ避けるだろ」
「親友ぐらい受け止めんか」
おー痛い痛い、と飛来してきた人物・・・天魔はつぶやく。その割には土埃がついているぐらいで特に外傷は見受けられない。
「嫌だね、面倒くさいもん」
「なっ!それが再開した友にかける言葉か!わしは悲しいぞ」
「静葉、穣子大丈夫か?怪我とかしてないか?」
天魔の言うことをスルーして秋姉妹を気に掛ける。
「あれ?わしは無視するのか?ほら、久しぶりの再会なんだからこう何かあるじゃろ?」
「あのー、あれ天魔ですよね?あのままでいいんですか?少しかわいそうなんですが」
「ったくしょうがねえな。おいこら天魔、静葉に感謝しろよ」
「こんな扱いに全わしがビックリ!?まーいいわ、久方振りだな黒よ」
「ご無沙汰だったな天魔。そういやこの山で鬼をまったく見かけないんだが、あいつらどうしたんだ?」
「あー、それか。あいつらならもう地上にはおらん。一人を除いて地底に潜ってしまったよ。あやつらにも色々あってな、今では地上の妖怪の行き来が禁止されておる」
「ふーん地底か。…さとりたちも元気にやってるといいけど」
鬼についてはあまり感慨はないようで、かつて関わったことのある姉妹に思いをはせていた。
「積もる話もあるだろうが、黒よ。住む場所はどうするんじゃ?数日なら泊めてやることもできるが」
天魔からの誘いに黒斗は横に首を振る。
「いや、家は自分のがあるからいいんだけど、場所をどうするか決まってないんだよねぇ」
「移動できるのか?……いや、お前ならできるんじゃろうな」
「もちのろんよ。それでいい場所はないか?」
その問いに穣子が元気に答える。
「はいはい!私たちの家のそばがいいと思う!」
「んー、できれば妖怪の山じゃない方がいいかな。俺天狗たちによく思われてないからね」
過去のある出来事を思い出しながら苦笑する。
「それならこの山の麓はどうじゃ?いろいろな場所の中間になっておる。お前さんにうってつけだろう」
「それもそうだな。んじゃ移動すっか」
「私たちもご一緒します」
「無論わしもな。お手並み拝見といこうか」
妖怪の山の麓付近に到着した黒斗一行は引っ越しの準備に取り掛かる。
「ここらでいいかな。お前らちょっと離れとけよー」
そう言ってパンパンと二度柏手を鳴らした。すると突如莫大な光がみんなを襲う。
「うわっ!」
「なんですか!」
徐々に光が収まっていくとそこには大きな屋敷とそれを囲む塀までもが存在していた。その壮観さは白玉楼にも引けを取らないだろう。それを確認した黒斗は満足そうに頷いていた。
「上出来だな」
「これが黒斗の家か、わしの家よりもでかいんじゃないか?」
「そうか?これくらいじゃなきゃ宴会なんか開けないからな。大きいに越したことはないさ」
ここのやつら宴会好きなやつが多いからなー。
「それよりも!どうやってこんなに大きなものをここに?」
「そうそう!黒斗こんなことまで出来るの?」
ずっと疑問だった事を口にする静葉と穣子。これほど大きなものを出したのだ、二人の疑問は至極もっともだろう。
「まぁ能力のお陰かなー。結構便利なんよ俺の」
「さっきの椅子も能力?」
「いや、あれは昔から練習してる陰陽術。能力とは関係ないよ」
「へー、黒斗何でもできるんだね!」
「天才なのさ、この俺様」
そう言って胸を張る黒斗。流石だなぁ、と感心する二人だが天魔だけが違った。
(何が天才なものか。誰よりも努力した結果じゃろうが)
昔からの付き合いである天魔には分かっていたのだ。あれは黒斗が陰で必死に努力を重ねてきた結果だと。だが黒斗はそれをおくびにも出さずにおり軽い態度を装う。これも黒斗の人柄なのだろう。
「それじゃあ早速入るとするか」
そういって歩を進める黒斗に三人はそれについていく。門をくぐるとこれぞ日本庭園、と言うような庭に日当たりのよさそうな縁側、そして大きな池に鯉まで見受けられた。
「へぇ、外もすごかったですが中の作りも立派ですね」
「そうだろ?自慢の家だ」
「これを造ったのも藤白さんですか?」
「いや、造ってくれたのは鬼だよ」
「鬼にも知り合いがいるんだね」
「まあな、天魔と同じ昔馴染みってやつだ」
「その鬼も地底に?」
「そうじゃ」
そっかそっか、アイツも地底に潜ってんのか。でも...
「アイツがさっきの取り決めなんて守るかねぇ」
「まず守らんじゃろうな。黒が戻ってきたと伝えればすぐにでも飛び出てくるだろう」
「…当分の間は伝えんなよ?」
「わかっておるわ」
あんなやつがいきなり地上に出てきたら大騒ぎになりかねん。早めにこっちから迎えにいかないとな。ともあれ...
「上がってきな、茶ぐらい出すよ。近状報告といこう」
「うむ、頂いていくか」
「私もー」
「そうね、せっかくだし」
随分な期間出歩いてたからな、色々面白そうなことも増えてればいいな
期待を膨らませ、黒斗は皆を縁側へと連れて行った。
どうもねこのめです。
今回は思いつくままにつらつらと書き綴ったのでほとんど推敲なしに。ただ前回までが推敲してこれかと言われると心苦しい...
まあこれが実力だと開き直るしかできませんわ。
ともあれ第三話、楽しんでいただけたでしょうか。今回は初めて黒斗の能力の鱗片をお見せしましたが、これでいいのかなぁと思ったり思わなかったり。……頑張ります
ではでは、次回にまた会えることを楽しみにしています