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第二話 かくして彼女は彼に出会う

「ねぇ紫、あいつと知り合いだったのよね?」


「そうだけど、ん…それがどうかしたのかしら?」


 いつの間に持ってきたのか、煎餅を食べながら返事を返す紫。


「具体的にはいつごろからなの?」


「あーそうね、せっかくだし昔話でもしようかしら。黒斗に会ったのはたしか……」








 それは紫がまだ大妖怪にもなってない頃、自身の能力も十全に使えない頃の話。とある森の中にて紫は大勢の妖怪に追われていた。迂闊にも大妖怪の縄張りに踏み込んでしまったのだ。


「こんなことになるなんて。もっと注意しとけば良かったかな」


「いたぞ!こっちだ!」


「逃がすんじゃねぇぞ!」


「あーもう鬱陶しい!誰が捕まるもんか」


 能力でスキマを展開しようとする紫だが一向に開く気配がない。


「なんで!?開かない、どうしようこれじゃ」


「そろそろ面倒をかけるのも終わりにしようか、小娘」


「なっ、早い!」


 いつの間にか紫の背後に現れた大妖怪。


「その様子だと訳のわからん移動術も使えなくなったようだな。なら後は容易い」


 言いながら大妖怪は紫へとにじり寄ってくる。紫は必死に距離を取ろうと逃げるが大木に退路を阻まれてしまう。


「いや!来ないで!!」


 紫は恐怖に目を閉じ縮こまってしまう。


「ははっ、もう諦めな。すぐ楽にしてっ」


 あぁ、もう駄目なのかな。まだまだやりたいこととかあったのになぁ。


 しかしいつまでたっても衝撃が襲ってこない。


 ……あれ?おかしいなまだ何もされない?一体何が…


 紫は恐る恐る目を開けた。


「………えっ?」


「駄目じゃん、こんなに可愛い娘いじめたら」


 目の前には黒い浴衣を着た青年が立っていた。


 に…人間?いや違う、妖力を感じる。それに頭についてるあれは、猫の耳?


「大丈夫かい、嬢ちゃん?」


「あっ、はい大丈夫です」


「それは重畳だ。待っててねすぐに終わるから」


 そう言って黒斗は先ほど蹴り飛ばした大妖怪に向き直る。


「そう言うことだ。悪いけど手を引いて欲しいんだが」


「ほざけ!こいつが先に俺の領土に入ってきたんだ。どうしようが俺の勝手だろう」


「えー、それじゃそっちはよろしくね。おう、こっちはやっとくよ」


 ………彼は何をやってるんだろうか。誰かと念話でもしてるのかな?


「貴様!この俺を馬鹿にしてんのか!!」


「あー、お相手がカンカンだから一旦切るわ。んじゃな」


「あの、今のは?」


「ん?友人から連絡あったんよ。正真正銘の風のたよりってやつかな?」


 いや違うか、と笑っている黒斗。紫は彼をじっと見ているとあることに気づく。


 あれ?人と妖怪の境界がない!?そんなバカな、こんなことがあるなんて…


「あなたは一体」


「おっと、話は後だよ嬢ちゃん。先に…」


 目線の先には堪忍袋の緒が切れた大妖怪が襲い掛かってきていた。


「ガアァァァァァァ!!」


「あいつをもてなさないとね」


「おらっ!」


「おっと危ない。そんなに単調だと当らないぞ」


「うるせぇ黙ってやられてろや!!」


 一直線に跳んできた大妖怪のパンチを軽くいなす。そのまま蹴りを放つが黒斗はすぐさまその場を飛び退く。


「くそっ、ちょこまかとっ」


「後も詰まっているからそろそろ終わりにしてもいいかな?」


「ほざけ!」


 そう言うと大妖怪の速さが急激に上がった。


「どうだ流石にこの速さにはついて来れまい!」


「速い!?」


「これが俺の【速度を上げる程度の能力】だ!」


「ふ~ん、それで?」


「なっ、それでだと!?」


「その程度で勝てると思ってんなら、お前さんはそれまでだってことだよ」


 黒斗はやれやれと肩をすぼめて首を振る。


「ほらやってみろよ、先に言っとくがお前さんの攻撃は俺には届かない」


 くいくいと手を動かし挑発する。


「いいだろう、後悔しろクソがっ!」


 大妖怪が一気に駆け出す。が、そこである違和感を感じた。


 距離が縮まらねぇ!?どうなってやがる!!


 そう、いくら走っても黒斗にたどり着けないのだ。


 周りの景色は流れてやがるから移動はしてるはず、何であいつは動いてないのに移動してやがる?…いや!少しだが脚がぶれてやがる!まさかあの体制で俺よりも速いってのか!!


「気づいたかな?お前さんは能力で二倍近い速さになってるんだろうが、そもそもの速さが段違いなんだよ!故にお前さんは俺には届かない!」


 能力を地の力退けるなんて、んなやつがいるなんて!


「…んだよ……何なんだよお前はっ!!」


「知るかよそんなこと、俺だって分かんねぇんだ。ただな…」


 急激に方向を変え大妖怪に突っ込んでいく。そのスピードに最早大妖怪は反応することが出来なかった。そしてすれ違いざまに持っていた扇子を一閃する。


「俺が俺だって事は分かってる。その脳みそに刻んどきな」


「くっ……」


「大丈夫だ、斬ってはない。暫くは動けないだろうけど」


「凄い……」


 黒斗はずっと座り込んでいた紫に手を伸ばす。


「立てるかな、嬢ちゃん?」


「あ、ありがとうございます」


 その手をつかんだ紫を勢いよく持ち上げた。


「よっと。さて、何でこんなことになってたんだ?」


「それは、その、間違ってこの縄張りに入っちゃって…」


「あー、それで襲われたと」


「はい…」


 そっか~それじゃ仕方ないのかな、と溢しながら黒斗は未だに動けない大妖怪に近づいていきしゃがむ。


「なぁお前さん、もう逃がしてやってもいいよな?」


「けっ、好きにしろ」


「分かった、好きにさせてもらうよ。それじゃ嬢ちゃん行こ…」


 急に黒斗の声が途切れる。


「おー、こっちは終わったぞ。………あ?おい馬鹿ちゃんと止めろよ!…あーもう分かったすぐに行くからなるべく抑えとけよっ!!」


「あの~、一体…」


「悪いな嬢ちゃん、急用が出来た。縁があったらまた会おう!」


 そう言うと黒斗の姿が一瞬で消える。


 えっ!?消えた!?私みたいな移動術でも使って?


 その場に残された紫は一人混乱することしかできなかった。








「それだけじゃないわよね?そうじゃなきゃさっきのやりとりの説明がつかないわ」


「このお茶美味しいわね」


「ゆ~か~り~?」


 すぐさまお札を構える霊夢。


「冗談よ冗談。そうかっかしないで」


「まったく、それで?」


「あの後はね」








 黒斗が消え若干の思考停止のあと、紫は一先ず情報を集めることにした。彼に会ってちゃんとお礼をしたかった。それに彼は他の妖怪とは違う、独特な空気を纏っていた。もしかしたらあの話をちゃんと聞いてくれるのではないか、そう思ったらいてもたってもいられなかった。


「取り敢えずこの山を下りないと」


 下山しているとある異変に気がついた。


「!?これは一体……」


 紫が目にしたのは辺りにばら蒔かれている大量の死体であった。そしてその殆どが体の至るところが抉り取られているのだ。


 気が滅入る。早く麓に下りよう。


 そうして紫は山をあとにした。それから紫は同じ轍を踏まないように能力を使う鍛練をしながらも情報を集め続けた。数年後、遂に黒斗の容姿に似た人物の情報を得た。近隣の里にいるらしい、急いで紫はその里に向かった。


「たしかこの里だと思うんだけど」


 辺りを見渡しても人間しか見受けられない。


 また情報が違ったのかな?はぁ、振り出しかぁ


「まったく、あれほど外に出ちゃ駄目だって言っただろ」


「だって~」


「だってじゃねぇよ。次からは気をつけな」


「けどいつも兄ちゃんが助けてくれるじゃん」


 肩を落とし里から出ようとしたその時、里の外から子供を肩車して歩いてくる青年がいた。


 見つけた!!


「俺はそろそろこの里から出ていくんだよ。だからいつまでも助けられない」


「えー出ていっちゃうの?」


「そうだよ。旅の途中だからな」


「あ、あの!藤白黒斗さんですよね?」


 あまりの嬉しさに少し上ずってしまった紫。


「ん?君は……あぁ、いつしかの嬢ちゃんじゃないか。こんな場所で奇遇だね」


「このお姉ちゃん兄ちゃんの知り合い?」


「そうだよ、昔助けたことがあってね」


「その節は本当にありがとうございました。お陰で今もこうして」


「あぁいいのいいの、にしてもそれを言うために態々ここまで?」


「は、はい。それと一度お話をしたいと思って」


「そっか。おい少年よ、ここまで来ればもう帰れるだろ?俺はこの嬢ちゃんと話していくから」


「うん分かった、またね!」


 子供は駆け足で帰っていった。


「待たせたな嬢ちゃん」


「紫です。八雲紫、これが私の名前」


「八雲と言えば奇怪な移動術を使うという、君がそうだったのか。」


「それなんですが、少し場所を移してもいいですか?」


「おう、構わんよ」


「では」


 紫がそう言うと空間が裂ける。


「へぇ、これが噂の」


「はい、スキマって呼んでます」


「これは能力か何かかな?」


「【境界を操る程度の能力】です。まだ満足には使えませんが」


 スキマを潜りながら話が進む二人。


「概念干渉系の能力か。随分凄い能力じゃないか」


「まだまだ未熟ですよ。それで話なんですが」


「人間と妖怪の共存?」


「そうです、私は………ってなんで知ってるんですか!?」


「俺の情報網を舐めるなよ。君が色々な妖怪に聞き回ってるって聞いたからな」


「そうですか」


「それで?俺はその話を聞いた感想を言えばいいのかな?」


「是非お願いします!」


「そうだな、正直かなり難しい事だとは思う。それだと一つの世界を造るのと一緒だからな」


「そう…ですよね…」


 やっぱり認めてはもらえないのか、所詮夢物語だと…


「けど」


「えっ?」


「すっげえ魅力的な話だ!そんな世界があるなら住んでみたい、だからよ八雲、お前は間違っちゃいない。誰が何と言おうがお前はその夢を追いかければいいんだよ。人の夢で儚いなんてあっけどさ、お前は妖怪だからそんなの関係ねぇんだよ」


「……ぇっぐ…ぅう…」


「気張れよ八雲。夢物語でも叶えちまえばそれは現実だよ」


「……はい!それであの…」


「何?」


「…ゆ……で…」


「ん?よく聞こえないが」


「紫って呼んでください!!」


 顔を真っ赤にして叫ぶ。


「……え?」


「だからその、紫って…」


 冷静さを取り戻して徐々に声が小さくなっていく。


「分かったよ、紫。これでいいかな?」


「あ、はい!」


「それなら俺も黒斗でいいよ、よろしくな」


「分かりました黒斗さん!」


「で、紫はこれからどうすんだ?」


「先ずは協力者を探そうと思います。黒斗さんのように話を分かってくれる者もいると思うので」


「そっかそっか。それじゃ早速行くか」


 その前に長に挨拶しとくのが先かー、そう言って里に向かって歩き始める黒斗。


「えっ?」


 そんな黒斗の行動が理解出来ない紫は疑問符を浮かべる。


「何やってんだ紫、早く行くぞ~」


「あの、これはどういう…」


「だから協力者を探すんだろ?なら長に言っとかないと」


「黒斗さんも一緒に来てくれるんですか?」


「あれ!?もしかして駄目だった?」


「そ、そうではなくて!」


 来て、くれるのか。手伝ってくれるのか。


 これまで非難され、馬鹿にされ続けてきた紫にとって夢のような瞬間だった。


 いや、夢なんかにしない!現実に、自分がしてきたことは正しかったんだって証明するんだ!


「おーい、どうした紫?」


「何でもありません。さぁ行きましょう黒斗さん!」








「こんなとこね」


 疲れたわ、言ってお茶を啜る紫。


「何か質問はあるかしら?」


「話の通りだとアイツってすごく長生き?」


「多分ね、詳しくは聞いたことないけど」


「それにしては子供っぽいのね」


「純粋なのよ黒は」


「それで?その後はどうしたの?」


「その話はまた今度ね、そろそろ戻らなくちゃ。藍を待たせてるから」


「そう、今度はちゃんと話なさいよ」


「善処するわ」


 じゃあね、そう言うと紫はスキマをくぐっていく。


 あの紫があそこまで信頼してるなんてね。少し気になるけど、ただ…


「私には関係ないかな」


 お昼寝でもしようと決め霊夢は縁側に移動していった。



どうも久しぶり、ねこのめです。

前回から少し期間が空いちゃいましたがようやくの投稿です。


妄想を繋げて文章を作るのが意外と大変だと感じた今日この頃。いやだって自分は生粋の理系人なんですもん、なんてぼやいてたら友人に「じゃあ何故始めたw」と笑われちゃいました。ごもっとも。年度の区切り目に何か始めたいなぁ、という思いから始めたんですが無茶だったか...二話目の時点でこんなんで大丈夫かな?


閑話休題。さて、そんなこんなで出来た二話目ですが楽しんでいただけたでしょうか。感想・ご意見等々いつでもお待ちしてます。それではまた次回


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