ニート変身
昼過ぎから徐々に目が覚めてくるのが、数年来Kの日課になっていた。明け方近くまで不眠を引きずったままディスプレイを直視し続けるという行動パターンのせいで、眼の周りは赤く日焼けしたようになり、締め切ったままのカーテンで、日の光を浴びることはほとんどなく、不健康な色白い肌は他者に不快感を与え、衰えた筋肉が人間らしからぬ体格を作り上げ、異様な雰囲気と動作を持った、人に近いが別の生命体、という印象の人間が出来上がっていた。
仕事もせず毎日部屋に閉じこもっているKだったが、一生このままでいいと考えてはいなかった。オンラインの求人情報サイトを巡回することで、Kは社会復帰への僅かな一筋を保ち、複雑な心理状態の寸前で自身の衝動を抑え、狂いもせずに生き存えていた。
しかし、Kは並の企業では満足できない自尊心の持ち主だった。幼い頃から歪められ形成された性格は完成形に近く、大抵の幸運では前向きさなど信じることはできない、失意の上に築かれた猜疑心が、これまでにK自身に芽生えた多くの希望の芽を残らず摘みとってきた。
求人サイトに掲載されてあるどの企業も、Kを納得させる条件を提示することはできなかったので、当然のように求職することはしていなかった。
しかし、家族はどこでもいいからとりあえず働くことを覚えることが先決だと、Kを説得しようと何度か試みたが、固く閉ざした口は決して家族を喜ばせようとはせず、それどころかKは、自分は家族から阻害されているのだと自身を哀れみ、同情を寄せない家族を恨み、批難するばかりだった。それでも働くことを本気で諦めたわけではなかった。ただ、自分が何かの病気であるような感覚が幼い頃からあり、おそらくそれは真実なのだと信じて疑わなかった。
けれど、それを家族に伝えることは弱みをみせるようで躊躇われ、どうしてもできないままでいた。働けない自分を内心責めながら、求人情報サイトを巡回しては、どの条件にも満足できず、どこへも求職しないままでサイトを閉じ、夜中になると、行動できなかった後悔が追い打ちをかけ、さらにKを責め苛ませる。
Kはまだ若かったが、髪には白髪が目立ち、目元は暗闇の生活のため窪み、以前より一回り小さくなったようで、乾燥した肌にはシミが増え、目尻に皺までできていた。
Kの生活は家族から孤立し、自ら望んでそうしたはずの孤独であるのに、完全なる孤独を深層では恐れ、それ故にパソコンの電源を落とすのはなによりも怖かった。就寝する直前までディスプレイから眼を離すことができず、目的もなく繋いだネットを寄り道でもする感覚でだらだらと、ほぼ決まったサイトを歩き回る。いつの間にか窓の外から、動物の活動的な音が聞こえ始めると、夜が明けることを悟り、ようやくひきっぱなしの布団の中へ潜り込む――
固い眠りの果てに、鈍い覚醒が起こると、身体の重みに堪りかねるよう嫌々目を開ける。締め切ったはずのカーテンには隙間が覗け、挑発的で強烈な日光のおこぼれがKにも与えられる。今日もどうしようもない時間を消費することを考え、Kはこの世はまさに生き地獄である、そう悲観し、また必要のない眠りに逃げ込もうとする。
ある日、いつものように昼時に目を覚ましたKだったが、これまでの鈍い覚醒と固い眠りを引きずった重たい感覚に、いつもはないもう一つの悪い感覚に、二度寝するのを止め、上半身だけを起そうとした。布団の中の自分が思ったよりも大きくて、思うように起き上がれず、布団の上で転がってしまい、まさかここまで太ったとは、と自分の怠惰もここまできたか、しかし、この太り具合は尋常じゃない、いつの間に太ったのだろう。そうつぶやき、暗がりでKは自分の腹の辺りを探るようさすってみた。
驚きの声を部屋中に響かせ、Kは布団から身体を起し、パソコンの電源を入れようと四つん這いなり、さらに驚くことになった。暗闇になれてきた両目がK自身の異変を気づかせた。思うように動けなくなった理由はディスプレイに映ったものが教えてくれた。
てかりのある黒い画面にグロテスクな芋虫が、顔を突き出す形でじっとしていた。それが自分の変わり果てた姿であると納得することをKは拒否した。今思い出したようにパソコンの電源を入れると、画面はすぐに輝きを放ち気味の悪い芋虫を消し去ってしまった。
まず、求人サイトの更新分を確認しようと思ったが、アダルト動画サイトの更新もされているはずだからと、そちらを優先し、本日分を視聴しているうちに腹が減り始め、一階に誰もいないことを確かめるためにそっと床に耳を当ててみた。床には髪の毛が散らばっていて、埃もひどく掃除を最後にしたのはいつかも思い出せないくらい日が経っていることを窺わせた。いつもこの時間なら家にはK一人だということは分かっていたが、臆病なKにとって目覚めに家族と顔を合わせることは拷問よりもつらい仕打ちなので、念入りに階下が無人であるのを確かめた後のそのそと階段を這い降り、その際粘液のような物を床に残しながら、ぶよぶよとした身体を収縮させて前進し、いつもより長い時間をかけた後、ようやく辿り着いた冷蔵庫を漁る。息切れしたまま空腹感を紛らわすだけ飲み食いし、その場で一息つき、また部屋へ戻るため階段をゆっくりと這い上がっていく。
部屋に入り再びディスプレイをのぞき込むと、待機状態の暗い画面にはやはり先ほどの芋虫が映っていた。本当に自分の姿がこれになったらしい、これは困ったことになったな、けれど昨日録画しておいたアニメを視聴しなければいけない時間だ。うん、三十分くらいどうってことはない。もしかすると、その間に元の身体に戻っているかも知れないし、今慌てふためいたところで仕方ないのだから、とKはおもむろに、自作したアニメ放送のタイムテーブルに目を通した。
アニメの視聴が済むと、芋虫のことが詳しく載っているサイトを探し、そこで自分の身体と写真の芋虫を比べ、どれが自分に一番近いか悩み始め、将来性のある芋虫をみつけ、それを自分に近い存在とした。その芋虫は成虫になると綺麗な羽をつけた蝶になるらしい。成虫になった自身の姿を想像し一応の満足をし、ページを閉じる。
次に、何度も読み返した漫画を一冊めくっているうちに、結局全二十巻を二時間費やし読み終わり、ようやく求人情報サイトを開いた頃には、妹が学校から帰ってくる間際で、求人を閲覧しながら、会社も仕事で忙しいだろうし、この時間帯に面接希望の連絡を入れるのは失礼な行為だからもう無理だ。連絡は明日の朝一番にすればいいだろう。明日一日早起きするくらいは自分でもできるはずだから、今日のところは仕方がない、明日確実に連絡をすればいいのだから、と考えKはサイトのページを、明日のために勤務時間と月給に絞ってさらに閲覧していく。
しかし、求人サイトには今日も満足のいくものは掲載されていなかった。不況で会社は人件費を削りたくて仕方ないのだろう。Kはネットのニュースで得た情報を頼りに外の世界を推量し社会を憂えた。
一仕事終え、別のサイトを表示させようとした際になかなかページが開かず、ネットの繋がりが遅くなってしまった。平日なのにどういうことだ、プロバイダーは加入者を集めるだけ集めておいてこのざまだ。何にでも儲け主義というのは浅ましくて駄目だ。もっと利用者のことを優先にするのが商売というものだろうに駄目な会社だ、クソだ。Kは儲けようとする全ての人間を憎み蔑んだ。
パソコンが起ち上がるのも以前より遅くなっていた。Kはいろんなフリーソフトを入れすぎたからだと考えた。新しいパソコンがほしくなると、比較サイトを閲覧し始める。最新のパソコンのスペックをみて欲求が高まり、金持ちになった自分がハイエンドのパソコンを買い漁る姿を空想する。しばらくすると一時的な平静がKに訪れ、思い出したようにアダルトではない動画サイトをだらだらと視聴し始める。
夕方になると、といってもKにとっては起きて数時間後でしかなかったが、家族が帰宅し出す頃になり、Kは俄然落ち着かなくなる。圧迫感が強まり、追い立てられるよう慌てて求人サイトで検索を繰り返す。今度は条件をゆるくしてみたが、家族が部屋を歩く音に心を乱され全く集中できずにいた。
食欲を刺激する臭いが二階にも届き、Kは夕飯をどうするか悩み、結局母親が読んでくれたら降りていこうと結論を出した。
母親が夕飯の支度をしている間、夕方のニュース番組を観ていたKだったが、嫌いな政治家が映ると、途端に不機嫌になる。政治家のせいでこの国が悪くなっていく一方だと、Kは憤った。自殺者は増え続ける一方で、雇用は落ち込むばかり、と。
しかし、今のKは芋虫になってしまったことを理由に、自分は働きたくとも、そうできない状況になってしまったのだからどうしようもないのだ、と胸のつかえがとれたように、精神的に軽くなったのを感じた。誰も芋虫を雇おうなどと思わないだろう。自分がいくら働きたいと願ったところで、それは無理というものだ。これは自分のせいではない。勝手にそうなってしまったのだから、どうしようもないのだ。
Kはこのことを家族にもきちんと話しておこうと考えた。いままで肩身の狭く、居心地の悪さを我慢し続けていたKだったが、今日限りで家族が自分に優しくしてくれそうな気がしていた。家族四人で夕飯を食べるのは久しぶりだった。妹の形容しがたい表情もKの置かれている状況を説明しさえすれば変わるはずだった。
だが、Kの言葉は家族の誰一人として理解し得なかった。だれも芋虫の言葉を解る者はおらず、Kは自分が芋虫であることをひどく悔やんだ。必死に自分がどうしてこうなったかを説明しても、家族は複雑な顔をしてKのことを、身を引き気味にして眺めているだけだった。
自分の部屋に戻りKは家族を恨んだ。心の中で罵った。それは長い間続けて繰り返されるKの行動でもあった。Kは家族にも解るようにと言葉を覚えるために本を読むことにした。元々人間だったKだから、家族の言葉は聞き取れた。今度はこちらから話すための言葉を覚えるだけなので、そう難しいことではないように思われた。
手始めに以前母親が買ってきた思想書を読んでみることにした。それは部屋に閉じこもるKを元気づけ、社会復帰を促すものだった。が、プライドの高いKは、この母親からの贈り物に今まで手をつけずじまいでいた。芋虫になってしまった自分には社会復帰はもう必要のないことになってしまったが、せっかく母親がくれた本だから、この際時間も充分に得られるようになったし、じっくり読了してみようと、数ページ開いてすぐに腹を立てた。文章が上から目線なのだ。
こちらが金を払って買ってやったのに、なんて偉そうな物言いなのだ。こっちはお客様なのだから、もっとへりくだった文章を書くべきだ。本の内容を実践してもらいたかったら作者は自分が実践したくなるような言葉を選んで書くべきだ。そんなことも解らないとは、この本を書いた奴は駄目だ、とKは怒り、本を投げ捨てた。
続いてKは最近書店で売れ筋だという、ニートが自立を目指すという物語を読んでみることにした。お金のないKは違法なダウンロードで本を入手した。電子書籍のデータごと違法に落とすことに抵抗など皆無だったのは、もう何度もそうしてきたし、芋虫になってしまった自分がお金を持っているはずがないのと、お金を稼ぐ手段も奪われたのだから、この方法しかないのは当然といえるだろう、と納得し本を読み進めた。
序盤ですぐにKはそれ以上読むのが嫌になった。登場人物の男に彼女ができたからだ。これはニートではない。自分とあまりにも違いすぎるではないか。この作者はニートをまるで理解していない、駄目だ。
だいたい自分はニートではなく、どちらかというと引き篭もりの類なのに、その区別すらつかないくせにこんな本を書くとは許せない。それにこんな容姿で女ができるわけがないことは、少し考えたら誰にでも解ることだ。芋虫に人間の恋人ができるなんて有り得ない。これは現実的ではない、虚構だ。やはり読み物は読み物でしかなかった。こんなくだらない読み物に金を払うなんて無駄なことをしなくてよかった。こんなものはタダでも読む価値のないものだ、とそれを書いた作者をこけおろし、失望の中電子文書を閉じ、モニターに映る変わり果てた姿に耐えられず目を逸らす。
ふと、そういえばどうやって自分はパソコンを操作しているのか、とKは疑問に思った。芋虫に器用な手などあるはずがない。キーボード、箸、扉の開閉、一体どうやって行っていたのか、普通の人間なら無意識のうちに行えるだろうが、芋虫となった自分がそれを行えること自体が不自然なのだ。困ったことになった、とKは焦りを感じ始めた。それを突き詰めようとすれば自分に悪い結論がみえてくる恐れがあった。Kは精神の健康を理由に、頭を悩ませることを今はすべきではないと判断し、それ以上悩むことをやめてしまった。
外見の変化以外は、それまでのKと、今のKにはたいした変化はなく、それまであった行動パターンがより強固になったといった感じだった。
まず、身なりにこれまで以上に気を遣わなくなった。誰が芋虫に、服装に気を遣うことを望むだろうか。それこそ道化ではないか、と考えそのままの格好を続けていた。糞尿も同様の考えで家族の使用するトイレを避けるようになった。芋虫が人間用のトイレで用を足していたら、それこそ虚構でしかないのだから、とKは部屋で排泄を済ますようになった。そのために室内は異様な臭いが立ち篭めるようになり、益々家族はKとの距離を置くようになった。
それからさらに日が経っても、Kの生活リズムには大した変化はみられなかった。昼過ぎに起き、パソコンを起ち上げ、ほぼ決まったサイトを巡回し、その合間に申し訳程度に空腹を満たし、排泄をする。家族の気配がしているうちは落ち着かず、神経がいらだち、家族が寝入った頃合いに活動的になる。といっても部屋のある一定の場所から移動することはなく、じっとパソコンのある場所に身を留まらせていたので、一カ所だけに体液のシミがひどく、汚れが際立っていたが、そんなことにも関心はなく、ひたすら眠気がくるまで、ディスプレイから照らし出される光に吸い付き離れようとしなかった。
今現在の身体にも慣れ、働くことは思考の片隅に留まるくらいになっていた。昼から夕方にかけては求人サイトにある会社に連絡をとろうとするが、いつの間にか動画サイトを眺め時間を潰し、夜中になると焦り始め、ネットの掲示板に書き込みをするついでに、もう一度同じサイトで見落とした求人がないかを確認する。そして眠気がくれば布団に入る。それでもKは芋虫であることを忘れなかったし、そのうち元に戻る可能性もあると考えていた。一生このままでいられるはずもないのだから、ある日突然人間に戻れるはずだということだけは信じられていた。
そんなKの生き方に家族が我慢できず、Kを囲んでの話し合いを提案した。Kはのそのそとリビングへ降りていき、裁判の被告のような肩身の狭さを覚えながら、家族一人一人の、Kに対するこれまでの思いを打ち明けられた。
母親が口火を切り、いきなり働くのが無理なら、一度病院で看てもらうことを提案したが、Kは普通の医者にこの奇病を治すことができるはずはない、母は何にも解ってはいない、とKは失望した。これは母の考えているような種類の病気ではないのだ。人間が芋虫になった例などこの世にない。これは新種の病気なのだから、治療法もこれから研究されるに違いない。時間がかかる問題だ。もっとじっくりと容態を看ていくべきだ、とKは主張するものの、母親にはKの言葉が理解できない風だった。首をかしげ、眉間に皺を寄せる、Kはいつもそんな表情でしか家族に見られたことはなかった。
妹は、こんな兄がいては恥ずかしいばかりだと、自分の立場から責め立てた。Kは芋虫になったのは自分のせいではないので、そんなこと言われても責任は負えない、と反論したが、妹は恨めしそうにKを見つめ黙り込んでしまった。時々、思い出した出来事を口にし、断片的にKを責めた。Kは自分には責任はないと、心のなかで突っぱねるだけだった。
妹以上に黙り込んでいた父親だったが、経済的な理由からKに働くことを強要してきた。Kにはその言葉が一番堪えた。それはKの怒り具合で窺えた。この姿で、この状況で経済的支援が受けられなくなるのは、Kにとって殺されるのと同然だった。この父は自分を殺す気だ、とKは追い詰められる恐怖を抱いた。
このやりとりの間もKの言葉は家族の使う言葉とは異なったものだったので、所々互いに抜け落ちたまま意味を推し測るしかなかった。
Kはかみ合わない会話に言い知れぬもどかしさを感じ続けていた。そのうち家族にも自分の言葉を覚えようとする努力を求めるようになった。自分だけが相手の言葉を覚えようと努めているのに、これでは不公平ではないか、と家族を責めた。
しかし、家族はKの要求とは別の要求をKに求めている。しだいにKは感情的になり、重い身体をくねらせて家族に、自分は働きたくてもそうできない身体だということを訴え続けるばかりだった。
興奮しっぱなしのKに、家族が怯えているのも知らず、まだ怒鳴っているKを、堪らず妹が殴りつけた。これはどうやら人間ではない、と固い棒状の物についた体液を見て、震えているKをまた殴りつけた。人間であったなら殴られることがなかった、とKは悔やんだ。容赦なく自分を殴りつける妹に父が加わり、Kは体液を流した。
芋虫のKにも反撃することはできた。しかし震える身体はうまく動かせず、不器用に暴れ回るしかなかった。家族は、一生このままでいるなら、いっそ死んでしまった方がKのためだ、と訴えた。
Kは愕然となり放心しされるがままになっていた。初めて家族の明確な殺意を身に感じたからではなく、初めてむき出しになった家族の本音が、自分への憎悪であったという事実が、彼にこれまでにない絶望を与えたからだった。 今まで僅かばかりにも家族は自分へ対し同情を寄せてくれているものとばかり思っていたKの小さな希望は完全に絶たれた。
家族の生の感情を身に受けながらKはこう考えていた。殺されるというのは、自殺とは違い自分には責任が生じないのだから、死んだ後に悪く言われることはないに違いない。悪いのは家族の方だ。自分を殺したのは家族なのだから自分は同情されていいはずだ、と。芋虫になったのは自分のせいではなく、悪いことがばかり起こるこの人生がおかしいのだ、これは一人の人間の手に余る大きな問題だと理解できない家族とは違い、自分は知りすぎたから生き辛さばかり感じてしまう、と家族に対して哀れみを誘う格好で身を縮まらせたが、それを徹底した防御の姿勢と捉えた家族は呆れてしまい、殴るのにも疲れその場にへたり込み、堅く閉ざしたKの格好を傍観するだけだった。
もう、家族の攻撃は止んでいたが、Kの全身に加えられた暴力の痕は、紫色より深く変色し、それに伴い生じた痛みは点滅するようにリズムを刻みながら、時々痙攣を起こした。
Kは点滅する意識の中で煩く反響する撲殺の音に、まだ意味もなく耐え続けようと努めていた。不格好に腫れ上がった身体が小刻みに痙攣するその様はさながら芋虫のようにもみえた。