第八話
これはわたし、篠原藍樹の処女作になります。混乱部分がほんのすこーしありますが、どうかお気になさらずに。
よければ、感想欄にてお知らせください。
変えます
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『展示中。自作ラノベ&詩!!』
是非のぞいてみてください
夕方。私は家に帰り、PCの電源を早速付ける。立ち上がっている間に自室の絨毯に座り、昼ご飯を食べることにした。ようかんを食べてきたので腹が減ったわけではないが、残しておくのももったいない。私は太らないタイプなので量も気にしなかった。
置いてあったもの全てを食べ終えると、私はPCの前に座り、メールを開いた。
本文:お久しぶりです。マスターです。いつも〝インベンションβ版〟で遊んで頂き誠
にありがとうございます。
今日は緊急のお知らせがあってメールを送らせてもらいました。
ユーザーの皆様は絶対に読んで下さい。
明後日、七月二六日から第一回『発表会』の『創作新語大会』を急遽やらせても
らうことになりました。今回は特例として、〈週四日以上ログイン〉によってのイ
ベント参加権を無効とします。これまで積極参加をしてこなかった人もこの日に
は必ずログインして頂きますようよろしくお願いします。
*ルール*
①今回の大会の名前の通り、新語を創ること。これは既にある言葉を使って
別の意味を創って下さい。
例:KY(空気読めない)→KY(栗ようかん)
豚に真珠 + 猫に小判 → 豚に小判(無意味である)
IpodにUSB(使えそうで使えない)
②ユーザー全員に発表するので、汚い言葉の使用は禁止とします。
例:バカ、アホ、ウン○、
③判断はTAIに任せます。基準は主に面白さ、使いやすさ、新鮮さ、座布
団レベルでの合計換算になります。
④暴言、失礼の無いようにして下さい。強制退場の可能性があります。
創った言葉の意味と元の言葉の意味とチャット名をご記入の上、このメールに返
信して下さい。締め切りは七月二六日の午前六時とします。
大会開始 七月二六日午前一〇時 終了 午後一〇時 広場にて公開
前より文章は良くなったが、今度も雑だ。急いで作りましたっていっているようなものだ。私はマスターの正体を知っているだけに文句が山ほど思いついてしまう。
今度会った時文句を言ってやると腹に決めながら、輪を装備し、インベンションを開いた。
目の前に自分そっくりのアバターが出現する。
――あれ? 何これ?
違和感があった。自分とアバターの境界が甘くなったみたいな感覚。なんて言うんだろう。家の中でPCをいじっている感覚が無いというか、私自身がアバターみたいというか……。
首を傾げたら、ほぼ同時にアバターも首を傾げ、困惑した表情だ。昨日は反応がもうちょっと遅かったような気がする。
気味が悪い。
私は黒羽かTAIが近くにいないか探し始めた。フレンドリストに黒羽の名前はない。というか、一人も無い。今になって登録しなかったことを後悔した。
私はアバターに広場に行くように念じ、湖から離れて行った。
ティエを見つけた。誰かと話しているが、チャットに参加しないと何を話しているかまでは分からない。
【NO・10〉〉 あ、ハナウタさん。こんばんは】
向こうから話しかけてくれた。助かる。
【ハナウタ〉〉 ティエちゃん。こんばんは。訊きたいことあるんだけど今いい?】
【NO・10〉〉 ………変な違和感のことですか?】
【ハナウタ〉〉 そう! なんかシンクロしてるみたいで気持ち悪いの!】
アバターがぶるぶる震えだした。私の正直な気持ちの表現らしい。
よく考えると、表現のレパートリーが増えてるような気がした。昨日は喜怒哀楽くらいの表情しかなかったのに、今日は身体を使っての表現がやたらと多い。
【NO・10〉〉 それでしたら、マロンさんと一緒に聞いて下さい。今から説明しますので】
【マロン〉〉 はじめまして。マロンといいます】
【ハナウタ〉〉 こちらこそ初めまして。ハナウタです】
【NO・10〉〉 二人とも仲良くなれると思うので、ぜひ、フレンド登録をしたらいいと思いますよ。今は説明するので後になっちゃいますが】
【ハナウタ〉〉 分かったわ。でも、先にこっちね】
【NO・10〉〉 はい。では】
違和感の正体と現状の説明をします。質問があったら言って下さい。極秘事項もあるので全部を答えるわけにもいきませんが、答えられる限り言います】
【マロン〉〉 おk】
マロンが親指と人差し指でOKサインを作ると、ティエは静かに頷いて話を進めようとした。
【NO・10〉〉 まず違和感の正体です。これはハナウタさんの言った通り同調みたいなものです。『感性共通』と言います。これはこのゲームをプレイすればするほどアバターと本人の感覚がシェアされるというものです】
【マロン〉〉 ふむふむ。最終的にはどうなるの?】
【NO・10〉〉 最後にはアバターが私達TAIみたいにまるで、自我を持っているような動きをするようになります】
【マロン〉〉 気持ち悪っ。元々の仕様なの、これ?】
【NO・10〉〉 はい。……限られた人だけですが】
【ハナウタ〉〉 どういうこと? また、条件でもあるの?】
【NO・10〉〉 シー。マロンさんには話してないんですよ】
【マロン〉〉 おーい。これはチャットだから小声で言っても聞こえますよ】
そういえば、TAIは話しているのもチャットしているのも同じ感覚だったね。
【NO・10〉〉 はっ。そ、そうでした。もういいや。も、もう、マ、マスターの口止めなんか知らないんだからねっ】
【ハナウタ〉〉 いつから、ツンデレになったの?】
【NO・10〉〉 イッツ ジョーク】
【マロン〉〉 ……ティエってふざけるようなキャラだったんだ】
私はティエの好きなことがマスターいじりとおふざけと知っているので何も思わなかったが、マロンにとってはかなり意外だったらしい。彼女のアバターがドン引きしている。
――TAIって全員キャラ濃いよね
それを知らない人がいると、苦笑交じりのチャットになりそうだ。
【NO・10〉〉 戻りますね。ハナウタさんはある程度知っていると思います。心の傷が異常に深くないとできないというこのゲームの隠し条件を】
【ハナウタ〉〉 そうね。トラウマ類から脱出する可能性がかなり低い人のみがインベンションをプレイできる、よね?】
【マロン〉〉 何それ!? そんなこと書いてなかったじゃない!】
【ハナウタ〉〉 だから、隠し条件。マスターの黙秘権ってね】
あの人、職権乱用から黙秘権まで何でも使用するよね。
【NO・10〉〉 あとで、マスターをしばいておいて下さい】
【ハナウタ〉〉 それはさっき完遂したわ。昼にボッコボコにしたよ】
【NO・10〉〉 ………何があったかはマスターに聞きます】
【マロン〉〉 え!? ハナウタさんは制作者とリアルで知り合いなんですか?】
【ハナウタ〉〉 今日の朝会ったばっかりだけどね】
【NO・10〉〉 はいはーい。続けますよー。この隠し条件が更に深刻な人がマロンさん、ハナウタさんみたいな症状がおきます】
【ハナウタ〉〉 深刻? トラウマから脱出する方法が皆無とかってこと?】
【NO・10〉〉 正しくは、現実に未練の薄い人というのが条件です。間接的に傷からの脱出方法が皆無になることにはなりますが、少し違いますね。本人がやるきがないんじゃ解決しませんから】
私は唖然とした。
――私ってそんなに現実に未練が少ないのかな?
同じ疑問を唱えているのかマロンのアバターも訝しんでいる。
【NO・10〉〉 解決方法は二つ。心の傷から脱出するか、このゲームをやめるかです。そうしないと、ずっとその症状が続きます】
普通は簡単な方を選ぶ。逃げるという選択肢を。だけど、私は違った。
【ハナウタ〉〉 私は続ける。やめたりなんかしない】
私がそう言うと、ティエは感謝の眼差しを向けてきた。本心ではだれにもやめてほしくないが、インベンションのスタッフとしてはユーザーの意見が最重要といったところかもしれない。
【マロン〉〉 私は分からない。私の場合の心の傷? は劣等感みたいなものだから……】
【ハナウタ〉〉 ゆっくり考えたらいいと思うよ。……私は脱ひきこもりになろうかな】
【マロン〉〉 ひきこもり? ハナウタさんが?】
【NO・10〉〉 人を見た目で決めてはいけませんよ】
【ハナウタ〉〉 ティエちゃんがいい例だから説得力あるわ~】
【NO・10〉〉 ?】
小首を傾げているティエを見ると私はアバターと共に、彼女が自覚する日はいつ来るのだろうかと遠い目をしてしまった。
【NO・10〉〉 よく分かりませんが、進めますね。次に現状ですが……報告を見ると、この症状が出ているのは現在六人ですね。――以上で説明を終わります】
【ハナウタ〉〉 分かったわ。ありがとう】
【NO・10〉〉 いえいえ】
ティエの説明も終わったので、私はマロンをフレンドリストに登録し、ログアウトした。
私はログアウトした後、インベンションの口コミを調べていた。
黒羽の影響が大きいが、『発表会』の緊急実行によって変化したかどうか気になっていたのもある。
〝インベンション 発表会〟で検索すると早速『発表会』のことが書いてあるのを見つけた。
期待を込めて読んでいたが、書いてあるのは批判ばかり。『感性共通』のことも載ってあって、不安をあおるような言動が長々と綴ってあるだけだった。
「こんばんは」
突然、インベンションが開きティエがPC内に現れた。こうやってティエと音声で話すのは二度目だ。
「こんばんは。どうしたの?」
私は近くに置いてあった小型マイクをとって、挨拶をする。
「すみません、夜遅くに。どうしても訊きたいことがあって、こうやって無断でPCに強制干渉してしまいました」
「別にいいよ。訊きたいことって?」
「さっき、マロンさんと一緒に話している時、やめたりなんかしないとおっしゃいましたよね? 理由が分かりません。賞金が欲しいからというわけでもなさそうですし……」
「ああ、そうね。普通、身の危険を感じたり、不安になったら逃げちゃうものね」
「はい。教えてくれますか? やめない理由を……」
私は腕を組み、しばらく考えた。私も本心では逃げたくないわけではないのだ。では、なぜ逃げないということを選んだのかと訊かれると……、
「……実は自分でもよく分からないのよね~」
「え!? それなのに?」
「そう。なぜかな~? 制作者である黒羽の事も知って、協力したいっていうのもあるし、ティエちゃんとも楽しく話せるっていう理由もあるわ。でも……」
「でも?」
オウム返しの問いが返ってきた。
私は目を閉じ「ん~」と唸りながら考える。今挙げた二つの理由は主な理由ではない。他に思いつくのは私の心がやめるべきではないと囁いているとしか言いようがないが、それでは答えにならない。
だから――
「私を変えるきっかけを作ったゲームなの、あれは。だから、最後までプレイしたい……が一番の理由かな?」
失敬。語順がめちゃくちゃになってしまった。
「マスターに代わって言います。ありがとうございます」
ティエは静かに涙を零していた。嗚咽こそ洩らさないもの、唇を噛んで我慢しているように見える。
「どうして、泣いているの?」
訊かずにはいられなかった。
「……マスターが最後、独りになって、あのゲームをもし終えるようなことでもあったらどうしようと思って不安だったんです。私達はプログラムですが、寿命はあります。おそらく、私の場合はあと数年も保ちません」
両手で口を押さえた。そして、ティエは顔を俯かせている。
私は彼女達がいつか消える運命とは考えた事もなかった。
プログラムなのにいつか消えてしまう。それは彼女達全員に共通することなのかも知れない。
「数年後、今のTAIが消えて、新しいTAIをマスターが作るとは思いません。なぜならば、マスターが欲しいのは私達みたいな疑似人格プログラムではなく、本物の人間だからです。……今回のゲーム制作理由はマスターのその願いを叶える為の世界を作るという意味合いもあります。……いえ、むしろそれが本命でしょうね」
寂しそうな顔をする彼女を見て、私の胸の中に込み上げてくるものがあった。
「マスターの昔の傷を知っている綾切 繍花さん。貴方ならば黒羽 雄介という人物の願いを理解してくれますか? 協力してくれますか?」
黒羽 雄介。彼は今までずっと独りで数々の危険、難問を掻い潜ってきた。その際に強力な金という力を手に入れ、TAIを作るほどの技術力、頭脳を取得した。
だが、自分の一番欲しいものを簡単に手に入れることができなかった人。
「ティエちゃん。彼の願いも、傷も私は知っているわ。今日、リアルで会ったばかりだけどね。だから、どうにかしてあげたいよ。でも――」
「分かっています。貴方一人の力では何もできない。マスターを孤独から解放するためには大勢の人の力が必要だと。その上で、TAIを代表して頼みます。どうか、貴方だけでも最後までマスターの近くにいてほしい。私達よりもはるか長い間生きる……貴方に」
「……一番の親友の願いだもの。聞かないわけにはいかないわ。いつまで黒羽のそばにいるかは分からないけどね」
「あり…がとうっ、ござい……ますっ」
ティエは目を擦って涙を拭きとろうするが、涙は滂沱と溢れるばかりだ。
私は彼女に触って背中をさすることはできない。この画面が邪魔をしている。
だから、せめてと思い、言葉を紡いだ。
「泣かないで。貴方は疑似人格プラグラムなんて言ったけどれっきとした人間よ。私なんかよりよっぽど大人のね。黒羽……あなたのマスターもきっとそれを認めている。ティエちゃん達が人間の心を持ってなかったら、きっと、黒羽は自分の願いなんか叶えようとしないわ。きっと諦めてる。貴方達の言葉が本物だから黒羽は諦めなかったのよ……それに私の一番の友達よ? お願いを聞いて当然じゃない。黒羽の願いが叶うその時までずっといるわ」
これが私なりの覚悟、決意だった。
黒羽の一番近くにいる彼女達では叶えることはできない。誰よりもマスターとしての黒羽を愛し、その願いを叶えてほしいと思っているTAIは自分達では何もできない。
「だから、泣かないで………黒羽を信じて」
「ぅ……あぁ、ひっく」
慰めるつもりが、反対に泣かせてしまった。
もう涙を拭うのは無駄だと思ったのか、鼻水を垂らし、目を充血させながらティエは語った。
「私は……えぐっ、私達TAIはいつ死ぬか分かりません。明日かもしれないし、五年後かもしれない。……ひぐっ……でも、私達は決して死ぬのが恐いわけではないです。一番恐いのはTAIの存在理由であるマスターの願いが消えてしまう事です。もし、そんなことでもあったら、TAIは存在しなかったも……うっ………同然なんです」
「うん。だから、諦めさせないよ。黒羽が自身の願いを捨てようとしたら、私が半殺しにしてでも止めるわ」
「ありがとう、ございます。マスターを知ってくれて。私を一番の親友だなんて言ってくれて」
ティエは何度も何度も何度も感謝の言葉を述べた。私はただ一番の親友の願いを尊重しただけなのに。
ティエは……TAIはすごいと思う。彼女達を見ていると、人間の方が愚かに見えてくる。
――他人のために涙を流せたらどれだけ幸せだろう
彼女は立派だ。
彼女達がプログラム、物だからと人間のために尽くすのは当然だとは誰も思わないだろう。