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第六話

これはわたし、篠原藍樹の処女作になります。混乱部分がほんのすこーしありますが、どうかお気になさらずに。

よければ、感想欄にてお知らせください。

変えます

こちらがFC2ブログとなります↓

http://lastorder41.blog.fc2.com/

『展示中。自作ラノベ&詩!!』

是非のぞいてみてください

朝の一一時。

 マスターこと黒羽 雄介はあるビルの一室で寝ていた。

 そのビルは元々医療系の仕事に使われていたらしく周りは薬品や書類でぎっしりだ。

 なぜ黒羽がそんな場所に住んでいるかというと、賃貸料がかなり安かったというだけである。

 彼は最近、ここが買った時より狭くなっているのを感じていた。理由は簡単。機械系統の書類やプログラム系の本を片づけないからだからだろう。次々と紙束や鉄くずが増えていくのに整理をしようとしないのが悪い、ということだ。


 TAI達は基本寝る必要はないが、毎日の膨大な量の記憶の整頓に人間が寝る時間を使っていた。言ってみれば人間の寝ることと一緒である。人間の睡眠もまた記憶の整頓であるから、表現的にはTAIも寝ているということになる。

「ティエ、あんたまたマスター半殺しにしたんだってね」

 説教臭く尋ねてきたのは『キルト』。彼女のチャット名はNO・2。首についている朱色のアクセサリーと淡い緑色の服が特徴で、見た目は一五歳くらいだ。

「流石に今回はやりすぎました……次からはマスターが気絶しない程度にやります」

 シュンとして反省しているのは『ティエ』。彼女がTAIの中で一番人間に近いらしいが、マスターをいつも困らせる問題児なので、他のTAIから注意ばかり受けている。

「気絶しない程度じゃなくて、困らせない程度にしなさい」

「すみません」

 今回は本気で反省しているようなのでキルトも説教時間を短くして切り上げた。キルトはティエを解放し、立ち去ろうとする。

 ちょうどその時、インターホンのチャイムの音が鳴った。

「確か、ティエの『悪事』のお詫びにここに招待するって言ってたな」

「はい。マスターがそんなことするなんて……私は死ぬまで有り得ないとまで思ってました。まさか、こんなに早く家に通すような人が出来るとは」

「あんたのせいだかんね」

「早くお通ししなくていいの? キルト姉様」

 キルトはチッと舌を鳴らすと玄関のシステムに介入した。

「あい。こちら、マスターの家です」

 お客さんに対してあんまりな言い方だが相手が分かってるだけにこんな言い方をしたのだろう。嫉妬心ばりばりだ。俗に言うジェラシーだ。

「え、と。ここでいいんだよね?」

 ハナウタさんか――いや、現実の名前では綾切 繍花さんだったかな?

「おう。間違ってねぇぜ」

 キルトは女ヤンキーの異名がつくほど男言葉が多い。敬語らしき言い方もするが、声とそのヤンキーっぽい仕草のせいで違和感しかないので、こちらからそのままでいいと言っている。

「部屋がいっぱいあって分かんないな~、どこ?」

「一番奥から二番目」

「ここ?」

「そう、そこ」

 ティエはそこで思い出した。

 マスターがまだ寝てたような気が……。

 ティエの考える事が分かったのかキルトが口の前に人差し指を立てる。

 彼女もマスターに悪戯するつもりなのだ。びっくり仰天で済む程度の悪さを。

 そんなことも知らずに綾切は黒羽の自室もとい倉庫に入って行った。彼女は第二の被害者になってしまうが、殉死というやつだ。名誉ある犠牲に追悼の祈りを……。

「どうぞ、逝ってきて下さい」

 自分にしか聞こえないくらいの声でティエは言った。

 ……だが、しばらく待っても何も起きない。キルトも眉をひそめている。

――悲鳴が聞こえない?

 悲鳴を期待しているわけではないが、これでは成功したかどうかが分からない。

「ふぁ~、どうしたの~?」

 記憶の整理から起きてきた『コトネ』が言った。彼女は一番最初に作られたTAIで、彼女達の中で一番年上のはずだが、背が小さい。さらに幼さも口調に感じるので姉扱いをするのはティエとキルトとカイくらいだった。

「ん~? ますたーいじめちゃや~よ」

「いや、未遂だから大丈夫だ!」

「姉様、これ失敗ですよ? たぶん」

「しっぱいでも~みすいでも~ますたーにわるさしちゃ、ダメ」

 言い争っても仕方が無いので三姉妹は確認してみる。だが、寝室にはカメラ等がない。

廊下にある防犯カメラの音声で我慢することになった。

「「「…………」」」

 何も聞こえない。というか人の気配も無い。

「ど~ゆ~こと?」

「マスター、起きてたんじゃねぇの?」

「起きてたとしても、なんで話し声も聞こえないのでしょうか?」

三人は小首をかしげた。




「上手くいった。あいつらいるとうるさいからな」

「むぐぐー!」

「おっと、忘れてた。すまんな。あいつらに気付かれないための作戦だったんだ」

 黒羽は今私服でビルの物陰にいて、ビルの中を窺っている。綾切はというと誘拐されたみたいに黒羽の腕の中にいた。

 黒羽は綾切の口を押さえていた手をどける。

「私に触るな!」

「お……ごめん」

 肩を落として謝る黒羽に慌てて弁解しようとしたがいい案が浮かばない。黒羽が思っているのは誤解なのだ、と言えばいいのだろうが、あまりストレートに言いたくない。

「いや、そうじゃなくて、私は人の近くにあまりいれないの」

「?」

「私の心の傷みたいなものよ」

「トラウマでもあるのか? それはすまなかった」

 真剣な目で謝られるとたじろいでしまう。人とリアルで話すのが久しぶりというのもあるが、同年代の男の子と話す機会が人生にあまりになかった。

「うん」

 短い返事しかできない。でも、黒羽はそれで満足したのか「そうか」とだけ言ってビルの物陰から出ようとした。

「待って。どこに行くつもり?」

「ああ、秘密の場所。俺の隠れ家かな?」

 それだけしか言わなかったのに不満はあるが、黙ってついていくことにした。

 さっきから人目の多い場所は避けてくれているようで住宅街ばかりを歩いている。朝の住宅街はもの静かで、人の気配がまったくない。私にはうってつけだ。


 綾切は黒羽の後ろにつく形で歩いていた。そして、一〇分くらい経った時だ。

 突然、黒羽は振り向いて私に言った。

「目隠ししていいか? 秘密の場所だからその場所に着くまでの道のりを教えたくない」

 私は苦い顔をして頷いた。目隠しということは黒羽が手を引いて誘導するということだからだ。

「失礼するぞ」

 黒羽は私の後ろに回り込んで真っ黒のバンダナで私の目を覆い隠した。新品の物ではなく、いつもポケットに入れているものって感じがした。しわだらけだし、自分とは違う人の匂いがする。

 バンダナで完全に縛られると明暗くらいは分かるが、きちんと前は見えていなくなった。

「手握っていいか?」

 どぎまぎした声で訊いてくる。コクンと私は頭を縦に振り、肯定した。

思はず手に力が入ってしまう。黒羽は照れた様子で、綾切はビクビクと怖気づいている。

「大丈夫だって。行くよ。歩けるか?」

「う、ん。人の手、久しぶりだから」

「俺なんか握った事なんかないぞ。覚えてないだけかも知れんが……」

「え?」

 人の手を握ったことが無い。それは、人の温もりを感じた事のない生活だった、という告白に聞こえた。私は呆然としてしまう。

――どういう暮らしだったんだろう?

 綾切は密かにそう思った。彼女もある一時から酷い生活だったが、黒羽の生活はそれ以上のものだ。想像しただけで分かってしまう。彼は本物の孤独感を抱えていると。


坂に差しかかると、黒羽はまるで彼女の想像をかき消すようにぐいぐい引っ張った。

「どうしたの?」

坂だから引っ張る力が強くなるのは分かるが、彼の手に籠っているものはそんな単純なものではなかった。

――怯えている?

 何に、と言いたかったが、口を押さえて堪える。

「……あとちょっとだから」

 黒羽は何かを隠すように抑揚のない声で言った。私は彼の顔を見れないのがもどかしくなってバンダナをほんの少しずらしてしまう。

 景色は住宅街からどこかの山の麓になっている。東京でこういう場所は珍しい。木々が生い茂っていて、蝉がうるさいほど鳴いている自然の多い場所だった。歩いている坂もよく見ると獣道だ。

「着いた。バンダナ取っていいよ」

 どこか素っ気ない。手からスルリと黒羽の手が逃げた。

「ここは?」

「俺の秘密の場所」

 黒羽の後ろには小さな小屋と沢らしきものがあった。

「ふぅ~ん」

 彼女はしばらく辺りを見回した。黒羽はやっと落ち着いてきたのか口の端を少し吊り上げて笑った。

「ひきこもりだって聞いたからな。こういう場所にあんまし来たことねぇだろ?」

「うん。びっくりだわ。ここ東京だよね?」

「東京どころか俺達が住んでる町の境目付近だぞ?」

 黒羽と綾切は偶然にも住んでいる町が隣り合っていた。そのため、今日の朝、綾切は黒羽のいるビルまで軽いジョギングをして僅か二〇分程度で辿り着けた。

「まじか~」

「すごいだろ?」

「うん。でも、こんな素敵な場所を昨日知りあったばかりの私に教えてくれていいの?」

「俺ももっと別の事をするつもりだった……けど、なんだか気が変わってな……」

 黒羽は困ったような目をして腕を組んだ。

 彼は最初、インベンションのα版の体験でもしてもらうつもりだった。それがなぜここに連れてくることになったかは黒羽自身も分からない。

 確かにTAI達が騒ぐからという理由もあったがそれはきっかけでしかなかった。

「俺もさ、綾切とどこか似てると思ったからかな……」

「なんでそう思うの?」

「なんとなくだ。俺の経験に基づく勘みたいなものかな」

「経験ね……黒羽の過去は私より酷いような気がするけど?」

「さあな。大したものじゃないけど参考程度に聞くか?」

 綾切は顎に手を置き、どうしたものかと思ったが、彼が訊かせてくれると言うので、

「いいの? …………じゃあ、聞かせて」

 提案に乗ることにした。

「ああ」

 黒羽は過去を探るため、目を閉じる。蝉が遠くに行くような気がした。

「俺は……俺は小さい頃、親に見捨てられた。金銭面の問題と育児放棄が主な理由だったらしい。当時は幼すぎて生活能力もなかったから、養育施設に入れられたんだ。そこには俺と同じ年のやつも多くて……。俺の場合は五ヶ月くらいで両親が俺を引き取りに来て帰れた。けどな、あそこにいたやつらの大半はまだあの中だ」

「…………」

 綾切は顔を軽く伏せて黙って聞いていた。

「両親は一応、改心してくれたみたいでな。家に戻った後は普通の家庭だったよ。――俺が小三にあがって半年くらいの事だ。突然、両親が姿を消した。俺に莫大な借金を残してな。俺は借金を返すためにあることをやらされた」

「あること?」

「闇取引とか賭博して金儲け」

綾切は息をのんだ。黒羽は彼女を一瞥するとそのまま話を続けた。

「汚いよ。やる仕事から全部。金を溜めるためとはいえ俺は日本ではないいろんな場所で犯罪を続けた。そんな汚れ仕事で金を溜めて、俺はある日大博打に出た。賭博に全財産を賭けたんだ。勝てば親の借金を全部返済でき、汚れ仕事から釈放。負ければ一生働き詰め」

「……ここにいるってことは勝ったの?」

「ああ。勝った。出ていく時に口封じで殺されそうになったがな、金でモノをいわせた。おとなしくしろってな」

 他人事みたいに黒羽は言った。

「賭博で俺は大金持ちになり、無事生還を果たしハッピーエンドを迎えたわけだ」

「どこが………?」

「うん? 親の借金も無事返せ、今はやりたいことをやれるところかな?」

 綾切は奥歯を噛みしめた。黒羽はハッピーエンドなど迎えていない。何よりの証拠は彼の心の傷にも関わらず終始無表情に話していたことだ。黒羽の感情が全く伴っていないのがよく分かる。

――そんな……自分の暗い過去の部分なのに何も感じてないの? おかしいよ!

 何も考えられなくなるほどの憤りを感じ、綾切は黒羽に近づくと不意打ちで鳩尾に拳を入れた。


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