第四話
これはわたし、篠原藍樹の処女作になります。混乱部分がほんのすこーしありますが、どうかお気になさらずに。
よければ、感想欄にてお知らせください。
変えます
こちらがFC2ブログとなります↓
http://lastorder41.blog.fc2.com/
『展示中。自作ラノベ&詩!!』
是非のぞいてみてください
「さて、俺も入るか」
俺はアバター名を『マスター』ではなく、『クロ』と書く。
ログイン。マスター権限で入っているのでTAIのコールは掛からないはずだ。
【NO・10〉〉 こんにちは。『マスター』】
ログイン直後にティエが現れた。
【クロ〉〉 なぜだっ!コールは掛からないだろう!?】
【NO・10〉〉 直感です】
【クロ〉〉 TAIが直感なんて持っているかっ! 本気でどうやった!?】
【NO・10〉〉 偶然です。さっきまでお喋りしてましたし】
【クロ〉〉 ユーザーと、か?】
【NO・10〉〉 ええ。その人きっとマスターと馬が合いますよ】
【クロ〉〉 そうか。そんなことはどうでもいい。何しに来た?】
俺はぶっきらぼうに答えて、話を進めることにした。
【NO・10〉〉 私がお迎えですよ?嬉しくないんですか?】
【クロ〉〉 いつもお前がどれだけ俺を困らせているか分かってんのか!?】
【NO・10〉〉 失礼です。困らせたいわけじゃありません。悪戯したいだけです】
【クロ〉〉 ウィルス爆弾投下したり、巧妙なトラップを仕掛けるのも悪戯か?】
【NO・10〉〉 褒めすぎですよ】
【クロ〉〉 褒めてねぇええええええええ!】
【NO・10〉〉 テンション高いですね】
あくまでも冷静なティエはあごに手を置いて俺を観察していた。これ以上付き合っていても時間の無駄と思う。
【クロ〉〉 もういい! 要件はなんだ?】
【NO・10〉〉 大声あげないで下さい。近所に迷惑です】
【クロ〉〉 チャットに音は無い。要件を早く言えっ!】
【NO・10〉〉 分かりましたよ。はぁ…もっと悪戯したいな~】
【クロ〉〉 俺、お前の産みの親で主人だよな? 度々分からなくなるが……】
【NO・10〉〉 健忘症の恐れがありますね。急いで病院に行って下さい】
【クロ〉〉 うるせえ。さっさと用事言え! 早くしないと俺はもう行くぞ!】
【NO・10〉〉 どこか行く予定でも? 友達一人できないような人が?】
【クロ〉〉 むかつく……】
【NO・10〉〉 ということで、気を利かせて『マスター』と気の合いそうな人をわざわざ探しました!】
【クロ〉〉 クソッ。余計な事を……】
俺はアバターともども悪態をついた。
【NO・10〉〉 えっへんです!】
【クロ〉〉 胸張るな。うーむ……まぁ、折角だから教えてくれ】
ティエはにやにやしながら俺を見ている。なぜだろうか。
【NO・10〉〉 はいはい。えーとですね、さっき服屋の事を教えたのでたぶんその辺りじゃないでしょうか? 迷ってなければのことですけど……】
【クロ〉〉 分かった。あの辺りか。お前、ちゃんと道案内したのか?】
【NO・10〉〉 ……てへぺろ】
軽く舌を出して、可愛いようなうざいような仕草をしている。
【クロ〉〉 お茶目に言ったって無駄だ。…ということは、そいつ、迷ってるだろうな】
初心者はあの林の近くにアバターが出現する。広場に辿り着くまでに誰かに会ってもらって、意気投合でもしてほしいという思惑だ。
――俺に友達がいないのは認めるが、ティエの言う通りに行動するのも嫌だな……
だが、宛てがあるわけではないのでとりあえずその人の所に行くことにした。
【NO・10〉〉 お姫様を助ける白馬の王子様になって下さい。では!】
【クロ〉〉 待て。お姫様だと? 女ユーザーか?】
【NO・10〉〉 そうですよ? 何か問題でも?】
【クロ〉〉 大ありだろう! 俺は男ともロクに話せないのに難易度高すぎだろう!?】
俺は知らない女の人といきなりお喋りをするほどの度胸を持ち合わせていない。
【NO・10〉〉 奥手でしたか。すみません】
【クロ〉〉 言い返せないっ……!】
悔しいかなそのとおりであった。
【NO・10〉〉 まぁ、彼女にしろって言ってるわけじゃないですし、いいでしょう?】
【クロ〉〉 いいわけあるか! どう切り出せばいいんだ!?】
俺はPC前で泣き崩れた。俺にはこういう経験値が圧倒的に不足している。
【NO・10〉〉 私の紹介だと言えば充分です】
【クロ〉〉 ……そうか】
やはり素直なティエの意見はよく参考になる。ありがたい。
【NO・10〉〉 何気に行く気満々じゃないですか。まぁ、彼女の傷が男性嫌いだったらアウトですけど、たぶんもっと別の何かなんでOKですよ?】
【クロ〉〉 お前が嘘をついているとは思っていない。だが、あまりにも不安要素が多い】
ティエは何かを思い出したように、ポンと手を打った。
【NO・10〉〉 では!】
【クロ〉〉 待てぇぇえええ! ここで逃げるのか!?】
この裏切りもの! 自由奔放すぎるんだよ! 慌てて俺はティエの首根っこを掴もうとするが時すでに遅し。羽を広げ、浮いている。
【NO・10〉〉 とうっ! シュタッ】
ティエはふざけたまま何処かに行ってしまった。あの性格どうにか出来ないだろうか?TAIの性格は俺が決めているわけではないから、実際は何も出来ないが。
溜め息をした。ティエに悪意は欠片もない。それゆえに、扱いにくいのが悩みだ。
げんなりしながら、林の方角を見た。そう遠くはない。いい暇つぶしなので、俺はアバターを動かして林の方に向かった。
――あ、ティエにアバター名を聞くの忘れた
俺は林の方に行ってみた。具体的には俺のアバターが行った。
捜索してみたが、俺以外のアバターの反応が無い。もうこの付近にはいないのだろう。
広場に行くことにした。ここから少し離れているが時間は全くかからない。
途中の道で男性ユーザーのアバターを見つけた。
【クロ〉〉 こんばんは。どちらに行かれるんです?】
すみません。話し相手の練習台に使わせてもらいます。
【すぺーど〉〉 こんばんは。えっと……、広場に行こうかな~と】
【クロ〉〉 ああ、じゃあ俺も行くんで一緒に行きましょう】
【すぺーど〉〉 ありがとうございます。道案内の子がいきなり消えたりして分からなくなったんですよ。助かります】
ティエの野郎、ちゃんと役目果たせよ。皆さん困ってらっしゃるぞ。
それにしても、この人は礼儀がよさそうだ。愛想でニコニコするわけでもない極自然の笑顔だ。好青年っぽい印象を受ける。
インベンションでは本音の気持ちがアバターの顔にそのまま反映される。いつも嘘ばかりついているような人のアバターは言ってる事と反対の表情を作るようになっている。
このシステムは俺が制作したのでよく理解している。他の事はほとんどTAI任せだったため全部を知ってるわけじゃない。俺はグラフィックが不得意だ。だから、このゲームの半分くらいを彼女達に頼んで作ってもらった。
【クロ〉〉 ところで、このゲームの事をどう思います?】
マスターとしてユーザーの意見を直接訊いておきたい。
【すぺーど〉〉 ゲーム自体の発想も面白いし、普段より素直な表情が出せていいですよ】
【クロ〉〉 現実では素直になるのが無理なんですか?】
【すぺーど〉〉 無理というか出来ないんですよ】
【クロ〉〉 嘘をつくような人に思えないですけど、そのことに何か悩みが?】
【すぺーど〉〉 そうですね。現実では思うような表情が作れないんです。なのに、このゲームでは勝手に表情の作成をユーザーの心理を読み取って作ってくれるじゃないですか。すごく便利でありがたいです】
【クロ〉〉 事情はよく分からないですけど……表情は作るものじゃなくて、勝手に出てくるものですよ?】
彼は少し驚いた顔をして、黙り込んでしまった。悪い事でも言ってしまったのだろうか?と不安になったが、返ってきたのは感謝の言葉だった。
【すぺーど〉〉 ありがとうございます。そんな風に思えるようになりたいですね】
【クロ〉〉 大丈夫でしょう。ここで心から笑えるようになれば、現実でも自然と表情に出るようになるんじゃないかな? 俺がこんなこと言っても説得力無いけど】
【すぺーど〉〉 そうですね。……現実の悩みを/ゲームに持ってきてすみません】
【クロ〉〉 いや、このゲームはそういう人のためのゲームだから】
【すぺーど〉〉 え…?】
口が滑った。いそいで取り繕わなければ。
【クロ〉〉 あ。すまん。知ったような口だったな。ただ俺の見る限りここに集まる人は全員何らかの悩みを持っているように見えただけだ】
【すぺーど〉〉 すごい観察力ですね。全く気がつきませんでした】
言い逃れ成功! ミッションコンプリート。
まさか俺が『マスター』だとは思うまい。いつかは言うつもりだが、今はその時じゃない。ゲームの終盤にでも言うつもりなので、正体は隠してくことにした。
【クロ〉〉 観察力ってもんじゃないぞ。TAI達がそんな感じの事を………な】
【すぺーど〉〉 TAIっていうと道案内とか説明に来た子ですか】
【クロ〉〉 そうだな】
【すぺーど〉〉 僕はあんな可愛い子がスタッフだなんてすごいなと感心してたんですよ】
――それは間違いだ。可愛いのはグラフィックだけだ。中身は悪魔だ!
【クロ〉〉 そうなんだ……】
【すぺーど〉〉 性格もルックスもいいのに自称AIなんですね~】
【クロ〉〉 ああ。そんな事言ってたな。人間味がありすぎるだろ】
やばい。そろそろアバターが焦っているような表情になってきた。
【すぺーど〉〉 そうですよね~。本当にAIだったら世界中大騒ぎですよ】
【クロ〉〉 そうだな】
さっきから素っ気ない返事だけなのは許してくれ。そろそろボロが出そうで仕方が無いんだ。話に深入りすると危なくなるからな。
【すぺーど〉〉 もう、広場の近くみたいですね】
【クロ〉〉 お、本当だ。じゃあ俺はこの位で……】
【すぺーど〉〉 待って。その前にフレンド登録してほしいです】
フレンド登録とは登録した人が今どこにいるか、とかログイン状態なのか、などを知らせるためのものだ。俺は立場上、あまり積極的にフレンド登録は出来ないが彼の悩みの話も聞かせてもらったし、何より人がいい青年っぽいのでOKした。
【すぺーど〉〉 ありがとうございます。では、また機会があれば】
そう言って、広場の中心に向かって走って行ってしまった。
――機会か。俺は最後までいるから絶対にまた会うだろうな
俺は折角なので、広場周辺のユーザー感知を行った。マスターウィンドウに何十人もの反応が出る。思ったより少ないが文句は言っていられない。
さて、と……
【クロ〉〉 ティエ、てめぇ】
【NO・10〉〉 なんでしょう? ストーカーみたいで駄目でしたか?】
嘘ぶる態度も無い。俺はこいつがずっと後ろから付けてきていたのは知っていた。卑怯な事にサーチ出来ない空から見下ろす形で。
【NO・10〉〉 いやぁ~。フレンド登録までしちゃってぇ~】
大阪のおばちゃんみたいに手をひらひらと振っている。
【クロ〉〉 ……お前、そういえば道案内と説明が雑だったらしいな】
【NO・10〉〉 マスター、気のせいです】
【クロ〉〉 よく即答した。罰は何がいい?】
【NO・10〉〉 いじめていいんですか? やったああああ】
こいつの頭の中はどうなっているのか、俺の罰を何にしたいと言っているように理解したらしい。
【クロ〉〉 大喜びするな! 俺の罰じゃなくてお前のだ、ティエ】
【NO・10〉〉 知りません。何か悪い事しましたか?】
【クロ〉〉 しただろう!?】
【NO・10〉〉 身に覚えが無いです】
ティエがそんな事を堂々と言えるのは、本気で何もしていないと思える思考回路だからだ。彼女を見ていると、ある意味無邪気って怖いと思う。
【クロ〉〉 そうか。その件は後回しにしよう。それより、お前の言っていたユーザーが見当たらないぞ? サーチしたけど、林にも広場にもたぶんいない】
【NO・10〉〉 やっぱりですか。名前言うのを忘れていたんでそうだろうと思いました】
【クロ〉〉 もう、この時間じゃ暇だろう? 案内くらいしてくれ】
【NO・10〉〉 ん? もう十時半ですか。分かりました】
【クロ〉〉 ちゃんとやれよ?】
【NO・10〉〉 はい。では、移動します】
【クロ〉〉 おう】
マスター権限はあるが、俺のアバターは空間移動みたいな特殊な事は出来ない。空を飛べたり、移動の際に空間移動できるのはTAIだけだ。
アバターをティエの近くに寄らせた。変な事をまた言うかと思ったが、どうやら杞憂だったようで何も言わずに移動してくれる。
ティエが移動をすると、画面が暗転し広場とは全く別の場所に出た。
俺のアバターは青い空に出現。
【クロ〉〉 アホかぁあああ!】
【NO・10〉〉 ああ、マスターのアバターが空を飛べないのを覚えてました】
【クロ〉〉 忘れてねぇ! 落ちる……――】
【NO・10〉〉 大丈夫です。まだ地面に激突してませんし、死ぬわけでもありません】
【クロ〉〉 ………】
【NO・10〉〉 逝ってらっしゃい】
【クロ〉〉 文字が!】
死んでこいとまで言われてしまった。アバターはなす術も無く下に落ちていく。
確かにこのまま地面に激突しても、死ぬわけでもHPが減るわけでもないのだが、俺の場合は新型の輪の性能テストを兼ねている。
この輪の新しい効果の一つに痛覚を本人と同調するものがある。
つまり、アバターが受けた計算上のダメージの半分程度を俺が受けることになる。
ティエに気付かれていた。これからも気を付けないと何をされるか分からない。
――早く、痛覚同調を切らないと!
急いでプラグを抜こうとするが、生憎手遅れになってしまった。
痛みが全身に駆け巡り、息が出来なくなった。絶叫したいが、なぜか声が出ない。