8.アカシアが散るとき
「じゃあね。次会うときは雅臣くんの・・・
そうなだぁ・・・娘として生まれ変わりたい・・かな?」
意識が飛んでいたのはそんなに長い間ではなかったのだろうか?
そこにはさっきと変わりない位置に京介と月花がいた。
さっきと違う点は月花の白い首筋に二つ・・小さな傷がある点だけ・・・
それは京介が吸血鬼である証でもあった。
「じゃあ・・もうこの姿は保たないみたいだから・・・さよなら・・・」
いつもの別れ際のように白い指をのばし・・・でもためらう様に
悲しそうな笑みを見せその指を止め・・・
月花はすうっとアカシアの木に吸い込まれていった。
消えたと同時、アカシアはその花を一斉に咲かせその美しさを誇り、
そして・・・・・甘い香りを残して全て一瞬で散ってしまった。
僕の身体はいつの間にか自由に動かせるようになっていたらしく
その場に崩れ落ちていた。
「どうして・・・月花は・・・・」
あのコになら喰い殺されても良かったかもしれない。
白い花びらを指に取り、残り香を吸い込み小悪魔のような儚げな妖精のような
笑顔を思い出すと何故か涙が流れてきた。
「もしかしたら俺も・・・・このまま君が喰われていくのを見過ごしてもいいかなって
思っていたんだ。
種族はちがえど二人の問題だし・・・
でも・・そうすると・・・悲しむヒトが多いから・・・
ごめんね・・・でも初恋は実らないものだから」
傍らに立った京介が優しい兄のような声で語った。
悲しむヒト?
京介の言葉は謎が多いが今は質問する気力がない。
はつこい・・・
初恋・・・月花に・・・・
ふふ・・
あのガラスの鈴を思わせる声が風に交ざって聞こえたような気がした。