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5.悪夢を指摘する男

貧血で倒れかけた昨日とは違って今日はかなり体調が良い。

慢性的な寝不足には変わりがないが。

いつも通りパパもママも僕が起きる頃にはもう家には居なくて

「朝ご飯とお昼後はご飯を買って食べてね」

と千円札2枚がリビングのテーブルに鎮座している。

パパは大きな会社の経営陣・・ちょっとよくわからないけれど・・・で

ママは有名な婦人科のお医者さんで最近は色々な雑誌やテレビにも出ている。

二人とも忙しいのは理解できるから「良い子」な僕は不満を口に出したりはしない。

出さないだけで内心は寂しいって思ってるけれどね。

でも表に出さなければ内で何考えていたって結局はよい子だからいいよね?

お金を無造作に学校指定鞄のポケットに入れ、僕は家を出る。

駅まで15分徒歩で電車に乗って30分の通学時間は通常の中学生よりは長めかな?

それでも高い学費払ってもらって高校受験の戦火に晒されずに大学受験へ向けて

みっちりと6年間勉強できるこの私立校を僕は結構気に入っている。

クラス環境は最悪だけれど勉強するのにクラスメートとの

コミュニケーションは必須じゃなから不便は感じないかな。

いつもの時間のいつもの電車に乗ると心なしいつもよりも空いている様に見える。

昨日助けてくれたお姉さんいないかな?

と不自然に思われない程度に辺りを見回したけれどあのお姉さん程綺麗なヒトは

見あたらなかった。

(もしかして幻覚だったのかな?)

とも思えるけれど、冷たいお茶の缶を包んで渡してくれた時のハンカチが

確かに僕の手元にある。

有名なドメスティックブランドのマーガレットモチーフのハンカチ・・・

昨日のオフホワイトのワンピースと色を合わせていたのか淡い色合いが春めいて

彼女のイメージにぴったりだ。

いつまた会っても返せるように、と昨日の内に洗濯してちゃんと

アイロン掛けもしておいた。

中学入学と同時に自分のワイシャツは自分でアイロン掛けしている僕にとって

ハンカチのアイロン掛けくらいまさに朝飯前だ。

もう一度逢いたい。

逢ってハンカチを返してお礼が言いたい。

それは建前で本音はただただ逢いたいだけかもしれないけれどね。

そんな事を考えながら駅に止まる度にヒトの流れが生じるドアを見ていると

「もしかして瀬晶学園のコかな?」

と声を掛けてきた若い男がいた。

グレーの学ランという結構特徴ある服と全国に名だたる名門学園とのこともあり

この制服の知名度は結構あるみたいだ。

「そ・・そうですけれど」

警戒心丸出しの答え。

この制服を見て声を掛けてくるのは有名塾や予備校のキャッチセールスだったり

「お父さんやお母さんに見せてね」とか言って渡されるマンションやら土地やらの

パンフレットを携えた怪しい業者だったりとあんまり歓迎できる人種じゃない場合が多い。

この男も・・・

薄い黄色のシャツとこなれたジーンズといった大学生風の外見だがそんなヤツらだろうか?

僕はしげしげとそいつを観察しながら次の言葉を待った。

「そう、えっと・・最近さ、

 変わったコと知り合いになったり変な夢みたりしてない?」

変わってるのはアンタだよ!そう答えたい気持ちをぐっと抑えた。

こいつ・・新興宗教か?あまりに唐突な質問に僕はちょっと戸惑った。

しかも困った事に、変わったコにも変な夢にも心当たりがあるから余計に戸惑う。

月花は十分変わったコだし、最近はテストでもストレスのせいなのか毎晩のように

黒い巨大ウサギに全身を喰われる夢を見る。

喰われている間不思議と痛みも恐怖もないがただただ自分の一部が消えていく様を

冷静に見ている自分とはかなり気味が悪い。

悪夢で夜中に目が覚めて、その後寝付けても繰り返しその夢を見てしまうので

なかなか熟睡できない。

それがここの所の体調不良の一因だろうと考えていた。

「あ、心当たりあるかな?それは結構よろしくない出来事なんだ」

ざわめく電車内で話している二人は端から見たら知り合い・・・

もしかしたら兄弟に見えるかもしれない。ごくごく自然は距離で自然と話しかけてきた男・・・そういえばまだ名前も聞いてないや。

「も・・もしも心当たりあったとしても貴方に話す理由はありません」

目を伏せながらだが、ちょっと強気な事を言った。

見ず知らずのヒトならばクラスメート相手とは違って少し強気になれる・・

まぁこの男があんまり怖そうじゃないからだろうけれど。

「ああ、そうだよね。実は俺もあんまり関係ないんだ。

 でもね、俺が気になるヒトが君を心配してるから・・一応ね」

あんまり関係ないだと?だったら聞かなければいいじゃないか。

何だか失礼なヤツだなぁ・・・。

僕はまじまじと男を観察する・・・飄々とした風貌だが・・結構男前な方だ。

「このままだと自覚症状ないまま元気を吸い取られて死んじゃうよ?」

「は?」

何言ってるんだこの男。

やれやれ、朝から頭のネジが緩いヤツに会っちゃったよ・・・。

僕は降りる駅とは違うけれど男を無視して次の駅で下車し、

学校までは面倒だったがバスを使ってその日は行くことにした。


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