2.月花
初めてその女の子に会ったにはGW明けの・・・
そう、久しぶりの学校が終わった後だった。
「いつものように」学校でムシされ陰口叩かれお昼に学食から戻ってきたら
机の上に花が飾られていた・・・・・
いつものことだ。
もう慣れた。
有名な進学校故の厳しい校則や授業スケジュールでみんな感情のはけ口を求めている。
それがたまたま僕になってしまっただけ・・・・
「運が悪いんだ、これがずっと続くワケじゃない。そのうち変わる」
呪文のように口の中でつぶやいた。
「そのうちっていつ?」
学校が終わり逃げるように帰宅したはいいけれど誰もいない家にも戻りたくなくて
近所の神社に立ち寄った・・・違う、泣いてなんかいない。
ただちょっと感傷的になっただけ。
そんな時に頭上から鈴を転がすような声がした。
「ねぇ、いつ?」
声のする方を見上げると3〜4メートルはあろうか位置に女の子が腰掛けている。
今時木登りする女の子?
そのアカシアの木を見上げながらぼんやりと考えた。
よくよく考えるとすごく不自然な光景なハズなのに何故か僕はその状況を
すんなりと受け入れていた。
「教えてよ」
ひょいっと身軽な動きで地上に降りてきた。
地上3〜4メートルから飛び降りたのに地面に着地する音は軽やかでまるで
重量を感じないようだった。
その女の子は僕と同じくらいの身長で多分年も同じくらい、
髪は肩くらいで切りそろえられていて・・・・すごく可愛いコだった。
ちょっと季節が早いと思うがうす紅色の浴衣でひらひらした帯を
大きなリボンに結っている。
そんなコがアカシアの大木から降り立ってくるなんてもうフィクションの世界としか
思えなかった。
「あ・・・」
驚きと恥ずかしさと・・・
不思議と恐怖はなかったがいろんな感情が一緒になって言葉が出てこなかった。
「ごめんね、驚いちゃった?私は月花。あなたは?」
「げっか・・・?」
「そう月花。ここに住んでいるの。あなたの名前は?」
「僕は・・・藤本・・雅臣・・」
「雅臣君ね、よろしく。
ところで・・・どうしてこんなところで泣いているの?」
「なっ・・・泣いてなんか・・・いないよ・・」
ふふ・・・その女の子・・・月花は意味ありげに含み笑いをし
「泣きそうに見えたけれどね」
と僕の顔をのぞき込んだ。
夕暮れ時、オレンジ色の光の中できらきらした大きな瞳はガラス玉のようだった。
「雅臣くん・・・綺麗・・・」
顔を近付けられて突然言われるとどぎまぎしてしまう。
確かに僕は女顔で小さな頃はよく女の子に間違われた。
今だって身長も月花と変わらない位だしクラスでも一番小さい。
そんな女々しいところがまたいじめられる対象になりやすいんだろう・・・
「綺麗な顔ね。女の子みたい」
「こ・・こんな顔嫌いだよ・・」
「そう?こんなにいいのに」
顔を近付けてくるのが気恥ずかしくって思わずその視線から逃れるように目を背けると、
月花と名乗る少女はひんやりとする細い指を僕の頬にあて
「私は好きよ」
そう言いながら僕の口にその柔らかい唇を重ねた・・・・
こうして僕のファーストキスは突然現れた不思議少女にあっさりと奪われてしまった・・・・
「ふふ、雅臣くん可愛い・・・私はいつもここの神社にいるから、
逢いたくなったらまた来てね」
月花は鈴を転がすような声で僕に魔法を掛けてしまった。